【eSports World新春トーク】 eスポーツ2024-2025 言いたい放題〈前編〉 eスポーツの競技とエンタメは両立する?

2025.1.7 宮下英之
2024年もeスポーツ業界にはさまざまなトピックが飛び交い、競技はもちろん、ビジネスや選手やチームの去就など、話題に事欠かない1年間だった。そんな中で、eスポーツ業界にとってはいい話題もあれば課題も見えてきた。

そんな2024年のeスポーツ業界をひたすら追いかけ続けてきたeSports World編集部員ふたりが、2024年を振り返りつつ、2025年以降の展望についても語ってみた。なお、タイトル通りの雑談トークのため、言葉遣いがラフな点にはご容赦いただきたい。

宮下英之
eSports Worldの企画・立ち上げから関わっている中堅編集者。主に『LoL』のソロQに生息するも、これだけ攻略記事を企画しているのに一向にランクが上がらない万年ブロシル勢(もはやただの下手くそ)。みなさん、今年こそ一緒にランクアップしましょう。

井ノ川結希(いのかわゆう)
eSports Worldの企画・立ち上げから関わっている編集者兼ライター。『スト2』全盛期から格闘ゲームにどハマりするも、ふとしたきっかけで『Counter-Strike: Global Offensive』をプレーしFPSに足を突っ込む。そんなこんなで今では『VALORANT』がメインの担当に。ゴルフにはまりすぎてeスポーツ界隈の人とラウンドするきっかけをうかがってしまうゴルフ女子。


FPS界にも「選手会」が必要


宮下:2024年もインタビューや大会取材など、1年間突っ走ってきましたね。eSports Worldも立ち上げから今年の3月で丸6年。思えば遠くへ来たもんです。

井ノ川:この間、日本のeスポーツも随分成長したし、定着したような気がしますね。「日本eスポーツアワード」の審査員も務めさせていただくなど、メディアとしての認知度も、おかげさまでかなり上がった気がします。

宮下:で、今回はそんな我々がメディアとしてeスポーツに携わる中で感じたことを、お屠蘇でも飲みながらざっくばらんに話してみようという企画です。といっても、試合結果とか選手やチームの活躍というよりは、もうちょっと業界寄りに感じたことを中心に、ざっくばらんにいきましょう。

井ノ川:それじゃ、さっそく私から。

2024年シーズンを通して感じていたことなんですけど、eスポーツってやっぱり選手会が必要なんじゃないかなって。

宮下:唐突ですね(笑)。たしか格ゲー選手会は2年前に作ってましたよね。

立ち上げメンバーのひとりだったネモ選手による、選手会を作った理由の動画


井ノ川:そうなんですけど、特に『VALORANT』とかのFPSタイトルにこそ必要なんじゃないかなと。

去年11月の「VCT Challengers Japan 2024 Split 3 Main Stage」で、大会の3日前に新しいパッチが適用されるとアナウンスされて、選手たちが大混乱させられたことがあったんです。最終的にはその告知の方がミスで、元のパッチで開催されたんですけどね。

ただ、現状はあくまで大会のルールを作っているのはそのゲームの開発元やパブリッシャーであって、それにみんなが従っています。チームもそうだし選手もそうです。

そうなると、「次の大会は新しいパッチでやります」と言っていたのに、直前になって「やっぱり前のパッチでやります」といったイレギュラーに選手たちが振り回されてしまう。選手はSNSとかでしか文句が言えないという状況になっています。

宮下:確かに。

井ノ川:たとえば、プロ野球でヤクルトスワローズの古田選手が選手会の会長だった時に、1リーグ制にしようとする球団側に対して、選手会としてストライキを起こしたことがあったらしいんですよ。

