【岸大河&yueロングインタビュー】「考えのラリーを言語化」——高校生eスポーツ大会STAGE:0で語られた実況解説の視点とは

- キャスター陣に聞く——万博で実況・解説をした感想とは?
- 2度目の岸大河——そして“万博アイアン”のyue
- 高校生が魅せた『VALORANT』の面白さを象徴するプレー
- 「相違はたくさんある」——高校生プレーヤーのすごさ、そしてプロとの違いとは?
- eスポーツ実況・解説のプロが、試合で意識していること
- 開幕寸前! Challengers Japan優勝予想
全国の高校生によるeスポーツ日本一を決める祭典「STAGE:0 eSPORTS High-School Championship 2025」が、8月15日(金)~17日(日)にて開催された。特に1番目の競技タイトルは『VALORANT』、全国ベスト4のチームが一堂に会し、熱いバトルを繰り広げていた。

このイベントが開催されたのは、今話題のあの「大阪・関西万博2025」の会場内だ。現地を訪れた来場者が、たまたま休憩がてらにふらりとeスポーツの大会を見に来る——そんな、いつもと違う雰囲気の会場が印象的だった。

この初日の幕開けに実施された種目というのが、まさにこの『VALORANT』である。5対5の一人称シューティングゲーム。銃の撃ち方や精度だけでなく、作戦やコミュニケーションといった戦略性も非常に重視されるゲームだ。

この8月には、この「STAGE:0」以外にも、トッププレーヤーたちによる国内大会と国際大会が連続で控える本ゲーム。今回は、そんな『VALORANT』の競技シーンで、ゲームのリリース当初から国内の実況・解説を担ってきた岸大河(きしたいが)さん、そしてyue(ゆえ)さんがインタビューに応じてくれた。
大会の配信を見たことがあれば、一度は見たことのある顔であるのは間違いないふたり。そんな彼らが、この「STAGE:0」で実況解説を行い、どのようなことを感じたのか。そして、長年eスポーツに携わる人間として、今後の日本のeスポーツシーンはどうなっていくのか。忙しい中しっかりと応じていただいた、そんな個別インタビューの様子をお届けしよう。

——『VALORANT』の大型イベントが大阪で開催されるのは、2023年のChallengers Japan以来ですね。
岸:(夢洲駅の)横のコスモスクエアから歩いたところね。あとは——。
——インテックス大阪(Split 1)とエディオンアリーナ大阪ですかね?
岸:そうそう、エディオンアリーナは近いんですよね。
——関東以外での開催は少し珍しいイメージもありますが、これについてどう思われますか?
岸:まず今回の万博内のパビリオンが、とにかく綺麗で雰囲気があって、照明も映えるし——。正直こういったステージで『VALORANT』の大会をやってほしいなというくらい、我々の印象も良かったですね。
yue:そうですね。客席からの応援も届きますし、対戦というものをパッと見た時に分かりやすいですし。正直「この会場がどのくらいeスポーツの大会に向いているんだろう」という疑問もあったんですけど、ふたを開けてみたら、もう高校生たちにとっては最高の舞台が整っていたなという感想です。
岸:僕は先月、別のeスポーツのイベントで万博に3~4日ほど訪れたんですよ。万博って「未来がどうなるか」とか「次世代につながるもの」の発表だったりってあるじゃないですか。そこにまずeスポーツが入っているということに、ちゃんと認められてきているというところで、やっぱり我々も驚きを隠せなくて。
今後の発展につながっていく——。「STAGE:0」という高校生の大会ということで、将来彼らがどんどん大きくなったときに、eスポーツも発展していくというところで、大きな一歩になったのかなという感じはしましたね。

——飛び入り参加の観客がほとんどだったと思いますが、会場の様子はどうでしたか?
岸:思ったより声が出ていたという印象です。
yue:うん。
岸:多分お父さんお母さんとか、学校の関係者の皆さんとかはいらっしゃったかとは思うんですが、僕らとしては「もうちょっと少ないんじゃないか」と不安だったんですよ。特に朝入ったときはガラガラで、だんだん入ってきてくれたらうれしいなと思ったら、昼過ぎにはバーッと入っててね。
yue:それこそ我々のヘッドセットを貫通して観客の声が聞こえてきたり、選手が入場した時にどこからともなく「頑張れ!」という声が自発的に投げかけられていたりとか——。
岸:なんかね、平和なeスポーツの世界だった(笑)。
僕らがやってる時って、みんなが熱い思いで「うぉおおおお!」みたいな煮えたぎる応援になることが多いんですけど、今日は「両方とも頑張れ!」みたいな、平和で温かい感じがあって、“まさに万博”って感じだったね!
yue:そうですね。それにやっぱりスーパープレーが起きた時には、もう会場がどっと揺れるみたいな感じもありましたし。
岸:心地よかったよね。
yue:そうですね。

