【連載】岡安学の「eスポーツってなんだろう?」
高校でのeスポーツ部設立に立ちはだかる「イメージ」と「予算」の壁【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」 第10回】
「全国高校eスポーツ選手権」や「STAGE:0」、「YOKOSUKA e-Sports CUP」、「NASEF JAPAN MAJOR」など、高校生向けのeスポーツ大会が増え、定着したことにより、eスポーツ部を立ち上げる高校が増えてきています。
N高等学校やクラーク記念国際高等学校、ルネサンス高等学校など通信制の高校をはじめ、岡山共生高等学校や三浦学苑高等学校、朋優学院高等学校などの全日制の私立高校でもeスポーツ部が設立され始めています。今後も公立高校も含め、さまざまな高校でeスポーツ部の立ち上げは増えていくと思われます。
ただし、高校でeスポーツ部を立ち上げるのに際して、障壁となることがいくつかあります。教員や保護者の理解、ゲーミングPCやモニターなどの機材の導入、高速インターネットの開設、指導者の不在など多岐に渡っています。これらを理由にeスポーツ部の発足に二の足を踏む学校も少なくありません。
それらが本当にeスポーツ部設立の障壁となるものなのか、神奈川県横須賀市にある私立三浦学苑高校にも話をうかがいました。今回は、最も大きな課題と思われる「予算」の面から考えてみたいと思います。
まず、eスポーツ部を発足するにあたり必要となるのが、「機材」と「ネット環境」です。
機材は、ゲーミングPC、ゲーミングモニター、ゲーミングキーボード、ゲーミングマウス、ゲーミングチェアなどが主だったものです。それも1台ではなく複数台は必要となります。部活として活動する以上、先述したような大会に出場することがひとつの目的となるので、それらの大会が採用しているタイトルのチーム人数分は最低でも必要となってきます。
「全国高校eスポーツ選手権」や「STAGE:0」では『リーグ・オブ・レジェンド』が、「YOKOSUKA e-Sports CUP」では『VALORANT』が採用されており、どちらも5人1組のチーム戦となっているので、最低でも5台は必要です。
ただし、どちらのタイトルも動作環境はそれほど求められないので、15万円以下くらいのゲーミングPCで十分です。それでもモニターは24インチ 144Hz 1msあたりのスペックで2万5000円以下、キーボードとマウスはそれぞれ1万円程度と考えると、1セットで20万円弱、5セットで100万円ほどかかります。
そう考えると、かなり高額の機材となります。全国高校eスポーツ選手権立ち上げ当初は「GALERRIA」ブランドを手がけるサードウェーブによる高校eスポーツ部支援プログラムがあり、ゲーミングPC3台を無償レンタルすることもできたのですが、現在は自力でそろえなくてはなりません。
三浦学苑高校がeスポーツ部(情報研究会)を創部した時はちょうど横須賀市で「YOKOSUKA e-Sports PROJECT」(2020年12月で新規申し込みを停止)が行われており、ゲーミングPC5台とモニター、キーボード、マウス、ゲーミングチェアなどの3年間無償貸与で対応しています。ちなみに、三浦学苑高校はeスポーツ部ではなく、情報研究会の活動の一環として、eスポーツ活動が含まれています。
ただ、自前で機材をそろえることになったとして、他の一般的な部活と比べて破格に高いかと言うと、案外そうでもありません。
例えば吹奏楽部であれば、大会出場を目指すなら少なくとも10人は必要となるので、人数分の楽器をそろえるとかなりの額になります。初心者向けの楽器であればかなり値段を抑えられますが、ある程度のものをそろえるとなると100万円ではききません。
野球部にしても、グローブやユニフォーム、スパイクなどは生徒自身が自前でそろえるとしても、バット、ボール、場合によってはピッチングマシンや防球ネット、ベース、トンボやライン引きなど、さまざまな機材をそろえる必要があります。備品点数がかなり多く、こちらも100万円では済まないのはわかります。
多くの高校では、こうした一般的な部活動は学校設立と同時に発足されているので、立ち上げに関する予算感を持っていないことが多いと思われます。しかし、新規創部として考えるのであれば、eスポーツ部だけが破格に予算がかかるというわけではありません。
では、創部したあと、部活動を実施する上で年間にかかる予算、いわゆるランニングコストの面はどうでしょうか。
三浦学苑高校では、部活の所属生徒の数に応じて、学校より各部活動への分配金が払われる仕組みとなっています。
eスポーツを扱う情報研究会は、2022年度予算では20万円を申請しています。内訳としては、既存のタイトルに加え『グランツーリスモ7』と『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』のプレイを希望する部員のために、新規モニターとNintendo Switchの購入費を予算に盛り込んでいます。
部員の負担となる部費としては、月々500円=年間6000円の家庭負担もあります。これは情報研究会としてのもので、eスポーツ活動以外にも資格取得や動画制作などを行う費用として計上されています。さらに、大会への参加などで遠征費が発生する場合は、その分は別途申請も必要です。
