【特集】 eスポーツ言いたい放題

【eスポーツ言いたい放題 2025-2026〈第3話〉】 高額賞金、有料配信……eスポーツとお金の話

2026.6.3 宮下英之
2026年度のeスポーツを展望するキーワードをもとに語り合う「eスポーツ言いたい放題」

第1話では、『スト6』や『Apex Legends』に焦点を置きつつ、ここ最近のeスポーツシーンを、第2話では、絶大な人気を誇る『VALORANT』や『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』について考えてみた。

第3話はeスポーツと切っても切れない、でも大きな声では言いにくい“お金”のハナシ。最近では政治絡みの話題にもeスポーツが登場している。引き続き、ラフでゆる〜い部分はご容赦いただきつつ読んでみてほしい。

宮下英之
eSports Worldの企画・立ち上げから関わっている中堅編集者。『LoL』ではついにシルバーに到達したものの、また大きな壁にぶつかり、サポートからレーン変更を検討中。モルガナOTP。

井ノ川結希(いのかわゆう)
eSports Worldの企画・立ち上げから関わっている編集者兼ライター。『スト2』全盛期から格闘ゲームにどハマりするも、ふとしたきっかけで『Counter-Strike: Global Offensive』をプレーしFPSに足を突っ込む。そんなこんなで今では、『ストリートファイター6』や『VALORANT』がメインの担当に。ゴルフにはまりすぎてeスポーツ界隈の人とラウンドするきっかけをうかがってしまうゴルフ女子。

「Esports World Cup」の“高すぎる賞金”で見えたもの


井ノ川:続いてのテーマは、賞金、お金、政治と、さまざまな思惑が絡んでいるeスポーツの健全性についてです。

宮下:特に、サウジアラビアで開催された世界最大級のeスポーツ大会「Esports World Cup 2025」(EWC 2025)の、7000万ドル(約105億円。1ドル=150円換算)というとんでもない賞金額には驚きましたよね。スト6部門は「SFL」のリーガーに加え、プロもアマチュアも参戦したし、日本勢がすごく活躍しました。もちろんそれでいいと思うんだけど、なんかちょっと引いちゃったんですよ、自分的には。

井ノ川:餓狼伝説 City of the Wolves』とか、2025年2月にリリースされたばかりなのに優勝賞金が日本円で約2億円とか、露骨な賞金額でしたもんね。人気を賞金で買うという感じで。他のタイトルでも、「EWC 2025」のためだけに部門を設立したチームもある。一攫千金じゃないけど、そういう印象はありました。

「EWC 2026」の賞金総額はさらにアップして7500万ドル(約112億5000万円)。「LIFE-CAHNGING PRIZE POOL」の文字通り、人生を変えてしまうほどのインパクトがある

宮下:実際のところ、チームが部門や選手を集めることは、経営判断という意味で必要だとは思うんです。参戦に際して最大100万ドルまで資金提供される「クラブパートナープログラム」も魅力的だし、チーム対抗戦という仕組みを作って参戦チームを増やそうともしていたし。

井ノ川:そこは普通のスポーツも一緒で、やっぱり勝って賞金があるとかスポンサーがつくとかしないと生活もできないし、それがあるからプロとして活動できるのであって。賞金とか報酬がないと「プロと超うまいアマチュアの差って何?」とも思われてしまいますからね。

Esports Foundation クラブ・パートナー・プログラム

Esports Foundationが実施する、独自のパートナーシップ制度。クラブが資金を活用して、選手の個性、才能などを際立たせるマーケティングやストーリーテリングを通じて、ブランドとファン層の拡大を図れるように資金提供などを行うもの。世界中で40のクラブのみが選出され、3年間で1億ドル以上が各クラブに直接配分された。2026年は日本からREJECTZETA DIVISIONが選出され、総額2000万ドル規模、各クラブに対し最大100万ドルの資金提供が行われる。戦略的な指導や国際的な露出の機会を提供することで、「EWC 2026」に向けた準備期間および大会期間中を通じて、各クラブのブランド拡大やファン層の拡大を支援する。

