【特集】eスポーツの闇
なぜ“事件”が起きるのか? 「eスポーツの闇」を考える
ゲームをすることで収入が得られる、一見とても楽しそうな仕事に思えるプロeスポーツ選手たち。
しかし、「好き」を仕事にすることの難しさ、業界の若さ、収益の不安定さなど、eスポーツを取り巻く現実的な環境はそれほど楽観視できるものではない。
今回は、華やかで楽しそうな表向きの姿に隠れている、eスポーツの闇の部分をご紹介していきたい。
といっても、eスポーツを全否定するものではない。最終的には、そこに関わるヒトが引き起こした問題ばかりだからだ。むしろ、これからeスポーツに携わりたいと考えている人たちにとって、戒めとして知っておくべき「負の側面」をお伝えしたい。
eスポーツの世界的タイトルでは、高額賞金が動き、グローバル企業がスポンサーにつく。選手ひとりの年収が1000万円を超えるのも(海外では)ザラだ。
だからこそ、いろいろな問題も起き始めている。一定のルールの中で戦われるスポーツと同じように考えれば、当然ルールの穴を突いたり、時には悪意のある戦いをする人も出てきてしまう。
ここでは、過去に起きたeスポーツ業界における不祥事をいくつかご紹介しよう。
eスポーツのオンライン大会には、誰もが自宅などから気軽に参加できるが、同時にオンライン上の相手が本当に本人かどうかを確認することが難しいという側面もある。自分よりも腕の立つ誰かが入れ替わってしまっていたとしても、気付くことは難しい。
そんなことを本当にやってしまったのが、電気自動車レース「フォーミュラE」のレーシングドライバー、ダニエル・アプトだ。新型コロナウイルスの影響により、実際のレースが開催できなくなってしまったことから行われたフォーミュラEの公式オンラインレースで、プロゲーマー(レース業界では「シムレーサー」と呼ばれる)を替え玉としてレースに参加させたという。レースの前後で本人確認のためにカメラによる確認をごまかすという、稚拙な行動で発覚してしまった。
結果、レースの失格処分とともに、罰金として慈善事業への寄付が命じられ、さらにフォーミュラEで所属していた自動車メーカーのアウディからは解雇されることとなった。
ちなみに、アプトはのちに自身のYouTubeで謝罪コメントを掲載。Simレーサーにはお金などは一切払っていないこと、軽はずみなアイデアで多くの信頼を失ったことへの後悔を語っている。2021年現在、リアルレースには復帰できていない。
2019年、オーストラリアにおいて、FPSタイトルの『CS:GO』で勝敗を当てる「賭けごと」が行われた。当然、非合法のギャンブルではあるが、さらによくなかったのが参加した選手たちが意図的に勝敗をコントロールしたというところ。20試合以上もこの八百長を繰り返した結果、選手らは逮捕され、刑事責任を問われることになった。
https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-04-24/esports-has-a-dark-side-illegal-betting-match-fixing-doping
eスポーツがギャンブルの対象となることは珍しくなく、同様の事例は数多く起きている。サッカー、テニス、野球といったメジャーなスポーツでも時折話題に上るし、相撲などでも同様だ。
皮肉ではあるが、eスポーツもそれらと同じように、八百長などによる利益を得ようともくろむ者たちから目を付けられるくらいにメジャー化したとも言えるかもしれない。
eスポーツが国の一大ビジネスとなっている韓国でも、八百長の話題は尽きない。コーチからわざと負けるように指示された選手が自殺未遂を起こしたり、わざと負けた結果金銭を受け取ったりと、規模も内容も様々だ。
2015年には『スタークラフト2』において、とあるトップ選手が八百長に加担し、十数人もの逮捕者が出る事態となった。結局、2016年にはこの八百長問題などもあって、韓国プロリーグそのものが幕を下ろすことになってしまった。
そもそもこのeスポーツ賭博自体が違法ギャンブルであり、eスポーツはそのターゲットとして利用されたにすぎない。しかし、意図的な勝負を行うプレイヤーの存在がなければ、八百長は成立しない。選手やチーム関係者のモラルが強く問われる事例と言える。