一方、硬式野球部では学校から年間37万3000円の活動補助費が出ており、家庭負担の部費は月々約6000円=年間7万円を計上しています。これには父母会費も含まれ、引退の早い3年生は少し減額された費用となります。
吹奏楽部の場合は年間67万1000円の活動補助費が出ており、部費として月々3000円=年間3万6000円の家庭負担があります。どちらも合宿や大会出場等による遠征費は別途かかるとのことです。
三浦学苑高校の情報研究会が利用した「YOKOSUKA e-Sports PROJECT」は3年限定の支援となっているので、2022年12月で期間が終了します。プロジェクトによって導入した機材を維持するには、それらの機材をレンタルとして有料で借り続けるか、3年間のレンタル料を差し引いた額で買い取るかのどちらかとなります。
そのため、創部のためのイニシャルコストに近い金額が必要になるか、ランニングコストが増額することになります。それを踏まえた上でも、硬式野球部や吹奏楽部の予算や部費よりもはるかに少ない金額となるのは火を見るより明らかです。
ちなみに、今後さらに部員が増え、備品の数が足りなくなったとしても、ほかの活動で使用するPCが10台、学校が教材として所有しているPCが48台あるので、とりあえずは対応できるとのこと。
オンライン環境に関しては、すでに高校で導入している回線がありましたが、それとは別に情報研究会専用の回線を引いています。まだインターネット回線を引いていない高校も多数あり、その導入費についても計上する必要がありますが、「GIGAスクール構想」が進むことでこれらはクリアしていくとみられます。
今回取材した三浦学苑高校も、各部活の補助金や部費はあくまでも2022年12月時点の実績であって、今後は変動する可能性もあります。また、比較的活動費用が高額になる部活と比較していることも事実で、補助金額や部費がeスポーツ部よりもはるかに少ない部活があるのも事実です。他の高校ではまた予算額や事情なども異なってくるとも思います。
ただ、eスポーツ部がゲーミングPCや周辺機器、通信環境を整えるために必要な予算が膨大で、部活として認めにくいと言うほど、高額な予算を必要としていないことが今回の検証からわかりました。
教員や保護者への理解、指導者の不足など、eスポーツ部創部の障壁になる他の事案は、また次の機会にご紹介したいと思います。
N高等学校やクラーク記念国際高等学校、ルネサンス高等学校など通信制の高校をはじめ、岡山共生高等学校や三浦学苑高等学校、朋優学院高等学校などの全日制の私立高校でもeスポーツ部が設立され始めています。今後も公立高校も含め、さまざまな高校でeスポーツ部の立ち上げは増えていくと思われます。
ただし、高校でeスポーツ部を立ち上げるのに際して、障壁となることがいくつかあります。教員や保護者の理解、ゲーミングPCやモニターなどの機材の導入、高速インターネットの開設、指導者の不在など多岐に渡っています。これらを理由にeスポーツ部の発足に二の足を踏む学校も少なくありません。
それらが本当にeスポーツ部設立の障壁となるものなのか、神奈川県横須賀市にある私立三浦学苑高校にも話をうかがいました。今回は、最も大きな課題と思われる「予算」の面から考えてみたいと思います。
真っ先に必要なゲーミングPCなどの高額な初期費用
まず、eスポーツ部を発足するにあたり必要となるのが、「機材」と「ネット環境」です。
機材は、ゲーミングPC、ゲーミングモニター、ゲーミングキーボード、ゲーミングマウス、ゲーミングチェアなどが主だったものです。それも1台ではなく複数台は必要となります。部活として活動する以上、先述したような大会に出場することがひとつの目的となるので、それらの大会が採用しているタイトルのチーム人数分は最低でも必要となってきます。
「全国高校eスポーツ選手権」や「STAGE:0」では『リーグ・オブ・レジェンド』が、「YOKOSUKA e-Sports CUP」では『VALORANT』が採用されており、どちらも5人1組のチーム戦となっているので、最低でも5台は必要です。
ただし、どちらのタイトルも動作環境はそれほど求められないので、15万円以下くらいのゲーミングPCで十分です。それでもモニターは24インチ 144Hz 1msあたりのスペックで2万5000円以下、キーボードとマウスはそれぞれ1万円程度と考えると、1セットで20万円弱、5セットで100万円ほどかかります。
そう考えると、かなり高額の機材となります。全国高校eスポーツ選手権立ち上げ当初は「GALERRIA」ブランドを手がけるサードウェーブによる高校eスポーツ部支援プログラムがあり、ゲーミングPC3台を無償レンタルすることもできたのですが、現在は自力でそろえなくてはなりません。
三浦学苑高校がeスポーツ部(情報研究会)を創部した時はちょうど横須賀市で「YOKOSUKA e-Sports PROJECT」(2020年12月で新規申し込みを停止)が行われており、ゲーミングPC5台とモニター、キーボード、マウス、ゲーミングチェアなどの3年間無償貸与で対応しています。ちなみに、三浦学苑高校はeスポーツ部ではなく、情報研究会の活動の一環として、eスポーツ活動が含まれています。
創部として考えると破格の予算ではない?
