【連載】野安ゆきおが語る「女子ゲーマー飛躍の歴史」

【女子ゲーマー飛躍の歴史・第二話】「ポケベル」を手にしたジャンヌ・ダルク

2019.9.13 野安ゆきお
こんにちは、野安ゆきおと申します。前回に引き続き、野安ゆきおが語る「女子ゲーマー飛躍の歴史」第二話がはじまりました!

今回は「ポケベル」や「たまごっち」に焦点を置いて女子ゲーマーについて語っていきたいと思います。

どうぞお楽しみに!

みなさんは「10105」「428」を読めますか?


1990年代前半。いまの10代〜20代のゲーマーのみなさんのおかあさんが、まだ若い女子だった頃の話です。「ポケベル」というアイテムが、日本中で話題になりました。

中身を知らない方も多いでしょう。ひとことでいうと、ものすごーく原始的なスマホです。ただし音声通話はできず、小さなモニターに数桁の数字が表示される機能だけを持っています。機種や世代によって細部の機能は違いますが、そのあたりを説明すると長くなるので、知りたい人は各自で検索してみてください。

「ポケベル」はもともと、外出している人と連絡をとるために開発されたガジェットでした。

ケータイもスマホもない時代です。そこで外回りをしている営業マンに「至急、この電話番号に連絡しろ」というメッセージを伝えるための機器としてポケベルは開発されました。完全なるビジネス用ツールなのですね。

ところが当時の女子たちは、これを遊びの道具として活用するようになったのです。表示できる数字の羅列と語呂合わせを組み合わせて、互いに会話するという遊びを発明してしまうのです。

「10105」
「428」

いま見ると、まったく意味がわからないかもしれません。意味不明な暗号みたいなものですね。でも、当時の女子たちは、こうやって会話を成立させていたんですね。

1990年代の女子が、ビジネスツールを遊びに変えた


それでは、先ほどの文字列について解説しましょう。

「10105」は、「1=い」「0=ま(る)」「10=と(う)」「5=ご」という語呂合わせ。
そして「428」「4=し」「2=ふ(たつ)」「8=や」という語呂合わせです。つまり、さきほどの数列は

「いまどこ?」
「渋谷」

という会話になっているのです。あまりに原始的な会話ですが、ケータイもスマホもない時代に、こうして外出先にいる者同士で会話できるというのは、とんでもなく画期的なことでした。こうした語呂合わせは、時代とともにどんどん発展して、

「39」(さんきゅー)
「0840」(おはよう)
「14106」(あいしてる)

といったメッセージも次々に発明され「これって楽しい!」と、どんどん女子たちの間で注目されるようになったのです。本来はビジネス用のガジェットが、いまっぽい言い方をするならば、女子たちが注目したことでバズったのですね。

当時は、パソコンを弄っているだけで「パソコンオタク」なんて言葉で揶揄された時代でもあります。デジタルなものを遊びとして楽しむ男子が「気持ち悪いオタク」と言われた時代です。雑誌には「画面を見ずに文字をタイピングしてしまうと、女子から気持ち悪がられるから注意しよう!」なんて記事もあったほどです。本当ですよ。

でも「ポケベル」を手にした女子が、そんな時代の空気を軽々とひっくり返してしまったんですね。

デジタルな機器を手に街に出て、それを楽しい遊び道具として使いこなす行為は、決して「気持ち悪いこと」ではない。むしろ「格好いいこと」だと、そのイメージを変貌させたんです。

いまのスマホアプリの世界では、女性ユーザーに支持されるかどうかがヒット商品になるかを大きく左右します。まず女子たちが飛びついて、そこから流行が始まっていきます。「Instagram」とか「TikTok」がそのパターンでヒットしたアプリの代表です。

じつは「ポケベル」こそが、そんな流行の始まり方を切り開いた先駆者なんですね。

1990年代の女子たちは、デジタルな器具を遊び道具にすることで、誰もが無視できないムーブメントとして巨大化させたんですものね。それは女子たちによるデジタル革命が起きた瞬間だといっても、決して過言ではないのです。

10代の女子もデジタルな遊びに飛びついた


「ポケベル」の登場により、女子がデジタル機器を手に街に出るようになると、それはすぐに別の巨大ビジネスを産み落とします。

それが「たまごっち」(1996年)です。

幼児向けにアニメ化されたこともあり、いまではキッズ向けの玩具というイメージを持っている方もいるでしょうが、それは第二期ブーム以降の話。初代の「たまごっち」は若い女子(中高生あたり)をターゲットにした商品であり、全国的に品薄状態が発生するほどの大ヒットを記録します。

この大ヒットは、ゲーム業界にも大きな影響を与えます。それまでは「ヒットするためには、男の子にウケる中身にしなくちゃ」「余裕があったら、そこに女子を楽しめる要素も入れよう」くらいの感覚でゲームを作っていたわけですが、完全に女子だけをメインターゲットにした「たまごっち」が爆発的ヒットをしたのですから、そりゃもう現場は大混乱です。

これからは、女子の心を掴まなくちゃ駄目だ!

そんな機運が誕生し、次々に女子が楽しめるゲームが登場することになるのです。そんな中で生まれた本命ソフトが、男女が分け隔てなく楽しめるモンスターソフト『ポケットモンスター』(1996)なのですが、その話は、もうちょっと先に書くことにしましょうか。この連載では、しばらく女子たちがデジタル機器を手に街に出るようになった話を続けることにしましょう。

さて1990年代、デジタルに興味を持った女子たちが目を付けたのはゲームセンターでした。次回は90年代のゲームセンターの話をしましょう。全世界を席巻する「音ゲー」が、ついに日本で誕生します。

【野安ゆきおプロフィール】


ゲーム雑誌編集部、編集プロダクション取締役を経てフリーライターに。プレイしたゲーム総数は1000本を越え、手がけたゲーム攻略本は100冊を越える。現在はゲームビジネスを中心にした執筆活動を続ける。1968年2月26日生まれ。

Twitter:https://twitter.com/noyasuyukio
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