世界のeスポーツチームは、巨大な資本を持つ大企業が運営するところがほとんどだ。PCメーカー、アパレルメーカー、通信関係会社など、国策として運営されている地域も多い。しかし、2019年に本当の意味でeスポーツ元年を迎えたと言われる日本では、まだまだeスポーツチームの規模の母体の財力も小さい。プレイヤーとして活躍した人が選手を集め、スポンサーを集めて徐々にチーム化していくケースも多く、こうした法人組織の未熟さ、スポンサー収入の不安定さなどから、給与の支払いが滞ってしまったという話は実はよくある。
最近では、日本の野良連合の給与未払いを含む問題が選手や関係者から暴露され、SNSで大きな話題となった。最終的にはオーナーが辞職し、チーム自体は存続している。
強豪eスポーツチームはもはやひとつのブランドでもある。そのイメージを背負って戦う選手たちはもちろん、そこに出資するスポンサー、応援するファンたちに対する裏切り行為以外の何者でもない。
世界ベスト4まで上りつめたが、その後『R6S』部門はREJECTに移籍し、残っていたメンバーも2021年1月に脱退した。
『リーグ・オブ・レジェンド』のブラジル人プロゲーマーが、ファンのコメントに促されるかたちで、Twitchの配信上で17歳の女性プロゲーマーに対して性的な発言をし、物議をかもした。対象となった女性ゲーマーは訴訟する旨をツイートし、本人は謝罪したものの、Twitchは彼を無期限BANしている。
eスポーツには性差や体格差、年齢、文化などの違いがなく、フィジカルスポーツと比較して極めてフラットだという言い方がされる。ダイバーシティという考え方がシンプルに伝わる、稀有な競技であることは間違いない。
ただし、そのことと実際に差別やヘイトが存在するかどうかは別の話だ。特に女性に対する蔑視は、さまざまなかたちでゲーム画面内に表れている。ゲーム内で相手が女性とわかったとたんに侮蔑の言葉やセクハラ発言がチャットされることはザラだし、時には意図的に戦いに影響を及ぼすこともまだまだ多いのだ。
世界最大の格闘ゲームの祭典「EVO2020」。2020年は新型コロナウイルスの影響でオフライン大会が難しくなったため、オンラインでの開催が予定されていた。
しかし、開催まであと1日と迫った7月3日に突然開催中止を発表。原因は、創設者であるJoey Cuellar氏が約20年前にしてしまった未成年者へのセクハラと言われている。直接的には、これを受けてスポンサー各社が撤退を表明したことで開催できなくなってしまった(EVOオフィシャルアカウントからの中止告知ツイートは、9月15日現在、削除されている)。
実はこれ以外にも、「EVO」がらみでのセクハラ事件はさまざまなかたちで表面化してきた。特に米国では近年、セクハラやパワハラに対して厳格な対応がされている。参加者は旅行気分で訪れることも多いが、参加の際にはそういったリスクもあるということを肝に銘じておきたい。
ちなみに、ラスベガスの会場では、英語がわからない参加者や有名ゲーマーに対してサインを求め、それを「契約」と称して不当に金銭を巻き上げる悪質な来場者もいるという。ヒトが集まるところには悪意も存在するもの。会場にいるゲームファンの誰もが善人、というわけではない。
これ以外にも、暴力事件や人種差別問題、プロゲーマーという立場を利用した話などなど、大小含めてさまざまな不祥事が聞こえてくる。プロゲーマー自身が利益を得るものものあれば、被害を受けているものもある。
では、これからeスポーツに携わる者として、もしくはeスポーツのプロゲーマーを目指す立場として、どのように行動すればいいのか。トラブルに巻き込まれないための心構えを考えてみたい。
日本ではまだまだeスポーツは普及の途中と言っても、十分に影響力を持つようになってきている。プロ選手が紹介すればゲーミングデバイスやゲーミングPCが売れるし、配信などでファンと交流すれば、それがニュースになったりもしている。
そのような中でのプロ選手の立ち位置は、テレビなどの「タレント」のようなもの。たとえプライベートであっても、言動や立ち居振る舞いについて、誰かの目があるかもしれないということを意識していくことは必要になる。これは、対企業でも対ファンでも同様だ。
特に、選手は10代〜20代前半の若者が多く、社会との接点があまりないままに、狭い業界内の付き合いや配信などによるオンライン上での関係が増えている。不特定多数に発信するSNSや動画配信だけでなく、特定の個人とだけやりとりをするLINEなども含めて、気を付けるべきだろう。
