【連載】岡安学の「eスポーツってなんだろう?」
日本のeスポーツと「大会・施設運営」の法的課題 〜eスポーツと法律【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」第6回 中編】
eスポーツにまつわる法律関係の経緯を振り返り、「何ができて、何ができないのか」を前・中・後編にわたって再確認していくコラム。中編では、eスポーツ大会やeスポーツ施設をゲームセンターとして扱う「風俗営業適正化法」の解釈について、です。
引き続き、法律の解釈については、eスポーツの法律問題に詳しい西村あさひ法律事務所の松本祐揮弁護士に監修をお願いしております。
続いて取り上げるeスポーツに関わる法律は、「風俗営業適正化法」です。これはeスポーツの賞金問題と大会運営、eスポーツ施設運営の3つに関わっています。
「風俗営業適正化法は1984年に法律が制定され、ゲームセンターの営業が『許可営業』になりました。これにより、ゲームセンターでは結果に応じた賞金・賞品の提供ができなくなりました。また、短期間の営業であっても、『ゲームセンター営業』にあたる場合は営業許可をとる必要が出てきました」(松本弁護士)
ゲームセンターと風俗営業適正化法というと、深夜営業が認められなくなったり、年齢によって在店時間が制限されたりすることで周知されています。
それ以外に松本弁護士が語っているように、大会での賞金・賞品提供を「戦績」に応じたものにすることができなくなっています。何かしらの賞金・賞品を出すのであれば、参加賞として全員に配ったり、“クジ”や“じゃんけん”など、大会の結果とは別の結果を用いたりして、提供基準を設けなくてはなりません。
ここがeスポーツ大会に関わる部分で、ゲームセンターの施設を使わなかったとしても、参加費をとって大会を開く際には「ゲームセンター」と見なされることとなり、風俗営業適正化法の対象として大会ごとに「ゲームセンターの営業許可」が必要となってきます。
「たとえば大型イベントホールで参加費を徴収して3日間大会を開いた場合、大会参加者は『利用客』として扱われるため、その3日間のためにイベントホールを『ゲームセンター』として営業する許可をとる必要が出てくる可能性があります。実際に許可を取るためには、会場の図面や照明の明るさ、席の配置など細かい点もすべて網羅したものを提出する必要があります。2~3日のイベントのためにその申請を行うのは現実的ではないですし、大会開催の大きな足かせになっていました」(松本弁護士)
実際に、2018年に池袋で開催された「EVO Japan」は、こういった事情から参加費を取らずに開催していたと考えられます。また、3日間のうち2日間は池袋サンシャインシティ文化会館で、最終日は秋葉原UDXで行ったのも、風俗営業適正化法に抵触しないための措置であったと聞いたことがあります。
そこで、「ゲームセンター営業と定義されるゲーム機」についての範囲を絞ることが検討されてきました。
ゲームセンターのゲーム機の定義は、風俗営業適正化法だと結構ざっくりしたのもので、本来であればブラウン管のモニターにゲーム機が接続してあり、遊技の結果が表示されるものを指します。広義に解釈すると、パソコンもスマートフォンもタブレットもそれに含まれると考えられ、ネットカフェのPCもゲーム機にあたり、ゲームセンターとみなされて深夜営業ができなくなるのではないかという懸念がありました。
この点について松本弁護士によれば、「JeSUが2020年の段階で警察庁と確認を取り合い、いわゆるゲーム機として認知されているもの以外はゲーム機という定義から外すことが確認された」と言います。なので、PCやスマートフォン、タブレットなどはゲームが目的だとしても、あくまでもゲームはさまざまな機能のひとつであり、ゲーム機ではないという見解となっています。
その一方で、プレイステーション4やNintendo Switchなどの最新ゲーム機に関しては、サブスクライブの動画配信や音楽配信といったさまざまなことができるマルチメディアマシンだとしても「基本はゲーム機である」という認識から、これらを設置した施設は風俗営業適正化法としてはゲームセンターにあたると見られています。
「参加料徴収型の大会をゲームセンター営業から除外するという取り組みは、参加者がゲーム機を持ち寄って、みんなで大会運営費を負担して大会に参加するというのは、実態として考えた時に『ゲームセンター営業』ではないですよね、というところから始まっています。あくまで大会を運営するのにかかる費用を分担するということであれば、これは営業ではないと警察庁は判断しているようです」(松本弁護士)
