【特集】eスポーツの闇

有名配信者に拡大する「スナイプ」被害。身を守る方法とは?

2022.12.9 宮下英之
リーグ・オブ・レジェンド』(LoL)のゴールドランク挑戦で話題となった川島ofレジェンドこと、お笑いコンビ「はんにゃ」の川島章良さん。

その配信はTwitchで行われており、YouTubeでも再編集した動画が投稿されている。そのYouTubeアーカイブで、2021年10月24日にある動画が投稿された。タイトルは「日々増え続けるスナイプに悩まされています」というもの。


他にも、スタンミじゃぱんさん清川麗奈さんらも被害を訴えており、もはや“有名配信者だから”という理由だけで片付くような問題ではなくなっている。



今回は『LoL』を中心に、「スナイプ」とはどんな行為なのかを関連する悪質行為とともに解説してみたい。そして、万が一こうした状況に出くわしたときにどう対処すればいいか、読者の皆さんも一緒に考えてみてほしい。


特定のユーザーを狙い撃ちする「スナイプ」とは


「スナイプ(Snipe)」とは、特定のプレイヤーと同じマッチ内に入るのを意図的に狙うことを意味した言葉。本来の意味は「狙い撃つ」で、FPSなどで遠距離から敵を狙う「スナイパー」もこの言葉から来ている。

その行為自体はたまたま偶然のこともあるが、「スナイプ」が迷惑行為と言われている理由は、特定の個人または対戦中の全員に対して、アンフェアな対戦を強いるからだ。

その悪質な例が、川島さんにつきまとっていたプレイヤー。関連した迷惑行為として「ゴースティング」や「チーミング」といった行為や、「スマーフ」「トロール」なども重複しているケースもある。スマーフについては
「スマーフ」行為で得られるものと失われるもの」をご覧ください。

オンラインゲームにおける迷惑行為

ゴースティング
幽霊(ghost)のように配信者にとりついて、彼らの行動を配信から調べ上げる行為。マッチングするための「スナイプ 」のほか、試合の最中に配信をみて本来ならわからない行動や戦略、居場所などを知る行為も含まれる。

チーミング
敵味方関係なくプレイヤー同士が一緒になって(teamを組み)、相談しながらプレイすること。チームが別れた際にも敵の情報を共有したり、敵に有利な行動をしたりする。いわゆるスパイのような行動。

スマーフ
身分を偽る「smurf」が語源。本来のプレイヤーの強さからかけ離れたレベルで戦う行為。主に、本来よりも下のランクで戦うことを指す、いわゆる弱いものいじめのような状態。

ブースティング
レベルの高い選手がレベルの低い選手と一緒に戦うことで、レベルが低い選手を意図的に強化(Boost)すること。主にランクマッチにおいて、『LoL』や『Apex Legends』でプロゲーマーが一般人の友達と遊び、実力以上にランクを上げるようなケースを指す。

トロール
ネタや荒らし行為といった意味の「troll」が語源。相手を全く攻撃しない、味方を助けない、意図的にやられてしまうといった行動を指す。最初からやる気がない者もいれば、プレイの途中から何もしない者もいる。

インティング
「Intentional feeding」の略で、「意図的にエサになる」行為のこと。あえて相手の餌食になって相手に有利な状況を作り出すことを言う。トロールとも似ている。

AFK
「Away From Keyboard」の略で、席を離れる=ゲームを放置することを指す。回線切断するだけでなく、オンラインでもまったく動かないようかケースもAFKと呼ばれる。ちなみに、回線速度低下による一時的な離脱のような故意ではない行動もAFKとみなされるケースもある。


そもそもオンラインゲームは友達申請が通れば一緒に戦えるわけで、身内とも一緒に遊べるし、有名配信者などとも友達になれれば遊べる、垣根の低さが魅力でもある。

しかしスナイパーたちの目的はそこではない。一緒に遊びたいのではなく相手に迷惑をかけることが目的なのだ。

彼らは好きな子にイタズラしたり、悪目立ちすることでしか自己主張できない小学生のような、幼稚な発想のかわいそうなプレイヤーたちだ。そのことを念頭に置くと、彼らの行動の目的も意図も理解しやすくなるかもしれない。


