【特集】深遠なるゲーミングデバイスの世界

「遊び心を忘れず、ユーザーさんに寄り添っていきたい」セイミツ工業株式会社40周年の軌跡【セイミツ工業株式会社 インタビュー】 (1/2)

2021.3.17 井ノ川結希(いのかわゆう)
eスポーツ元年と呼ばれた2018年を皮切りに、eスポーツ競技タイトルも増加。もちろん格闘ゲームのタイトルも増え続けている。一方で、プレイヤーに要求されるのは正確なコマンド入力と、抜群の操作性を持つアーケードスティック(以下、アケコン)だ。

プレイヤーにとってアケコン選びは重要なポイントのひとつとなっていて、外観だけでなくボタンやレバーにこだわる人も少なくない。最近ではこだわりのパーツでアケコンを自作するユーザーも増えてきている。

そんな中、今年40周年を迎えたアミューズメント機器のパーツを製造し続けている「セイミツ工業株式会社」(以下、セイミツ)が立ち上がった。鉄拳のトッププロゲーマーであるノビ選手監修による、新型のジョイスティック「LSX-NOBI-01」シリーズを開発。より、こだわりを持ったプレイヤー向けに、今までの常識を覆したスティックを誕生させた。

今まで沈黙を守ってきたセイミツが、ついにベールを脱ぐ。セイミツ40周年の歴史や、ボタンパーツ製作のノウハウ、新製品の特徴などなど、代表取締役社長の迫田和正さん、生産管理部部長の鈴木伸一さんにおうかがいした。

セイミツと三和は同じ会社だった?
セイミツの歴史に迫る!


——まずはじめに、セイミツがどんな会社でどんな歴史を歩んできたのか、ぜひお聞かせください。


迫田氏(以下、迫田):実は従業員の中に、創業時代の人間は誰もいないのですが、もともとは清水さんという方が「株式会社セイミツ商事」を立ち上げたのがはじまりだったようです。

——以前、三和電子株式会社(以下、三和)さんにインタビューさせていただいたのですが、もともとはセイミツと三和は同じ会社だったというお話をおうかがいしました。

迫田:はい。そういった話はSNSでも目にする機会があったので、我々も今回のインタビューに備え、ルーツを調べてみました。

——おおっ!

迫田:そもそも「株式会社セイミツ商事」とは別に、三和エレクトロニクスという販売会社がありました。「株式会社セイミツ商事」がアミューズメント機器のパーツなどを委託製造し、三和エレクトロニクスが販売をするという構図だったんですね。

ところが、ある時この構図が崩れはじめ、三和エレクトロニクスは、三和電子株式会社と株式会社セイミツのふたつの会社に分かれることに。最終的に三和エレクトロニクスは、株式会社セイミツと合併していますけどね。

▲新聞「ゲームマシン」より。1983年1月1日付けで、「三和エレクトロニクス」が「株式会社セイミツ」と合併。「株式会社セイミツ」となったという記事が残っている(出展:アミューズメント通信社発行の「ゲームマシン」1983年2月1日205号4面

——なるほど、同じセイミツでも「株式会社セイミツ商事」と「株式会社セイミツ」のふたつの会社が存在していたんですね。

迫田:そのようですね。なぜ会社をふたつに分けていたのかまではわかりませんが、株式会社セイミツの方は、事業がうまく行かず、ほどなくして倒産……。その後「株式会社セイミツ商事」の方は、子会社である株式会社水光(すいこう)を吸収。再編成して新たな道を進むことになりました。

ただ商事というフレーズが、ちょっと会社の方向性と異なる部分もあったので、1993年には工業という名前に変え、現在の「セイミツ工業株式会社」となりました。

▲迫田さん協力のもと、「セイミツ工業株式会社」の歴史を年表にしてみた。セイミツと三和がもともとひとつの会社だったという説はちょっと意味合いが違っていて、三和エレクトロニクスと合併したのは、倒産した株式会社セイミツの方。40周年の歴史を持つ「株式会社セイミツ商事」とは別のラインで動いていたことが、今回の取材でわかった

——迫田さんのおかげで、ずっと謎だった部分が解明できました! そう考えると、セイミツと三和が袂を分かつという状態ではなかったわけですね。

迫田:そうなりますね。まあでも私は何に対しても敵対心を持たない人間ですので、バチバチやりあってるとかはないですよ(笑)。

鈴木氏(以下、鈴木):三和電子の鵜木さんとはよく電話で話してますしね(笑)。

——そうだったんですねー。いやいやホッとしました(笑)。ちなみに、迫田さんが社長に就任したのはいつ頃だったのですか?

