【連載】岡安学の「eスポーツってなんだろう?」

物議を醸した「eスポーツ盛り上がってない問題」を客観的に考えてみた【岡安学のeスポーツってなんだろう? 第12回】

2024.2.15 岡安学
2023年12月に日本eスポーツ連合(JeSU)が、2022年の日本国内のeスポーツ市場規模が推定125億円に達したことを発表しました。2019年調べでは60億円を超える程度だったので、3年で2倍以上の市場規模になったわけです。

しかも、2020~2022年はコロナ禍の真っ只中であり、さまざまな市場が伸び悩み、縮小している市場もあるので、数字以上に伸びている印象があるのではないでしょうか。

出典:「日本eスポーツ白書2023」より日本eスポーツ市場規模

かたや某ニュースサイトでは、「eスポーツ」なぜ日本で盛り上がらないのか 専門家が指摘した海外との大きな違い という記事を出し、そちらも大きな話題となりました。

どちらの意見も見方によっては正しい評価と言えなくもないですが、果たして日本のeスポーツは盛り上がっているのでしょうか。いくつかの客観的なデータを示しながら、私個人の意見をまとめてみたいと思います。

主観と客観で変わる「eスポーツの盛り上がり度」


eスポーツ界隈を主戦場として取材をしている私やeスポーツの記事を掲載しているeSports Worldでは、eスポーツは大いに盛り上がっていると言えるでしょう。eスポーツ観戦を趣味とし、選手やチームの推し活をしている人にとっては、どのエンタメよりも盛り上がっていると肌で感じているはずです。

しかし、eスポーツという名称は聞いたことがある程度であり、ゲームをほとんどプレイしたことがない人にとっては、まったく盛り上がっていないという意見が出ても不思議ではありません。

例えば、音楽鑑賞が趣味の人でもクラシックしか聴かない人にとっては、YOASOBIもAdoも聴いたことがない上、流行っている感覚をまったく持っていないのと一緒です。

おそらく関西圏の人は2023年の阪神タイガースの日本一の時は街中お祭り騒ぎになっていて、それが日本全国でも同じ状況にあると思っていたのではないでしょうか。しかし、日本のほとんどの地域ではニュースで耳にした程度で、まったく騒ぎにもなっていませんでした。

つまり、主観で考えてしまうと、立場によって見解が変わってしまうのは当然だということです。

では、客観的に考えてみる必要があるわけですが、件の記事も一応客観性を持たせるために専門家と言われる人に意見を聞いています。ただ、残念なことにこの専門家が何の専門家であるかがわからず、主観に近い意見に止まっていました。

ぷよぷよeスポーツ』や『モンスターストライク』『Shadowverse』などの例も出していましたが、現状の日本のeスポーツシーンにおいて『VALORANT』や『Apex Legends』、『ストリートファイター6(スト6)』などのタイトルやそれらのeスポーツイベントを比較対象としていない点で、客観的とは言いづらいわけです。

世界と日本で単純な数字の比較はできない


盛り上がっているかどうかの指針としても、海外大会と日本大会の違いに言及していましたが、優勝賞金や賞金額の大きさでの比較はあったものの、大会の頻度や数、そしてオフライン有観客大会の有無、その集客数などについては語られていませんでした。

賞金額などの金額面だけ見てしまうと、海外と日本には大きな差があると言えます。ただ、海外の場合は国際大会であることが多く、日本で開催する大会のほとんどはローカル大会であり、そもそも比較する土壌が違うと言えます。世界各国から有力選手が集まるメジャーリーガーの大谷選手と、基本的に日本人が選手として活躍する日本プロ野球の選手と比較しているようなものです。

日本プロ野球はメジャーに比べて動くお金の量は大分違いますが、2023年の阪神タイガースの優勝や観客動員数を見れば、日本プロ野球は十分に盛り上がっていると言えますので、単純な金額比較では盛り上がりは示せないと思います。

同様に、eスポーツの観客数や同時視聴者数も海外大会の方が多い大会も少なくありません。2023年11月に行われた『リーグ・オブ・レジェンド』の世界大会である「Worlds」は、最大同時視聴者数が640万人を超え、日本ではあり得ない数値をたたき出しています。

しかし、この数字を出せるタイトルや大会が世界にごろごろしているわけではなく、世界でも稀な大会だと言えます。いわばサッカーの「ワールドカップ」かNFLの「スーパーボウル」レベルと言えます。これらよりも集客や視聴者数が少ないスポーツ大会でも十分盛り上がっている大会はあるので、比較する対象としては的確ではないと言えるでしょう。