狙ったターゲットを「スナイプ」できる理由


スナイプするための条件はそれほど複雑ではない。『LoL』をはじめ、多くのランクマッチでの条件は
  1. スナイプしたい相手とマッチング可能なランク帯(プレイヤーの腕前を示すゲーム内の指標)であること
  2. 同じタイミングにマッチングすること
の2点だ。

スナイパーたちはスナイプをするためだけに、アカウントのランクをターゲットと同じランク帯に調整したりもしている。自分よりも高い場合も低い場合も、複数のサブアカウントを使い分けることもあるという。

 ランクマッチは上下のランクとだけマッチングする仕組み。ブロンズであればアイアンとシルバーしかマッチングできない

スナイプするためだけにランクを合わせるという“やる気”には頭が下がるばかり……と思いきや、その時間を短縮するためにアカウント売買サイトを利用するケースもあるようだ。

もちろん、アカウントの売買は『LoL』においても他のオンラインゲームにおいても原則禁止されているが、実際にそういったサービスは存在している。しかも、最弱クラスのアカウントのように、本来であれば誰も欲しがらないようなアカウントが実際に売買されている。

つまり「アイアン4のアカウント」というニーズがあるということだ。



マッチングするタイミングについてはターゲットの配信を見ていれば、今プレイしているのかマッチング中なのかはわかる。そのため、タイミングを合わせてマッチングすれば出会える可能性は高くなる。

たとえば、複数のメンバーでひとりをスナイプしたい場合、いっせいにマッチングを始めるために全員で時刻を合わせるといった行為も行われている。


「スナイプ」はターゲット以外の全員にも影響を及ぼす


「スナイプ」がeスポーツタイトルにおいて悪質だといわれる理由に、「意図的にターゲットの戦績やプレイを妨害することで、ターゲットをおとしめることができる」点がある。

『LoL』をはじめとするチームバトルのゲームは、誰かひとりが欠けただけでも勝利することは難しくなる。それが複数いる、さらにゴールドを目指して努力している川島さんのランクマッチのような場で行われるとなれば、試合が崩壊するのは目に見えている。

配信者の場合、配信自体がショーであり仕事でもある。そのような場で意図的に邪魔をすることは、業務妨害とも言えるだろう。どれだけ意欲があるプレイヤーであっても、度重なる邪魔に遭えばやる気はなくなってしまう。川島さんのケースでも、最後は諦めムードになっていた。

スナイプを仕掛ける者の多くは、歪んだ意味で「構ってほしい」「注目されたい」というプレイヤーたちと考えられる。一緒にプレイする友だちもなく、本気で戦う情熱も持っていない、かわいそうでダサいプレイヤーなのは確かだ。


「スナイプ」から身を守るには


では、スナイプの被害を受けないために配信者側にできることはないのか、考えてみよう。

配信サービスのディレイ機能を使う

TwitchやYouTube Liveに用意され、実際のプレイ時刻よりも配信時刻を遅らせられる「ディレイ」機能を利用すること。配信されているのは少し過去の映像となるため、スナイプされる心配は減る。

ただし、この方法ではリアルタイムにファンと交流することができなくなる。また、多少の遅延はあってもだいたいのプレイ時間は配信を見ていればわかるので、完璧な対策とは言えない。

「YouTube Live」に用意されている「ライブ配信の遅延」機能。同様の機能はTwitchなどにもある

スナイパーに情報を与えない

スナイパーに情報を明かさない工夫をすること。たとえば、マッチングしているかどうかわからないように、マッチング中(InQ中)はあえてゲームとは別の画面を表示させるなどして、マッチング状態かどうかを隠すことができる。

ただしこれもある程度の時間は察知されてしまうので、根本的な解決とは言えない。

プレイヤーをブロックする

不幸にもそういったプレイヤーと試合をせざるをえなくなったときには、試合後に「ブロック」することで、次回以降のマッチングを阻止することができる。

悪質なプレイヤーはすぐに別のアカウントを育てて入ってくるだろうが、とにかく2度と一緒にプレイしなくて済むようにしておくに越したことはない。

試合後のプレイヤー画面で右クリックすると、「ブロック」という項目が現れる

試合後&試合前にしっかり運営に通報する

対処療法となってしまうが、もしスナイプに遭遇したらそのユーザーをブロックし、必ず試合後に運営に報告することも大切だ。

運営サイドにはプレイヤーのアカウントやマッチングの履歴がしっかり残っているため、スナイプだと認定されればアカウント停止や永久バン(アカウントの削除)といった対応を取ってくれることもなくはない。実際、川島さんの動画でスナイプしていたプレイヤーは、その後BANされたようだ。