宮下:結構有名な話ですよね。セ・パがなくなるかもしれないって言われてましたが、あの一件があって回避できたような記憶が。

井ノ川:選手会があると、選手がまとまって権威のある人に意見を言えて、なおかつ「フォーマットを見直しましょう」みたいな形に持っていけると思うんですけど、今のeスポーツってそういうのがほぼできていない。メーカーの言いなりなのがこの先不健全になっちゃうんじゃないかなって心配があるんです。

「来年のフォーマットはこうなりますけどどうですか?」と、メーカーとチームと選手会が集まって大会について考えることが必要なんじゃないかと。

宮下:プロスポーツでは選手会がある競技も結構あるみたいですね。ゲーム自体もルールも、両方ともメーカーが兼ねてしまうことの問題は確かにありそう。だから格ゲー選手会が作られたんでしょうし。

井ノ川:解決策として、私はJeSU(日本eスポーツ連合)がもっと大会を開けばいいと思うんです。メーカー主催じゃなくて、JeSUみたいな第三者が先導して大会のフォーマットとかを作れるような形にしてかないと、いつまで経ってもこの方程式って変わらないのかなって。

宮下:JeSUはプロライセンスを発行しているしやりやすそうですが、JeSUってそこまでできますかね?

井ノ川:国内では大きな力を持つ組織が今はJeSUしかないですし、JeSUが大会を開いて、メーカーはあくまでその中に加わるという形になれば、メーカーの意向、チームの意向、選手の意向も踏まえて、みんなでルール作りが確立できるんじゃないか、ということを昨日考えてました。

宮下:なるほどなぁ。これは『VALORANT』に関して思ったこと?

井ノ川:そうですね。2024年の「Ascention Tokyo」の時に、Bo1(1試合先取)で運ゲーになってしまうことが批判されて、ジャカルタに移った結果Bo3になったんですけど、結局選手たちが苦情を言っても変わらなかった。

宮下:結果的に東京ではやらなかったですしね。

井ノ川:もしかしたら、X(旧Twitter)とかの声が届いたのかもしれませんが、現状では苦情合戦になっちゃって選手の印象も悪くなってしまう。もっと組織的なものにして意見が言い合えるような環境があった方がいいのかなと思いました。まあ、私たちの知らないところで話し合いがあったのかも知れませんが。


相次ぐSNSでの炎上とeスポーツ選手の立場


宮下:それと関連するんだけど、SNSなどでの選手による愚痴の応酬もよく見かけますよね。YouTubeでも「SFL」(ストリートファイターリーグ)を批判した発言があったりしましたし。

井ノ川:すでに勝ち目がないから(試合を)捨てている、といった雑談でしたよね。ちょっとかわいそうな気もするけど……。

宮下:然るべきところに直接抗議したのであれば、また違う話だったかもしれません。でも、「個人の感想」である限りは何も良くならないし、それをSNSなどで言うのは違う気がする。SNSで苦言を呈したくなる気持ちも分かりますが、自分の選手生命を縮めるだけなので避けた方がいいと強く思います。

井ノ川:私としては、eスポーツのプロ選手は威厳のある存在、みんなから尊敬される存在としての自覚をもっと持ってほしい。自分やゲームにとってマイナスイメージになるような話は避けるべきでしょう? 本当はもう少し手の届かない、普段はあまり近づけない存在であるべきだとも思うんです。今の時代には難しいかもしれませんが……。

宮下:確かに、ファンサービスと自分たちの威厳を保つところのバランスは難しいですよね。ファンは彼らのプレーをリスペクトしているけど、選手側が自分たちが特別強いということや、ファンからのそういう視線に気づいていないようにも感じる。

井ノ川:あと、これだけeスポーツが有名になってくると、eスポーツを知らない人がSNSを見た時に「なんだ? この選手は」と思われてしまうのが一番マイナス。eスポーツ界隈ではいいかもしれませんが、野球やゴルフなどのスポーツのファンがeスポーツに興味を持ってくれた時に、違和感や嫌悪感を持たれるのはもったいない。