宮下の主張:大会はメーカーが主催すべき


宮下:ただ、自分が一番違和感を感じたのは、主催者がメーカーじゃないってところ

「EWC」自体は、もともとコロナ禍に慈善団体への寄付を目的として始まった大会でしたが、その後サウジアラビアのeスポーツ団体になって、賞金額がどんどん大きくなっていった。しかも、賞金はもちろん、イベントの設営、運営、配信などにもお金がかかっているわけですから、とんでもない規模ですが、誰が儲けていて何の得があるのかがよく分からなくもなってきている

井ノ川:スポンサーをみても、この金額が出せるわけじゃないと思うし、eスポーツで儲けたいってわけではなさそうですよね。一部で言われているように、eスポーツを盾にして何かを隠そうとしているとか、ここまでeスポーツを推進する旨みがないとこんな莫大な資金を投入することなんてしないとどうしても思えてしまいます。

宮下:どこか違和感はありますね。若いプレーヤーたちの熱狂を報じる裏で、eSports Worldとしてもこの大会をどう扱うべきか、ということも我々も何度も話し合いました。

井ノ川:結局、サウジアラビアが2027年に開催予定と言われていた「オリンピックeスポーツゲームズ」の話もなくなってしまいましたし、ホルムズ海峡のニュースもあって「EWC 2026」の開催地もパリに移ってしまった。資金面でのほころびも出てくるんじゃないかと思います。

関連記事:IOCとサウジアラビア、2027年に開催予定だった「Olympic Esports Games」での協力関係を解消
https://esports-world.jp/news/55432

宮下:そういう意味で、ライアットゲームズカプコンがやっているように、ゲームのメーカー自身が世界大会を主催するのが一番いいとは思うんです。賞金額も売上の一部なわけだからエコシステムも成立しているし、ゲームを売ることと大会を成功させることの両方が、結果的に自社の利益につながるから頑張る理由もある。個々の大会は各地に任せるとしても、あくまで手綱は本社が握るというかたちで。

井ノ川:『VALORANT』とかは、主催はあくまでライアット自身がやっていますね。

宮下:とはいえ、出場する選手たちを否定するつもりはないんです。賞金は自分たちの生活を支えるためだったり、そのゲームを続けていくための原動力だし、実力で掴み取った勝利は誰に文句を言われる筋合いもない

井ノ川:GO1さんやLaggiaさんなんて、まさにゴールドラッシュそのものでしたからね。

「EWC 2025」餓狼伝説 CotW部門の決勝。xiaohai選手を破ったGO1選手の涙は印象的だった

宮下:ゲーマーにとっては優勝したら「Make dreams come true」でいい。だからこそ一国だけじゃなくIOCみたいに国際団体を作っていろいろな国が関わっていく必要はあるのかなって思ってしまいます。そしてそれは、「EWC」におけるサウジアラビアではだめだろうと。

井ノ川の反論:大会はメーカーがやっちゃダメ


井ノ川:ただ、私は主催者についてはまったく逆で、メーカーが大会を開いちゃダメだと思っているんです。外部の団体とかが運営していろいろなタイトルをやってくれる方が、健全なんじゃないかと。

そういう形でないと、採用タイトルの選定がメーカー側の意向やスポンサードの力関係に左右されやすくなってしまう。それって、競技シーン全体の健全性という意味では、少し偏りが出る構造だとも感じていて——。「EWC」に限らず、大会を主催する団体がもっとあってもいいのかなって思います。

宮下:海外で言えばESLっていうドイツの運営会社が『LoL』とか『Dota 2』の世界大会を行っていましたね。もともと「Dream Hack」を主催していた団体で、コミュニティから発展してeスポーツ大会になっていったという意味では「EVO」とかとも同じ。

大会を運営する会社がゲームのIPを借りて、さまざまなゲームの大会をやる健全さは私も感じます。「EWC」に関しても警戒しすぎな部分もあるのかな。

井ノ川:ただ、『餓狼伝説CotW』が採用された背景についても、「SNKがサウジ資本になった影響があるんじゃないか」という声はありますよね。もちろん真偽は別として、そういう見方が出てくる時点で、eスポーツの難しさを感じます。

結局、eスポーツって「競技」である前に、各メーカーが作っている「商品」でもあるじゃないですか。フィジカルスポーツみたいに、誰のものでもない普遍的な競技とは構造が違う。ここはeスポーツの難しいところで、普遍的なタイトルってゲームである以上はありえないじゃないですか。

