【特集】eスポーツの闇

「スマーフ」行為で得られるものと失われるもの

国際大会「VALORANT Champions Tour」(略、VCT)で盛り上がりを見せる中、『VALORANT』界隈は「スマーフ」というネガティブワードが波紋を呼んでいます。

事の発端は、VTuberとプロeスポーツ選手によるスマーフ疑惑。今回は、そのスマーフがどのような意味を持っているのかを解説しつつ、なぜそのようなことが起きてしまうのかを紐解いていきましょう。

「スマーフ」とは


eスポーツやゲーム業界でいう「スマーフ」とは、身分を隠したり偽ったりして参加する「smurf」という英語からきています。行為自体は「スマーフィング」、スマーフする人たちを「スマーファー」とも呼ばれます。

簡単に言うと「初心者狩り」と呼ばれる行為の総称で、実力のあるプレイヤーが、初心者同士の戦いに参加することを示しています。なぜそのようなことをするのか——。本当の理由はその人にしかわかりませんが、このような理由が考えられます。

  • 上のランクでは勝てないので、下のランクで戦うことで勝利したい
  • 低ランクの友人のランク上げを手伝いたい
  • 単純に弱いものいじめをして憂さ晴らしをしたい

そもそも、基本的に対人戦のあるタイトルには、自分の実力を数値化する「ランクマッチ」というものが存在します。実力が数値化されることでモチベーションや自信につながるのが魅力ですね。

▲『VALORANT』のランク図。アイアン1からはじまり、最高ランクのレディアントまで全20のランクにわけられる

実力があるプレイヤーは実力がある者同士、初心者は初心者同士で戦える仕組み。この仕組みがあるおかげで、初心者は実力の近いプレイヤーと切磋琢磨して実力を上げることができるのです。

▲『ストリートファイターV チャンピオンズエディション』では、ルーキーからはじまり、ブロンズ、シルバーとランクアップしていく。プロ選手はグランドマスター以上のプレイヤーが多い。いきなりウメハラ選手とランクマッチで遭遇しないのもこのシステムのおかげである(出典:Street Fighter Wiki

ランクマッチは本気でゲームに取り組んでいる人にとって、とても大切な試合であり、ランクが上がるうれしさは何物にも代えがたいものでもあります。ランクが上がることをSNSで発信すれば、同じタイトルで頑張っているプレイヤーから賞賛される。それほどまでにうれしい瞬間なのです。

▲『リーグ・オブ・レジェンズ』でゴールドに昇格したケイン・コスギ氏。うれしさのあまりに男泣きしたのは記憶に新しい

こういった本気で取り組んでいるプレイヤーの心を逆なでするような行為がスマーフ。新たにアカウントを作成して初心者を装い、初心者の土俵で戦うという行為です。

FPSでは『エーペックスレジェンズ(Apex Legends)』や『オーバーウォッチ』、『VALORANT』などで目立っていますし、『リーグ・オブ・レジェンド』などでも行われています。

スマーフとブースティング

スマーフと似た用語でブースティングというものがある。ブースティングとは、自分のアカウントのランクを上げるために、上級者に代行してプレイしてもらうことを示している。スマーフとは異なり、自分自身がまったくプレイに関与していないことが大きな違いといえる。

スマーフよりも悪質なもので、代行業者が横行しているタイトルもあるほど。韓国ではブースティングは法律により禁止されていて、ブースティングを行った者には罰金ないし、懲役刑が科せられるほどの重罪となっている。

また、NAのアマチュア女性チームの選手は、ブースティングが理由で、『VALORANT』公式大会「VCT 2021 Game Changers North America Series 3」の出場停止処分が下された。

参考:
http://www.koreaherald.com/view.php?ud=20181209000163
https://www.valorant4jp.com/2021/09/game-changers.html

スマーフは罪になるのか?