また、プロになる前のSNSなどの発言についても、掘り返される可能性もある。自分になにか不利な状況が生まれると決まって過去の発言などが引用されることがあるのは政治家などと同じだ。自分自身の身を守る意味でも、そのあたりをしっかり確認しておきたい。
選手自身やチームのPRのための活動と、プロ選手の業務としての活動の線引きは意外と難しい。チームの黎明期であれば、無償のボランティアだとしても自分自身で納得している場合もあるかもしれない。
だからといって、本来得られるはずの収入がもらえなくてもいいということにはならない。ゲーミングハウスで食事と寝床が保証されていると言っても、収入はしっかり得るべきだ。
この点については、どのようなかたちでチームと契約しているのかを、自分自身でしっかり確認することが大切だ。業務とそれ以外の部分を把握しておかなければ、同じようなトラブルに巻き込まれる可能性も出てくる。社員として月額のようなかたちで「給与」をもらっているのか、案件ごとや数カ月の期間単位で「報酬」をもらっているのか、どこまでが規定の範囲で、どこからが別料金となるのかなどだ。
こういった話を聞くのは気が引けるかもしれないが、真摯に答えてくれないオーナーやスタッフだとしたらそれはそれで問題。過去には、きちんとした経理担当を配置していないために支払いが滞ったトラブルなどもある。不明な点はしっかり確認しておきたい。
世間から注目されるような実力を備えれば、多くの関係者からの目も集まるし、場合によってはお金も動く。そんな時に甘い言葉で擦り寄ってくる人もいるだろう。
そういう時に、自分自身だけでは判断できないことに対し、客観的に助言してもらえる存在がいると心強い。それは肉親でも親類でも先輩でもいい。
そしてもうひとつ、甘い誘いや強権的な命令に対して、「No」と言う勇気も必要だ。プロゲーマーは基本的には雇われる立場であり、労使関係で言えば雇い主のチーム側が圧倒的に強くなりがち。しかし、しっかり契約を交わしていれば、メンバーから外される際や自分の意思で引退する際に互いに守るべきプロセスもはっきりする。
すべては、自分の身を守るため。小難しいからと避けたりせず強い心で確認してほしい。
今回ご紹介したのは、「eスポーツの闇」のほんの一部だ。書かなかっただけで、日本国内のチームや選手の不祥事、SNSなどでの炎上事件などはごまんとある。
ただ、それらを指摘して面白がっているだけでは、配信やSNSでヘイト発言を繰り返す悪質なファン(もはやファンではないが)や、ゴシップ雑誌などと変わらなくなってしまう。
eスポーツ業界の末席に身を置く者として大事にしたいのは、せっかく盛り上がったこの状況を守ること。そして、チームや選手たちが正しい評価と適切な対価を受けて、eスポーツがビジネスとして成り立つことだ。
eスポーツ業界は、少なくとも日本においては未成熟な業界だ。賞金や大会数などは海外と肩を並べるくらいになってきたし、テレビなどのマスコミでもeスポーツを取り上げることも増えた。しかしまだまだ中にいるヒトの経験は溜まっていないし、業界的にも成熟していない。
「たかがゲーム」と揶揄された世界が、素晴らしいプレイヤーやプレイングによって誰かの心を動かすほどの魅力を持つことを、多くの人たちが少しずつ認識し始めていることは間違いない。
幸いなことに、新型コロナウイルスの影響が落ち着いてきた頃以降、大きなトラブルは起きてはいないが、これらの不祥事を戒めとして、日本のeスポーツのさらなる発展を祈りたい。
しかし、「好き」を仕事にすることの難しさ、業界の若さ、収益の不安定さなど、eスポーツを取り巻く現実的な環境はそれほど楽観視できるものではない。
今回は、華やかで楽しそうな表向きの姿に隠れている、eスポーツの闇の部分をご紹介していきたい。
といっても、eスポーツを全否定するものではない。最終的には、そこに関わるヒトが引き起こした問題ばかりだからだ。むしろ、これからeスポーツに携わりたいと考えている人たちにとって、戒めとして知っておくべき「負の側面」をお伝えしたい。
世界で起きたeスポーツの不祥事
eスポーツの世界的タイトルでは、高額賞金が動き、グローバル企業がスポンサーにつく。選手ひとりの年収が1000万円を超えるのも(海外では)ザラだ。
だからこそ、いろいろな問題も起き始めている。一定のルールの中で戦われるスポーツと同じように考えれば、当然ルールの穴を突いたり、時には悪意のある戦いをする人も出てきてしまう。
ここでは、過去に起きたeスポーツ業界における不祥事をいくつかご紹介しよう。
別人がプレイした「替え玉問題」(2020年 rFactor2)
