【連載】岡安学の「eスポーツってなんだろう?」
eスポーツ・ゲーム中の「怒り」と向き合うための技術「アンガーマネジメント」とは?【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」 第8回】
- アスリート教育にも採用されている「アンガーマネジメント」
- 「怒り」の感情はどんな人にもあるもの
- 「怒り」と上手に付き合うための3つのコントロール
- eスポーツプレイヤーとして「怒り」と付き合うためには
- ネットで「怒る」ことのリスクを理解しよう
最近、eスポーツ選手、関係者による暴言や問題発言が多々発生しています。差別問題に対しての認識の甘さやいいかげんな知識などによって、発言が引き起こされることもありますが、それと同時に感情的になって衝動的に発してしまう事例も見受けられます。
衝動的に暴言を発してしまうときの感情は基本的に「怒り」で、その怒りをコントロールできない結果とも言えます。eスポーツは対人戦の競技種目のため、対戦相手もしくは味方となるチームメイトに対して怒りの感情を持ちやすくなっています。対戦相手や味方に対する暴言、応援しているチームやライバルチームへの暴言など、その状況は多様です。
自分自身がプレイヤーになったとき、あるいは観戦しているときに、eスポーツにおける「怒り」の感情をどのようにコントロールしていけばいいのか、問題発言をどうやったら減らすことができるのか。今回は「怒り」のコントロール方法の実践として近年注目を集めている、日本アンガーマネジメント協会の安藤俊介代表理事に聞いてきました。
そもそも「アンガーマネジメント」というものを知らない人が多いと思われるので、軽く説明しておきましょう。
アンガーマネジメントは、1970年代にアメリカで生まれた怒りの感情と上手に付き合うための心理教育、心理トレーニングの手法です。怒りを抑え込むのではなく、怒りの感情と上手に付き合えるようにトレーニングしていくものです。
「今年(2022年)に開催された冬期オリンピックの北京大会では、スノーボードハーフパイプの平野歩夢選手が、納得のいかない評価に対して怒りを覚えたと発言しています。しかし、その怒りのパワーを次の試技にうまく転換し、金メダルを決める好記録を出しています。人によってはふてくされてしまう状況でも、破壊的ではなく、建設的に怒っていこうという考えです」(安藤氏)
アンガーマネジメントは、怒りの感情をうまくコントロールできない人のための更正プログラムとして存在していましたが、現在はアスリートの教育プログラム等として発展しています。北米の4大プロスポーツのひとつであるNFL(アメリカンフットボールのプロリーグ)では、入団したてのルーキーに対してアンガーマネジメントの受講を義務化されていたこともあり、競技シーンでも重要視されているのです。
元々怒りやすい人に対して更正するだけでなく、その素養がある人に対しても重要だと言います。
「たとえば、車の運転をする時だけ感情があらわになり、性格が豹変する人をよく見かけます。同様に、ゲームをしている時だけ、態度や口が悪くなる人もいます。そういった人たちはゲームや車がトリガーとなっていますが、元々持っていた怒りなどが表に出てきただけです。その人がなにがきっかけで感情があらわになりがちなのかを確認することが、怒りと上手に付き合うために重要です」(安藤氏)
特にオンラインゲームは、相手が見えず互いに匿名でプレイするため、暴言を吐きやすい状況にあるわけですが、そもそもその人自身の中に暴言を吐く傾向がある、というわけです。
逆に考えると、普段は暴言を吐かずに感情をコントロールできているわけなので、怒りにハイジャックされなければ、オンライン対戦でも暴言を吐かずに済む可能性はあります。
怒りという感情は、野生動物が敵に対峙したときの行動のひとつであると言われています。その状況においては逃げるか戦うかしかなく、臨戦態勢に入るために怒りの感情は必要なものでもあるわけです。つまり、どんな温厚な人であっても怒りの感情はあり、それは生物学的には自然な感情と言えます。
では、その怒りをコントロールするにはどうしたらいいのでしょうか。
「怒りと上手に付き合うためには3つの大切なコントロールがあります。衝動のコントロール、思考のコントロール、行動のコントロールです。衝動のコントロールには、最近よく話題になるいわゆる『6秒ルール』が効果的です。怒りの感情があらわになりそうになったとき、心の中で6秒カウントすることで、落ち着きを取り戻せるというものです」(安藤氏)