迫田:2019年の10月25日になります。私はもともと印刷関係の仕事を担当していて、セイミツの印刷物もすべて私が手がけていたのですが、先代の社長が引退するのが決まったとき、先々代の社長に「引き継いでくれないか」と頼まれましてね。私が就任することになりました。

これからの時代は業務用ではなく、
コンシューマー用だと路線変更をした2019年


——セイミツさんといえば、一部のユーザーだけが密かに知っている「知る人ぞ知るメーカー」的なイメージでした。しかし、昨年からTwitterを始動させたり、オフィシャルサイトがリニューアルされたりして、急に表に出始めたというか(笑)。昔からセイミツを知っている私からしたら、「あれっ、セイミツさんどうしちゃったのかな?」と、ビックリした記憶があります。

▲2020年7月以前のセイミツ公式HP。どことなく手作り感のあるレトロな作りが、逆に玄人っぽいイメージをかもし出していた

▲現在のセイミツ公式HP。スタイリッシュで今風なデザインにリニューアル。販売サイトは独立され、クレジットカードに対応するなど格段に利用しやすくなった

迫田:私が就任した時に思ったのは「目指すのは業務用ではなく、コンシューマー向け」だと確信していました。ゲームセンターはどんどん縮小してなくなっていくし、eスポーツが注目を浴びるようになって——。「今なにが流行っているの?」ってなると、アケコンになるわけです。

そこでまず、鈴木に市販されているありとあらゆるアケコンをそろえなさいと指示をしました。

彼は設計も行っているので、うちの製品との互換性を調べてもらったんです。そうしたら、一部のアケコンにセイミツの主流である「LS-32-01」シリーズが取り付けられないことがわかり、急きょ開発したのがMSベースのスティックになります。

MSベースとは

レバーはもともとゲームセンターの筐体に取り付けるために作られていたパーツで、筐体に応じたベース板が取り付けられている。セイミツ製のスティックは基本的にSSベースが付いていた。

▲セイミツ製の代名詞でもある「LS-32-01」シリーズ。SSベースは段差があり、ネジ穴の位置が特殊なため、装着できないアケコンが多い

今回アニバーサリーモデル発売にあたり、ベース板をMSベースに変更。通常の「LS-32-01」にもMSベースが取り付けられた「LS-32-01-MS」も販売されている。

しかもちょうど40周年という節目でもあったので、どうせだったらアニバーサリーモデルとして出してみようということで、発売されたのがこれです。

▲セイミツの代名詞でもある「LS-32-01」シリーズをベースに、さまざまなアケコンに換装できるようモデルチェンジをした「LS-32-01 40thアニバーサリーモデル」。側面にはシリアルナンバーも記載されている

——以前のものと何が違うのですか?

鈴木:以前のモデルはアーケードで『ストリートファイターII』が稼働していた頃の筐体に取り付けるために設計されたもので、PlayStation®4が発売する前くらいまでに販売されていたアケコンには対応していました。

ただ、それ以降はアケコン内部の形状が変わり、三和さんのレバーを基準に作られるようになってしまいました。結果、セイミツのモデルだと換装できないものも出始めるように。

そこで、アケコンの形状にうちが合わせる形で開発されたのが、このMSベースなんです。

——なるほど!

