【特集】深遠なるゲーミングデバイスの世界

「遊び心を忘れず、ユーザーさんに寄り添っていきたい」セイミツ工業株式会社40周年の軌跡【セイミツ工業株式会社 インタビュー】 (2/2)

2021.3.17 井ノ川結希(いのかわゆう)

誤作動をなくすことからはじまった
ノビ選手監修モデル「LSX-NOBI-01」誕生秘話


——ちなみに、eスポーツが話題になったのは、eスポーツ元年とよばれる2018年くらいからだと思うのですが、セイミツさん自身も肌で感じていましたか?

鈴木:いやあ、完全に後からですね。2018年とか2019年に開催されていた「EVO Japan」のような大きなイベントが開催されていた頃は、まだ社長が先代でしたので、そういうイベントでの出展はしていなかったんです。

——確かに、「EVO Japan 2019」でも三和さんのブースはあっても、セイミツさんのブースはなかったですもんね。

鈴木:はい。もちろん「出展しませんか?」というお声はかかっていたのですが、やはりそこは先代の判断で出展しないという形になっていました。

ですので、eスポーツの波が来たタイミングでは、我々はまだ準備段階というところでしたね。

その流れで社長が変わり、コンシューマーに力を入れようと思ったところ、たまたまプロの選手と接点ができて、たまたまプロモデルのレバーを開発するきっかけができたということです。

——それが「LSX-NOBI-01」シリーズ。いわゆるノビ選手監修モデルなんですね。

鈴木:はい。

——最初にビックリしたのが、この梱包ですよね。まさか、この中にレバーが入っているとは思いませんでした(笑)。

迫田:このパッケージ化することは、我々にとってコンシューマー向けに商品を開発する意識改革のひとつでもあります。例えばこのレバーだけだったら、あくまで部品です。ここまでくれば商品になります。

やっぱり、購入されたお客さんにビックリしてもらいたい、喜んでもらいたいという気持ちもありますからね。

▲2021年3月8日に発売されたノビ選手監修レバー「LSX-NOBI-01-PRO」と「LSX-NOBI-01-STD」。手にした瞬間のワクワク感は、新しいおもちゃを買ったときのようだ

——確かにこれはテンションあがります! またレバー自体も今までにない形状をしていますよね。

▲ベース板部分にイラストが入っているのはもちろん、レバーボールの形状もいままでのとは違う形状になっている。また、ベース板は薄いフィルムで保護されている。こういった小さな気遣いがうれしいポイントだ

迫田:ノビ選手に言われた「誤作動をなくしてほしい」というところからのスタートでした。レバーのシャフトが柔らかいと、一方向に入力したときに反動で逆側にも入力されてしまい、誤作動が起こるということでした。

鈴木:振り子の原理ですね。

迫田:それをなくすのが一番大変でした。ノビ選手が鉄拳のトレーニングモードで、キーディスプレイを見ながら検証して、「これです。これ!」って、画面上の矢印を示すんです。

▲昨今の格闘ゲームではスタンダードになっているトレーニングモード。プレイヤーがどのようなコマンドを入力したのかがわかる「キーディスプレイ」表示機能がある

「えっ? このひとつの矢印をなくすの?」って思いましたよ。たったひとつの入力をなくしていく作業は本当に大変でした。それこそ何回も試作品を作っては、何回もダメ出しをされて(笑)。

——なんというかファーストインプレッションは、ストロークの短さに驚きますね。

鈴木:そうですね。反応速度をよくするためにストロークは短めにして、かつニュートラルに戻るスピードも早くなるように設計してあります。ただ、戻りすぎると今度は逆側に入力されてしまいますので、そこの強度を調整するのがとても難しかったです。

▲代表取締役社長の迫田和正さん(写真左)と生産管理部部長の鈴木伸一(写真右)さん

迫田:ストロークを短くすれば、その分反動で戻ったとき反対のスイッチが入力される距離も短くなるわけです。

——なるほど。単純な考えだと、シャフトを固くすれば良さそうと思ってしまうのですが。

迫田:そうなんです。それで一度シャフトを固くしてみたのですが、「疲れる」って(笑)。

——あはは。確かに固くすればするほどプレイヤーの負担は大きくなりますもんね。なぜレバーボールがこの形なのですか?