衝動のコントロールにより、自分が何に対して怒りを覚えていたのかを確認できるようになると、怒りの感情をコントロールしやすくなります。
そのトリガーは一般的な侮蔑の言葉や煽りの行動だけでなく、その本人だけに引っかかるものもあります。例えば「お前、バカだな」と言われた場合、気の置けない親しい友人に上機嫌に飲みながら言われたら一緒に笑い飛ばすことはできるものの、シリアスな場面で会社の上司や取引先などに言われたら怒りを覚えるわけです。
つまり「お前、バカだな」という言葉自体には何の意味もなく、その言葉を言われた状況や、言われた相手によって感情が変わります。これを確認することで、どんな状況で誰にどんなことを言われたときに、怒りを発するのかを自覚できるようになるわけです。ゲームプレイで言えば、チームメイトやコーチに指摘されても怒りを覚えない場合でも、動画配信のリスナーからのコメントであれば激昂してしまうような感じです。
衝動のコントロールをするためのテクニックのひとつの方法として、「自分の怒りがどれくらいの感情なのか尺度をつけて数値などに置き換えていくのが効果的」と安藤さん。
「今はどれくらいの怒り度合いなのか、何度も繰り返していくうちにさまざまなシチュエーションの怒りの度合いが収集できるので、その後に相対的に比較していきます。
怒った瞬間は10段階のうち8くらいに思っていたけど、あとで落ち着いて考えてみると高すぎるから6にしようとか。数値をある程度決められたら、次にラベルを貼っていきます。度合い5は『イライラ』とか、度合い9は『激怒』、度合い3は『むかつく』とか。怒りには種類や度合いがあることを知ることも重要ですね」(安藤氏)
思考のコントロールはそれが本当に怒る必要のあることなのかどうかを判断します。
瞬間的にはイラッと怒りを感じたわけですが、6秒ルールで冷静さを少し取り戻したら、果たしてそれが本当に怒る必要のあることなのか、それとも許してもいいことなのかを判断するのです。
怒る必要があるのかどうかを判断するひとつの指標が、最高に機嫌がいい時に許せるかどうか。許せるのであれば、怒る必要はないものとし、許せないのであれば、そこは怒るべき場面であるというのがわかります。
なんでもかんでも怒りまくっていても人とうまく付き合うことはできないですし、すべての怒りを抑え込んで我慢するのもストレスが溜まり、他人からは「ここまでは許容範囲なんだ」と勘違いされてしまいます。譲らない部分をあらかじめ決めておくことで、無用な怒りに振り回されることがなくなります。
最後に、行動のコントロールです。これは、自分自身が行動することで、状況が変わるかどうかの判断をすること。つまり、できることとできないことを切り分けるというわけです。
自分自身でどうやっても変えることができないのに、怒りを感じる場面の代表として挙げられるのが「渋滞」です。
渋滞が起こるとイライラし、怒りの感情をまき散らしてしまいがちですが、渋滞という状況自体は怒ったところで何の解消にもならず、無意味な怒りとなります。天候などもそうです。
eスポーツに絡めてみれば、応援しているチームの勝敗もそう言えるかもしれません。ファンがどれだけ気を揉んでも(応援によって選手が勇気づけられるといったことはあっても)直接勝敗の結果を変えることは難しいでしょう。
このように、アンガーマネジメントによって怒りの感情をコントロールできるようになったとしても、怒りの感情がなくなるわけではなく、むしろなくす必要もないわけです。ただし、eスポーツやゲームの世界ではしばしば、過度な怒りの感情により暴言を吐いてしまい、炎上したり人間関係が崩壊してしまうことが出てきます。これらを避けるにはどうすればいいのでしょうか。
まず、「多様性を受け入れる」という考え方を持つことが大事だと、安藤氏は言います。
オンラインゲームなどでよく聞く暴言の中に、「差別発言」があります。差別というものは、「怒り」、「思い込み」、「無知」の3つから発生すると考えられます。
例えば、外国人に対する差別発言をした人の多くは、外国人との交流経験がほとんどなく、その人自身がなにも知らないために、「思い込み」で発言したり、「無知」からくる暴言につながったりします。
そもそも、自分の知らないことや理解の範疇外のことが世の中には多々あり、それらをすべて知り尽くすことは不可能。であれば、理解の範疇外のことは非難の対象とはせず、尊重することが最良であり、差別的な意識を薄めていくことになります。
