【連載】岡安学の「eスポーツってなんだろう?」

わかりにくいeスポーツ大会のトーナメント&リーグ方式【岡安学のeスポーツってなんだろう? 第3回】

2021.8.30 岡安学
eスポーツ大会の多くはコミュニティ由来であり、参加者の対戦数をできるだけ多くするために、参加者全員がなるべくたくさんの試合ができるような対戦形式を使用しています。

そもそも1試合の時間が短く数試合できることから、試合数が多少増えてもこなせてしまうことも、さまざまな試合形式ができる要因です。

フィジカルスポーツではトーナメント戦とリーグ戦が大会の試合形式となりますが、eスポーツ大会では「ダブルエリミネーション方式」のトーナメントや、「スイスドロー方式」「フリーフォーオール方式」など一般的には聞き慣れていない方式の試合形式がよく使われています。

団体戦も一般的な勝ち抜き戦や星取戦以外に「早稲田式」などもあります。eスポーツ大会に参加したり開催したり観戦したりするときに試合形式を理解しているとより楽しめるでしょう。そこで、本記事ではそれぞれの形式の特徴と利点を解説していきます。


トーナメント戦


シングルエリミネーション(Single-Elimination Tournament)

▲2、4、8、16、32ときっちり振り分けられる数以外の参加チームの場合、2回戦からの出場となるいわゆるシード枠が設けられます

「シングルエリミネーション」は、いわゆる一般的なトーナメントです。トーナメント戦と言えば、シングルエリミネーション方式のことだと言って問題ありません。高校野球や天皇杯などでも使われており、お馴染みのトーナメントです。

メリットは少ない試合数で優勝が決められるところです。試合形式は勝ち抜き戦で、最後の1チームとなるまで対戦を続けます。1回負けてしまえば敗退しますが、準決勝で負けた2チームで対戦し、3位決定戦を行う場合もあります。

リーグ・オブ・レジェンド』の世界大会「Worlds」のノックアウトステージ(プレイオフ)をはじめ、『ストリートファイターV CE』の世界大会「Capcom Pro Tour」などなど、参加人数が多いさまざまなタイトルの予選大会などで使用されています。


ダブルエリミネーション(Double-Elimination Tournament)

▲1度も負けずにウィナーズサイドのみで優勝すると4試合で済みますが、初戦で敗退し、そこからルーザーズを泳ぎ切って優勝するにはリセットを含め7試合しなくてはならなくなります

基本的にはシングルエリミネーション方式と同じ形式ですが、2回負けて敗退となるトーナメントが「ダブルエリミネーション」です。

参加者は全員「ウィナーズサイド」と呼ばれるトーナメントに参加し、敗者になると「ルーザーズサイド」トーナメントに移動します。ルーザーズサイドで負けてしまうと大会から敗退となります。

ウィナーズサイドで対戦したチームや選手がルーザーズサイドですぐに当たらないように組まなくてはならないので、ルーザーズの配置が難しく、手作業ではほぼ無理と言えます。主催したい時などにはトーナメントアプリの利用をお勧めします。

ウィナーズサイドでの決勝戦を「ウイナーズファイナル」と呼び、ルーザーズサイドでの決勝戦を「ルーザーズファイナル」と呼びます。ウイナーズ/ルーザーズファイナルの勝者が「グランドファイナル」で対戦し、優勝者を決めます。

ウイナーズ勝者はグランドファイナルまで全勝しているので、グランドファイナルで負けても再度グランドファイナルが行われ、そこでの勝者が優勝者となります。お互いに1敗した状態でグランドファイナルを迎えることは「リセット」と呼ばれています。

ダブルエリミネーション方式の利点は、すべての選手が最低でも2回試合ができることです。さらに序盤で事実上の決勝戦のようなカードになっても、負けた選手が巻き返す可能性があり、実力のあるチームや選手が残りやすくなっています。

また、順位決定戦を行わなくても上位入賞者は自動的に順位が確定します。ベスト8までだと1~4位までが確定、5位は同位2人、7位も同位2人となります。柔道などで使用されている「敗者復活戦」と似ていますよね。しかし、「敗者復活戦」は最高で3位までしか入賞できませんが、ダブルエリミネーション方式は最後まで優勝の可能性が残されています。

優勝の可能性が残されている敗者復活方式の場合、グランドファイナルが一発勝負になることが多いのですが、これだと早々に負けたチームが優勝する可能性が高くなり、納得感が得られないこともあります。そのためグランドファイナルで、ウィナーズサイドの選手が一度負けたとしても優勝の可能性があるダブルエリミネーション方式は、納得感が得られる方式だと言えるでしょう。

ルーザーズサイドはウィナーズサイドで負けた選手が次々と移動してきます。ウィナーズサイドからグランドファイナルに進出した選手と、初戦敗退でルーザーズサイドからグランドファイナルに進出した選手だと試合数が格段に変わります。参加人数によっては2倍以上の試合数をこなさなくてはなりません。