迫田:ノビ選手とのコラボということもあり、「丸じゃ面白くないよね」って鈴木と話していたんです。そうしたら、彼が試作品を10種類以上作りましてね。

鈴木:フットボールみたいな形にしたり、キノコのような形状にしてみたり、とにかくさまざまなレバーボールを作ってみました。そして最終的にノビ選手が選んだのがこの形状だったというわけです。

▲いわゆるナスレバーと呼ばれる形状に近い円柱のような形状をしているのが特徴だ。サイズ違いを何種類も作り、最終的にこのサイズに決まったとのこと

鈴木:さらにこだわりの部分としてシャフトが回転しないんです。

——えっ? あっ、ほんとだ!

鈴木:これもノビ選手の要望のひとつでした。

▲通常のシャフトは、全体的に円形をしているため、軸がくるくる回るようになっている。一方「LSX-NOBI-01」シリーズでは装着面が長方形のようになっているため、レバーが回転しないようになっている。なお、白い液体はグリス

——なぜシャフトが回転しない方がいいんですか?

鈴木:「鉄拳」シリーズによくあることなのですが、2P側(キャラクターが右側にいる状態)で真価を発揮するんです。

「鉄拳」シリーズでは、キャラクターが向いている方にレバーを倒すことが多く、人間の手首の構造上、キャラクターが左側にいる状態の方がレバーを動かしやすくなっています。右側にいる状態ですと、手首を引く動作が多くなり、そもそも入力しづらいんです。

ノビ選手を含め多くの鉄拳プレイヤーは、力を逃がすために弾くようにコマンドを入力しています。

シャフトが回転してしまうと、弾いたときにスイッチまで入力が伝わないこともあり、そこで誤作動が生じてしまう。ということで、シャフトを回転しないようにしました。

——なるほど!

迫田:だから一から出直しになっちゃって(笑)。

——構造の根本から見直さないといけないことになってしまったんですね。

鈴木:また、ガイドも特殊な形状になっています。日本では四角形のガイドが主流ですが、韓国では円形のガイドが流行っています。円形のメリットは回転系のコマンドが入力しやすくなるところですが、反面斜めの入力がわかりづらいというデメリットもあります。


▲上が一般的な四角形のガイドで、下が円形のガイド。四角形の場合、斜めに入力したときに角があるため、プレイヤーが斜めに入力したというイメージがつきやすいのだ

ただ四角形の場合は上下左右のストロークに対して、斜めのストロークが長くなってしまう。つまり入力が一定でなくなってしまうということで、「誤差」が生まれてしまう。ということで、特殊な形状のガイドを導入しています。

▲「LSX-NOBI-01-PRO」のガイド。上下左右はもちろん、斜め入力のストロークを一定にするため、微妙な八角形になっている

迫田:最後の最後までこのガイドの形が決まらず、ミリ単位で削っては試してもらって、この形状が完成しました。

鈴木:ただ、この形状はあくまでノビ選手のために作られた特殊な形状であって、一般的なプレイヤーには向いていない可能性があります。そこで開発されたのが「LSX-NOBI-01-STD」のガイドになります。

▲「LSX-NOBI-01-STD」のガイド。丸みを帯びた四角形を保ちつつ、上下左右にラウンド状のくぼみが入っていることで入力のストロークは一定を保つという仕組みだ

鈴木:「LSX-NOBI-01-STD」は、バネの固さも若干柔らかめにすることで、入力のしやすさを実現しています。

——確かに、「LSX-NOBI-01-STD」は、上下左右に入力したときに、この溝にカチッとはまるから、入力したときの感覚が掴みやすいですね! 「LSX-NOBI-01-PRO」と「LSX-NOBI-01-STD」のガイドを入れ替えたらそれはそれで面白そう。

鈴木:もちろんお互いのガイドを交換することもできます。ユーザーさんの中にはふたつ同時に購入されている方も多いので、試す人もいるんじゃないかなあ。

——ちなみに、このレバーパッキンが2重になっているのには、何か意味があるのですか?