怒りを表現し、相手に伝える時に、伝え方をよく考えておくことも大切です。
怒りに身を任せている時というのは、できるだけ相手が傷つくような言葉を選んでしまいがちです。しかし、本当にその言葉を言ってしまっていいのかを冷静になって考えられれば、暴言も少なくなるわけです。
また、「自分の怒りのトリガーとなる言葉や行動がどうしてもコントロールできないのであれば、その言葉や行動を見ないようにするしかない」と安藤氏は述べています。
たとえば、ゲームの配信中の辛辣なコメントにどうしても引っかかってしまうのであれば、コメント機能をオフにしたり、ストリーミング配信をやめて録画配信にするなど、いくつも手段はあります。
コメントを許容することがファンサービスになっているという事情もわかります。しかし、それによって自分が暴言を吐いてしまったり、最悪の場合、活動ができなくなってしまうよりはマシだと言えます。
ネット配信で怒りをあらわにすることは、大きなリスクを伴います。そのリスクを冒してまで怒る理由があるのか、よく考えてみた方がいいでしょう。
そして、それでもなお許せないことであれば、きっとその要因を作った人が責められ、怒ったあなたを支持してくれる人も大勢出てくるはずです。そうならないとしたら、あきらかに怒らなくてもいい場面で怒っているということなのかもしれません。
怒らないように指導したり、禁句を設けたところで、どこかでタガが外れてしまえば意味がありません。他人に期待するよりも、自分自身が怒りをコントロールできるようにすれば、いかなる場面でも対応できるようになるわけです。
「怒り」の感情に悩むeスポーツプレイヤーやチームの指導者も、「アンガーマネジメント」という手法を活用して、もう一度自分達の行動を見直してみることをオススメします。
日本アンガーマネジメント協会
https://www.angermanagement.co.jp/
衝動的に暴言を発してしまうときの感情は基本的に「怒り」で、その怒りをコントロールできない結果とも言えます。eスポーツは対人戦の競技種目のため、対戦相手もしくは味方となるチームメイトに対して怒りの感情を持ちやすくなっています。対戦相手や味方に対する暴言、応援しているチームやライバルチームへの暴言など、その状況は多様です。
自分自身がプレイヤーになったとき、あるいは観戦しているときに、eスポーツにおける「怒り」の感情をどのようにコントロールしていけばいいのか、問題発言をどうやったら減らすことができるのか。今回は「怒り」のコントロール方法の実践として近年注目を集めている、日本アンガーマネジメント協会の安藤俊介代表理事に聞いてきました。
日本アンガーマネジメント協会 代表理事 安藤俊介(あんどうしゅんすけ)
新潟産業大学客員教授。怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」の日本の第一人者。アンガーマネジメントの理論、技術をアメリカから導入し、教育現場から企業まで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどを行っている。ナショナルアンガーマネジメント協会では15 名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルにアジア人としてただ一人選ばれている。
主な著書に『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『アンガーマネジメントを始めよう』(大和書房)等がある。著作はアメリカ、中国、台湾、韓国、タイ、ベトナムでも翻訳され累計 70万部を超える。最新刊は『タイプ別 怒れない私のためのきちんと怒る練習帳』(CCCメディアハウス)
新潟産業大学客員教授。怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」の日本の第一人者。アンガーマネジメントの理論、技術をアメリカから導入し、教育現場から企業まで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどを行っている。ナショナルアンガーマネジメント協会では15 名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルにアジア人としてただ一人選ばれている。