この見解により、ゲームセンターに該当しないeスポーツ施設では、参加費徴収型大会の開催が事実上可能となりました。そして、JeSUが「参加料徴収型大会ガイドライン」を制定し、2020年9月に「東京ゲームショウ2020」にて発表しています。
このガイドラインの中では、「参加料を徴収するオフライン大会を実施する場合、風俗営業適正化法の適用を受けないためにJeSUの認証を受けることが望ましい」とされています。
ただしこれは、JeSUが大会運営をとりしきるというよりは、包括的にJeSUが管理することで、参加費徴収型大会の開催を警察庁に正面から認めてもらう手段となり、悪用を防ぐ目的があるようです。
残る課題は「大会ではなく常設施設の位置づけ」だと松本弁護士は説明しています。前述したプレイステーション4やNintedo Switchなどのゲーム機を使用した大会が、「ゲームセンター営業」と見なされてしまう点です。
昨今はモバイルゲーム機が拡大していますが、それでもゲーム機を使ってプレイしている人は多く、それらを設置した店舗でeスポーツの練習や体験を行えるような制度作りにも取り組んでいると、松本弁護士も語っています。
「ゲーム機を使った施設営業を『ゲームセンター営業の例外』として扱ってもらえるかどうか、検討していただいています。例えば、カリキュラムがちゃんとあって来場者のゲームの腕前が上がっていることが分かれば、『塾』のような営業形態として実施できるのではないかと思っています。
現在、JeSUからもこうしたかたちでパイロット事業が開始されることがリリースされていますが、そこで問題がなければガイドラインを制定し、それに沿った形で運営できるようになります。そして、将来的にはゲーム機を使った施設運営も、ゲームセンター営業の許可を取ることなく可能になると考えています」(松本弁護士)。
さらに、刑法賭博罪についても大きく関わってきます。
参加費を集め、それを賞金にあてることは刑法賭博罪に抵触します。なので海外で行われている大会、例えば北米ラスベガスで開催されている「Evolution(EVO)」のようなやり方では、日本では開催できません。そのため、「EVO Japan」では参加費は無料とし、スポンサーやIPホルダーが賞金を用意していました。この場合、運営費もスポンサーやIPホルダーの負担になってしまいます。
しかし前述の「参加料徴収型大会ガイドライン」にあるように、JeSUの働きかけによって、現在は運営にあたる費用を参加費でまかない、賞金はスポンサーやIPホルダーから出資することも可能になったわけです。
ただ、ここで問題となってくるのが、参加費と運営費、スポンサー料について、現実的には境目がないことです。
仮に参加費を賞金にあてたとしても、経理上で参加費を運営費、賞金はスポンサーや第三者による提供だということにして、運営者は運営費から労働の報酬を払ったことにすることもできます。
もっと具体的に言うと、個人で大会運営をした人が賞金5万円を出し、参加費5万円を運営費にあてる。運営費は人件費しかかからないので運営費から5万円を運営者に報酬として払うことになります。このようなケースではお金が3者の中で動き、流れが不透明になるので、参加費が賞金になっていることとと等しくなってしまいます。こうなると刑法賭博罪に抵触する可能性があります。
「これに似たケースとしては、ゴルフのシステムを参考にさせていただいています。ゴルフのツアーは参加者がエントリーフィーを払って参加しており、賞金は参加者とは関係のない企業がスポンサーとなって払っています」(松本弁護士)
ゴルフの参加費が賞金にあてられて賭博罪とならないのは、運営している日本ゴルフ協会がしっかり管理をしているからで、悪用の恐れがないことが要因となっているわけです。
同様に、eスポーツ大会が賭博罪とみなされるか否かについては、いかに日本でEVO型の賞金制大会、つまり参加料分配の賞金大会ができるかどうかです。
ちなみに、この参加料分配については、「賭博には当たらない可能性がある」という整理が可能だという学説も出てきており、より深めていくことが課題となります。
引き続き、法律の解釈については、eスポーツの法律問題に詳しい西村あさひ法律事務所の松本祐揮弁護士に監修をお願いしております。
松本祐輝 弁護士
西村あさひ法律事務所に所属し、eスポーツの法規制に関する取り組みをはじめとして、eスポーツに精通し、案件を多く扱っている。
西村あさひ法律事務所に所属し、eスポーツの法規制に関する取り組みをはじめとして、eスポーツに精通し、案件を多く扱っている。
eスポーツ大会を開催するにはゲームセンター同様の営業許可が必要!?
