【特集】eスポーツの闇

Switchは無事、スマホだけ不利 ── 『ポケモンユナイト』世界大会を揺るがした設備トラブルの全貌

2025.8.28 宮下英之
2025年8月15日(金)〜17日(日)にかけてアメリカ・アナハイムで行われたポケモンゲームの世界大会「ポケモンワールドチャンピオンシップス 2025」(PWCS2025)『ポケモンユナイト』部門において、大会の設備トラブルに起因すると思われる、スマートフォンの使用に関する直前の方針変更により、一部のスマートフォン選手が主催者提供のスマートフォンを強制的に使用させられる事態が発生した。

この件について、『ポケモンユナイト』の公式サイトにて、2026年の「WCS」ではスマートフォンの扱いについて以下のように見直すことが発表された。
  • すべての参加選手は、運営チームが提供する端末を使用して競技に参加する
  • スマートフォンで競技を行う選手には、最適なプレイ環境を実現するため、十分なスペックを備えた端末を提供する
  • 提供される端末の詳細情報は、2026年WCS開催の75日前までに確定・公開する


なぜこのようなトラブルが起きたのか、その後の対応の何が問題だったのか、あらためて整理してみたい。


発端はTALONのネット接続トラブル


最初にトラブルが起きたのは、「PWCS2025」『ポケモンユナイト』部門のDAY1。フィリピンのチーム、TALONのDylan選手が接続に関するトラブルに見舞われた。ここからはKyy選手のXのポストに沿って見ていこう。


Dylan選手はiPhone 16を使用していたが、LANケーブル(USB-C接続)が少しふれるだけでネット接続が途切れてしまうほど安定しなかった。スマートフォンの不具合を疑い、チームスタッフから借りた別のiPhone 16を試しても解決できなかったという。

その後も対応を続けたが改善されず、最終的に主催者側が用意した予備のスマートフォンを使用するように指示された。しかし、このスマートフォンではトラブルは起きなかったものの、画面のリフレッシュレートが平均30fps程度しか出ず、初期設定等を行う時間も与えられないまま試合となり、そのまま敗北した。iPhone 16と比べてスペックが劣っており、選手にとって実力を発揮できないことは明らかだった。

DAY2には、TALON vs Nouns Esportsの試合において、今度はKyy選手のスマートフォンのネットワークが試合途中(8分50秒頃)に突然途切れるトラブルが発生。30分以上解決できず、Kyy選手も予備のスマートフォンに交換することとなった上に、ゲームの進行が滞ってしまったことから、ルールによりNounsがそのままそのゲームに勝利する形に。結果的に2ゲーム目も敗北となった。

Kyy選手によれば、サブステージでの試合中は自分たちのiPhone16でも問題はなく、メインステージでの試合のみトラブルが発生したことから、LANケーブルもしくは回線トラブルが原因だと予想している。しかし、主催者から原因に関する説明はなく、TALONの敗北とされてしまった。

ちなみに、『ポケモンユナイト』部門ではスマートフォン以外に、Nintendo Switchでのプレーも可能だが、今回トラブルが起きたのはスマートフォンのみ。そのため、スマートフォンユーザーのみが不利益を被る形となった。

DAY2の日本語公式配信の中でも、会場で起きたトラブルにより配信が一時中断する場面も


メインステージのすべての試合が主催者側のスマートフォンに


問題はさらに続いた。

TALONのトラブルを受けて、主催者は他のチームに関してもメインステージでは選手自身のスマートフォンではなく、予備のスマートフォンでの試合を行うと決定。選手側は使い慣れておりカスタマイズなども施している自分たちのスマートフォンが使えないことに反発し、主催者側スタッフの中にも反対してくれた人もいたというが、最終的には覆らず、スマートフォンユーザーの選手だけが初めてふれる機材の使用を余儀なくされた。


しかしより大きな問題は、サブステージではそのまま自前のスマートフォンを使用できたという点だ。

DAY3はメインステージとサブステージで並行して試合が行われていたが、スマホユーザーにとっては当然メインステージの方が不利になる。しかし、そんな状態のまま決勝が終わるまで試合が進行してしまった。中には、5人全員がスマホユーザーだったタイのHi5のように、メインステージで初めてさわるスマートフォンを使わざるをえなかったチームもあった。