主な著書に『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『アンガーマネジメントを始めよう』(大和書房)等がある。著作はアメリカ、中国、台湾、韓国、タイ、ベトナムでも翻訳され累計 70万部を超える。最新刊は『タイプ別 怒れない私のためのきちんと怒る練習帳』(CCCメディアハウス)
アスリート教育にも採用されている「アンガーマネジメント」
そもそも「アンガーマネジメント」というものを知らない人が多いと思われるので、軽く説明しておきましょう。
アンガーマネジメントは、1970年代にアメリカで生まれた怒りの感情と上手に付き合うための心理教育、心理トレーニングの手法です。怒りを抑え込むのではなく、怒りの感情と上手に付き合えるようにトレーニングしていくものです。
「今年(2022年)に開催された冬期オリンピックの北京大会では、スノーボードハーフパイプの平野歩夢選手が、納得のいかない評価に対して怒りを覚えたと発言しています。しかし、その怒りのパワーを次の試技にうまく転換し、金メダルを決める好記録を出しています。人によってはふてくされてしまう状況でも、破壊的ではなく、建設的に怒っていこうという考えです」(安藤氏)
アンガーマネジメントは、怒りの感情をうまくコントロールできない人のための更正プログラムとして存在していましたが、現在はアスリートの教育プログラム等として発展しています。北米の4大プロスポーツのひとつであるNFL(アメリカンフットボールのプロリーグ)では、入団したてのルーキーに対してアンガーマネジメントの受講を義務化されていたこともあり、競技シーンでも重要視されているのです。
「怒り」の感情はどんな人にもあるもの
元々怒りやすい人に対して更正するだけでなく、その素養がある人に対しても重要だと言います。
「たとえば、車の運転をする時だけ感情があらわになり、性格が豹変する人をよく見かけます。同様に、ゲームをしている時だけ、態度や口が悪くなる人もいます。そういった人たちはゲームや車がトリガーとなっていますが、元々持っていた怒りなどが表に出てきただけです。その人がなにがきっかけで感情があらわになりがちなのかを確認することが、怒りと上手に付き合うために重要です」(安藤氏)
特にオンラインゲームは、相手が見えず互いに匿名でプレイするため、暴言を吐きやすい状況にあるわけですが、そもそもその人自身の中に暴言を吐く傾向がある、というわけです。
逆に考えると、普段は暴言を吐かずに感情をコントロールできているわけなので、怒りにハイジャックされなければ、オンライン対戦でも暴言を吐かずに済む可能性はあります。
怒りという感情は、野生動物が敵に対峙したときの行動のひとつであると言われています。その状況においては逃げるか戦うかしかなく、臨戦態勢に入るために怒りの感情は必要なものでもあるわけです。つまり、どんな温厚な人であっても怒りの感情はあり、それは生物学的には自然な感情と言えます。
「怒りのタイプ」を6タイプの動物で診断してくれる「アンガーマネジメント診断」
日本アンガーマネジメント協会のサイトでは、簡単な質問に答えるだけで、自分の怒りの特徴や課題を親しみやすい6つの動物キャラクターで示してくれる「アンガーマネジメント診断」が公開中。自分自身の怒りの傾向を知ることで、他者ともっと上手に付き合うことができるようになります。
無料アンガーマネジメント診断
日本アンガーマネジメント協会のサイトでは、簡単な質問に答えるだけで、自分の怒りの特徴や課題を親しみやすい6つの動物キャラクターで示してくれる「アンガーマネジメント診断」が公開中。自分自身の怒りの傾向を知ることで、他者ともっと上手に付き合うことができるようになります。
無料アンガーマネジメント診断
「怒り」と上手に付き合うための3つのコントロール
では、その怒りをコントロールするにはどうしたらいいのでしょうか。
「怒りと上手に付き合うためには3つの大切なコントロールがあります。衝動のコントロール、思考のコントロール、行動のコントロールです。衝動のコントロールには、最近よく話題になるいわゆる『6秒ルール』が効果的です。怒りの感情があらわになりそうになったとき、心の中で6秒カウントすることで、落ち着きを取り戻せるというものです」(安藤氏)
衝動のコントロール