続いて取り上げるeスポーツに関わる法律は、「風俗営業適正化法」です。これはeスポーツの賞金問題と大会運営、eスポーツ施設運営の3つに関わっています。
「風俗営業適正化法は1984年に法律が制定され、ゲームセンターの営業が『許可営業』になりました。これにより、ゲームセンターでは結果に応じた賞金・賞品の提供ができなくなりました。また、短期間の営業であっても、『ゲームセンター営業』にあたる場合は営業許可をとる必要が出てきました」(松本弁護士)
ゲームセンターと風俗営業適正化法というと、深夜営業が認められなくなったり、年齢によって在店時間が制限されたりすることで周知されています。
それ以外に松本弁護士が語っているように、大会での賞金・賞品提供を「戦績」に応じたものにすることができなくなっています。何かしらの賞金・賞品を出すのであれば、参加賞として全員に配ったり、“クジ”や“じゃんけん”など、大会の結果とは別の結果を用いたりして、提供基準を設けなくてはなりません。
ここがeスポーツ大会に関わる部分で、ゲームセンターの施設を使わなかったとしても、参加費をとって大会を開く際には「ゲームセンター」と見なされることとなり、風俗営業適正化法の対象として大会ごとに「ゲームセンターの営業許可」が必要となってきます。
「たとえば大型イベントホールで参加費を徴収して3日間大会を開いた場合、大会参加者は『利用客』として扱われるため、その3日間のためにイベントホールを『ゲームセンター』として営業する許可をとる必要が出てくる可能性があります。実際に許可を取るためには、会場の図面や照明の明るさ、席の配置など細かい点もすべて網羅したものを提出する必要があります。2~3日のイベントのためにその申請を行うのは現実的ではないですし、大会開催の大きな足かせになっていました」(松本弁護士)
実際に、2018年に池袋で開催された「EVO Japan」は、こういった事情から参加費を取らずに開催していたと考えられます。また、3日間のうち2日間は池袋サンシャインシティ文化会館で、最終日は秋葉原UDXで行ったのも、風俗営業適正化法に抵触しないための措置であったと聞いたことがあります。
PC、スマホ、タブレットでのeスポーツ大会はゲームセンター扱いにならない
そこで、「ゲームセンター営業と定義されるゲーム機」についての範囲を絞ることが検討されてきました。
ゲームセンターのゲーム機の定義は、風俗営業適正化法だと結構ざっくりしたのもので、本来であればブラウン管のモニターにゲーム機が接続してあり、遊技の結果が表示されるものを指します。広義に解釈すると、パソコンもスマートフォンもタブレットもそれに含まれると考えられ、ネットカフェのPCもゲーム機にあたり、ゲームセンターとみなされて深夜営業ができなくなるのではないかという懸念がありました。
この点について松本弁護士によれば、「JeSUが2020年の段階で警察庁と確認を取り合い、いわゆるゲーム機として認知されているもの以外はゲーム機という定義から外すことが確認された」と言います。なので、PCやスマートフォン、タブレットなどはゲームが目的だとしても、あくまでもゲームはさまざまな機能のひとつであり、ゲーム機ではないという見解となっています。
家庭用ゲーム機を使ったeスポーツ大会は「ゲームセンター営業」とみなされる
その一方で、プレイステーション4やNintendo Switchなどの最新ゲーム機に関しては、サブスクライブの動画配信や音楽配信といったさまざまなことができるマルチメディアマシンだとしても「基本はゲーム機である」という認識から、これらを設置した施設は風俗営業適正化法としてはゲームセンターにあたると見られています。
「参加料徴収型の大会をゲームセンター営業から除外するという取り組みは、参加者がゲーム機を持ち寄って、みんなで大会運営費を負担して大会に参加するというのは、実態として考えた時に『ゲームセンター営業』ではないですよね、というところから始まっています。あくまで大会を運営するのにかかる費用を分担するということであれば、これは営業ではないと警察庁は判断しているようです」(松本弁護士)
この見解により、ゲームセンターに該当しないeスポーツ施設では、参加費徴収型大会の開催が事実上可能となりました。そして、JeSUが「参加料徴収型大会ガイドライン」を制定し、2020年9月に「東京ゲームショウ2020」にて発表しています。
このガイドラインの中では、「参加料を徴収するオフライン大会を実施する場合、風俗営業適正化法の適用を受けないためにJeSUの認証を受けることが望ましい」とされています。
ただしこれは、JeSUが大会運営をとりしきるというよりは、包括的にJeSUが管理することで、参加費徴収型大会の開催を警察庁に正面から認めてもらう手段となり、悪用を防ぐ目的があるようです。
ゲーム機常設施設の「ゲームセンター営業の例外化」は今後の課題
残る課題は「大会ではなく常設施設の位置づけ」だと松本弁護士は説明しています。前述したプレイステーション4やNintedo Switchなどのゲーム機を使用した大会が、「ゲームセンター営業」と見なされてしまう点です。