たとえば『Counter-Strike 2』は定番タイトルのひとつではありますけど、それもValveがビジネスとして展開しているゲームですし。競技シーンそのものが、企業や資本、タイトルの寿命と切り離せない。この辺りはeスポーツ特有の難しさだと思います。

宮下:その辺は、フィジカルスポーツでも柔道や水泳などのルールが移り変わっていくのと、ゲームのアップデートによる変更や続編への移行なども同じかもしれませんね。それを誰が決めるのかという点はありますが。

井ノ川:もちろん、ゲームメーカーが競技シーンを支えてきた功績は大きいと思っています。ただ、その一方で、eスポーツをフィジカルスポーツに近い競技として扱っていくのであれば、IPホルダーが競技構造そのものを強く握っている現状は、今後見直されていくべきだとも感じています。

現状って、競技タイトルの採用、ルール、賞金規模、大会の継続性まで、かなりメーカー側の判断に依存しているじゃないですか。もちろんゲームなので当然ではあるんですが、それだと競技の中立性とは少し違う構造にも見える。

逆に、そこを切り分けられないのであれば、無理にフィジカルスポーツ的な競技として定義するより、今まで通り「ゲーム大会」「エンタメイベント」として、もっと自由でカジュアルな立ち位置に回帰する方向も自然なんじゃないかと思っています。

「CAPCOM CUP 12」が投げかけたeスポーツ有料配信の価値


宮下:お金の話といえば、「CAPCOM CUP 12」の配信有料化も話題になりました。内部の方の発言もあって、eスポーツ部門と開発部門が別動隊という話にもなり。

井ノ川:ありましたね。そんなの聞いてないよ、みたいなことになって。

参考:
【ストリートファイター6】SFリーグ+カプコンカップ12有料配信の是非——問われるプライスバリュー

宮下:メーカーが何のためにeスポーツをやるかと言えば、販売プロモーションであり、ゲーム自体の寿命を伸ばすため
。つまり、eスポーツという形で大会をやってファンがついていて、新キャラやDLCなどが何年も売れ続ければ、それを開発に回せるというサイクルが生まれるからだと思います。

裏を返せば、eスポーツをやらないのは、ゲームが売れずユーザーもいないから。販促に予算をかけられないのはある意味では自然な話ですよね。『レジェンド・オブ・ルーンテラ』とかはeスポーツ大会などは早期に終了しましたが、ゲームとしては細々と生きています。

大会や競技としてゲームを活用することには何のマイナスもない……はずなんだけど、もし大会をやっても儲からないなら、メーカーとしてはやる意味がない。ゲーム開発も大会運営も両方やっているカプコンが、eスポーツ部門単体で儲けてくれ、って話になる理由も痛いほどよく分かります。イベント運営会社などもそのタイトルを採用する意味がない。

井ノ川:そうですよね。

宮下:我々メディアも、原資がなければそもそも記事が作れません。予算があるから記事が増やせて、ページビュー(PV)が取れたら規模が大きくなったりもするけど、取れなかったら縮小していくという構造はまさに同じ。資金とPV、どちらかが先にないと運用は難しいです。

だから、自分は「CAPCOM CUP 12」の配信有料化にはいろんな意見もあったけど、「こういうフェーズに入っていくんだな」って結構冷静に受け止めてました。

井ノ川:ただ、そういう部分は理解したとしても、発表の仕方が悪すぎましたよ。導入の時点ですごく不快感を覚えてしまった。

宮下:戦略ミスでしたね。

井ノ川:なんで賞金総額みたいに「今年はすげえ!」って思わせてくれる時はカプコンの代表が出てくるのに、「配信を有料化します」って発表の時は外部MCのアールさんにやらせるのか、ってところにファンは怒ってたわけで。MenaRDも言っていましたが、「他の国の人たちのことも考えてるのかな?」と疑問にも思いました。


宮下:彼は「ドミニカのファンが見てくれない」って嘆いてたんですよね。結果的に海外でも有料化されましたし。

井ノ川:価格についても、1日だけ、1試合だけの大会に「そんなに大金払えるのか?」みたいなところってあるじゃないですか。それも現地観戦だったらいいんですけどオンライン配信。海外のファンは時差があるのにその時間で生で見るチケット代がこの価格って……みたいな。しかも、今までタダだったのに。

