【インタビュー後編】元NORTHEPTIONオーナーが新チームを立ち上げ?——eスポーツを存続する難しさを感じたオーナー時代から見る新たなチームの形とは

VALORANT』で数々の名選手を生み出してきた北海道発のeスポーツチームNORTHEPTION(のーせぷしょん)。そんなNORTHEPTIONで数多くの選手を輩出してきたのが、前オーナーの大輪和広氏だ。

前編のインタビューでは、NORTHEPTIONを離れた理由や、新たな挑戦として展開している「CHUM PLANET」というVTuber事業についての話をうかがった。

後編はこぼれ話として、現状の『VALORANT』の競技シーンについてや、今後eスポーツに関わることはあるのかなどをうかがった。

インタビュー前編:
eスポーツ業界を去った男が描く次の世界線——元NORTHEPTIONオーナーの新たなる挑戦とは

大輪 和広(おおわ かずひろ)


eスポーツチームNORTHEPTIONの元オーナーで、北海道札幌市に本社を置く、くさび式足場「ビケ足場」を中心とした足場施工会社である株式会社札幌ビケ足場の元代表。2024年に株式会社札幌ビケ足場を売却し、事業の一環として運営していたNORTHEPTIONの運営を譲渡。現在、株式会社トライフューズを立ち上げ、新しい一歩を踏み出す。

チームを存続する難しさを感じたNORTHEPTION時代


——今改めて『VALORANT』の競技シーンを見ると、前線で活躍している選手の多くが元NORTHEPTION選手ですね。ある意味これってかなり先見の明があったと感じています。

▲2021年時のNORTHEPTION VALORANT部門のロスター。左からTENNN、SugarZ3ro、Astell、Seoldam、Meiy。今でも一線級で戦う選手がずらりと並んでいる。このほかにもBlackWizやxnfriなど、数々の名選手がNORTHEPTIONから輩出されているのだ

大輪:(改めてみると)大分いますよね(笑)。インタナショナルリーグで活躍している選手もそうですが、国内リーグで活躍している選手も元NORTHEPTIONの選手がまだ現役で活躍されているのはうれしいです。

——2023年からインターナショナルリーグが始まりましたが、当時は以前と比べてチームの運営はどう変わりましたか?

大輪:選手の取り合いはきつかったですね。選手との関係性が深まったとしても、選手側としてはより世界に挑戦できるチームに魅力を感じることは当然のことですしね。

やはり選手には“夢”があるので、僕はその夢を全力で応援したいと思っています。なので、別のチームに行って活躍してくれれば僕としてもうれしいですし、何より元NORTHEPTIONの○○選手という肩書きは残るので、Win-Winの関係なんじゃないかなとは思ってました。

またチーム側の運営としては、パブリッシャー側から求められることがインターナショナルリーグが始まる前とあとで大きく変わりました。僕らが2022年「VALORANT Champions Tour Stage 2 Masters Copenhagen」で国際大会に出場したといっても、それはパブリッシャー側が求めるものの何分の一でしかない。そのほかに、ストリーマーが何名所属しているのかとか、SNSのフォロアーがどれくらいいるのかなど、求められる内容に応えられる力はありませんでした。

やはりチームの大本となる会社の事業形態も見られます。僕らは母体が建設業界の会社なので、大きなハンディでもあったと思います。ほかのチームさんは、チームとして会社になっている形態が多いですからね。

——NORTHEPTIONはチームとして独立した会社ではなかったんですね。

大輪:そうですね。NORTHEPTIONはあくまで本業の「札幌ビケ足場」にあるひとつの事業部という扱いでした。なので、eスポーツは本業ではなく、別のところにあるというのがマイナス要素だったのかもしれません。

端から見ると謎のチームなんですよ。本業が一切関わりないのにeスポーツチーム事業部があるみたいな(笑)。

——確かに、最初にインタビューした理由も「なんで、北海道の建築会社がeスポーツチームを?」というところからだったかもしれない(笑)。

参考:
僕を世界に連れていって!【NORTHEPTIONオーナー 大輪和広氏インタビュー】

——ちなみにインターナショナルリーグが始まったあとの国内リーグ(Challengers Japan)はどのように変わりましたか?