そのため、多くの試合をしてルーザーズサイドからグランドファイナルに進出することを遠泳に例え「泳ぎきる」と言われています。比較的試合時間の短い『ストリートファイターV CE』や『鉄拳7』などの対戦格闘ゲームでは、ダブルエリミネーション方式を採用しています。


スイスドロー

▲試合を重ねる毎に実力が拮抗した相手との対戦となります


「スイスドロー」は、勝っても負けても参加者全員が同じ回数だけ試合をする方式です。リーグ戦と違い、トーナメントの進行によっては対戦しないチームや選手が出てきます。最終的に無敗のチームが1チームになるまで行われます。

初戦は抽選などの組み合わせで対戦。2回戦目は勝利したチーム同士、負けたチーム同士。3回戦目は2連勝のチーム同士、1勝1敗のチーム同士、2連敗のチーム同士でカードが組まれます。

例えば16チーム参加のトーナメントの場合、2回戦目で勝利8チーム4試合、敗北8チーム4試合が組まれます。3回戦目では2連勝4チーム2試合、1勝1敗8チーム4試合、2連敗4チーム2試合となるわけです。そして、4回戦目で3連勝2チーム1試合、2勝1敗6チーム3試合、1勝2敗6チーム3試合、3連敗2チーム1試合が組まれ、この試合結果で4連勝のチームは1チームだけとなり、優勝が決まります。

「スイスドロー方式」の利点はなんと言っても成績に関係なく、参加者すべてが同じ数の試合をすることができるところです。試合数を重ねるごとに強いチームは対戦相手も強くなり、弱いチームも対戦相手が弱くなっていき、より同レベルの試合が楽しめるようになります。

「ダブルエリミネーション方式」と同様に順位決定戦をしなくてもある程度の順位が確定します。上の例で言うと、全勝1チーム、3勝1敗4チーム、2勝2敗6チーム、1勝3敗4チーム、全敗1チームという振り分けになります。

デメリットは「シングルエリミネーショントーナメント」と比べると試合数が激増する点です。そのため、試合時間が短めで1回戦ごとの試合を同時進行できるようなタイプのゲームか、参加人数が少なめでないと難しいと言えます。他のトーナメントと違い最下位が確定するので、厳しい結果が出るところもデメリットと言えばデメリットです。

Shadowverse Queen’s Cup」の予選や、「RAGE Shadowverse」の予選など、デジタルカードゲームのタイトルで主に使用されていました。


フリーフォーオール

ひとつの試合で複数人数が対戦するゲームで使用されるトーナメント形式が「フリーフォーオール」です。「スイスドロー式」と同様にすべての参加者が同じだけ試合を重ねますが、試合ごとに順位などでポイントを付け、最終的にポイント数の高い選手が勝利となります。麻雀やトランプ(ポーカーやブラックジャック)などでよく使用されています。

例えば16人参加の麻雀大会の場合、4人対戦が4卓できます。これを4戦し、ポイントが高い選手が優勝となります。同じ人と対戦しないよう試合を組みますが、それでも試合数によっては対戦しない選手がでます。直接対決のないまま勝敗が決することもあるので、最後に上位4名で決勝ラウンドを行うこともあります。

「フリーフォーオール」の利点は、参加者全員が同じ試合数に出られることです。また、初戦で最下位を取ってしまっても、残りの試合で好成績を残せば優勝の可能性がある巻き返しができる方式です。eスポーツの公式試合ではあまり見られない方式ですが、コミュニティ系の大会では『ぷよぷよeスポーツ』の4人対戦で行われています。また、「Red Bull 5G 2021」のFREE部門『雀魂-じゃんたま-』の予選でも使われています。



リーグ戦


▲参加者全員と対戦するので、実力が結果に繋がる方式と言えます


「リーグ戦」は、グループ分けされたチームや選手がすべてのチームと対戦し、勝敗を決めます。いわゆる総当たり戦です。勝率によって順位が決まりますが同率の勝敗になりやすく、その場合は取ったラウンド数から取られたラウンド数を引いたポイントによって決着がつけられたり、直接対決の勝者が上位になったりと、ルール設定が大会ごとに変化します。

その中でも、同じ対戦相手と1度しか試合をしない「シングルラウンドロビン方式」と、同じ相手と2回ずつ試合をする「ダブルラウンドロビン方式」があります。

大きな大会で比較的少なめのチーム数や参加者の場合、予選としてグループリーグを行い、決勝のノックアウトトーナメントへの出場権をかけて争うことも多々あります。サッカーワールドカップの決勝大会や『リーグ・オブ・レジェンド』の世界大会「Worlds」も、予選はグループリーグ、決勝をトーナメントとしています。