鈴木:今まではセイミツ製のレバーに換装できないと思っていたユーザーさんも、「なんだ付くじゃん!」ってなって、「LS-32-01 40thアニバーサリーモデル」から一気に注目されるようになりました。

迫田:MSベースの板自体は、先に完成はしていたのですが、いつ出すかというタイミングを考えていたところの40周年なので、「ここだ!」と思いましたね。

——「LS-32-01 40thアニバーサリーモデル」のセットはものすごい豪華ですよね! 今まで思っていたレバーの概念が変わったというか。

▲シャフトやスプリングはもちろん、Eリングやパッキン、ガイドといった予備パーツまでてんこもりの「LS-32-01 40thアニバーサリーモデル」のセット。1,500台限定で、現在は千石電商や、ATTASA SHOPといった限られた場所でしか手に入れることはできない

迫田:そもそも、このベース板ってアーケードスティックの天板に隠れてしまうんだから、こんな場所に印刷していても無駄じゃないかって思いませんか?(笑)

——確かに(笑)。

迫田:ただ、商品を開けたときにお客さんに喜んでもらいたい。そういう気持ちもあって、このセットを作ったんです。

そうしたら、なぜか同じ人が2個とか3個とか買うんですよ。「どうしてだろう?」って思ったら、どうやら飾る用にもうひとつ買っているみたいで(笑)。それで彼(鈴木)が、3Dプリンターで台座を作って、そこにレバーを飾ってTwitterに投稿したんです。

そうしたら今度は「ぜひ、台座も作ってください」って。海外のユーザーさんも含めて問い合わせが来たので、慌てて作りましたよ(笑)。

——海外からも! 確かに、セイミツファンって根強いですもんね。

迫田:私もTwitterではじめて知りました。

——ところで、なぜ長さの違うシャフトが入っているんですか?

迫田:市販されているさまざまなアケコンに装着してみてわかったのですが、アケコンの種類によっては、換装時にシャフトの長さが変わってしまうんです。だったら、長さの違う3本セットにしちゃおうと。

あと「見せるジョイスティック」があってもいいんじゃないかと思いましてね。特殊な加工でキズがつきにくい金メッキ加工にして豪華に仕上げました。

——すごい。いやあ、迫田さんと鈴木さんの遊び心、最高です!(笑)

▲台座があれば、いろいろなところに飾れる。ゲーマーならではのインテリアとしても楽しめる

——緑はセイミツさんのカラーなんですか。

迫田:そうですね。我々が着ている作業服や封筒など、社内のものは緑で統一されていますね。

鈴木:でも、昔は青だったらしいですよね。それこそ「セイミツ商事」時代は青だっていう説もあるんです。

迫田:えっ? そうなの? だからここ(サブガイド)が青なの?(笑)

セイミツ製サブガイドについて

セイミツ製レバーには、ガイドのほかにサブガイドとよばれるパネルが装着されている。これは簡単に取り外すことが可能で、取り付け位置を変更することで2方向、4方向、8方向タイプに変更できる。

▲この青いパネルがサブガイド。購入時はこのように取り付けられている。この状態はベースとなる8方向で、上下左右のほか斜め入力もできる

▲右にずらせば4方向タイプに。上下左右のみの入力になるので、「テトリス」や「ぷよぷよ」シリーズのようなパズルゲームで重宝する

▲左にずらせば2方向に。上下ないし左右のみの入力が可能になる。「インベーダーゲーム」のような一部のタイトルで使われる

鈴木:調べていくと、昔の夏服って青色なんですよ。いつの間にか緑に変わっているんです。ただ、どのタイミングで緑に変わったのかまでは、僕たちもわからないんですよ。

——へえ。奥深いですねー!

迫田:こういうルーツって実はほかにもあって、例えばこのアニバーサリーモデルのレバーボール部分に描かれているマーク。これも実は意味があるんです。漢字にしてみると何かに見えません?

▲実はこのマーク、さまざまなセイミツ製のパーツに刻印されている。先ほど紹介したサブガイドにも刻印されているのだ

——漢字? んー、米とか?

鈴木:あー、やっぱり。皆さん最初は「米」っていうんですよ(笑)。

——あっ、光?

迫田:そうです!

セイミツのルーツでもある「水光(すいこう)」という会社の光の部分から作られたマークなんです。この「水光」という会社は、冒頭でお話しした清水さんが最初に作った会社になります。

——なるほど。その光のなごりがメーカーのロゴになっているんですね。いやあ、深い!

迫田:私たちが今やっていることは、すべて「遊び心」から来るものなんです。それは社員にも伝えてあることで、「遊びでいいんだよ」とか「くだらなくてもいいんだよ」とか、とにかく「遊び心」を持って物作りを考えなさいと伝えています。

ユーザーさんにも作る楽しさや改造する楽しさを味わっていただきたいですしね。すべては「ホビー感覚」から来ています。

その延長線で作ったのが、去年ひっそりと発売された「クリスマスエディション」です。

——えっ、そんなのあったんですか?