特に、ブロンズやシルバーといった低ランク帯のプレイヤーは「自分が下手だから……」と思ってしまいがちだが、自分のランクが低いからといって不正を働くプレイヤーを指摘してはいけないということはない。自分ひとりだけの通報で確定するわけではないので、安心して通報しよう。

試合後の画面でプレイヤーにカーソルを合わせると出てくる、「!」ボタンを押すと通報が可能。必ず具体的な内容も添えよう

2021年からは、マッチング段階で通報する機能も追加された。何度もスナイプされ続けたら、試合が始まる前に通報してから抜けよう

ペナルティ覚悟で「ドッヂ」してマッチを抜ける

もし何度もマッチングするプレイヤーが固定されてきたら、そのプレイヤーが来たらすぐにマッチを抜けるという方法もある。いわゆる「Dodge(ドッヂ)」だ。

一般的には、自分が使いたいキャラクターやマップではない時、一緒にプレイしたくないプレイヤーがいるときなどに抜けることを指し、これ自体は違反でもなんでもない。ただし、一度マッチを抜けると再度プレイするまでに待ち時間がかかってしまう。

これはランク帯によっても異なり、高ランクになると抜ける側のリスクも大きくなる。スナイプするプレイヤーがいるせいで、プレイ時間が短くなるという被害を受ける。それでも、無理に試合をプレイしてまったく関係のないほかのプレイヤーにも被害が及ぶと考えれば、積極的に「ドッヂ」してしまった方がいいだろう。

なお、スナイパーと見られるプレイヤーのサモナーネームなどをSNS等で公表したりすることは、かえって攻撃の手を強めてしまう可能性があるため、あまりオススメできない。そもそも、気合の入ったスナイパーは複数のアカウントを持ってあらゆる手で攻めてくるからだ。

そのときの気持ちは収まるだろうが、世の中には同情してくれる人もいる一方で、より大きな悪意を持って接してくる人もいる。自分を守るためにも下手に刺激しない方がいいだろう。


「スナイプ」の根本的な解決策は運営側の対応次第


残念ながら、スナイプを行うプレイヤーはいなくなることはないだろう。これらはシステムの仕様上仕方のない部分もある。でも、根本的な解決策もいくつか考えられはする。

たとえば、すべてのプレイヤーはひとつのアカウントしか所持できず、身分証明と紐づけて個人を特定できるようにすれば、実行するプレイヤーは減るだろう。

または、2個目以降のアカウントは有料にしてむやみに作れないようにしたり、本名でしかアカウントが登録できないようにする方法もあるかもしれない。

ただし、これらはオンラインゲームの自由なプレイングを阻害することにもつながるため、運営側としてもやりたくないはずだ。現状では、プレイヤーたちが悪質なプレイヤーを通報し、運営側に対応してもらうことを期待するしかない。


悪質な行為はいずれ自らの身を滅ぼす


eスポーツが「高額な賞金」「膨大なファンの視聴数」「オフライン大会でのチケット収入」などが見込めるようになってきたことで、以前よりも悪質な行為に対する厳格な対応は増えた。2021年だけで見ても、プロ選手の不正行為や過去のSNSでの発言などから、最悪チームを脱退するようなケースも見られる。

その点では、「スナイプ」は結局個人が特定されず(もしくは特定されてもアカウントを消せば逃げられる)、逃げ切れると思われているかもしれない。しかし、インターネット上の個人情報の取り扱いも時代とともに変化している。ライアットゲームズも当然のことながらアカウント情報を会社として所持しており、必要に応じて情報公開をする可能性もなくはない。

有名配信者をターゲットにして話題になったことは、裏を返せば大きな問題として社会が認識したということでもある。すでに動画ではすべてのプレイヤーの名前が公開されており、容易に調べることもできる。もはや「スナイプ」は、本人にとっても大きなリスクを伴う行為だ。普通にプレイしたくてもレッテルが貼られてしまえば自由で楽しいゲームが遊べなくなる。

「スナイプ」という行為は、一時の充足感しか得られない無駄な行為だということを自覚し、素直にゲームを楽しめるようになる時代がくればうれしい限りだ。

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