【連載】岡安学の「eスポーツってなんだろう?」

ゲーム配信者と日本代表の活躍が一気に爆発した「観戦するeスポーツ」の人気【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」 第7回】

2022.5.23 岡安学
eスポーツは他のライブエンターテインメントに比べ、オンラインへの対応がしやすいと言われています。

これは、現地でも配信でも基本見ているのはゲーム画面であり、プレイヤーや実況解説までもがリモートで参加できることが理由です。

しかし、「対応できる」ということと「オフラインの代替になること」はイコールではなく、オンライン化によってeスポーツがライブエンターテインメントの中心となることとは違います。

集客数に追い風。日本のeスポーツシーンの現在


CrazyRaccoonのブース。長蛇の列

eスポーツイベントがオンラインで成立しにくい背景は、「視聴者の数」にあります。

元々、eスポーツのライブイベントでの集客力に関しては、メジャースポーツの試合や有名アーティストのライブには遠く及ばず、母数の少なさから配信での視聴者数を期待できません。リアルイベントの場合は、少人数の集客でも演者とのエンゲージメントの高さによっては対応できていましたが、動画配信となると単純に再生数や同時視聴者数のみが重視されてしまいます。他ジャンルの動画配信と単純に数で比較されてしまうからです。

例えば、ゲーム配信に限ってみれば、プロ選手やプロチームが出場する公式配信と比べて、ストリーマーによる配信の方が人気となっています。同じ動画配信であれば、公式であろうが個人であろうが結果に対する評価は変わらず、eスポーツの公式大会の配信はどこもライブエンターテインメントとしては数的に足りない状況にありました。

逆にリアルイベントでは、eスポーツに限らず、会場の大小の違いやイベントの規模の違いがあっても、それぞれの基準や目的によっては十分な成果と考えることはできます。

しかし、今年に入って、その状況に変化が現れ始めています。『VALORANT』の国内リーグである「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage1」では、公式配信の合計同時接続視聴者数は24万超え。同大会の世界大会では日本代表のZETA DIVISIONが活躍したことにより、41万人の同時接続者数を記録しています。

さらに、ゴールデンウィーク終盤の5月7日〜8日に開催された有料オフラインイベント「RAGE VALOTANT 2022 Spring」では、各日6000人超の観客動員があり、延べ1万3000人のオーディエンスが『VALORANT』のイベントに訪れました。チケット料金はバルコニー3指定席の3500円、バルコニー1・2指定席の4500円、アリーナ指定席の6500円の3つが用意され、先着順での販売は1時間も経たずに完売。イベントは9時間の長丁場だったとは言え、音楽やスポーツ、演劇などと比較しても決して安くないチケット価格ながら、これだけの集客を見せたのは、eスポーツ興行としては大きな一歩になったと言えます。

これだけeスポーツとして興行が成り立つようになったのは、『VALORANT』自体の人気、プレイヤー人口の多さなどが挙げられますが、やはりストリーマーによる動画配信による牽引が大きかったのは言うまでもありません。ストリーマーによる配信で『VALORANT』の知名度が高まったところで、先述した「2022 VALORANT Champions Tour」の世界大会に出場したZETA DIVISIONが3位入賞を果たしたことが、かなりの追い風となりました。

発展途上にある日本のeスポーツシーン


日本のeスポーツタイトルの中で、FPSやMOBAに関してはまだまだ世界レベルに到達していないと言われており、「2022 VALORANT Champions Tour」でもグループステージの突破はおろか、1勝することができれば合格点というような下馬評でした。

それが、グループステージで2試合目に強豪FNATICを破って初勝利を収め、3戦目も勝利。見事プレイオフに進出します。プレイオフ初戦でG2 Esportsに敗れ、ロワーブラケット(ダブルイリミネーショントーナメントのいわゆるルーザーズサイド)に移行しますが、ここから快進撃が始まります。老舗eスポーツチームのTeam Liquidを破り、プレイオフでの初勝利を決めます。

このあたりからFPS界隈だけでなく他のeスポーツファンも注目し始め、SNSなどでは話題として取り上げる人も増えてきました。DRX戦、Paper Rex戦と連勝し3位以上が確定すると、ある程度ゲームに興味がある人くらいのゲームリテラシーの人にも話題となりました。準決勝でOpTic Gamingに敗れ3位となりましたが、この結果により多くの人に『VALORANT』とeスポーツ観戦を知らしめることができ、その結果が同接41万人というわけです。

ZETA DIVISIONとOpTic Gamingの試合は、国内外から多くの注目を集めた

ただ、現状としてはようやく観戦としてのeスポーツの初段に踏み込んだ状態だと言えます。

状況としてはJリーグ発足前に、一部のサッカーファンが衛星放送で放送されていたワールドカップの試合を、深夜眠い目をこすりながら観ていた状況に近いと言えます。これが、現在のように、A代表の試合となれば、多くの人がテレビの前で応援するような状態まで行くには、何段階ものステップがあることは間違いありません。

ZETA DIVISIONは「ジョホールバルの歓喜」以上の結果を出したと言えますが、まだまだ今後の課題は多いでしょう。

日本のeスポーツシーンを盛り上げていくには



イベントとしては先に紹介した「RAGE VALOTANT 2022 Spring」が、ストリーマーとプロ選手それぞれによるオールスター大会を開催し、イベント会場では各プロチームがブースを出店し、ファンミーティングの様相も見せていました。盛り上がってきた『VALORANT』のeスポーツシーンにさらに追い風を吹かせるには、最適なイベントでした。

ストリーマーの配信から興味を湧かせ、タイトルそのものやプロシーンへ関心を向かわせ、そして、ファンとの交流により、人気を定着させており、あとはこのまま拡大していくだけです。

プロチームや選手はZETA DIVISIONの快挙を偶然の産物とせず、世界でも通じるパフォーマンスを見せ続け、ファンとの交流を深めていけば、「VALORANT Champions Tour」が、ワールドカップのように多くの人に視聴される日も遠くはないと感じます。

ただ、世界戦での活躍は、毎度毎度好結果を見込むことは難しく、結果を出し続けたとしてもさらなる結果を求められがちです。

したがって、今後人気が定着するには国内リーグの充実と視聴環境の整備が重要です。ファンは選手を応援しがちになってしまうので、それをいかにチームファンへ転換させ、長期で応援してくれるサポーターとするのかにも課題が残っていると思われます。

ようやく芽吹いた「観戦するeスポーツ」がひとつの文化として定着するために、『VALORANT』の動向には注視していきたいところです。

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