【特集】eスポーツ入門

これからのeスポーツ人気を支えるのは「プロゲーマー」じゃなく「配信者」になる?

2022.4.8 宮下英之

プロゲーマーが大幅に増えた2018年

eSports Worldが開設されたのは2019年3月のこと。その直接的なきっかけとなったのは、前年の2018年が日本で「(今度こそ本当の)eスポーツ元年」と呼ばれたほどに盛り上がったことだった。

この2018年に、日本におけるビデオゲームとeスポーツを取り巻く環境は大きく変わった。

子どもの遊びであり害悪とさえ言われてきたゲームが、たゆまぬ選手たちの努力の上に競い合う競技として認められ始めた。ゲーム自体も若者から年配者まで幅広く楽しめるレジャーとして親しまれ、同時に多くの企業が注目するビジネスチャンスを秘めた市場、「eスポーツ」へと昇華していく。

それと同時に、eスポーツに関わる多くの職業が生まれたことも、日本においては画期的な変化だった。「ただ遊ぶだけでお金がもらえる」と短絡的に考える者は、eスポーツの真剣バトルが増えることで少なくなっていく(あるいは、見ることをやめたのかもしれない)。

ただし、ゲームとして単に遊ぶ楽しさや面白さの要素は微妙にもなっていった。「ランクマッチ」などで世界中のプレイヤーの中に身を置き、常に自分自身の強さ=弱さを痛感させられるにつれ、生半可な気持ちでは立ち向かえないという敷居の高さが、初級者と上級者、カジュアル派と真剣派を分化することにもなった。

「プロ配信者」=ストリーマーの増加


そんな中で、主に本気でゲームに打ち込む上級者たちの中には「eスポーツで食っていく」ことが現実味を帯びてきた。

食える職業のひとつは、eスポーツ大会などで活躍する「プロゲーマー」という職業だ。とにかくより強く、よりよい成績を残し、日本一あるいは世界一を目指すというシンプルなもの。

「小学生がなりたい職業ランキング」では首位に輝き、特に子どもたちから絶大な支持を得て、プロゲーマーは憧れの対象となっていく。

ひとくちにプロゲーマーと言ってもその立場はさまざま。企業が個人の活動をスポンサードすることもあれば、チームに所属してスポンサードを受けることもある。物品提供や活動の一部をサポートするといった小規模なものから、プロモーションまで含めた活動全体をプロデュースするものもあり、まさにアスリートと似たようなかたちだ。


Red Bull Gamingはオリンピックスポーツ選手やレーサーなどと同列でeスポーツ選手をサポート。チーム所属であっても個人をスポンサードしている


ZETA DIVISIONの『VALORANT』チームは、複数メンバーが所属するかたちで活動。近年は選手だけでなくコーチも重要な存在だ

プロゲーマーの仕事は大会で活躍することだが、当然賞金だけで生きていけるほど賞金額は高くはなく、大会自体もそれほど多くはない。月給のようなかたちでスポンサードを受け、イベントなどでタレントとしての活動をしたり、配信による視聴数に応じた収入が主だ。

もうひとつが、ゲームをプレイする姿や攻略情報などを配信する「配信者」(ストリーマー)という職業。プレイングはもちろん、よりタレント性が求められ、いかに視聴者を楽しませられるかが重要な仕事だ。

評価の軸は、ファン(フォロワー)を集めるか、そして配信の同時接続視聴数を増やせるか。生配信では直接金銭によって応援する「サブスク」や「投げ銭」などの応援方法もある。そして、フォロワーの数、動画の視聴数に応じて、出演料のようなかたちで稼ぐこともできる。

配信スタイルも十人十色。プレイしながらリアルタイムにファンと会話を楽しむ番組、ストイックに遊ぶ様子を見せるだけの番組もある。ナレーションや字幕をつけて番組として編集された動画もあれば、合成音声のナレーションを使ったもの、3D CGによるアバターを使った「VTuber」など手法はさまざまだ。すでに立派な職業のひとつとなっており、企業の広告やタイアップの対象にもなり得ている。