——この万博で行ったパビリオン、あるいは行ってみたいパビリオンはありますか?
岸:僕はこの横にある「大阪ヘルスケアパビリオン」というところで、心臓のiPS細胞の展示があったり——。あとはイタリア館にも行きましたね。
たくさんの彫刻も見てきましたし、レオナルド・ダ・ビンチのノートがあったりして、やっぱり見てると日本に持ってくるのが相当大変なんだなと。あの彫刻も2トンくらいあるものを空輸で持って来ているんですよ。どうやってそのような技術が発展していったんだろうと思いました。あとはイタリアに行っても見られない作品の裏側が見られるといった結構レアな体験をさせていただきました。
——yueさんは、どこか行かれましたか?
岸:(彼)まだ未熟なんですよ(笑)。
yue:何があるかも知らない……。
岸:万博アイアン、いやランクもまだ行ってないもんね。
——(笑)。では何か万博会場を訪れた感想はありますか?
yue:ミャクミャクに会えてよかったです。

岸:雰囲気も楽しめるんじゃないですか? 食べ物とかもあるから。
yue:そうですね、楽しみます。

——今回の試合を通して、何か印象に残ったことはありましたか?
岸:まず全体的に『VALORANT』の競技レベルが上がったところです。これは今回出場した4チームだけでなく、それ以外の予選で負けてしまったすべてのチームに言えることです。
——なるほど。具体的なシーンでは何かありますか?
岸:まずひとつは、個人で活躍したGAIDA選手の圧倒的なパフォーマンスですよね。

岸:初戦にしてあれだけのパフォーマンスを出したというのは、正直驚きですし。あとは、エイムだけでなく動きも鋭いと思ったので、もっと知識面や精神面が鍛えられたら、もっといい選手になるんじゃないかなと思いました。
yue:対戦相手が今回の優勝チームであるルネサンス豊田だったということもあって、なんならもうそのままの勢いで喰らってしまうんじゃないかと
岸:結構、相手もビビってたもんね。
yue:そうなんですよ。前半の最後の2ラウンドを(ルネサンス豊田が)取れていなかったら、9:3で折り返していたので、もうそのままの勢いで勝っていたんじゃないかという試合だったので——。もしかしたら、その流れが止まらなければ優勝が変わっていたかもしれないというくらいのパフォーマンスでした。

岸:あとはルネサンス高校のelierror選手の1vs4クラッチですよね。試合には敗れてしまいましたが、あの大逆転劇というのは、やっぱり『VALORANT』の面白さを象徴するというか、興奮させてくれる1vs4クラッチでした。多分あのシーンは、来年のSTAGE:0の動画に使われるんじゃないかと。
yue:そうですね、間違いなく。

yue:『VALORANT』がそこまで分からない方だとしても、やっぱりこの周りの人の興奮であったり、我々の実況解説であったり、あるいはプレーヤーの動きや表情を見ていたら、あれがどんなに苦しい場面で、それを勝利したことがどれだけすごいことかっていうのは、おそらく伝わったと思うんですよね。
岸:うん、うん。
yue:もう本当に、それくらい歴史に残るプレーだと思います。
——おふたりの思う、彼ら高校生とプロ選手の違いはありますか?
岸:もちろん、相違はたくさんあります。
それはもうプロとして飯を食っている、そして世界を目指している選手やチームと比べた時に、まずはコミュニケーション部分が違うと思います。いつ出るのか、一緒に出ようというふたりの連携だったり——。そのほか、アビリティーを使う・使わないの判断と、そのとっさの判断でも合わせられる順応性という点。そういったところは、比べ物にならないくらいの差があります。
——逆に、何か共通点はありますか?
岸:マップの理解のベースというところは、共通点としてあると思います。こうやったら取れる、こうやったら取れないみたいな。
あとは「ここで勝負したい」という個人の思いとか——単純に「VALORANTが好き」という部分とか、そういったところは共通点としてあると思います。

——最近はネオンやヨルを採用するなど、世界的にもアグレッシブな試合がトレンドかと思いますが、今回の試合でもそういったシーンはありましたか?
yue:構成自体はアグレッシブなチームも多かったですし、やっぱり勝負になるにつれて、そういったシーンも多くなっていたと感じます。
ただ、この最初に決めたアグレッシブな動き以外のラウンドになると、やっぱりこの本番の環境というか——。おそらく練習ではできていたんですけど、練習通りに行かない。アグレッシブに行きたいんだけど、気持ちがついてこない。だからこそ、前に出ることを躊躇(ちゅうちょ)してしまうというところは、大会ならではのものとしてありましたね。