eスポーツのオンライン大会には、誰もが自宅などから気軽に参加できるが、同時にオンライン上の相手が本当に本人かどうかを確認することが難しいという側面もある。自分よりも腕の立つ誰かが入れ替わってしまっていたとしても、気付くことは難しい。
そんなことを本当にやってしまったのが、電気自動車レース「フォーミュラE」のレーシングドライバー、ダニエル・アプトだ。新型コロナウイルスの影響により、実際のレースが開催できなくなってしまったことから行われたフォーミュラEの公式オンラインレースで、プロゲーマー(レース業界では「シムレーサー」と呼ばれる)を替え玉としてレースに参加させたという。レースの前後で本人確認のためにカメラによる確認をごまかすという、稚拙な行動で発覚してしまった。
結果、レースの失格処分とともに、罰金として慈善事業への寄付が命じられ、さらにフォーミュラEで所属していた自動車メーカーのアウディからは解雇されることとなった。
ちなみに、アプトはのちに自身のYouTubeで謝罪コメントを掲載。Simレーサーにはお金などは一切払っていないこと、軽はずみなアイデアで多くの信頼を失ったことへの後悔を語っている。2021年現在、リアルレースには復帰できていない。
相手を意図的に勝たせる「フィード問題」(2019年 CS:GO)
2019年、オーストラリアにおいて、FPSタイトルの『CS:GO』で勝敗を当てる「賭けごと」が行われた。当然、非合法のギャンブルではあるが、さらによくなかったのが参加した選手たちが意図的に勝敗をコントロールしたというところ。20試合以上もこの八百長を繰り返した結果、選手らは逮捕され、刑事責任を問われることになった。
https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-04-24/esports-has-a-dark-side-illegal-betting-match-fixing-doping
eスポーツがギャンブルの対象となることは珍しくなく、同様の事例は数多く起きている。サッカー、テニス、野球といったメジャーなスポーツでも時折話題に上るし、相撲などでも同様だ。
皮肉ではあるが、eスポーツもそれらと同じように、八百長などによる利益を得ようともくろむ者たちから目を付けられるくらいにメジャー化したとも言えるかもしれない。
ギャンブルや金銭授受に関わる「八百長問題」(2015年 スタークラフト2)
eスポーツが国の一大ビジネスとなっている韓国でも、八百長の話題は尽きない。コーチからわざと負けるように指示された選手が自殺未遂を起こしたり、わざと負けた結果金銭を受け取ったりと、規模も内容も様々だ。
2015年には『スタークラフト2』において、とあるトップ選手が八百長に加担し、十数人もの逮捕者が出る事態となった。結局、2016年にはこの八百長問題などもあって、韓国プロリーグそのものが幕を下ろすことになってしまった。
そもそもこのeスポーツ賭博自体が違法ギャンブルであり、eスポーツはそのターゲットとして利用されたにすぎない。しかし、意図的な勝負を行うプレイヤーの存在がなければ、八百長は成立しない。選手やチーム関係者のモラルが強く問われる事例と言える。
プロチームによる「給与未払い問題」(2020年 レインボーシックス シージほか)
世界のeスポーツチームは、巨大な資本を持つ大企業が運営するところがほとんどだ。PCメーカー、アパレルメーカー、通信関係会社など、国策として運営されている地域も多い。しかし、2019年に本当の意味でeスポーツ元年を迎えたと言われる日本では、まだまだeスポーツチームの規模の母体の財力も小さい。プレイヤーとして活躍した人が選手を集め、スポンサーを集めて徐々にチーム化していくケースも多く、こうした法人組織の未熟さ、スポンサー収入の不安定さなどから、給与の支払いが滞ってしまったという話は実はよくある。
最近では、日本の野良連合の給与未払いを含む問題が選手や関係者から暴露され、SNSで大きな話題となった。最終的にはオーナーが辞職し、チーム自体は存続している。
【皆様へのお知らせ】
— 麻党きぞく@大麻の政治家(党首代理) (@kizoku_noraren) August 30, 2020
長きにわたり応援ありがとうございました pic.twitter.com/ZiePJCaqzI