子どもたちに人気の『マインクラフト』などのゲーム配信で有名なドズル氏は、視聴者と一緒に楽しむスタイル

渋谷ハルは実力派のプレイヤーとしてもVtuberとしても活躍する人気配信者。ただし、プロゲーマーではない

曖昧になってきた「プロゲーマー」と「配信者」の境界線


プロゲーマーも配信者も、ともにゲームをプレイすることを仕事としている。プロゲーマーはあくまでストイックに練習を積み重ね、配信者は偶然性はハプニングを面白おかしく伝えるなど、一見まったく異なるようにも見える。

しかしその境界線は、だんだんと曖昧になってきた。

例えば、プロゲーマーがオフシーズンや休日に配信を行い、収益を得るケースも増えた。特に新型コロナウイルスのまん延により賞金制の大会やリーグが減少したことで、直接的な収入源がなくなってしまった。そこで、もともとの知名度の高さと人気をもとに、配信を行うプロゲーマーが一気に増えたのだ。そこでは、ガチガチの強さを発揮するだけではなく、ファンとの交流や工夫を凝らした企画なども展開されている。

さらに、これまでは知識や技術が必要だった「配信」という行為自体が簡単になるにつれて、機材とゲームさえあれば、いまや誰でもすぐに配信者になれるようになった。ゲームの知識やテクニックがなくても、エンタメとしてゲームをプレイする様子が楽しく人気が集まれば、まったくの素人から人気配信者にのし上がることもできる。

その時に必要なスキルは、それ相応のテクニックは必要なものの、求められているのは番組としての面白さであり、エンターテインメント性だ。

たとえば、お笑いタレントの狩野英孝や俳優・モデルの本田翼などは、元々の知名度とともに、テレビなどでは見られないここだけの声や姿を見られることで人気になっている。

狩野英孝

本田翼

また、純粋なゲーム配信者として人気を集める兄者弟者などは、ゲーム配信という文化が生んだ新たなヒーローと言えるだろう。

兄者弟者
さまざまなゲームを兄者、弟者のふたりでプレイする人気ユニット。

しかも、この両者は食い合うことはがあまりなく、むしろカスタムマッチなどでプロゲーマーと配信者が組んだ試合なども行われている。アイドルグループ・Hey! Say! JUMPの山田涼介が、元プロゲーマーのShakaやStylishNoobからゲームを教わる動画などは、eスポーツやゲームが一部のマニアだけのものではなく、誰もが楽しめるコンテンツに成長した証とも言えるだろう。


こうしたコラボレーションにより、配信者側はよりハイレベルな要素を、プロゲーマーは有名配信者の圧倒的な人気を自らのファン獲得に活用できるという、相乗効果も生まれている。

配信は儲かるのか?


では、こうした配信者はどれくらい儲かっているのか。収益に関わる正確な情報は公にはされていないが、収益化するための条件は公開されている。

YouTubeではパートナーになって一定の成果を上げることで、動画の再生数に応じた収益が得られるようになる。最低ラインは、チャンネル登録者数1000人以上、過去12カ月の総再生時間4000時間以上というもの。そのラインを超えて初めて「配信者」として認められるというなかなか狭き門だ。

Twitchは、アフィリエイトやパートナーの条件を満たすことで報酬を得られる仕組み。50人以上のフォロワーと、過去30日間に500分以上の配信、7日以上の配信日数、平均3人以上が同時視聴することで収益化が可能となる。

最後発のMildomでは、配信を行うことでランキングに自動的に参加し、視聴数と配信時間に応じて時給が発生。ランキングが上がると収益もアップするため、長時間の生配信を行うなど、ユーザーの「頑張り」に応じて一定の収益は得られるとして人気を集めている。

プロゲーマーとして活躍し、生計を立てていける人というのは、日本ではまだまだ少数派だ。いわばオリンピックの選手のようなもの。しかし、配信者としてなら誰もがデビューできる可能性を持っている。

ただし、視聴数が増え、人気が集まらなければ生活はできない。人気商売という意味では努力が必要なことは、他のあらゆる仕事と変わらない。

配信映えしやすい人気ゲームとトレンドの移り変わり


そんな、プロゲーマーと配信者の垣根がなくなった世界線にいま私たちは立っているわけだが、どうしようもない宿命がある。それが、ゲームには「旬」が存在するということだ。