宮下:それは他のスポーツでもあるあるかも。

井ノ川:インタビューなども同じで、スポーツ競技のアスリートはどんな質問でもうまくまとめて答えてくれるんです。ドジャースの大谷翔平選手もそうですし、オリンピック選手なども。でもeスポーツ選手は、失礼な言い方かもしれないけど、受け答えにやる気が感じられない人も過去にはいました。

宮下:大会などでのインタビュー時は、ライバルチームに秘密を明かさないように答えるのが難しい質問もあると思います。ただ、それが「何も言えない」って感じの答えになりがちなところは、日本人選手のインタビュー経験不足かもしれない。

井ノ川:特に日本人選手へのインタビューは最近、事前チェックが必要なケースが増えていて、試合後の簡単なインタビューでさえチームのチェックが必要なこともありました。一方で、FnaticやTeam Liquidなどの海外チームはノーチェック。翻訳が面倒ということもあるでしょうが、選手の発言にチームが自信を持っているからでしょう。

宮下:インタビューを通してメディアが伝えたいのは、ファンが聞きたいことや試合を見ていて気になったポイントだけど、それがうまく聞き出せないのはメディアとしてもいちファンとしても残念ですよね。メディア側の質問力も必要だけど。

井ノ川:以前、とあるイベントにスポーツ誌のメディアさんが来ていたんです。はじめてeスポーツ選手を目にしたのか、「なんだ、みんな元気ないなぁ」とポロッと口にしたのを覚えています。そしてまだインタビューが残っているのにもかかわらず帰ってしまった——。普段プロスポーツ選手を相手にしている彼らにとって、聞く価値のないものと判断されたんじゃないかとその時感じたのを覚えています。

宮下:
確かに、スポーツ選手と見比べると経験は少ないでしょうね。

井ノ川:
でも、最近はeスポーツ選手の受け答えもかなりしっかりしてきているようにも感じます。あとZETA DIVISIONのDep選手は、初めてインタビューした時から結構いろいろ話してくれたのを覚えています。彼、尖って見える人もいるかもしれないですが、とても真面目なんですよ。

参考:
歴史を変えた🇯🇵ZETA DIVISION!🇳🇱Team Liquidに勝利しベスト6へ!【Laz選手×Dep選手 インタビュー】

eスポーツ大会の「格」を示すのは公式か、高額賞金か


宮下:自分が2024年を振り返ってみて結構インパクトがあったのは、「eスポーツの世界大会」。一番衝撃が大きかったのは「Esports World Cup」でした。

今回、すべての試合をバラバラにして大会情報を作ったから分かったんですが、賞金総額6000万ドル(約90億円。1ドル=150円換算)が話題になったけど、実は個別タイトルごとに見ても、この大会1個だけで公式大会よりも高額な大会もあるんですよ。

「Gamer8」というイベントから派生して、一気にeスポーツ業界最大のイベントにのしあがった印象のEsports World Cup

今『VALORANT』のチームがどんどん解散していたり、ライアットゲームズも社員を減らしたりしていますが、eスポーツの公式大会の多くはメーカー自身が実施している大会です。カプコンの「Capcom Cup」、バンダイナムコの「TEKKEN World Tour」にしてもそうですよね。

でも、「Esports World Cup」みたいに、完全に別の資金で実施されてあの高額賞金となると、正直メーカーが高額賞金を出すことをせず、だんだん大会も外任せになってしまうんじゃないかって、個人的には思うんです。

井ノ川:スポンサーなり賞金を出してくれる出資者を集められる仕組みがないと、大会を継続するのって厳しいでしょうからね。

宮下:そうなってくると、「世界一を決めるのってどの大会で、誰が決めて、どこに価値があるんだろう?」ということが分からなくなってきそうだなって。

たとえば、『スト6』の「EVO」「EVO Japan」の優勝者というと箔も名誉もあります。ただ、心のどこかで「でもあれって世界一じゃないよなぁ。世界一はやっぱカプコンカップだろう」みたいなことを思ったりする。なんだかよくわかんなくなってきてしまって……。