衝動のコントロールにより、自分が何に対して怒りを覚えていたのかを確認できるようになると、怒りの感情をコントロールしやすくなります。
そのトリガーは一般的な侮蔑の言葉や煽りの行動だけでなく、その本人だけに引っかかるものもあります。例えば「お前、バカだな」と言われた場合、気の置けない親しい友人に上機嫌に飲みながら言われたら一緒に笑い飛ばすことはできるものの、シリアスな場面で会社の上司や取引先などに言われたら怒りを覚えるわけです。
つまり「お前、バカだな」という言葉自体には何の意味もなく、その言葉を言われた状況や、言われた相手によって感情が変わります。これを確認することで、どんな状況で誰にどんなことを言われたときに、怒りを発するのかを自覚できるようになるわけです。ゲームプレイで言えば、チームメイトやコーチに指摘されても怒りを覚えない場合でも、動画配信のリスナーからのコメントであれば激昂してしまうような感じです。
衝動のコントロールをするためのテクニックのひとつの方法として、「自分の怒りがどれくらいの感情なのか尺度をつけて数値などに置き換えていくのが効果的」と安藤さん。
「今はどれくらいの怒り度合いなのか、何度も繰り返していくうちにさまざまなシチュエーションの怒りの度合いが収集できるので、その後に相対的に比較していきます。
怒った瞬間は10段階のうち8くらいに思っていたけど、あとで落ち着いて考えてみると高すぎるから6にしようとか。数値をある程度決められたら、次にラベルを貼っていきます。度合い5は『イライラ』とか、度合い9は『激怒』、度合い3は『むかつく』とか。怒りには種類や度合いがあることを知ることも重要ですね」(安藤氏)
思考のコントロール
思考のコントロールはそれが本当に怒る必要のあることなのかどうかを判断します。
瞬間的にはイラッと怒りを感じたわけですが、6秒ルールで冷静さを少し取り戻したら、果たしてそれが本当に怒る必要のあることなのか、それとも許してもいいことなのかを判断するのです。
怒る必要があるのかどうかを判断するひとつの指標が、最高に機嫌がいい時に許せるかどうか。許せるのであれば、怒る必要はないものとし、許せないのであれば、そこは怒るべき場面であるというのがわかります。
なんでもかんでも怒りまくっていても人とうまく付き合うことはできないですし、すべての怒りを抑え込んで我慢するのもストレスが溜まり、他人からは「ここまでは許容範囲なんだ」と勘違いされてしまいます。譲らない部分をあらかじめ決めておくことで、無用な怒りに振り回されることがなくなります。
行動のコントロール
最後に、行動のコントロールです。これは、自分自身が行動することで、状況が変わるかどうかの判断をすること。つまり、できることとできないことを切り分けるというわけです。
自分自身でどうやっても変えることができないのに、怒りを感じる場面の代表として挙げられるのが「渋滞」です。
渋滞が起こるとイライラし、怒りの感情をまき散らしてしまいがちですが、渋滞という状況自体は怒ったところで何の解消にもならず、無意味な怒りとなります。天候などもそうです。
eスポーツに絡めてみれば、応援しているチームの勝敗もそう言えるかもしれません。ファンがどれだけ気を揉んでも(応援によって選手が勇気づけられるといったことはあっても)直接勝敗の結果を変えることは難しいでしょう。
eスポーツプレイヤーとして「怒り」と付き合うためには
このように、アンガーマネジメントによって怒りの感情をコントロールできるようになったとしても、怒りの感情がなくなるわけではなく、むしろなくす必要もないわけです。ただし、eスポーツやゲームの世界ではしばしば、過度な怒りの感情により暴言を吐いてしまい、炎上したり人間関係が崩壊してしまうことが出てきます。これらを避けるにはどうすればいいのでしょうか。
多様性を受け入れる・尊重する
まず、「多様性を受け入れる」という考え方を持つことが大事だと、安藤氏は言います。
オンラインゲームなどでよく聞く暴言の中に、「差別発言」があります。差別というものは、「怒り」、「思い込み」、「無知」の3つから発生すると考えられます。
例えば、外国人に対する差別発言をした人の多くは、外国人との交流経験がほとんどなく、その人自身がなにも知らないために、「思い込み」で発言したり、「無知」からくる暴言につながったりします。
そもそも、自分の知らないことや理解の範疇外のことが世の中には多々あり、それらをすべて知り尽くすことは不可能。であれば、理解の範疇外のことは非難の対象とはせず、尊重することが最良であり、差別的な意識を薄めていくことになります。