岸:違いがあるとすれば、インスタントで撃つアビリティーセットですかね。例えば、🇸🇬Paper Rexもそうですし、🇰🇷T1、🇰🇷Gen.G、そのほかPacific以外の地域のチームでも見られるんですけど——。
「こうやってカウンターセットしますよー、よーいドン、バン」みたいな、前もってマクロの中に仕込んだミクロなプレーのは多分高校生でもできるんですよ。でも何か異変を感じた時に即座に形を変えて、まさに今というタイミングで放つことができるのは、やっぱりプロだなと。
——より臨機応変で繊細なプレーができると。
岸:そうそう。いきなり立ち位置を変えて撃てる——そこは本当に差を感じますね。
——実況・解説を行う上で、何か意識していることはありますか?
岸:実況でいうと、選手やチームが何を考えて行動しているのかというのを、極力くみ取ろうとしています。単純に誰かが倒したというのもそうですけど、何の意図をもって戦っているのかとか。
相手がこういう行動をしてきたから、こういう行動に移してキルを狙う。キルが取れたらサイトの中を取っていく。逆に相手チームは、中を取られてからこういう行動を——みたいな。考えのラリーが間違いなく発生するんですよね。そこを言語化しようとはしています。
特に僕の実況だと、「相手がこうだから、こっちはどうなるの」みたいな実況になっている気がします。それは多分人それぞれだとは思うんですけど、僕はね。

——解説のyueさんはいかがでしょうか?
yue:チームの考えを話すというのはもちろんなんですけど、それをラウンド毎に話すというよりは、前のラウンドを踏まえてこのラウンドにはこういう動きをしてくるとか——。どれだけそのチームの思考を読めるか、その“読み合い”を試合の中で解説という形で行っています。
特に実況はマップ上でどうしても追えていない部分も出てくると思いますし。もちろん1ラウンドにフォーカスした場合には、実況側の方が情報量が多くなるとは思うんですけど、解説側は試合全体を考えながら実況のサポートをするという形なので、必要な役割なのかなと思っています。
岸:実況してても「あっ、見逃したな」とか「これ見落としてたな」って場面があるんですよ。多分、解説でもギリギリなくらいアビリティーが飛び交っている局面もあって、(状況が)分からないっていうこともあるので、解説は本当にずっと目を見開いて、アンテナを張り続ける必要があるなと。
——特に最近は動きの激しい試合も多く、難しいのではないですか?
岸:そうですね。あとは、カメラの切り替えによっても全然違うし。

岸:あとは話しながら次の展開を追うというのも、実況解説のふたりの仕事だと思いますね。協力して、試合を追っていくっていう。
yue:あとこれは実況解説の存在意義になってきますが、単純にスーパープレーが起きた時に興奮をお伝えするというのは、多分お互いの共通意識としてあると思います。
今日の1vs4クラッチの時も、ゲームに詳しくないお客さんでも「このふたりがこんなに驚いているんだったら、今のは相当すごいプレーなんだ」と何も知らない人でも思っていただけるように。そんなリアクションや実況解説を心がけるようにしています。

——今回の大会では特に、プロ選手の名前やアビリティーの名称など、『VALORANT』の専門用語を補足するなどしていたと思いますが、今日はそのようなことも意識していたのでしょうか?
岸:STAGE:0のような、わりとマス(大衆)向けの大会で選手のご家族の方々も見に来られるといった環境では、なるべく詳しく説明しようと心がけています。とはいえ、アビリティーがバーッとあると、もうひとつひとつの説明ができないという限界はあるんですけどね(笑)。
大会アンバサダーのアンガールズの田中さんや、アルコ&ピースのおふたりとか——。まあ丹生(にぶ)ちゃんは分かると思うんですけど、そういったメンバーに向けて「ちょっとでも分かってもらえたらな」くらいで、話していることが多かったですね。

——もう間もなく開催が迫った「VALORANT Challengers Japan」について、優勝チーム予想をお願いします。
岸・yue:うーん……。

yue:僕は……RIDDLE ORDER。
——その理由は?
yue:彼らって、このメインステージの中で何度も何度も負けを経験したじゃないですか。以前の彼らを支えていたのは、絶対的な自信だったと思うんですよね。その自信のもとに、Stage 1、2ではスピード感のある攻めであったりを行っていたけれど、その自信が一度崩れたと思うんですよ。
でも、そこで彼らの強さであれば、またそこから立ち上がってくるだろうな。何なら、新たな強さを身につけてくれるだろうという期待感を持っています。
岸:僕もRIDDLEですね。NOEZ FOXXもFENNELも挙げたかったんですけど、ここでRIDDLEにした理由は、やっぱり去年の悔しさだと思うんですよね。
ステージが進むにつれて、アセンションが近づいてきたという実感と、去年そこで負けたことの悔しさの実感が湧き出てきて、多分やる気に繋がっていくと思うので。まあ、なんか勝っていくのかなというイメージです。
yue:Stage 1、2って、正直RIDDLEからしてみたら「俺らが勝つ、俺らが王者だ」みたいな戦いだったと思うんです。このSeason Finals、そしてアセンションは、彼らにとってはリベンジマッチなので、今までとは違った戦いが見れるんじゃないかと思っています。