井ノ川:賞金がなくたって価値がある大会はあるけど、一般の人にとっては高額賞金=eスポーツすげぇ!と思ってしまう人もいるでしょうね。去年行われた『PARAVOX』の優勝賞金1億円とかもそういった狙いはあったのだと思います。

宮下:
公式大会の他に「Esports World Cup」みたいな高額賞金大会ができて、わかんなくなってきたんですよね。もちろん、「Esports World Cup」が悪いというわけではないんですが、あの大会自体がサウジアラビアという国の人権問題を覆い隠す目的がある、とか言われたりもしていますし。

井ノ川:メーカー公式大会の賞金の方が低くなっちゃって、「Esports World Cup」が今後のeスポーツを代表する大会になっちゃうというのも、長い目で見ると問題かもしれないですね。

ちょっと話が違いますが、ゴルフの最高峰にあたる「マスターズ」の賞金って、国内のツアーで優勝しまくった日本の賞金王よりもはるかに上なんですよ。海外ツアーを中心に戦っている松山選手とかは、国内で活躍している人たちの賞金を1回の大会で稼いじゃうレベル。ヘタをすると「Esports World Cup」がまさにそんなふうになっちゃうかもしれない。

宮下:今回でいえば、カワノ選手、ガチくん選手、立川選手が2〜4位とかなり活躍していたし、賞金額もかなりでかかった。優勝しなくても2位が14万ドル(約2100万円)、3〜4位が7万5000ドル(約1050万円)ですから。

Esports World Cupの『スト6』部門では、日本勢が大活躍した

井ノ川:税金も引かれるとは言え、別の大会で優勝してもそんなもらえない……とお金の感覚がインフレしちゃえば、そりゃ大会によっては捨てるものが出てくるのも無理はないかもしれません。

宮下:ただ、「Esports World Cup」の出場権自体、事前の大きな大会などで活躍しないと得られません。当然、簡単に出られるものではない。とはいえ、メーカー主催の公式大会が世界一を決める大会だろうというeスポーツの当たり前が、これから変わってしまうかもしれません。今年は『VALORANT』も加わるって言われていますしね。

井ノ川:どちらかというと、ゴルフとかみたいに「AKRacing杯 VALORANT大会」といった大会をもっと開催してくれればいいですよね。日本でもエディオンがスポンサードしたVALORANT大会とかもありましたし。

宮下:確かにね。「SFL」は太陽ホールディングスさんがトップパートナーになってくれて、他のスポーツに近づいている感じはありますね。

一方で、『VALORANT』は日本チームがかなり活躍している印象はある。でも、2025年の国際大会に出るためには、かなり活躍している印象の日本チームでも、予選からアマチュアと一緒に頑張るしかないというのが現実じゃないですか。しかもこの予選大会には大きな賞金は出ないから、チームの体力がないと続かない。戦っても報われないのはつらいと思うし、チームも選手も短命にならざるを得ません。

こういうビジネス部分が整ってくると、日本のeスポーツももっと安定的に発展していけるのかなと思ったりしました。

井ノ川:そのためにはもっとeスポーツに出資してくれる人たちが必要ですね。スポンサーの皆様、お待ちしています(笑)。


大盛況なストリーマー・VTuber大会と一抹の不安


井ノ川:eSports Worldはどちらかというと、eスポーツの競技面を中心に、ストイックに追いかけているメディアかなとは思っているんですが、その視点から見ると、いまeスポーツが盛り上がっているのはストリーマーのおかげなんじゃないか、という不安も感じています。

海外のeスポーツチームのウェブサイトを見てみると、競技の部門が記載されている中に、「ストリーマー」という部門があるチームはほとんど見つからない。公式ページで「ストリーマー部門がある」と明言している海外チームは少ないのではないかと思います。