ただ、自前で機材をそろえることになったとして、他の一般的な部活と比べて破格に高いかと言うと、案外そうでもありません。
例えば吹奏楽部であれば、大会出場を目指すなら少なくとも10人は必要となるので、人数分の楽器をそろえるとかなりの額になります。初心者向けの楽器であればかなり値段を抑えられますが、ある程度のものをそろえるとなると100万円ではききません。
野球部にしても、グローブやユニフォーム、スパイクなどは生徒自身が自前でそろえるとしても、バット、ボール、場合によってはピッチングマシンや防球ネット、ベース、トンボやライン引きなど、さまざまな機材をそろえる必要があります。備品点数がかなり多く、こちらも100万円では済まないのはわかります。
多くの高校では、こうした一般的な部活動は学校設立と同時に発足されているので、立ち上げに関する予算感を持っていないことが多いと思われます。しかし、新規創部として考えるのであれば、eスポーツ部だけが破格に予算がかかるというわけではありません。
eスポーツ部の維持費はどれくらい?
では、創部したあと、部活動を実施する上で年間にかかる予算、いわゆるランニングコストの面はどうでしょうか。
三浦学苑高校では、部活の所属生徒の数に応じて、学校より各部活動への分配金が払われる仕組みとなっています。
eスポーツを扱う情報研究会は、2022年度予算では20万円を申請しています。内訳としては、既存のタイトルに加え『グランツーリスモ7』と『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』のプレイを希望する部員のために、新規モニターとNintendo Switchの購入費を予算に盛り込んでいます。
部員の負担となる部費としては、月々500円=年間6000円の家庭負担もあります。これは情報研究会としてのもので、eスポーツ活動以外にも資格取得や動画制作などを行う費用として計上されています。さらに、大会への参加などで遠征費が発生する場合は、その分は別途申請も必要です。
一方、硬式野球部では学校から年間37万3000円の活動補助費が出ており、家庭負担の部費は月々約6000円=年間7万円を計上しています。これには父母会費も含まれ、引退の早い3年生は少し減額された費用となります。
吹奏楽部の場合は年間67万1000円の活動補助費が出ており、部費として月々3000円=年間3万6000円の家庭負担があります。どちらも合宿や大会出場等による遠征費は別途かかるとのことです。
三浦学苑高校の情報研究会が利用した「YOKOSUKA e-Sports PROJECT」は3年限定の支援となっているので、2022年12月で期間が終了します。プロジェクトによって導入した機材を維持するには、それらの機材をレンタルとして有料で借り続けるか、3年間のレンタル料を差し引いた額で買い取るかのどちらかとなります。
そのため、創部のためのイニシャルコストに近い金額が必要になるか、ランニングコストが増額することになります。それを踏まえた上でも、硬式野球部や吹奏楽部の予算や部費よりもはるかに少ない金額となるのは火を見るより明らかです。
ちなみに、今後さらに部員が増え、備品の数が足りなくなったとしても、ほかの活動で使用するPCが10台、学校が教材として所有しているPCが48台あるので、とりあえずは対応できるとのこと。
オンライン環境に関しては、すでに高校で導入している回線がありましたが、それとは別に情報研究会専用の回線を引いています。まだインターネット回線を引いていない高校も多数あり、その導入費についても計上する必要がありますが、「GIGAスクール構想」が進むことでこれらはクリアしていくとみられます。
eスポーツ部設立のハードルは意外と高くない
今回取材した三浦学苑高校も、各部活の補助金や部費はあくまでも2022年12月時点の実績であって、今後は変動する可能性もあります。また、比較的活動費用が高額になる部活と比較していることも事実で、補助金額や部費がeスポーツ部よりもはるかに少ない部活があるのも事実です。他の高校ではまた予算額や事情なども異なってくるとも思います。
ただ、eスポーツ部がゲーミングPCや周辺機器、通信環境を整えるために必要な予算が膨大で、部活として認めにくいと言うほど、高額な予算を必要としていないことが今回の検証からわかりました。
教員や保護者への理解、指導者の不足など、eスポーツ部創部の障壁になる他の事案は、また次の機会にご紹介したいと思います。
【連載】岡安学の「eスポーツってなんだろう?」
- 『モンスターストライク』の競技性【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」 第1回】
- eスポーツはオリンピック競技になり得るのか【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」第2回】
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- 日本のeスポーツと「大会・施設運営」の法的課題 〜eスポーツと法律【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」第6回 中編】
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- 高校でのeスポーツ部設立に立ちはだかる「イメージ」と「予算」の壁【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」 第10回】
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