——それでは最後に、この日本の競技シーンの今後の躍進についてひと言お願いします。
岸:とにかく今、『VALORANT』を含めていろいろなゲームの大会を日本に誘致しています。これだけ場所代が高い日本でやってくれているというのは、日本のコミュニティやゲームシーンの「伸び」が海外からも評価されているんだと思います。
なので、日本で大会を開いて観客が集まる。そして再び日本でやろうという流れが作れて、僕たちは(実況や解説の)実力を付けていくといった相互関係で、日本のコミュニティーやeスポーツの発展を狙えたらと思います。
yue:僕は人生の中で一番の思い出があって、それはドイツにCS:GO(Counter-Strike: Global Offensive)の世界大会を見に行った時の話です。
その時、道中のタクシー運転手に「今日は大会を見に行く」って話したら「ああ、CS:GOの?」って当たり前のように返事をされたんです。あとは街中のレストランのモニターに、その世界大会の様子が映し出されていたり——。本当にeスポーツに対する認知度が段違いだなと感じたのを今でも覚えています。
日本ではそこまでeスポーツの大会に対する認知度は高くありませんが、今日も選手の親御さんが息子のうちわを作って応援していたりとか、どんどんeスポーツの認知度が広がっていると思うんです。多くのeスポーツ大会が日本でも開かれることで、さらにeスポーツの存在をさまざまな方々に知っていただきたいですね。
いずれ日本で世界大会を優勝する機会もどんどん増えてくると思います。その優勝のうれしさを日本のみんなで味わいたいし、共有したいなと思っています。

——ありがとうございました!
————
『VALORANT』がリリースされてから約5年。そんな黎明期から日本や世界の競技シーンを支え、そして誕生したさまざまな名シーンを、興奮とともに多くの人に届け続けた。そんな彼らが考える日本の競技シーンの躍進は、やはりコミュニティあってのことであるのは間違いない。いわば野心的な意見ではあるかもしれないが、これからさまざまなゲームにおいて、日本をeスポーツで盛り上げていきたいところだ。
その上で今回の「STAGE:0」は、そのひとつの足がかりとして、多くの人々にeスポーツの持つ「熱量」は伝えられたのではないだろうか。
なおこの8月だが、『VALORANT』の大きな大会がふたつも控えていることは頭に入れておきたい。この猛暑の中ではあるが、ますますeスポーツに対する熱気が増すことは間違いないだろう。
おふたりもおそらく出演することであるからこそ、ぜひ試合内容とともに、実況解説の役割や効果に対して意識を向けると、より観戦を楽しめるはずだ。彼らの持つ「言葉」のパワーにも、この夏はぜひ注目していただきたい。
撮影:まいる
編集:いのかわゆう

▲3日間にわたり、計7種目の競技が実施された。15日(Day1)は、ライアットゲームズの『VALORANT』と『リーグ・オブ・レジェンド』の2タイトル
このイベントが開催されたのは、今話題のあの「大阪・関西万博2025」の会場内だ。現地を訪れた来場者が、たまたま休憩がてらにふらりとeスポーツの大会を見に来る——そんな、いつもと違う雰囲気の会場が印象的だった。

▲選手関係者を除き、来場者のほとんどは飛び入り参加! ゲームに詳しくなくとも、入口で配布されたグッズを握り応援を楽しんでいた
この初日の幕開けに実施された種目というのが、まさにこの『VALORANT』である。5対5の一人称シューティングゲーム。銃の撃ち方や精度だけでなく、作戦やコミュニケーションといった戦略性も非常に重視されるゲームだ。

▲技術、アイデア、チームワーク、そして少しの運——この大舞台で優勝するため、出場する高校生たちは、日々たくさんの練習を積み重ねてきた
この8月には、この「STAGE:0」以外にも、トッププレーヤーたちによる国内大会と国際大会が連続で控える本ゲーム。今回は、そんな『VALORANT』の競技シーンで、ゲームのリリース当初から国内の実況・解説を担ってきた岸大河(きしたいが)さん、そしてyue(ゆえ)さんがインタビューに応じてくれた。
大会の配信を見たことがあれば、一度は見たことのある顔であるのは間違いないふたり。そんな彼らが、この「STAGE:0」で実況解説を行い、どのようなことを感じたのか。そして、長年eスポーツに携わる人間として、今後の日本のeスポーツシーンはどうなっていくのか。忙しい中しっかりと応じていただいた、そんな個別インタビューの様子をお届けしよう。
キャスター陣に聞く——万博で実況・解説をした感想とは?