宮下:なかなか攻めた話題ですね(笑)。たしかに日本は海外とちょっと違うかも。「クリエイター部門」とかはいくつかありますけどね。

井ノ川:いま日本のeスポーツ業界を支えているのは多分ストリーマーなんです。理由としてはやはり収益になるし、チームの知名度を高められるから。ただ、それってeスポーツをエンタメ化してしまっていないかとも思うんです。

競技で活躍して強さを証明するのが「eスポーツ」の見せ場だと思うんですけど、そこにカジュアルな要素が入ってきた。逆に今では、そのカジュアルな要素の方が、競技よりも収益が手っ取り早く上がってしまっている。

宮下:競技は競技、ストリーマーの配信はエンタメとして、切り分けて考えればいいのでは? 大会をじっくり観戦したい人と、面白おかしくゲーム配信を見たい人はそもそもニーズが違うし、後者の方が視聴数が多いのも仕方ない気がするけど。

井ノ川:それは分かるんですが、行き着く先はeスポーツはあまり本格的でなくてもいいという風潮になり、結果的に世界とのレベルが離れていくのではないかということを懸念しているんです。ストイックさが失われてしまうんじゃないかと。

宮下:日本にはまだ世界に通用するチームが少ないのは確かですからね。その中で、稼ぎどころを模索した結果、ストリーマーの存在が大きくなっているという背景もあるのかも。

井ノ川:ゴルフでカップに寄せたらポイントが入るような、競技とはかけ離れたカジュアルな大会の方が人気になっているんですが、そちらの方が魅力的になってしまうと、プロとしてやっていける土台が崩れてしまうのではないかと心配しています。

宮下:子どもたちの将来の夢は、まだ1位が「スポーツ選手」みたいだから、そこは大丈夫だと思いますけどね。まあ、「eスポーツ選手になりたい」ということと「ストリーマーやVTuberになりたい」というのは近いようで遠いんですが、セカンドキャリアとしてストリーマーを選ぶ人が多いのも、収益化しやすいという理由はありそうですね。

格ゲーで「おじ」はいつまで活躍できるのか


井ノ川:もうひとつ、格闘ゲームって、これまで培われた知識の蓄積で勝っているような気がするんですよね。

宮下:知識の蓄積?

井ノ川:要は『ストII』から続けてきた世代が培ってきた常識やノウハウが、今の選手に継承されていて、それで結構勝っている。だけど、Punk選手みたいな新世代の選手が出てきたあたりで、それが通用しなくなってきた感じがするんです。いわゆる「フィジカルお化け」みたいな選手には、昔ながらの知識や攻略だけでは勝てなくなる。このままだと、日本人が日本発祥の格闘ゲームで名前を出せなくなる時が来るんじゃないかなって。

宮下:すでにゲームによっては、海外選手の方が強いですからね。『鉄拳8』の「TWT」(TEKKEN World Tour)で優勝したRangchu選手は、日本のVARRELに所属しているけど韓国人ではありますね。

「TWT」優勝は自身2度目となる韓国のRangchu選手。「鉄拳」シリーズは特に近年海外勢の強さが目立つタイトルになっている

井ノ川:そういう中でも、ウメハラさんはヒット確認だけを永遠にやり続ける配信をしていたりします。それがプロとしての根性だなと思うんですよ。

宮下:そこはウメハラさんへの個人的なファン心理な気もするけど(笑)。でも、それが必ずしも勝利に結びつくわけでもなくなってはきてる。

井ノ川:そうですね。年齢なのか、それとも別の要因なのか……。

宮下:ファンの誤解がないように言っておくと、これは我々がウメハラさんたちに近い「おじ」世代で格ゲーもプレーしているから余計に感じてるんですよね。あの年代であの強さを維持していることがあまりにもすごすぎて。