強豪eスポーツチームはもはやひとつのブランドでもある。そのイメージを背負って戦う選手たちはもちろん、そこに出資するスポンサー、応援するファンたちに対する裏切り行為以外の何者でもない。
世界ベスト4まで上りつめたが、その後『R6S』部門はREJECTに移籍し、残っていたメンバーも2021年1月に脱退した。
【報告】
— 野良連合(Nora-Rengo) (@norarengou) January 15, 2021
papilia選手(@papilia8121 )
Yoshingo選手(@YoshiNNGO )
Candy選手(@CandyZeppeli )
Simotuki選手(@Simotuki_R6 )
4名が野良連合を脱退致します。
各選手野良連合へ多大なる貢献をして下さった選手です。
本当にありがとうございました。
今後の選手の、ご活躍をお祈り申し上げます。
女性プレイヤーへの「性差別問題」(2020年 リーグ・オブ・レジェンド)
『リーグ・オブ・レジェンド』のブラジル人プロゲーマーが、ファンのコメントに促されるかたちで、Twitchの配信上で17歳の女性プロゲーマーに対して性的な発言をし、物議をかもした。対象となった女性ゲーマーは訴訟する旨をツイートし、本人は謝罪したものの、Twitchは彼を無期限BANしている。
1/ O INTZ vem por meio desta manifestar nosso veemente repúdio ao ato cometido pelo Sr. Pedro Marcari em relação à nossa atleta profissional e streamer Júlia Mayumi, no último dia 25.01.2020.
— INTZ (@INTZ) January 27, 2020
O conteúdo produzido de cunho difamatório e injurioso no domínio e + pic.twitter.com/v2CFj7YI2G
eスポーツには性差や体格差、年齢、文化などの違いがなく、フィジカルスポーツと比較して極めてフラットだという言い方がされる。ダイバーシティという考え方がシンプルに伝わる、稀有な競技であることは間違いない。
ただし、そのことと実際に差別やヘイトが存在するかどうかは別の話だ。特に女性に対する蔑視は、さまざまなかたちでゲーム画面内に表れている。ゲーム内で相手が女性とわかったとたんに侮蔑の言葉やセクハラ発言がチャットされることはザラだし、時には意図的に戦いに影響を及ぼすこともまだまだ多いのだ。
創設者による過去の「セクハラ問題」(2020年・EVO)
世界最大の格闘ゲームの祭典「EVO2020」。2020年は新型コロナウイルスの影響でオフライン大会が難しくなったため、オンラインでの開催が予定されていた。
しかし、開催まであと1日と迫った7月3日に突然開催中止を発表。原因は、創設者であるJoey Cuellar氏が約20年前にしてしまった未成年者へのセクハラと言われている。直接的には、これを受けてスポンサー各社が撤退を表明したことで開催できなくなってしまった(EVOオフィシャルアカウントからの中止告知ツイートは、9月15日現在、削除されている)。
実はこれ以外にも、「EVO」がらみでのセクハラ事件はさまざまなかたちで表面化してきた。特に米国では近年、セクハラやパワハラに対して厳格な対応がされている。参加者は旅行気分で訪れることも多いが、参加の際にはそういったリスクもあるということを肝に銘じておきたい。
ちなみに、ラスベガスの会場では、英語がわからない参加者や有名ゲーマーに対してサインを求め、それを「契約」と称して不当に金銭を巻き上げる悪質な来場者もいるという。ヒトが集まるところには悪意も存在するもの。会場にいるゲームファンの誰もが善人、というわけではない。
eスポーツの不祥事から何を学ぶか
これ以外にも、暴力事件や人種差別問題、プロゲーマーという立場を利用した話などなど、大小含めてさまざまな不祥事が聞こえてくる。プロゲーマー自身が利益を得るものものあれば、被害を受けているものもある。
では、これからeスポーツに携わる者として、もしくはeスポーツのプロゲーマーを目指す立場として、どのように行動すればいいのか。トラブルに巻き込まれないための心構えを考えてみたい。
eスポーツの影響力を認識する