▲今大会で実況を務めた岸大河(左)、そして解説を務めたyue(右)
——『VALORANT』の大型イベントが大阪で開催されるのは、2023年のChallengers Japan以来ですね。
岸:(夢洲駅の)横のコスモスクエアから歩いたところね。あとは——。
——インテックス大阪(Split 1)とエディオンアリーナ大阪ですかね?
岸:そうそう、エディオンアリーナは近いんですよね。
——関東以外での開催は少し珍しいイメージもありますが、これについてどう思われますか?
岸:まず今回の万博内のパビリオンが、とにかく綺麗で雰囲気があって、照明も映えるし——。正直こういったステージで『VALORANT』の大会をやってほしいなというくらい、我々の印象も良かったですね。
yue:そうですね。客席からの応援も届きますし、対戦というものをパッと見た時に分かりやすいですし。正直「この会場がどのくらいeスポーツの大会に向いているんだろう」という疑問もあったんですけど、ふたを開けてみたら、もう高校生たちにとっては最高の舞台が整っていたなという感想です。
岸:僕は先月、別のeスポーツのイベントで万博に3~4日ほど訪れたんですよ。万博って「未来がどうなるか」とか「次世代につながるもの」の発表だったりってあるじゃないですか。そこにまずeスポーツが入っているということに、ちゃんと認められてきているというところで、やっぱり我々も驚きを隠せなくて。
今後の発展につながっていく——。「STAGE:0」という高校生の大会ということで、将来彼らがどんどん大きくなったときに、eスポーツも発展していくというところで、大きな一歩になったのかなという感じはしましたね。

——飛び入り参加の観客がほとんどだったと思いますが、会場の様子はどうでしたか?
岸:思ったより声が出ていたという印象です。
yue:うん。
岸:多分お父さんお母さんとか、学校の関係者の皆さんとかはいらっしゃったかとは思うんですが、僕らとしては「もうちょっと少ないんじゃないか」と不安だったんですよ。特に朝入ったときはガラガラで、だんだん入ってきてくれたらうれしいなと思ったら、昼過ぎにはバーッと入っててね。
yue:それこそ我々のヘッドセットを貫通して観客の声が聞こえてきたり、選手が入場した時にどこからともなく「頑張れ!」という声が自発的に投げかけられていたりとか——。
岸:なんかね、平和なeスポーツの世界だった(笑)。
僕らがやってる時って、みんなが熱い思いで「うぉおおおお!」みたいな煮えたぎる応援になることが多いんですけど、今日は「両方とも頑張れ!」みたいな、平和で温かい感じがあって、“まさに万博”って感じだったね!
yue:そうですね。それにやっぱりスーパープレーが起きた時には、もう会場がどっと揺れるみたいな感じもありましたし。
岸:心地よかったよね。
yue:そうですね。
2度目の岸大河——そして“万博アイアン”のyue

▲会場となったイベントホールのようなパビリオン。名前は「シャインハット」
——この万博で行ったパビリオン、あるいは行ってみたいパビリオンはありますか?
岸:僕はこの横にある「大阪ヘルスケアパビリオン」というところで、心臓のiPS細胞の展示があったり——。あとはイタリア館にも行きましたね。
たくさんの彫刻も見てきましたし、レオナルド・ダ・ビンチのノートがあったりして、やっぱり見てると日本に持ってくるのが相当大変なんだなと。あの彫刻も2トンくらいあるものを空輸で持って来ているんですよ。どうやってそのような技術が発展していったんだろうと思いました。あとはイタリアに行っても見られない作品の裏側が見られるといった結構レアな体験をさせていただきました。
——yueさんは、どこか行かれましたか?
岸:(彼)まだ未熟なんですよ(笑)。
yue:何があるかも知らない……。
岸:万博アイアン、いやランクもまだ行ってないもんね。
——(笑)。では何か万博会場を訪れた感想はありますか?
yue:ミャクミャクに会えてよかったです。