ただ、ある意味ではフィジカルモンスターの若手と「おじ」たちとのせめぎ合いが見られるのが「SFL」の面白いところでもあって。「SFL」は勝敗とかに関係なく、選手一人ひとりがショーアップされているし、4人1組で先鋒・中堅・大将、さらに延長というチーム戦なのも、個人戦にはない戦略があって見応えがあったからこその人気だったんでしょう。

井ノ川:本当に、このルールを考えた人に話を聞いてみたいですね。

宮下:そうだね。「SFL」は過去のいろんな試行錯誤の結果として今の形になっているし、格ゲーのチーム戦の集大成とも言える仕組みだと思います。

メーカーにとってのeスポーツは広告宣伝ツール?


宮下:逆転現象みたいだけど、ストリーマーの大会が行われるとそのゲーム自体が流行る。それなら、メーカーがストリーマーの大会を推すのも当然といえば当然ですよね。

井ノ川:そう。メーカーとしてはゲームが人気になってくれるのが一番うれしいはず。eスポーツ競技だろうがストリーマーの大会だろうが、手段は何でもいい。

宮下:そうだね。そもそもeスポーツをやる理由はゲーム自体の宣伝効果があるからでしょうし、ゲームが売れなければ意味がない。eスポーツの意義のひとつは、そのゲームを継続的に遊んでもらう保証を得られることですから。だからメーカーはアップデートに力を入れたり、大会を開催したりしているわけで。

その中で一番効果的だったのが、フォロワーを多数抱えているストリーマーの大会。圧倒的な宣伝効果もあるし、プレーヤー数も増える。継続的に遊んでもらう仕組みがバッチリ整うんですよね。

井ノ川:我々メディア側にとっても、「The k4sen」が行われた後の『LoL』の初心者向け記事PVの伸びとか、すごかったですよね。

宮下:そうそう。我々もその恩恵を受けている立場だから余計に実感しますね。驚くほどPVが跳ね上がりました。

井ノ川:本当に、「こんなに上がるの?」ってくらいびっくりしましたよね。すごい影響力でしたね。

eスポーツ系VTuberの行く末は?


宮下:そういうストリーマーやVTuberが本気のeスポーツで活躍して人気が出るたびに、VTuberに関して気になっていることもあるんですよ。

井ノ川:例えば?

宮下:それは、VTuberはオフライン大会に出られないということ。「Capcom Pro Tour」で言えば、オンライン予選は参加できるけどオフライン決勝とかは難しい。それに、「Riot Games ONE」みたいにパネルとオンラインで活動することはできても、公式大会などでは「手元を映さない」なんてことは多分許されない。

井ノ川:プレー中の手元や顔は、少なくともジャッジには見せないといけないでしょうしね。昔、オンラインのレースゲームで替え玉とかもあったし。

宮下:そうなんです。だから、VTuberって「オフラインで勝つ」というeスポーツ最大の栄光にはどうしても届かない。まあ、そもそも本人たちがそこまでeスポーツを極めたいと思っていないかもしれないから、私の勝手な願望でしかないんですが、強い人もすごく多いだけにもったいないなぁって。

ただ、大会自体がオンライン前提になっていったら、VTuberも参戦できるようになるかもしれない。不正チェックはしっかりした上で、チームメンバーが別室から参加するような形や、シルエットだけでの参加も認められるようになれば。

井ノ川:それが実現すれば、日本発の文化としてeスポーツ界に新しい風を吹き込むかもしれませんね。

宮下:そう。日本は「ゆっくり実況」とか「ずんだもん」みたいに、顔や声を隠して活動することに馴染みがありますが、海外では顔を出すことが「自分の主張」みたいな側面もありますからね。

海外のVTuberシーンは日本ほどは浸透していないけど、もしVTuberがeスポーツの中でさらに進化すれば、世界でもユニークな文化として注目されるかも。顔出ししていく、って道もありますけど。

井ノ川:そうですね。この文化がどのように進化していくのか、今後が楽しみです。

(後編に続く)
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