日本ではまだまだeスポーツは普及の途中と言っても、十分に影響力を持つようになってきている。プロ選手が紹介すればゲーミングデバイスやゲーミングPCが売れるし、配信などでファンと交流すれば、それがニュースになったりもしている。
そのような中でのプロ選手の立ち位置は、テレビなどの「タレント」のようなもの。たとえプライベートであっても、言動や立ち居振る舞いについて、誰かの目があるかもしれないということを意識していくことは必要になる。これは、対企業でも対ファンでも同様だ。
特に、選手は10代〜20代前半の若者が多く、社会との接点があまりないままに、狭い業界内の付き合いや配信などによるオンライン上での関係が増えている。不特定多数に発信するSNSや動画配信だけでなく、特定の個人とだけやりとりをするLINEなども含めて、気を付けるべきだろう。
また、プロになる前のSNSなどの発言についても、掘り返される可能性もある。自分になにか不利な状況が生まれると決まって過去の発言などが引用されることがあるのは政治家などと同じだ。自分自身の身を守る意味でも、そのあたりをしっかり確認しておきたい。
業務としての契約をしっかり把握する
選手自身やチームのPRのための活動と、プロ選手の業務としての活動の線引きは意外と難しい。チームの黎明期であれば、無償のボランティアだとしても自分自身で納得している場合もあるかもしれない。
だからといって、本来得られるはずの収入がもらえなくてもいいということにはならない。ゲーミングハウスで食事と寝床が保証されていると言っても、収入はしっかり得るべきだ。
この点については、どのようなかたちでチームと契約しているのかを、自分自身でしっかり確認することが大切だ。業務とそれ以外の部分を把握しておかなければ、同じようなトラブルに巻き込まれる可能性も出てくる。社員として月額のようなかたちで「給与」をもらっているのか、案件ごとや数カ月の期間単位で「報酬」をもらっているのか、どこまでが規定の範囲で、どこからが別料金となるのかなどだ。
こういった話を聞くのは気が引けるかもしれないが、真摯に答えてくれないオーナーやスタッフだとしたらそれはそれで問題。過去には、きちんとした経理担当を配置していないために支払いが滞ったトラブルなどもある。不明な点はしっかり確認しておきたい。
信頼できる相談相手&断る勇気を持つ
世間から注目されるような実力を備えれば、多くの関係者からの目も集まるし、場合によってはお金も動く。そんな時に甘い言葉で擦り寄ってくる人もいるだろう。
そういう時に、自分自身だけでは判断できないことに対し、客観的に助言してもらえる存在がいると心強い。それは肉親でも親類でも先輩でもいい。
そしてもうひとつ、甘い誘いや強権的な命令に対して、「No」と言う勇気も必要だ。プロゲーマーは基本的には雇われる立場であり、労使関係で言えば雇い主のチーム側が圧倒的に強くなりがち。しかし、しっかり契約を交わしていれば、メンバーから外される際や自分の意思で引退する際に互いに守るべきプロセスもはっきりする。
すべては、自分の身を守るため。小難しいからと避けたりせず強い心で確認してほしい。
まとめ
今回ご紹介したのは、「eスポーツの闇」のほんの一部だ。書かなかっただけで、日本国内のチームや選手の不祥事、SNSなどでの炎上事件などはごまんとある。
ただ、それらを指摘して面白がっているだけでは、配信やSNSでヘイト発言を繰り返す悪質なファン(もはやファンではないが)や、ゴシップ雑誌などと変わらなくなってしまう。
eスポーツ業界の末席に身を置く者として大事にしたいのは、せっかく盛り上がったこの状況を守ること。そして、チームや選手たちが正しい評価と適切な対価を受けて、eスポーツがビジネスとして成り立つことだ。
eスポーツ業界は、少なくとも日本においては未成熟な業界だ。賞金や大会数などは海外と肩を並べるくらいになってきたし、テレビなどのマスコミでもeスポーツを取り上げることも増えた。しかしまだまだ中にいるヒトの経験は溜まっていないし、業界的にも成熟していない。
「たかがゲーム」と揶揄された世界が、素晴らしいプレイヤーやプレイングによって誰かの心を動かすほどの魅力を持つことを、多くの人たちが少しずつ認識し始めていることは間違いない。
幸いなことに、新型コロナウイルスの影響が落ち着いてきた頃以降、大きなトラブルは起きてはいないが、これらの不祥事を戒めとして、日本のeスポーツのさらなる発展を祈りたい。
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