【連載】岡安学の「eスポーツってなんだろう?」

企業がeスポーツに注力する理由の変化 【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」 第4回】

2021.9.30 岡安学
eスポーツ大会と言えばファンによるコミュニティ大会やゲームメーカー、大会運営会社による公式大会などが主立ったもので、そこに関わっている企業はゲームに関係の深いものが多くなっています。eスポーツチームの多くがコミュニティ由来であり、それらを支えるスポンサーもゲームやeスポーツに関わりの深いものばかりです。

しかし、最近ではゲームに縁のない企業もeスポーツにかかわることが増えつつあり、その規模も拡大。かかわる事象も多岐に渡っていて、大会運営であったり、スポンサーであったり、チーム運営であったりします。

eスポーツ元年から数年が経ち、コロナ禍により状況も変化してきた中で、そういった一般企業はどんな理由でeスポーツに出資したり、eスポーツを活用したりしているのでしょうか。


大会運営はメーカーから運営会社へ


eスポーツの大会運営は、公式大会だと扱われているタイトルのメーカーが開催していますが、運営自体は運営会社に任せている場合も少なくありません。

今やeスポーツ大会運営企業としての認識すらあるCyberZは、「RAGE」ブランドで数多くのeスポーツイベントを開催してきましたが、もともとはeスポーツとはかかわりのない企業でした。コミュニティや元選手を発祥とする運営会社であるウェルプレイド・ライゼストやグルーブシンクとは違うわけです。

最近だと、NTTドコモが「X-MOMENT」ブランドで『PUBG MOBILE』や『レインボーシックス シージ』『ストリートファイターV』『リーグ・オブ・レジェンド ワイルドリフト』などのeスポーツ大会を開いています。特に『PUBG MOBILE』は賞金総額3億円、プレイヤーの最低保証年俸350万円と日本屈指のeスポーツリーグとして存在しています。


非ゲーム関連企業が続々スポンサード


eスポーツ大会や選手、チームへの出資をするスポンサーも一般的な企業が増えています。「Red Bull」や「Monster Energy」などのエナジードリンク系はeスポーツに欠かせない存在ですが、もともとはeスポーツとかかわりがある企業ではありません。

他にも日清食品「カップヌードル」やカルビー「じゃがりこ」などの食品系も、今やeスポーツのスポンサーとしては定着しています。

日清食品は格闘ゲームの祭典「EVO JAPAN」のほか、「LJL」のスポンサーなど幅広いタイトルにスポンサードしている


チームスポンサーも以前はゲームメーカー、ゲーム周辺機器メーカーなどが主流でしたが、現在は誰でも聞いたことがある有名企業が参入してきています。

DetonatioN Gamingのスポンサーの一部を取り上げてみましょう。au、エディオン、シャープ、OPENREC.tv、ロジクールG、GTUNE、エレコムなどはゲームやeスポーツに比較的近い存在の企業です。しかし、明治製菓や福助、チャンピオン、以前はスポンサーだったANAなどeスポーツにほど遠い企業(関連記事: あの一流企業も始めてる!? eスポーツにスポンサードしている代表的な日本企業 8社)だと言えます。



チーム運営に乗り出す一般企業が増加


eスポーツチームも元々はコミュニティから発足したものがほとんどでしたが、今ではプロスポーツチームや芸能事務所、テレビ局などがチーム運営に乗り出しています。

福岡ソフトバンクホークスは、『リーグ・オブ・レジェンド』や『シャドウバース』のプロリーグに参加し、「福岡ソフトバンクホークス ゲーミング」として活動をしています。他にも読売ジャイアンツや横浜Fマリノス、東京ヴェルディ、レバンガ北海道など野球やサッカーのプロスポーツチーム、さらに吉本興業や日本テレビなども参入しています。

こうした資本力のある「企業系チーム」に対して、既存のチームは「独立系チーム」と呼ばれています。企業によっては、プロ選手のスポンサーをすることで支援するのではなく、社員として雇用し仕事とプロゲーマーを両立させているところもあります。

フィジカルスポーツで言うところの実業団、社会人スポーツに近い存在といえます。選手は社員として働き、就業時間の一部を練習にあて、大会には出張扱い・業務扱いで参加。プロ選手よりも収入面での安定感があり、兼業プレイヤーよりも会社からの待遇が良く、理解される立場として今後注目される形態になると考えられます。


