【連載】岡安学の「eスポーツってなんだろう?」

ゲーム配信中のプロゲーマーの失言や暴言をどう防ぐか【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」 第9回】

2022.9.7 岡安学
近年、個人で行ったゲーム配信による失言や暴言が後を絶たず、チームやスポンサーとの契約解除や、年間単位での自粛を余儀なくされるなど、さまざまなペナルティーを受けているプロゲーマーが増えています。

このようなことが起きる度に選手自身の常識や倫理観が問われ、所属チームによるコンプライアンス教育の徹底を求められます。

しかし、多くのチームではすでにコンプライアンスに基づき、選手が差別的な発言や暴言をしないように指導しているところがほとんどです。それでも、暴言による問題が発生してしまうことについては、そもそも教育ではままならない部分があるからだと考えます。



不適切発言は教育や指導だけでは防ぐことはできない


ゲームをプレイしている多くの人が、その結果によって咄嗟に暴言を吐いてしまうことがあるのではないでしょうか。

この暴言はいわゆる「脊髄反射的」に反応し、怒りに任せた言葉が口から出てしまったもの。アンガーマネジメントにおける6秒ルール(怒りを感じたら6秒待って怒りを静めること)を行う前、反射的に出てしまったものなので、基本的に止めることは難しいと言われています。

ゲームで興奮していることもあり、反射的な暴言は対戦相手がコンピューターでも人間でも出てしまうことが多く、対戦相手が人間であればなおさら感情として出てしまいます。人間に対してとなるとその内容も「相手にとって傷つく言葉」「やり込める言葉」をなぜか使いたくなります。

eスポーツチームとして、いくら所属選手に教育・指導をしたところで咄嗟に出てしまう暴言は止めることができず「いつかはこの選手も暴言を吐くかもしれない」と戦々恐々としていなくてはならないと言えます。選手が暴言による炎上を起こさないために、選手の指導以外にも止める手段を講じないといけないわけです。

手っ取り早いのは生配信をやめること


単純に暴言を回避する手段として一番いいのは、リアルタイムで行うストリーミング配信をしないことです。

テレビ番組でも、生放送では制作側は事故やハプニングが起きないことを願い、張り詰めた緊張感の中で作業しています。個人配信にテレビの生放送ほどの緊張感を求めることは難しいので、ゲーム配信時は音声チャットを切るか、録画での対応にするのが手っ取り早い対策ではないでしょうか。

リアルタイムでの配信はリスナーとコメントのやり取りができるので、ファンとして視聴する一番の目的になっていると思います。リスナーにとって、このコミュニケーションツールがごっそり抜けてしまうことは、配信する上で大きな痛手となります。

ファンとのコミュニケーションを維持しつつ配信を管理するのであれば、配信時間に15~30秒のディレイをかけることがいいでしょう。スタッフが配信をチェックし、問題発言があった瞬間に配信をストップすれば、ディレイの間に問題発言も削除することができて、リスナーに届きません。

シームレスな会話のようには行きませんが、コメントに対して答えることもできるので、もっとも現実的な手段だとも言えます。ただ、配信にはスタッフ1名がつきっきりになるのでコストがかかる手法となります。

チームが選手を指導していくのは大前提です。ただ、NGワード的に配信で言ってはいけない言葉をリスト化し、それを伝えるだけでは意味がありません。以前問題となった“たぬかな選手”の不適切発言は、“たぬかな選手”が使った意味合いと本来の意味とでは乖離があり「語彙力の低さ」「理解・使用語彙」などの違いがあったと言われています。しかしこの不適切発言の結果、契約解除となりました。

直接的な発言を回避したとしても、新しく代替する言葉を作って使用するだけなので根本的な解決にはなりません。差別的発言や人格否定、偏見などの言葉は“使わない”ようにするのではなく、差別や人格否定をすること自体を“やってはいけない”こととして、理解する必要があるのです。「怒られるから言わない」「やるなと言われたからやらない」ということではなく、「どうして使ってはいけないのか」という意識改革が必要となります。


ゲームプレイ中にムカつく奴が出現! どう対処する?