岸:雰囲気も楽しめるんじゃないですか? 食べ物とかもあるから。
yue:そうですね、楽しみます。

▲インタビューは控室で行われたが、そこにもきちんと「ミャクミャク」のぬいぐるみが。せっかくなので、とぬいぐるみを握りながらインタビューに答えていただいた
高校生が魅せた『VALORANT』の面白さを象徴するプレー
——今回の試合を通して、何か印象に残ったことはありましたか?
岸:まず全体的に『VALORANT』の競技レベルが上がったところです。これは今回出場した4チームだけでなく、それ以外の予選で負けてしまったすべてのチームに言えることです。
——なるほど。具体的なシーンでは何かありますか?
岸:まずひとつは、個人で活躍したGAIDA選手の圧倒的なパフォーマンスですよね。

▲マルチキルを重ねながら、どんどんサイトを攻略するN高のGAIDA選手。ちなみにこの瞬間は、相手のフラッシュにより、GAIDA選手視点ではほぼ何も見えていない(https://www.youtube.com/live/q09sCT_Pf1M?si=K1gARAGQeDOxL_ec&t=9737 )
岸:初戦にしてあれだけのパフォーマンスを出したというのは、正直驚きですし。あとは、エイムだけでなく動きも鋭いと思ったので、もっと知識面や精神面が鍛えられたら、もっといい選手になるんじゃないかなと思いました。
yue:対戦相手が今回の優勝チームであるルネサンス豊田だったということもあって、なんならもうそのままの勢いで喰らってしまうんじゃないかと
岸:結構、相手もビビってたもんね。
yue:そうなんですよ。前半の最後の2ラウンドを(ルネサンス豊田が)取れていなかったら、9:3で折り返していたので、もうそのままの勢いで勝っていたんじゃないかという試合だったので——。もしかしたら、その流れが止まらなければ優勝が変わっていたかもしれないというくらいのパフォーマンスでした。

▲いったん、体勢を立て直すことで、人数不利の状況を覆したルネサンス豊田。この11ラウンド目の勝利で勢いづいたルネサンス豊田は、そのまま12ラウンド目も取得し、7-5で後半へと折り返すこととなる(https://www.youtube.com/live/q09sCT_Pf1M?si=s-uBAGij-KCvMo5s&t=10254)
岸:あとはルネサンス高校のelierror選手の1vs4クラッチですよね。試合には敗れてしまいましたが、あの大逆転劇というのは、やっぱり『VALORANT』の面白さを象徴するというか、興奮させてくれる1vs4クラッチでした。多分あのシーンは、来年のSTAGE:0の動画に使われるんじゃないかと。
yue:そうですね、間違いなく。

▲ルネサンスのelierror選手が見せた、1vs4という絶望的状況からのクラッチ。負ければ敗退という中、必死に食らいつく見事なプレーに、会場もキャスター陣も驚きの歓声を上げた(https://www.youtube.com/live/q09sCT_Pf1M?si=eQ6QJoJULlHGC8b4&t=18227)
yue:『VALORANT』がそこまで分からない方だとしても、やっぱりこの周りの人の興奮であったり、我々の実況解説であったり、あるいはプレーヤーの動きや表情を見ていたら、あれがどんなに苦しい場面で、それを勝利したことがどれだけすごいことかっていうのは、おそらく伝わったと思うんですよね。
岸:うん、うん。
yue:もう本当に、それくらい歴史に残るプレーだと思います。
「相違はたくさんある」——高校生プレーヤーのすごさ、そしてプロとの違いとは?
——おふたりの思う、彼ら高校生とプロ選手の違いはありますか?
岸:もちろん、相違はたくさんあります。
それはもうプロとして飯を食っている、そして世界を目指している選手やチームと比べた時に、まずはコミュニケーション部分が違うと思います。いつ出るのか、一緒に出ようというふたりの連携だったり——。そのほか、アビリティーを使う・使わないの判断と、そのとっさの判断でも合わせられる順応性という点。そういったところは、比べ物にならないくらいの差があります。
——逆に、何か共通点はありますか?
岸:マップの理解のベースというところは、共通点としてあると思います。こうやったら取れる、こうやったら取れないみたいな。
あとは「ここで勝負したい」という個人の思いとか——単純に「VALORANTが好き」という部分とか、そういったところは共通点としてあると思います。

▲優勝の瞬間、互いの健闘を称え合ったルネサンス豊田の選手たち。会場からは熱い声援と拍手が送られた
——最近はネオンやヨルを採用するなど、世界的にもアグレッシブな試合がトレンドかと思いますが、今回の試合でもそういったシーンはありましたか?
yue:構成自体はアグレッシブなチームも多かったですし、やっぱり勝負になるにつれて、そういったシーンも多くなっていたと感じます。
ただ、この最初に決めたアグレッシブな動き以外のラウンドになると、やっぱりこの本番の環境というか——。おそらく練習ではできていたんですけど、練習通りに行かない。アグレッシブに行きたいんだけど、気持ちがついてこない。だからこそ、前に出ることを躊躇(ちゅうちょ)してしまうというところは、大会ならではのものとしてありましたね。