ルール通りの対応ではあるが、主催者の配慮不足が露呈


今回のトラブルの根本的な原因は公表されていないが、TALONの例やその他の選手のコメントから、おそらくスマートフォンに接続するLANケーブル、ネットワーク回線などの複合的な要因だと考えられる。これ自体はどんな大会でも偶発的に起きる可能性はあるだろう。

また、主催者のスマートフォンを使用したことについては、「PWCS2025」の出場者に向けた大会公式ルール(Pokemon Unite Championships。英語)を見てみると、回線や端末のトラブルが起きた際に、主催者側が用意した予備のハードウェアを使うということは明記されている。

https://www.pokemon.com/static-assets/content-assets/cms2/pdf/play-pokemon/rules/pokemon-unite-official-rules-en.pdf

問題は、主催者の貸し出したスマートフォンが低スペックであり、事前にチェック・セッティングできなかったこと。少なくとも選手が用意したスマートフォンと同等の性能を発揮できるスマートフォンを、すべてのスマートフォンユーザーに統一して提供しなければ公平とは言えないだろう。

また、運用面ではたまたま試合をする会場によって、有利不利が生まれてしまったこと。偶然選ばれた会場によって使えるスマートフォンが変わるとなれば、選手たちが不満に思うのも当然のことだ。日本代表チームの多くもその影響を受けている。

特に、今大会は世界一を決める公式大会であり、優勝賞金10万ドル(1500万円)という高額賞金もかかっている。そのような大会で公平性が保たれなければ、選手にもファンにも納得がいかないだろう。選手や関係者の中から、主催者に対してしっかり抗議を送ろうというSNS上での呼びかけなども行われ、大会終了後も事態は大きくなっていった。

主催者にとっても、世界から集まってきている選手の帰国予定などもあり、定められた大会スケジュールを守るために致し方なかったという面もあっただろう。ただ、取るべき選択肢を誤ったというのが、今回の問題の本質とも言える。


スマホとSwitchのクロスプレーを許容する世界大会のジレンマ


今回の問題をあらためて整理してみると、

  1. ケーブルやネット回線のトラブルなど、当日起こりうるトラブルの想定が甘く、対処できなかったこと
  2. 緊急時のために用意していたスマートフォンが、選手が世界大会を戦うに足る性能ではなかったこと
  3. 大会の会場によって使えるスマートフォンが変わるという、公平性を欠いた運営を続けてしまったこと
という3つの問題が連鎖的に起きた結果、主催者が対応を誤ってしまった。すでに決まっているスケジュールになんとか収めるために努力した結果ではあるが、準備もその後の対応も厳しい結果だった。

ネットの声の中には、優勝したPERU UNITEにも3名のスマホプレーヤーがいたという指摘もあった。しかし、彼らは決勝の舞台で実力を発揮するために頑張った結果勝っただけであり、だからといって低スペックなスマホを使わされたことを肯定していいわけではない。

日々練習を積み重ね、使いやすいようにカスタマイズもされているスマートフォンから、いきなり全く異なるスマートフォンを渡されて本来の力を発揮できなかったとして、その責任を選手に押し付けるのは乱暴だ。

また、『ポケモンユナイト』はSwitchとスマートフォンの両方で世界大会に参加できるという、稀有なタイトルでもある。デバイスの有利不利ではなく、慣れ親しんだ操作での参加を保証することも大変な労力であることも想像できる。

今大会は、そもそもの設備トラブルと、その後の運用の両方で大きな課題を残す結果となった。しかし、今回のようなトラブルはどんなeスポーツ大会でも起こりうる。これを「PWCS2025」だけのものとせず、eスポーツ業界全体として現場で戦っている選手たちが納得できるような明確なルールを設定し、トラブルの予測と対処に加えて、主催者からの納得のいく説明もしっかり行う必要があるだろう。

2026年の「ポケモンユナイトワールドチャンピンシップス」が、今回の教訓を生かしてさらにいい大会となることを、ひとりの『ポケモンユナイト』ファンとしても願いたい。


ポケモンユナイトワールドチャンピオンシップス2025:https://esports-world.jp/tournament/52518

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