大輪:国内リーグも(運営の仕方など)大きく変わりましたね。選手自体も変わっていったというか——。

例えば、ブートキャンプがスタンダート化して、どのチームもやるのが当たり前みたいな流れになっていました。僕的にはオンラインでも決まった時間に集まれればブートキャンプはなくてもいいとは思っていたのですが、チームの結束を深めるためには「オフでやる」ということが重要視されはじめました。

僕らは韓国人の選手も多く起用していたので、日本人選手だけで構成されているチームに比べると、ブートキャンプをするにも多額の費用がかかります。そういった費用をどうやって捻出するのかというのが大きな課題でもありました。

eスポーツチームとしてどうやってマネタイズしていくのか——。建設業の傍らでやるにはあまりに想像以上のスピード感で大きくなりすぎたというのはありました。当時別のタイトルの部門も増えてきましたからね。最終的には7部門くらいあったんじゃないかな。

——それだけ部門も増えて、多くの選手やマネジャーを抱えると、そこから利益を得るのはとても大変のように感じます。

大輪:当然難しいことではありました。ただ当時は、それぞれが日々の業務に追われていて、そういう話に注力できなかったのが正直なところでした。(黒字化を)目指したかったですが、なかなか……。

今思えば、マネタイズの部分に100%コミットできていれば結果は変わっていたかも知れません。それこそeスポーツに全振りする話もありましたけど、やっぱり本業は本業で手放せませんしね。eスポーツ専門で動ける人間が少なかったのがネックでした。

——VALORANT部門の話から大きく話が広がりましたが、eスポーツチームを存続させるというのは想像以上の難しさがあるというのを感じます。

大輪:そうですね。僕は10代くらい続く建設業界で働いてきましたが、(eスポーツより)ひどいことは起こらなかったので。

業界自体が若いということもあって、人材にも若い子が多いです。例えば営業行くにしても、僕らは飛び込みで営業していた世代なので、アポなしで何百件も営業することもありましたが、そういった話は当時ありませんでした。

まずアポを取って、OKもらえたらそこから話を進めるみたいな——。足を使わないで合理的に物事を進めることが多かったですね。今思えば名前を売るためにもっと積極的に営業した方がよかったのかなぁなんて思うこともありますよ。

大輪さんがeスポーツ業界に戻ってくる可能性は?


——これだけ話を聞いていると、やっぱりeスポーツ業界に懲りて別事業を展開したという感じでしょうか。

大輪:いやいや、新規事業として新たにeスポーツ事業をやりたいとは思っていますよ。

——ええっ、新たなチームを作るとか?

大輪:例えばRIDDLE ORDERさんとか、MURASH GAMINGさんみたいに、ストリーマーさんがオーナーとなっているeスポーツチームって増えてきているじゃないですか。そういった形態だったら新しいチームとして活動したいという気持ちはあります。

オーナー自体にファンがいれば、チームとしてもファンが獲得しやすいんじゃないかと——。僕がオーナーをやるより、ストリーマーのオーナーを立ててeスポーツチームを立ち上げるという打診は、実はちょっと前にしたことがあるんです。

——なるほど。最近ではQT DIG∞(旧Sengoku Gaming)も同じような形態になっていますもんね。

▲Sengoku Gamingは、2025年4月8日(火)にブランドを刷新。チーム名を「QT DIG∞」とし、ストリーマーLiaqNが新オーナーとなった

大輪:そうですね。なので、オーナーになりたいストリーマーさんがいたら全然可能性はあるし、むしろそういう人と話がしたい(笑)。

——まさかのここで募集ですね! タイトルや人選など譲れないポイントは?