伝え方に注意する
怒りを表現し、相手に伝える時に、伝え方をよく考えておくことも大切です。
怒りに身を任せている時というのは、できるだけ相手が傷つくような言葉を選んでしまいがちです。しかし、本当にその言葉を言ってしまっていいのかを冷静になって考えられれば、暴言も少なくなるわけです。
怒りのトリガーとなるものから距離を置く
また、「自分の怒りのトリガーとなる言葉や行動がどうしてもコントロールできないのであれば、その言葉や行動を見ないようにするしかない」と安藤氏は述べています。
たとえば、ゲームの配信中の辛辣なコメントにどうしても引っかかってしまうのであれば、コメント機能をオフにしたり、ストリーミング配信をやめて録画配信にするなど、いくつも手段はあります。
コメントを許容することがファンサービスになっているという事情もわかります。しかし、それによって自分が暴言を吐いてしまったり、最悪の場合、活動ができなくなってしまうよりはマシだと言えます。
ネットで「怒る」ことのリスクを理解しよう
ネット配信で怒りをあらわにすることは、大きなリスクを伴います。そのリスクを冒してまで怒る理由があるのか、よく考えてみた方がいいでしょう。
そして、それでもなお許せないことであれば、きっとその要因を作った人が責められ、怒ったあなたを支持してくれる人も大勢出てくるはずです。そうならないとしたら、あきらかに怒らなくてもいい場面で怒っているということなのかもしれません。
怒らないように指導したり、禁句を設けたところで、どこかでタガが外れてしまえば意味がありません。他人に期待するよりも、自分自身が怒りをコントロールできるようにすれば、いかなる場面でも対応できるようになるわけです。
「怒り」の感情に悩むeスポーツプレイヤーやチームの指導者も、「アンガーマネジメント」という手法を活用して、もう一度自分達の行動を見直してみることをオススメします。
日本アンガーマネジメント協会
https://www.angermanagement.co.jp/
【連載】岡安学の「eスポーツってなんだろう?」
- 『モンスターストライク』の競技性【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」 第1回】
- eスポーツはオリンピック競技になり得るのか【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」第2回】
- わかりにくいeスポーツ大会のトーナメント&リーグ方式【岡安学のeスポーツってなんだろう? 第3回】
- 企業がeスポーツに注力する理由の変化 【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」 第4回】
- eスポーツで強くなるには「課金」が必要!? 【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」 第5回】
- 日本のeスポーツと「高額賞金問題」の法的課題 〜eスポーツと法律【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」第6回 前編】
- 日本のeスポーツと「大会・施設運営」の法的課題 〜eスポーツと法律【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」第6回 中編】
- 日本のeスポーツと「著作権・IP」の法的課題 〜eスポーツと法律【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」第6回 後編】
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- eスポーツ・ゲーム中の「怒り」と向き合うための技術「アンガーマネジメント」とは?【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」 第8回】
- ゲーム配信中のプロゲーマーの失言や暴言をどう防ぐか【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」 第9回】
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