鈴木:これはノビ選手の要望のひとつで、動きやすさを重視するためにグリスを多く塗っています。そのグリスが漏れないための蓋として2重になっているんです。

換装時にひとつは天板の下に、もうひとつは天板の上で挟むように使ってください。

——なるほど。本当に細部にまでこだわりが詰まってますね! モデル名の横に書かれている1.04とか1.08という数字は何を表しているんですか?

鈴木:実はこれ意味はないんです(笑)。

——えええっ!

鈴木:ノビ選手がその数値を指定しただけで、我々の中では特に意味はないんですよ。スプリングの強さとか、そういうのをイメージしちゃいますよね(笑)。

迫田:ノビ選手ご本人がなにか意味を持ってつけられたのかもしれませんね(笑)。

——逆に気になる!(笑)

筆者のミスから生まれた新製品発表!


——ノビ選手監修モデルの次に考えている新商品はありますか?

鈴木:逆にひとつおうかがいしたいことがあるんですけど、いただいた企画書の中に「静音レバー」と「静音ボタン」についての記載があったのですが、どこからその情報を入手したんですか?

——あっ、スミマセン。これ完全に私のミスでして。企画書を作成するにあたり、以前インタビューをした三和さんに提出した企画書をベースに作ったんです。それで最後の一行の部分「静音レバーと静音ボタンについて」という項目を消し忘れちゃって……。

鈴木:なるほど、そういうことだったんですね!

実は今開発しているのが静音レバーとボタンなんですよ。いや、ビックリしましたよ。社内でも限られた社員しか知らない情報をなんで知ってるんだって(笑)。

——いやあ、お恥ずかしいミスをしてしまい……。って本当に出るんですか!

鈴木:はい。まだプロトタイプで改良中なのですが、こちらになります。

——おおっ。音がしないけど、入力感がある! これはどうなってるんですか?

鈴木:これはスイッチとガイドが特殊になっています。

単純にスイッチを静音化すれば音はでなくなります。ただ、それだけだと入力感が失われる。セイミツの代名詞でもある「入力感」は絶対に残したかったので、ヒンジは残してあります。

——ほんとだ。だから、静音だけど確かな入力感があるんですね。

鈴木:そうですね。あとはガイドの大きさが異なります。通常のものに比べ広くなっているのがわかると思います。

▲こちらは静音レバー試作品のバージョン1。黒い部分がガイドで8角ガイドのような形状をしている。また、通常のものに比べると、ヒンジ部分が見えるほど大きくくりぬかれているのがわかる。またよく見ると正円ではなく、「LSX-NOBI-01-STD」のようなラウンド型のくぼみが見られる

▲こちらは静音レバーのバージョン2。より初心者向けということで、ガイドが4角になっているのがわかる。ガイドの素材はジュラコン樹脂なので、抵抗が少なく滑らかな動きが実現

ガイドが大きい分、ストロークも長くなります。これが入力感を損なわずに静音化するための秘訣ですね。ただ、ストロークが長くなる分、ニュートラルに戻す距離も長くなりますから、スプリングを強化してニュートラルの戻りも良くしています。

——おおっ。これは新感覚ですね!

鈴木:あとは、接続方法がファストン端子という部分ですね。

昔の筐体や、現在のアケコンなど、さまざまな機種に対応するために、ひとまずファストン端子に変換ケーブルをつけたモデルを作っています。

——なるほど。ファストン端子なら上下左右は自分で決められるし、レバーの取り付け方に柔軟性が生まれますね。

鈴木:そうですね。そして、こちらが静音ボタンになります。こちらもプロトタイプで、今でも十分静音化していますが、ここからさらに静音化を目指しています。

——ほんとだ。音がしない! これは通常のボタンと何が違うんですか?

迫田:構造上静音化するのには、エラストマーという柔らかい素材を使っています。

——あのゴムのような素材ですね。

迫田:はい。ただエラストマーの材質だと、押した感触が悪いんです。そこで考えたのが二色成形です。

——二色成形?