昨今はモバイルゲーム機が拡大していますが、それでもゲーム機を使ってプレイしている人は多く、それらを設置した店舗でeスポーツの練習や体験を行えるような制度作りにも取り組んでいると、松本弁護士も語っています。
「ゲーム機を使った施設営業を『ゲームセンター営業の例外』として扱ってもらえるかどうか、検討していただいています。例えば、カリキュラムがちゃんとあって来場者のゲームの腕前が上がっていることが分かれば、『塾』のような営業形態として実施できるのではないかと思っています。
現在、JeSUからもこうしたかたちでパイロット事業が開始されることがリリースされていますが、そこで問題がなければガイドラインを制定し、それに沿った形で運営できるようになります。そして、将来的にはゲーム機を使った施設運営も、ゲームセンター営業の許可を取ることなく可能になると考えています」(松本弁護士)。
日本では参加費を賞金にすると「刑法賭博罪」に該当? 新解釈も
さらに、刑法賭博罪についても大きく関わってきます。
参加費を集め、それを賞金にあてることは刑法賭博罪に抵触します。なので海外で行われている大会、例えば北米ラスベガスで開催されている「Evolution(EVO)」のようなやり方では、日本では開催できません。そのため、「EVO Japan」では参加費は無料とし、スポンサーやIPホルダーが賞金を用意していました。この場合、運営費もスポンサーやIPホルダーの負担になってしまいます。
しかし前述の「参加料徴収型大会ガイドライン」にあるように、JeSUの働きかけによって、現在は運営にあたる費用を参加費でまかない、賞金はスポンサーやIPホルダーから出資することも可能になったわけです。
ただ、ここで問題となってくるのが、参加費と運営費、スポンサー料について、現実的には境目がないことです。
仮に参加費を賞金にあてたとしても、経理上で参加費を運営費、賞金はスポンサーや第三者による提供だということにして、運営者は運営費から労働の報酬を払ったことにすることもできます。
もっと具体的に言うと、個人で大会運営をした人が賞金5万円を出し、参加費5万円を運営費にあてる。運営費は人件費しかかからないので運営費から5万円を運営者に報酬として払うことになります。このようなケースではお金が3者の中で動き、流れが不透明になるので、参加費が賞金になっていることとと等しくなってしまいます。こうなると刑法賭博罪に抵触する可能性があります。
「これに似たケースとしては、ゴルフのシステムを参考にさせていただいています。ゴルフのツアーは参加者がエントリーフィーを払って参加しており、賞金は参加者とは関係のない企業がスポンサーとなって払っています」(松本弁護士)
ゴルフの参加費が賞金にあてられて賭博罪とならないのは、運営している日本ゴルフ協会がしっかり管理をしているからで、悪用の恐れがないことが要因となっているわけです。
同様に、eスポーツ大会が賭博罪とみなされるか否かについては、いかに日本でEVO型の賞金制大会、つまり参加料分配の賞金大会ができるかどうかです。
ちなみに、この参加料分配については、「賭博には当たらない可能性がある」という整理が可能だという学説も出てきており、より深めていくことが課題となります。
【連載】岡安学の「eスポーツってなんだろう?」
- 『モンスターストライク』の競技性【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」 第1回】
- eスポーツはオリンピック競技になり得るのか【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」第2回】
- わかりにくいeスポーツ大会のトーナメント&リーグ方式【岡安学のeスポーツってなんだろう? 第3回】
- 企業がeスポーツに注力する理由の変化 【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」 第4回】
- eスポーツで強くなるには「課金」が必要!? 【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」 第5回】
- 日本のeスポーツと「高額賞金問題」の法的課題 〜eスポーツと法律【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」第6回 前編】
- 日本のeスポーツと「大会・施設運営」の法的課題 〜eスポーツと法律【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」第6回 中編】
- 日本のeスポーツと「著作権・IP」の法的課題 〜eスポーツと法律【岡安学の「eスポーツってなんだろう?」第6回 後編】
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