▲決勝戦では、相手にリードを1点差にまで縮められてしまったルネサンス豊田。優勝後のインタビューでは、コーチの「絶対勝てるよ」という声で緊張が和らぎ、勝利につながったと答えていた
岸:違いがあるとすれば、インスタントで撃つアビリティーセットですかね。例えば、🇸🇬Paper Rexもそうですし、🇰🇷T1、🇰🇷Gen.G、そのほかPacific以外の地域のチームでも見られるんですけど——。
「こうやってカウンターセットしますよー、よーいドン、バン」みたいな、前もってマクロの中に仕込んだミクロなプレーのは多分高校生でもできるんですよ。でも何か異変を感じた時に即座に形を変えて、まさに今というタイミングで放つことができるのは、やっぱりプロだなと。
——より臨機応変で繊細なプレーができると。
岸:そうそう。いきなり立ち位置を変えて撃てる——そこは本当に差を感じますね。
eスポーツ実況・解説のプロが、試合で意識していること
——実況・解説を行う上で、何か意識していることはありますか?
岸:実況でいうと、選手やチームが何を考えて行動しているのかというのを、極力くみ取ろうとしています。単純に誰かが倒したというのもそうですけど、何の意図をもって戦っているのかとか。
相手がこういう行動をしてきたから、こういう行動に移してキルを狙う。キルが取れたらサイトの中を取っていく。逆に相手チームは、中を取られてからこういう行動を——みたいな。考えのラリーが間違いなく発生するんですよね。そこを言語化しようとはしています。
特に僕の実況だと、「相手がこうだから、こっちはどうなるの」みたいな実況になっている気がします。それは多分人それぞれだとは思うんですけど、僕はね。

——解説のyueさんはいかがでしょうか?
yue:チームの考えを話すというのはもちろんなんですけど、それをラウンド毎に話すというよりは、前のラウンドを踏まえてこのラウンドにはこういう動きをしてくるとか——。どれだけそのチームの思考を読めるか、その“読み合い”を試合の中で解説という形で行っています。
特に実況はマップ上でどうしても追えていない部分も出てくると思いますし。もちろん1ラウンドにフォーカスした場合には、実況側の方が情報量が多くなるとは思うんですけど、解説側は試合全体を考えながら実況のサポートをするという形なので、必要な役割なのかなと思っています。
岸:実況してても「あっ、見逃したな」とか「これ見落としてたな」って場面があるんですよ。多分、解説でもギリギリなくらいアビリティーが飛び交っている局面もあって、(状況が)分からないっていうこともあるので、解説は本当にずっと目を見開いて、アンテナを張り続ける必要があるなと。
——特に最近は動きの激しい試合も多く、難しいのではないですか?
岸:そうですね。あとは、カメラの切り替えによっても全然違うし。

▲キャスター陣の前にはプレー映像などが映るモニター。選手のプレーを丁寧に追いかけながら、それを会場や配信に向けて言葉にしていくという、まさに職人技である
岸:あとは話しながら次の展開を追うというのも、実況解説のふたりの仕事だと思いますね。協力して、試合を追っていくっていう。
yue:あとこれは実況解説の存在意義になってきますが、単純にスーパープレーが起きた時に興奮をお伝えするというのは、多分お互いの共通意識としてあると思います。
今日の1vs4クラッチの時も、ゲームに詳しくないお客さんでも「このふたりがこんなに驚いているんだったら、今のは相当すごいプレーなんだ」と何も知らない人でも思っていただけるように。そんなリアクションや実況解説を心がけるようにしています。

——今回の大会では特に、プロ選手の名前やアビリティーの名称など、『VALORANT』の専門用語を補足するなどしていたと思いますが、今日はそのようなことも意識していたのでしょうか?
岸:STAGE:0のような、わりとマス(大衆)向けの大会で選手のご家族の方々も見に来られるといった環境では、なるべく詳しく説明しようと心がけています。とはいえ、アビリティーがバーッとあると、もうひとつひとつの説明ができないという限界はあるんですけどね(笑)。
大会アンバサダーのアンガールズの田中さんや、アルコ&ピースのおふたりとか——。まあ丹生(にぶ)ちゃんは分かると思うんですけど、そういったメンバーに向けて「ちょっとでも分かってもらえたらな」くらいで、話していることが多かったですね。

開幕寸前! Challengers Japan優勝予想
——もう間もなく開催が迫った「VALORANT Challengers Japan」について、優勝チーム予想をお願いします。
岸・yue:うーん……。