宮下:有料で配信するeスポーツの大会もそれほど多くはないですよね。直近だと『LoL』の「KeSPA」がディズニー+で配信してたけど……。

韓国の『LoL』の大会「KeSPA CUP 2026」はディズニープラスでの独占配信。ディズニーはさまざまなスポーツを放映するESPNを傘下に持っており、eスポーツの「放映権ビジネス」の始まりを予感させる(https://www.disneyplus.com/ja-jp/browse/entity-3822cae8-2100-4198-8fb3-09004297f11d

井ノ川:「SFL 2025 Pro-JP」も、プレーオフだけは有料配信でした。結構見ていた人も多かったんじゃないかな。

宮下:良くも悪くもカプコンという日本のeスポーツでトップを走っている会社が、eスポーツ大会の放映権に最初にメスを入れた出来事ではありましたね。もっともっと大きくなっていけば、F1とか五輪みたいに放映権料を取って配信するような動きも出てくるかもしれません。

「eスポーツ大会の配信=無料」の常識はなくなる?


宮下:「EWC」も「CC12」も違う意味で話題になったけど、最近よく「eスポーツは健全か?」みたいな話も聞きます。そういう質問をする時点で、「スポーツ」というものに清廉潔白さとか公平性とかを求める節が、特に日本では強いような気がする。

多分、競技タイトルが営利目的のゲームである以上、お金儲けの部分は必ずある。メーカーにとってもそうだし、選手にとっても賞金やプロの給料などで食っていきたいと思っているはずで。

ただし、eスポーツのファンって他のフィジカルスポーツのファンとはちょっと行動様式が違う気がするんです。野球とかサッカーはテレビでの放映もあるけど、スタジアムに試合を見に行く人たちが一定数いるから成り立っている。ホームスタジアム要件とか観客動員数も厳格です。

でも、eスポーツはまだまだ、お金を出してまで現場に行く機会も絶対的に少ない。それだけの熱意、熱量を持っていて、他のファンよりも気持ちが強いんですよ。その分だけ、自分たちの気持ちが踏みにじられたっていうことに対する反発が大きくなるような、すごく強い意志を持ったファンだと思うんですよね。

井ノ川:ウメハラ選手の言葉がすごく的を射ていて、「誰が出るかも分からない大会に、お金払えるか?」ってこと。

宮下:気持ちとしては分かります。最近人気のストリーマー大会とかは、ヒトを見に行っている=そのためにお金を払っている。

競技は決まってるけど誰が出るか分からないって意味では、自分は東京五輪のチケットに似てるなと思ったんです。ここでこの競技を見られます、誰が出るかはわかりませんと。

五輪という世界中の選手が戦う場と、その時その瞬間でしか見られないという体験そのものが「価値」だとすれば、『スト6』の大会も別に有料でもいいんじゃないかな。

井ノ川:そう考えられるのは、やっぱりオフラインだからなんですよね。実際に「CC」の両国国技館での観戦チケットは売れていて問題ないんですけど、オンライン配信に価値を見出せるかというところで。

宮下:結局どこまで行ってもそこなんですよね。分かったのは、「配信」に対してお金を出すだけの価値をユーザー側が持てるほどには、eスポーツ業界は成熟してないっていうことでもあるのかな。

井ノ川:どこまで払えるか、ですよね。たとえば500円だったら何も文句言われなかったと思うんですよ。ゲーム配信の「投げ銭」みたいな感覚であれば、結果的に「まあいいか」みたいな感じになった。でも、BSとかCSとかの有料放送でも1カ月あたり1チャンネル1,000円くらい、Amazonプライムでも月額1,000円くらいなのに、「CC」は1日の試合だけで3,000円でしたからね。

宮下:『スト6』のゲーム内DLCでもだいたい1,000円くらいですからね。ただ、結果的に『スト6』のユーザーなら「バトルハブ」内で実質無料で大会を見られるという仕組みはすごくよかったと思います。

——第4話に続く——



編集:いのかわゆう

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