イマドキの社内外コミュニケーションとしてのeスポーツ


社内外のコミュニケーションとしてeスポーツを取り入れている企業もあります。凸版印刷が主催している「After6」リーグは、社会人を対象としたeスポーツリーグです。レノボ・ジャパンは企業eスポーツ部を立ち上げ「企業eスポーツ対抗戦」を行っています。

他にもJR東日本はエキナカにeスポーツ施設をオープンし、東京メトロもプロの指導が受けられるeスポーツジムを開設しました。





eスポーツへの投資は長期的な「若者離れ」対策に


このようにさまざまな企業がeスポーツに投資し始めているのは、eスポーツにメリットを見いだしていることに他なりません。

その一つは、若者へのエンゲージメントです。

流行っていたものが廃れ始めると「若者離れ」という言葉を使います。実際に若者が離れているかどうかは別にして、安易に使われる言葉です。ただ、次世代の若者に注目されないと、彼らが大人になったときにその商品やサービス、文化は廃れてしまうことは事実です。そのため、多くの企業は若者にリーチするため、彼らが好んでいるeスポーツに目を付けたわけです。

ただ、eスポーツはまだまだ認知度が低く、ゲームタイトルごとにファンが分散してしまいます。そのため、eスポーツに出資している企業の多くは即効性のある広告効果を求めてはおらず、若者とのエンゲージの足がかりとして、将来性を見込んでいることが多くなっています。

企業サークルを発足しているところは、社員の福利厚生としての位置づけで考えているところもあります。最近では、“無礼講”とは言っても上下関係が拭えない社内の“飲み会”に参加することを良しとしない新入社員も散見されます。そもそも飲酒をしない若者も増えています。それこそ「若者の飲酒離れ」です。

その点、eスポーツは好きなゲームをプレイできるという前提のうえ、社内で対戦したとしてもそこには忖度は存在しません。参加する社員も好きなゲームを仲間と一緒にやりたいという能動的な理由により任意で参加しており、強制参加の“飲み会”とは違うところも、好みの多様性と社員の自主性を重んじていると言えるわけです。

ことチーム戦においては社内の上下関係は存在せず、相手を倒すことに注力します。Lenovoの社長であるデビット・ベネット氏も、ゲーム中の行動によっては部下に怒られてしまうこともしばしばとか。これこそが、ベネット社長が提唱する「飲みニケーションからゲーミニケーションへ移行」というわけです。



コロナ禍でも実施可能な「企業eスポーツ」の強み


企業対抗戦においては、業種や職種を問わず参加できるので、業務上はまったく接点のない企業とかかわることができます。必ずしも新たな仕事に繋がるわけではないですが、仕事抜きにして対戦できる関係は純粋にゲームを楽しめる環境にあると言えます。

コロナ禍においても企業eスポーツはその力を発揮します。先に紹介した凸版印刷は、2年に1度社内運動会を開催していました。しかし、1回前は台風で中止となり、前回はコロナ禍のため開催が危ぶまれました。

そこで、全国にある営業所が参加できる“オンライン運動会”として、eスポーツ大会を開催することにしました。運動会を行っていたときは、開催地となる関東を中心とした営業所からの参加が主立っていましたが、オンラインにすることで全国各地の営業所が参加したそうです。大会の様子は社員、その家族のみが視聴できる動画配信を行い、同じ社内とは言え入社以来何十年も顔を合わせていない同僚の姿を見ることもできたと言います。

また、同じチームには必ず部長クラス以上の参加が義務づけられ、ゲームに長ける若い社員に上役が教わると言ったこれまでにないコミュニケーションも生まれています。




企業にとってのeスポーツは“トレンド”から“実効性”へ


企業にとってeスポーツは、単なる宣伝材料であったり、知名度を上げる手段であったりする段階はすでに過ぎたと言えます。現在では、社内コミュニケーションの活性化や次世代の若者との接点として、新事業への転換などさまざまな目的や要素が含まれています。

もちろん既存の体制を否定し、取って代わるということではなく、選択肢が一つ増え、それにより得られることも増えたと言えるのではないでしょうか。

eスポーツやゲームをうまく取り入れることでさまざまな恩恵を得られることもあり、今後も取り入れる企業は増えていくのではないでしょうか。

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