「心の底からは思っていない」「そんなこと一度も思ったことがなかった」としても、今まで受けてきた傷つく言葉を口に出してしまう人がいます。これはゲームだけに限らず、日常生活の中でも、バスケットやサッカーなどのフィジカルスポーツでも、運転中でも、いつ、どこで出てしまうかわからないものです。ただ、不特定多数に向けて発言をしているわけではないので、暴言を吐いたとしても大事にはならないだけだと言えます。

暴言を吐くきっかけとなる「事象」についての考えも改める必要があります。暴言を吐きたくなるようなゲーム場面は、一緒にプレイしている仲間や相手の行為が自分の意にそぐわなかった場合がほとんどです。ゲームをプレイする上で「こうあるべき」「こういうことはやってはいけない」というMYルールを持っている人が多く、それに反した行動を取るプレイヤーに対して憤りを感じてしまうのではないでしょうか。

不適切発言をしたことで2022年12月末まで活動停止、当該機関の報酬全額カット、社会貢献活動への参加といった処分を下されたREJECTの“Sara選手”。彼の場合、差別発言をする前に「なんでクリアリングするの?」と他のプレイヤーの行動に対して憤りを感じていました。そもそも、その時点で相手の行為に対してなんの感情も持たなければ、差別発言をすることはなかったでしょう。


そういった場面において感情を揺さぶられないようにするには、相手の行動や自分の技術力に期待をしすぎないことです。自分のプレイスタイルに絶対の自信があるから、他人のプレイに対してイラついてしまいます。

自分のプレイに確固たる自信を持つことはいいですが、それを他人に押しつけないことが重要です。他人はどんなことを考えてプレイしているかわからず、自分の理解の範疇を超えた理念でプレイしている可能性もあります。

そもそも、自分のプレイが「人を嫌な気持ちにさせてはいないか」などと考えない人もいます。“Sara選手”の例で言うと、クリアリングすることが正しい行動かどうかは問題ではなく、「他人の気分を害する行動をとるプレイヤーがいる」ことを認識し、許容することが重要です。

他人が自分の思っている常識を持ち、それを前提にプレイしていると思ってはいけません。自分と違うプレイスタイルの人とチームになるゲームをする場合、それがマイノリティのスタイルだったとしても、そのプレイに口だしせずに多様性だと考え、尊重するくらいで丁度いいと言えます。これはアンガーマネジメントで言うところの「思考のコントロール」にあたる部分です。本当に怒るべき事象なのか、契約停止などのリスクを負ってまで怒るに値することであるかを再確認してみるのがいいのではないでしょうか。

「強さが正義」というゲーム業界の悪しき常識


また、自分のプレイスタイルに確固たる自信を持ち、相手にそのプレイを押しつけるプレイヤーもいます。その要因として「強いプレイヤーが正義」という考え方がゲーム業界にあるからだと思います。

“強い”“上手”なプレイヤーは自分のプレイスタイルが最良となり、うまくないプレイヤーは「そぐわない人」もしくは「足りていない人」と見なされてしまいます。それが上から目線で自分の常識を押しつける結果につながるのです。

狭いコミュニティではその考えもいいでしょうが、不特定多数がマッチングするオンラインゲームは「強さ」を追い求めている人ばかりではなく、「強さが正義」となる考え方に同調しない人もいます。その結果、自分より腕の劣るプレイヤーが思惑通りに行動せず、それが憤りとなり、暴言を吐くきっかけになるのです。

オンラインゲームには「チート」「煽り」「無気力プレイ」など、純粋にゲームを楽しんでいる人の気分を害することを目的としている人もいます。そのような人たちに対して何か言っても無駄ですし、何か言ったところで自分が損をするだけです。「こういう人も居るんだな」とあきらめて次のプレイに集中した方が建設的です。


所属チームは暴言の可能性ありきの対策を


チームとして所属している主力選手が活動中止となれば、チーム力が著しく低下し、場合によってはトップリーグからの陥落やチームの継続が難しくなってしまうこともあります。

選手の発言を管理することが必須であることは間違いありません。しかし、選手の口に戸を立てる訳にもいかず、咄嗟の発言まで管理するのは無理があります。そのため、選手を聖人君子のように育てることよりも、暴言を吐く可能性ありきで対策をすることが重要です。

eスポーツチームのオーナー何人かに話を聞いたことがありますが、いくら指導をしても不適切発言をしてしまう選手はいるそうです。でも何度か失敗を経験し、少しずつ理解を高めることでそういった発言や行動が少なくなっていくのだそうです。

対処法としてディレイ配信にすることや、憤る要因を排除することが必須ですが、チーム内であったり、仲間内であったり、許される場面での発言でその都度注意し、徐々に慣れさせていく必要があるのではないでしょうか。


【連載】岡安学の「eスポーツってなんだろう?」

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