▲難しい質問だったせいか、唸りながらミャクミャクの背中を見る岸大河。そして、天を仰ぐyue
yue:僕は……RIDDLE ORDER。
——その理由は?
yue:彼らって、このメインステージの中で何度も何度も負けを経験したじゃないですか。以前の彼らを支えていたのは、絶対的な自信だったと思うんですよね。その自信のもとに、Stage 1、2ではスピード感のある攻めであったりを行っていたけれど、その自信が一度崩れたと思うんですよ。
でも、そこで彼らの強さであれば、またそこから立ち上がってくるだろうな。何なら、新たな強さを身につけてくれるだろうという期待感を持っています。
岸:僕もRIDDLEですね。NOEZ FOXXもFENNELも挙げたかったんですけど、ここでRIDDLEにした理由は、やっぱり去年の悔しさだと思うんですよね。
ステージが進むにつれて、アセンションが近づいてきたという実感と、去年そこで負けたことの悔しさの実感が湧き出てきて、多分やる気に繋がっていくと思うので。まあ、なんか勝っていくのかなというイメージです。
yue:Stage 1、2って、正直RIDDLEからしてみたら「俺らが勝つ、俺らが王者だ」みたいな戦いだったと思うんです。このSeason Finals、そしてアセンションは、彼らにとってはリベンジマッチなので、今までとは違った戦いが見れるんじゃないかと思っています。

▲昨年の夏、日本一となったRIDDLE ORDER。だがその後の🇮🇩ジャカルタで開催された「VCT Ascension Pacific 2024」では敗れ、国際リーグ昇格の夢は叶わなかった
——それでは最後に、この日本の競技シーンの今後の躍進についてひと言お願いします。
岸:とにかく今、『VALORANT』を含めていろいろなゲームの大会を日本に誘致しています。これだけ場所代が高い日本でやってくれているというのは、日本のコミュニティやゲームシーンの「伸び」が海外からも評価されているんだと思います。
なので、日本で大会を開いて観客が集まる。そして再び日本でやろうという流れが作れて、僕たちは(実況や解説の)実力を付けていくといった相互関係で、日本のコミュニティーやeスポーツの発展を狙えたらと思います。
yue:僕は人生の中で一番の思い出があって、それはドイツにCS:GO(Counter-Strike: Global Offensive)の世界大会を見に行った時の話です。
その時、道中のタクシー運転手に「今日は大会を見に行く」って話したら「ああ、CS:GOの?」って当たり前のように返事をされたんです。あとは街中のレストランのモニターに、その世界大会の様子が映し出されていたり——。本当にeスポーツに対する認知度が段違いだなと感じたのを今でも覚えています。
日本ではそこまでeスポーツの大会に対する認知度は高くありませんが、今日も選手の親御さんが息子のうちわを作って応援していたりとか、どんどんeスポーツの認知度が広がっていると思うんです。多くのeスポーツ大会が日本でも開かれることで、さらにeスポーツの存在をさまざまな方々に知っていただきたいですね。
いずれ日本で世界大会を優勝する機会もどんどん増えてくると思います。その優勝のうれしさを日本のみんなで味わいたいし、共有したいなと思っています。

▲選手のご家族による、まさにアツい応援がさらに会場を盛り上げていた
——ありがとうございました!
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『VALORANT』がリリースされてから約5年。そんな黎明期から日本や世界の競技シーンを支え、そして誕生したさまざまな名シーンを、興奮とともに多くの人に届け続けた。そんな彼らが考える日本の競技シーンの躍進は、やはりコミュニティあってのことであるのは間違いない。いわば野心的な意見ではあるかもしれないが、これからさまざまなゲームにおいて、日本をeスポーツで盛り上げていきたいところだ。
その上で今回の「STAGE:0」は、そのひとつの足がかりとして、多くの人々にeスポーツの持つ「熱量」は伝えられたのではないだろうか。
なおこの8月だが、『VALORANT』の大きな大会がふたつも控えていることは頭に入れておきたい。この猛暑の中ではあるが、ますますeスポーツに対する熱気が増すことは間違いないだろう。
おふたりもおそらく出演することであるからこそ、ぜひ試合内容とともに、実況解説の役割や効果に対して意識を向けると、より観戦を楽しめるはずだ。彼らの持つ「言葉」のパワーにも、この夏はぜひ注目していただきたい。
撮影:まいる
編集:いのかわゆう
【まいるプロフィール】
関西を拠点にする男性コスプレーヤー。イベントや大会によくコスプレ姿で出没する。2021年頃から『VALORANT』にハマり、競技シーンを追い続ける。現在の推しチームは「CREST GAMING」。
X:@mlunias(Photo by Subaru.F.)

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