迫田:知らないでしょ(笑)。アニバーサリーモデルも販売されて、12月になる頃「クリスマスやるか」って冗談でいったら、鈴木が「いいですね」ってノッてきてくれて(笑)。

じゃあ、どうしようかってなったときに「ボタンを組み合わせちゃったらどうですか?」ってできたのがこれです。


▲アニバーサリーモデルのレバーボールと同じデザインだが、カラーが赤に変更。またボタンも赤と緑を入れ替えた特別モデルを同梱。限定100個で販売されていた

鈴木:ボタンの土台部分と、キャップの部分を入れ子にすることで、クリスマス感を演出してみました(笑)。

——あはは。これも面白い!

迫田:こうやって、コンシューマー向けに力を入れて、常にユーザーさんの要望に応えていきたいと思っています。

セイミツ独特のカチカチとした入力感のヒミツはヒンジにあった


——ここからは、少し原点に戻ってお話を進めさせてください。セイミツ製のレバーと言えば、あのカチカチとした入力感だと思います。特にシューティングをプレイされるユーザーには絶大な人気がありますよね。この入力感はどこから生まれたのでしょうか?

鈴木:セイミツ製のレバースイッチは、元々Panasonic製でした。そのPanasonic製のスイッチが、現在主流のオムロン製よりも重く、重たい分しっかりとオンオフができるんです。

このしっかりと入力できるという部分が、特にシューティングをプレイするユーザーさんに好評でして、いつからかシューティングのセイミツ、格闘の三和というふうに呼ばれるようになりました。

——なるほど。現在のスイッチもPanasonic製なんですか?

鈴木:いいえ。Panasonic製のスイッチは生産が終了してしまったので、2016年以降はオムロン製になっています。ただ、Panasonic製のスイッチの重さを再現するために、特注のものとなっております。

——おおっ。ここに違いがあったんですね。

鈴木:そうですね。海外のスイッチなど、さまざまなタイプのスイッチを試したのですが、やはりセイミツは国内生産が大きな特徴でもあるので、オムロンさんにご協力いただき、以前の性能に近いスイッチを作っていただきました。

——大きな違いはなかったんですか?

鈴木:実は展示会で、別々のスイッチを搭載したレバーを使ってブラインドテストしたんです。そうしたらほとんどの人が違いに気づかなくて。ただ、それでも2割くらいのユーザーさんは違いに気づいてましたね。

ただ、逆をいえば8割の人が気づかなかった。このブラインドテストは大きな自信になりました。

——そうして、パーツの根本が変わった今でも、かつての入力感がしっかりと再現できているんですね。スイッチ以外で、入力感にこだわっている部分はありますか?

迫田:ヒンジですね。

▲セイミツ製のレバースイッチ部分。スイッチの本体から鉄の板が飛び出している。このヒンジと呼ばれるパーツがレバーを倒した際に押し込まれ、赤いスイッチへと入力が伝わる仕組みになっている

▲一方、三和製のスイッチ部分は、レバーを倒した際、ダイレクトに赤いスイッチに入力が伝わる仕組みになっている

ヒンジがあることで、レバーとの接点が広く、一定の力がスイッチに伝わるため、誤作動が少なくなっています。そこに「しっかりと入力している」という感覚があるんです。

——なるほど。個人的な考え方だと、直接スイッチにふれた方が伝達が早く正確なのでは? と思ってしまいます。このヒンジにこだわる理由があるとすれば、それは何になるのでしょうか?

迫田:ひとことで言えば「ムラ」です。

丸いスイッチを直接押した場合、その入射角によって入力のムラが生じてしまいます。ところがヒンジのように板であれば、スイッチに伝わる力は一定になり、ムラがなくなるということです。

——なるほど! ヒンジにこだわる理由というのは、そういうところだったんですね!

ここからは、ついに発売されたプロ監修モデル「LSX-NOBI-01」シリーズをはじめ、未公開の新作レバー+ボタンについてお話をうかがっていきます!

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