人気のタイトルの中には、アップデートを積み重ねて長期間支持されているタイトルもある。しかし、流行り廃りや新しいハードウェアの登場、eスポーツシーンの移り変わりといった変化に常に晒され続けることになる。

そのため、「プロゲーマー」としてひとつのタイトルを突き詰めること自体は理想だが、時には「配信者」として好きなゲームを遊んだりすることも必要になる。それが意外性としてファンに新たな一面を見せることにもなる。

ここ数年のトレンドを振り返ってみても、バトルロイヤル系の『PUBG:BATTLEGROUNDS』、『フォートナイト』、『Apex Legends』と人気タイトルが移り変わってきた。『Split Gate』などのタイトルもあったが、人気が定着することはなかった。

2020年頃からの人気タイトルは圧倒的に『フォートナイト』と『Apex Legends』。どちらも子どもの視聴を中心に火がついた

それ以外に、なんでもできるサンドボックスゲームの『マインクラフト』、鬼ごっこのような非対称対戦ゲームの『Dead by Daylight』、人狼ゲームのような『Among Us』なども、偶然性や意外性を楽しみやすいことから配信で採用されることが多い。

VTuberによるゲーム実況も人気のコンテンツ。それぞれの個性や人間性が浮き彫りになる『Among Us』は最適なタイトルだ

そして、以前は難しく理解されにくかったチーム戦のタクティカルシューターも、eスポーツの盛り上がりで増えてきた。特に『VALORANT』は複雑で難しいゲームにもかかわらず、スーパープレイがわかりやすいため視聴者も多い。MOBAの『リーグ・オブ・レジェンド』なども、eスポーツ人気の高まりでかなり定着してきた。

どちらかというとプロゲーマー自身の配信が多いのは格闘ゲーム系だ。『ストリートファイターV チャンピオンエディション』や『THE KING OF FIGHTERS XV』などは、対戦を見る楽しみ方はもちろん、強くなりたい視聴者へのアドバイスとしても何度も再生される強いコンテンツになっている。

格闘ゲームの配信は、テクニックがない初心者では楽しむことが難しく、実力のあるプロ以外ではあまり定着しない


プロゲーマーになれなくても、配信者には誰でもなれる時代へ


eスポーツの世界はまさにスポーツ界と同じだ。プロとして夢をつかんだ選手もいれば、収入はなくてもオリンピックでの名誉に挑み続ける選手もおり、単にアマチュアとして楽しむだけの人もいる。

少し前までは、eスポーツにおいては一握りの「プロゲーマー」だけが認められてきた。しかし今なら、「配信者」という別の道が開けている。eスポーツが切り開いた日本のゲームシーンにおいて、「ゲームで生きていく」ことは夢ではなく現実に考えられるようになってきている。プロゲーマーのセカンドキャリアとして、プロチームの中に「ストリーマー部門」が設けられ、引退した選手がストリーマーとして活動するというのもその流れのひとつだ。

eスポーツは、学歴や運動神経、性別、体格などにとらわれず、ゲームという世界の中で誰もがサクセスできる可能性を提供してくれている。ライバルも多く、常に向上心を持たなければ生きていけない世界でもあるが、プレイヤーとしての才能がなくても、視聴者を楽しませるという努力と才能を発揮できれば、ゲームで生きていくことは不可能ではない。

プロゲーマー、配信者、視聴者という、まったく異なる立場に思える者たちが、実は「配信」という魅力的な行為によってまったく同じ土俵で戦えるというのも稀有なことだ。例えて言えば、Jリーグのトッププレイヤーよりもアマチュアサッカー選手の方が配信のファンが多いようなもの。そんな世界がeスポーツにはあるのだ。

もしゲームやeスポーツに関わって生きていきたいと考えているなら、まずは自分自身で配信することから始めてみよう。プロゲーマーになるにせよ、ゲームで生きていくにせよ、必ずそこから得られるものがあるはずだ。

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます

コラム VIEW ALL