ダブルラウンドロビン方式は、『LoL』の日本リーグ「LJL」のレギュラーシーズンなどで採用されており、すべてのチームが2回ずつ総当たりしてその勝敗数を競い合っています。



団体戦

「団体戦」は、5対5や3対3など複数人数で対戦する試合形式です。有名なところで「勝ち抜き戦」や「星取戦」があります。ここからの解説は基本的に5対5の団体戦を想定しています。

厳密に言うと「団体戦」は個人戦と対になる対戦方式なので、団体戦の「ダブルエリミネーション方式トーナメント」のように大会形式とは違います。ここでは1対1のチーム戦を行ったことを前提で話をします。

勝ち抜き戦

▲どんな状況でも最終的に相手の大将を倒せば勝利となります

負けるごとに選手が変わる勝ち残り方式が「勝ち抜き戦」。柔道や剣道などの格闘技団体戦で良く見られる方式です。

先鋒が5人抜きしたとすると、残りの4人は戦うことなく勝利となります。逆に相手の先鋒に4人抜きされても大将が5人抜き仕返せば勝利できるので、飛び抜けて強い選手が一人いれば残りのメンバーが弱くても勝ち抜けることができます。場合によっては一人での参加も勝ち抜きできることもあります。

利点としては、最後まで勝敗がわからず消化試合がないところです。ただ、先鋒が5人抜きをすると後続の選手は試合に出られないまま勝敗が決することもあり、そこはデメリットと言えます。ちなみに、負けた選手が残る「負け残り方式」もあります。この場合、どんなに強い選手をそろえていても、一人弱い選手がいると勝ち抜けなくなってしまいます。

「勝ち抜き戦」は、埼玉で行われた「eスポSAIのSONIC CUPやTOPANGAチャリティカップ」などで使用されています。


星取戦

▲先鋒でも大将でもどの対戦でも1勝の重みは変わらないのが星取戦です

5対5の「星取戦」は、「先鋒同士」「次鋒同士」「中堅同士」「副将同士」「大将同士」が戦い、先に3勝したチームの勝利となります。引き分けがある場合は、相手が勝ち越せなくなった状態で勝負がつきます。

「勝ち抜き戦」の場合、5人抜きで勝利できるので、飛び抜けて強い選手が一人いれば勝ち抜くことができました。しかし「星取戦」の場合、どんなに強くても1勝以上は挙げられないので、よりチーム力が試される形式です。最低でも3試合はする必要があるので3人は必要となります。

出場する順番を決めるオーダーが勝敗にも寄与するのも「星取戦」の醍醐味です。最弱のメンバーを相手のエースと対戦させて他の対戦で勝利するなど、オーダーによって試合の結果が左右されることもあります。利点は必ずチームメンバー全員が試合に出られることです。デメリットとしては3連勝で決着がついてしまうので、残り2試合が消化試合となってしまうことです。

星取戦は「ストリートファイターリーグ:Pro-JP」で使用されています。ただ、勝敗の結果はポイント制になっており「先鋒」「中堅戦」は1ポイント、「大将戦」は2ポイントが勝利チームに入るようになっています。連敗しても「大将戦」を取り返せば五分に戻せる特殊なシステムです。


早稲田式


▲星取戦と勝ち抜き戦のハイブリッドなので、試合数は多くなります

「早稲田式」は「星取戦」と「勝ち抜き戦」のハイブリッドです。さまざまな種類や定義があるのですが、現在主流となっている方式について、3対3と仮定して説明します。まず「星取戦」を行い、3連勝した場合のみ通常の「星取戦」と同様に勝ち抜けられます。2勝1敗、1勝2敗となった場合は勝者が勝ち残り、そこから勝ち抜き戦が行われます。

例えばAチームは先鋒が勝利し、中堅・大将は敗退。Bチームは先鋒が敗退し、中堅・大将は勝利したとします。Aチームは先鋒、Bチームは中堅と大将が生き残ります。この生き残りで勝ち抜き戦を行い、Aチームは2連勝、Bチームはどちらかが勝利すればチームの勝ち抜けとなります。星取戦よりは試合数が多くなるので、3対3もしくは2対2など比較的人数が少ない団体戦に向いています。

「早稲田式」の利点は参加者全員が必ず試合できる点と、飛び抜けた強さを持つ選手がいれば巻き返しがはかれる点です。かつて行われていた「闘劇」や「東京ゲームショウ2019」のNTTドコモブースで行われた『ストリートファイターV』のアジア対抗戦「Asia Invitational 2019」で使用されています。

これらの他にもさまざまな形式で大会が開かれることはありますが、とりあえずは上記を押さえておけば、ほとんどの大会の形式を理解できるはずです。特に「ダブルエリミネーション方式」と「スイスドロー方式」「早稲田式」は他の競技であまり見られない割に、eスポーツイベントや大会で使用されることが多いので、把握しておいて損はないですよ。


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