スマーフ行為は法的に罰せられる行為ではありません。しかし、初心者狩りを行っている人もいるので、さまざまなタイトルで「許される行為ではない」とされているのが現状です。

当然といえば当然で、アマチュア相撲に突然横綱が参加するようなものだからです。そんなことが日常的に起これば、ランキングシステムは破綻。誰もが新しいことに挑戦する気がうせ、ゲームそのものも衰退していってしまうでしょう。

VALORANTの公式サイトによる見解。「スマーフはいつでも許せないもの」としっかりと明言してある。また、新規アカウントはすぐにランクマッチに参加できないような工夫も施されている

▲『Apex Legends』では「サブアカウントによる不正プレイ(スマーフィング)」が通報の対象項目として追加された。明らかな初心者狩りはゲーム上で罰せられる時代になってきている

このように、法的には裁かれないものの、モラル的にはNGとされているのがスマーフ行為。そんなグレーゾーンギリギリのラインの行為を、国際大会に出場したプロeスポーツチームCrazy Raccoon(CR)のストリーマー部門の選手が行っていたという疑惑から、スマーフというワードがTwitterでトレンド入りし、話題・炎上状態になっていました。

▲CR.おじじこと、Crazy Raccoonオーナーが謝罪ツイートをしたことで話題に

▲同様に選手も謝罪のツイートをしていたようだ

しかしながら、単純に気持ちを切り替えるために複数のアカウントを作成したり、使用するキャラクターごとのランクを確かめたいとの理由で、複数のアカウントを所持している人もいるのも現状。なので、サブアカウントを持っているからといってスマーフをしているとは限らないのも難しいポイントになっています。

『VALORANT』のコンペティティブモード(ランクマッチ)について

『VALORANT』のコンペティティブモードは、チームメンバーのランクが一定以上差があると参加できない仕組みになっている。例えば、ひとりだけものすごく上級者がいて、あとは全員初心者みたいなパーティはNG。

多少の差はOKとされているが、ゴールド帯のチームに、イモータル帯のプレイヤーは参加することはできない。

友達同士ランクが離れている場合は、同じチームとして戦うことができないので、ランクを合わせるためにサブアカウントを所持しているという可能性も考えられる。

ただし、ランキングに左右されないアンレート(カジュアルマッチ)ならば、プレイヤー同士のランク差は関係なくプレイすることができるので、単純に友だちを遊びたいだけならば、こちらのモードを選ぶことで解決できる。

以上のことから、今回の件がスマーフと断定できるものではありませんが、結果的に実力以下のプレイヤーとランクマッチを行ったことにほかならないため、厳しい意見が飛び交っています。

Crazy Raccoonといえば、『VALORANT』部門では絶対王者であった「Absolute JUPITER」(現、ZETA DIVISION)を破り、2度の国際大会へ出場。前回開催された「VCT Stage 3 - MASTERS BERLIN 」では、惜しくも敗退してしまったものの、日本の意地を見せるプレイで日本中を沸かせたばかりです。

そんな注目のチームがこんなことで話題になってしまうのは非常に残念です。また、関係のない同チームの『VALORANT』部門の選手にも誤解を招かれてしまう懸念すらある、センシティブな話題といってもいいでしょう。

▲公式の声明としてTwitterが更新された

結果的にCRおじじの不祥事について所属チームが謝罪文を発表。3ヵ月の活動休止、公式イベント欠場、VALORANTにて活動していた全アカウントの削除、活動再開後も作成するアカウントに関して一年間調査委員会による管理監視を行う事となった。


eスポーツのプロ選手も自分自身を守る知識を


筆者は以前、「VCT Stage 3 - MASTERS BERLIN」のDay7でアツい戦いを繰り広げたCrazy Raccoonのade選手に直接インタビューをしました。彼らが本気で世界と戦っていること、そして彼らが今回の件とまったく関係のないことは筆者自身が感じています。

しかし、eスポーツに詳しくない人から見れば、同じチームに所属しているだけで一緒くたにされてしまう可能性も……。そしてeスポーツに理解のない人たちに、「これだからeスポーツは……」と揶揄するきっかけを与えてしまうのです。

eスポーツのプロ選手も、世界を股にかけて活躍する日本人選手という意味では、大リーグの大谷翔平選手やゴルフの松山英樹選手など、同年代で活躍するリアルスポーツのプロ選手となんら変わりません。プロ選手がアマチュア選手と行動を共にするということは、それ相応の注目を浴びるということを意識しなければならないほどに、eスポーツという業界が大きくなってきたのではないでしょうか。

今回の件もランクマッチではなく、カジュアルマッチであればここまで騒がれてはいなかったと思いますし、本人たちが意図したものではなかったかもしれません。しかし「スマーフ」という曖昧な行為だからこそ、誤解を受けるような行動は避け、プロ選手らしい立ち振る舞いを心がけることが、eスポーツの発展につながるのではと感じました。

eスポーツのプロ選手は、皆が憧れる特別な存在です。今一度襟を正すと同時に、こういった疑惑の行為によって自分自身の立場を危険にさらすことのないよう、慎重な行動が求められるでしょう。

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