大輪:基本的には自由にやってくれて構わないと思っています。ただ僕自身、選手を見る“運”みたいなのはあると思ってるんですよ。なので、一緒に人選させてくれる人だとうれしいかな(笑)。


——もうこりごりという訳ではなく、なかなか前向きですね。

大輪:確かに懲りたと言えば懲りますよ。一生マネタイズできないし……。ただ、そういった部分は反省点ですし、過去の失敗を元に動き方も変わるので、同じことにはならないと思っていますよ。

今やれば普通にマネタイズできるんじゃないかな。

——おおっ。これはオーナー候補に期待ですね!

———

新事業としてVTuber事務所を立ち上げた大輪さん。同時に3つの事業を立ち上げた株式会社トライフューズでは、eスポーツも事業のひとつとして考えているのだとか。

そんな中、eスポーツチームのオーナーを経験したからこそ感じたeスポーツ業界のいびつさや課題というのは、普段eスポーツを見ている側からは感じることができない生の声を聞くことができた。

eスポーツは盛り上がっている!

そう声高らかに発信するのは簡単だが、その中に渦巻く課題についても改めて考えさせられたインタビューだった。


【番外編】国内の競技シーンはもう少し間口を増やしてほしい

——直近ですと、SCARZのVALORANT部門が事実上の解散になったり、部門をユースチーム(若手育成やアカデミーチーム)のみを保有するチームも増えてきたように感じます。現在の国内シーンを大輪さんはどのように見ていますか?

大輪:まあでも、それをやっても勝つのは難しいですよね。なにより国内リーグは世界に行ける枠が少なすぎるので、eスポーツを発展させるためにももう少し枠を増やしてほしいとは思っています。

あと、インターナショナルリーグのチームのアカデミーが出場できる枠があるじゃないですか。あれは個人的にかわいそうにも思えます。現役のプロに挑戦できるメリットはあるけど、公開スクリム感は否めない。どういう経緯でアカデミーチームの2枠があるのかは不明ですが、それだったらもう少し国内リーグに出場できるチームの枠を増やしてほしいとは感じますね。

——確かにアカデミーチームは出場はできるけど、仮に優勝したとしても国際大会の出場権は得られないというルールがありますもんね。まあインターナショナルリーグチームの特権としての育成枠なんだとは思いますけど。

大輪:それならアカデミーチーム同士で一度対戦して、勝った方だけが国内リーグに出場できるとかでもいいと思うんですよ。実力差もある中で、なかなかファンも付きづらいし厳しいんじゃないかな。このままだと国内リーグを視聴するファンも減っていくと思いますよ。

——せっかくならアカデミーリーグがあって、そこで優勝したら国内リーグに出場の方がよさそうですね。

大輪:あと、これはeスポーツ全体にいえることなのですが、スポンサーさん主体の環境になると選手のやることが多すぎると思うんですよ。

例えばバスケットボールのプロ選手ってチーム内の練習は3〜4時間くらいなんですって。あとは自主的に練習をしたり休んだり——。サッカーや野球も同じ感覚だと思います。eスポーツってがっつり練習やって、そこから反省会をして、さらに個人で配信もしなければならない。どうしても時間が足りなすぎるんですよね。

スポーツの先駆者が時代の流れとともに科学的なトレーナーを入れたり、時間短縮をしたりしている中、eスポーツもそうあるべきだとは思いますよ。やっぱりプロという言葉がついている以上、もっと選手が自由に活動できる時間を増やさないと。


撮影:宮下英之/いのかわゆう
編集:いのかわゆう


【井ノ川結希(いのかわゆう)プロフィール】
ゲーム好きが高じて19歳でゲーム系の出版社に就職。その後、フリーランスでライター、編集、ディレクターなど多岐にわたり活動している。最近はまっているゲームは『VALORANT』。

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