盛り上がりの指標となる「来場者数」と「同時視聴者数」


では、何が盛り上がりの指針となるのでしょうか。

先ほど、観客動員数や賞金額の最高値での比較は意味がないと言いましたが、それでもある程度の数値をたたき出していることで、盛り上がりの指針になり得るとは考えられます。やはり多くの人に視聴してもらい、会場に足を運ぶ人が多いほど、盛り上がっていると言えるのではないでしょうか。

日本のeスポーツの場合、2022年に開催された『VALORANT』の大会「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2 Playoff Finals」はさいたまスーパーアリーナで開催され、1日で1万3000人、2日間で2万6000人を集客しました。もちろん、有料チケットでの結果です。

他にもeスポーツイベントを数々手がけるRAGEでも、8000人クラスの集客の大会を何度も開いています。ちなみにイベントチケットは安いもので6000円程度、高いものであれば1万円を超えるものもあります。

さいたまスーパーアリーナでは『VALORANT』の公式大会で、2日間で2万6000人を動員した

eスポーツチームCrazy Raccoonが開催した『スト6』のオンラインイベントでは、本配信以外に、参加したストリーマーやVTuber、プロゲーマーがそれぞれに配信をし、それぞれの同時視聴者数が数万人を超え、中には10万人を超えるストリーマーもいました。このイベント関連で配信していた人たちの同時視聴者数の総数は40万以上いたとみられています。

同じく『スト6』のプロリーグである「ストリートファイターリーグ:Pro-JP(SFL)」では、週1~2回のハイペースな開催で20日以上配信し、それぞれ3~5万人の同時視聴者がいたと確認しています。さらにグランドファイナルはオフラインでの開催となりましたが、S席は先行販売の抽選に外れる人が多数見受けられた上、一般販売でも瞬殺となり、プラチナチケットとなっていました。

プラチナチケット化した「SFL」のグランドファイナル。ライブ配信はペイパービューの有料配信で、こちらも人気でした

他にも高校生のみが参加できるeスポーツ大会「STAGE:0」では2134チーム、7031人が参加しています。全国高校野球選手権の夏の大会、いわゆる甲子園は3486チームが参加しています。2023年の甲子園で準優勝となった仙台育英学園高校は、野球部員は75名ですが、eスポーツ部は100名を超えると言われています。高校野球と比べても決して引けを取らないだけの規模となりつつあるeスポーツを、盛り上がっていないと一蹴するのはやはり早計な気がします。

eスポーツを観戦・応援する日本特有の“推し文化”


そして、これらの日本での観客動員、参加人数の多さは海外のeスポーツ事情と比較しても決して劣らない数値だと言えます。特にeスポーツを観戦・応援する文化は、日本は他の国、特に欧米に比べて伸びていると言えます。

2023年6月に幕張メッセで開催された『VALORANT』の世界大会「Masters Tokyo」では、日本チームが未参加ながら、多くの観客が訪れ応援をしていました。同じく『VALORANT』の国際大会である「Lock//in」はブラジルで開催したものの、地元チームが決勝で敗れると優勝セレモニーを待たず多くの観客が帰ってしまったこともあります。

おそらく、地元チームであるLOUDが参加できていなかったり、トーナメント序盤で早々に敗退していれば、それほど集客できなかった可能性はあります。そのため、先述した「Masters Tokyo」でどのチームに対してもリスペクトし応援する日本人に、多くの選手や大会運営が感動していました。

他にも国際大会への出場権をかけた大会では、日本で数千人の集客があっても海外では数百人に留まるものもあります。ファンがチームや選手を応援する、いわゆる“推し文化”はeスポーツの世界でも日本に浸透しているところがあり、その点で言えば、十分盛り上がっていると言えるでしょう。ちなみに海外でも中国や東南アジア圏は視聴や観戦の文化が根付いていると言われています。

このあたりを客観的に鑑みると、日本のeスポーツはなかなかに盛り上がっていると言えるのではないでしょうか。

最初に言ったように「盛り上がっている」という状況を主観的に見てしまうと、どうしてもポジショントーク的になってしまいます。客観視するのであれば、ある程度納得できるデータや背景を示す必要があるわけです。

いまだ発展途上にある日本のeスポーツの情勢について語る時、もしそれがポジショントークのネガティブキャンペーンでないのであれば、しっかりとした現状把握は必要だと思います。


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