迫田:スイッチにふれる部分だけをエラストマー素材にして、ほかは通常通りのPC(ポリカーボネート)樹脂にすることで、押し感は今まで通りで静音化することに成功しました。

▲よく見るとボタンの上部と下部に切り込みが見える。スイッチに接触する部分のみがエラストマー素材となっていて、それ以外はPC樹脂のようだ。こちらは試作品で完成品は、形状がさらに進化するとのこと

——おおっ。これだと、エラストマー特有のむにゅむにゅっとした押し感ではなくなりますね!

迫田:これのメリットはもうひとつあって、クリアカラーができるという点です。

鈴木:エラストマーは、あくまでゴム素材なので、色はつけられてもクリアにはできない。どうしても鮮やかな色味は出せません。

ですがボタンの上部をPC樹脂にすることで、見た目を好きなカラーにすることができると考えています。

——静音だけど、クリアパープルも作れちゃう?

鈴木:そういうことです。

——すごいっ!

迫田:うちでもボタンで売れているカラーは、やっぱりクリアなんです。鮮やかで見た目も綺麗ですしね。静音化することで、ボタンのカラーに制限がかかるのはどうしても避けたかった。そこで考えた二色成形という技術でもあるんです。

——なるほど。やっぱりカラーバリエーションって大事ですもんね。

迫田:みなさんのアケコンを見ると、とても綺麗にしているんですよね。ご自身のカラーがあったり、チームカラーがあったり。そう考えると、やっぱりカラーバリエーションは外せませんね。

——アケコン作りが楽しくなりそうですね! 最後にセイミツファンの方にひとことお願いします!

迫田:我々の意見というよりも、逆に皆様からの意見がほしいですね。

鈴木:とにかく好き勝手言ってほしいですね(笑)。

迫田:いいところはもちろん、悪いところの意見もいただきたいです。我々も完璧な人間ではないので、フィードバックを参考にして進化していきたい。どんな要望にも「やる姿勢」で取り組んでいければと思っています。

——ありがとうございました!

———

アーケードパーツの老舗セイミツ。どことなく一見さんお断り的な、マニアックな部分が秘められていたが、迫田さんのリブランディングにより、基本的な玄人好み感は残しつつも、遊び心をアクセントに、親しみやすいメーカーへと進化していったのではないかと感じた。

どんなに素晴らしい商品がそこにあったとしても、それを知る機会がなければ周知されない。そういった面を払拭すべく、大きく生まれ変わったセイミツは、今も日々新作の開発に余念がない。

「実は私が一番Twitter見てますから(笑)」と迫田さん。常にユーザーの要望に応えるべく、アンテナを張り巡らし、遊び心のあるひらめきで新商品を開発していく様子は、職人魂と娯楽魂の融合といえる。

今後もまた、ユーザーをビックリさせる商品が誕生することを願うとともに、セイミツのさらなる発展を追いかけていきたい。

【ちょっと番外編】型番について

——ちなみに、型番についてなにか法則はあるんですか?

迫田:基本的にはそのまま名称を略しているだけですね。レバーだったらレバースティックでLS、ボタンだったらプッシュスイッチでPSからはじまります。

——なるほど。例えばこのボタンだと「PS-14-K」となってますが、Kはいったい?

迫田:あっ、そこ聞いちゃいますか? そこ恥ずかしくて実はあまり言いたくないんだよね(笑)。

鈴木:実はクリアのKなんです……。


——えっ、Cではなくて?

鈴木:普通はCですよね。まあでも先代がつけた型番なので……。一応Cにしなかった理由として、「PS-14-GN-C」というタイプのボタンがあるんですよ。これはネジ式のボタンで、ボディはベタ塗りだけどネジだけクリアというちょっと変わったタイプなんですね。

そこでクリアのCを使っちゃっているからKにしたっていう理由があるんですけど、「そこはCだろー」って思っちゃいますよね。なので、説明するのはちょっと恥ずかしいんです(笑)。

——あはは。そうだったんですね。「GN」はどういう意味なんですか?

鈴木:Nはネジ式のNなんですけど、Gは謎なんですよ。

——ええっ。そうなんですか! なんでもざっくばらんに話してくれた迫田さん、鈴木さんのおふたりには本当に感謝です!



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