【インタビュー】eスポーツ業界を去った男が描く次の世界線——元NORTHEPTIONオーナーの新たなる挑戦とは

VALORANT』で数々の名選手を生み出してきた北海道発のeスポーツチームNORTHEPTION(のーせぷしょん)。そんなNORTHEPTIONで数多くの選手を輩出してきたのが、前オーナーの大輪和広氏だ。

▲2021年時のNORTHEPTION VALORANT部門のロスター。左からTENNN、SugarZ3ro、Astell、Seoldam、Meiy。今でも一線級で戦う選手がずらりと並んでいる。このほかにもBlackWizやxnfriなど、数々の名選手がNORTHEPTIONから輩出されているのだ

NORTHEPTIONは、2024年5月1日(水)に新会社を設立。大輪和広氏の元を離れ、株式会社CodeBlitzのもと、新たな一歩を踏み出した。そんな先見の明を持つ大輪氏は現在何をしているのだろうか。オーナーを退いてからの軌跡を追った。

なお、eSports Worldが大輪氏にはじめて話をうかがったのは2022年の1月。そこでは「なぜNORTHEPTIONを設立したのか」といった誕生秘話が楽しめるので、まだ読んでない読者はぜひそちらの記事も読んでいたいだきたい。

参考:
僕を世界に連れていって!【NORTHEPTIONオーナー 大輪和広氏インタビュー】

大輪 和広(おおわ かずひろ)


eスポーツチームNORTHEPTIONの元オーナーで、北海道札幌市に本社を置く、くさび式足場「ビケ足場」を中心とした足場施工会社である株式会社札幌ビケ足場の元代表。2024年に株式会社札幌ビケ足場を売却し、事業の一環として運営していたNORTHEPTIONの運営を譲渡。現在、株式会社トライフューズを立ち上げ、新しい一歩を踏み出す。

事業を継続するジャッジは3年


——やはり気になるのが「なぜNORTHEPTIONを離れたのか」というところです。何があったのでしょうか。

大輪:NORTHEPTIONを設立した時から3年で区切りをつけることは決めていました。これはほかの事業でもいえることですが、3年で流れに乗っていけないとビジネスとして成り立たないからです。

ただ、その3年目でVALORANT部門が世界大会に続けて行けるようになって——。辞めるに辞められなくなったというところで退くタイミングが遅れたという感じですね。

——もともと退くビジョンがあったんですね。

大輪:そうですね。あともうひとつは自分が思い描いていたeスポーツの発展と、チームが思い描いているeスポーツの発展に乖離(かいり)が生じてしまったからというのもあります。

NORTHEPTIONはもともと北海道発のチームで、僕を含め4人くらいで運営していました。その頃は、ことあるごとに北海道に集まって意思疎通が取れていたんですが、組織が大きくなって都内で活動している運営スタッフが増えてくると、なかなかそうもいかなくなる。かといって僕が毎回都内に行けるかとなると、本業の建設業もあるので難しかった。

そういった要因が重なってオーナーを退くことになりました。

——具体的にどういったところに乖離を感じていたのでしょうか。

大輪:僕としてはどんどん部門を増やして世界に行ける選手を輩出していきたかったのですが、こと国内におけるeスポーツの現状って人気のストリーマーを抱えることが神髄みたいな流れですよね。そうなるとチームとしては「そんなに部門はいらないんじゃないか」という流れになってしまう。

——なるほど。大輪さん的にはストイックに競技シーンで戦える選手をどんどん取り入れたかったけれど、チーム側としてはカジュアル路線も取り入れたいという形に重きを置いていたということですね。

大輪:そうですね。僕の中のeスポーツはあくまで“競技”だったので、ちょっと違うなと——。それでNORTHEPTIONを解散するか別の人に運営を委ねるかという流れになり、株式会社CodeBlitzさんの親会社さんとお話しする機会があって、彼らに運営をお任せすることにしました。


——そんな中、本業の札幌ビケ足場も手放したという話を聞いたのですが。

大輪:実は本業も2024年の8月にはデューデリジェンス(買収監査)を行っていて、売却することはある程度決まっていました。

——結果どちらも手放す形にはなりましたが、事業としては順調だったのでしょうか。

大輪:本業の建設業は右肩上がりでしたが、eスポーツはITというジャンルで換算すると、「(運営費用って)こんなに高いの?」という印象でした。建設業よりもかかる費用は大きいけど、売り上げにはつながらないみたいな。なかなか黒字化するのは難しかったですね。

あと、eスポーツはまだまだ市場が小さいこともあって、パイの取り合いになってしまう。それはスポンサーもそうですし選手もそうです。プロ野球やサッカーのように、いろんな企業を巻き込んでコミュニティーを広げていくというのがeスポーツではなかなか見られなかったですね。

——なんというか、そのタイミングですべてを失った形にはなりましたが、その先のビジョンはあったのでしょうか。

大輪:まあその後は何もしないで、ただのeスポーツ観戦おじさんになろうかな、なんて思ってましたよ。

だたそのタイミングで事業を一緒にやりませんかといったお話をいただく機会が増えました。僕もまだ今年49歳なんで、あと10年くらいはがんばって、それから海外でゆっくり暮らしてもいいかななんてね(笑)。

——また海外の話してる(笑)。


新しい形でeスポーツの裾野を広げたいと一念発起


——本業もeスポーツチームも手放して、ある意味ゼロになったわけですが、現在は何をしているんですか?

大輪:実は今惑星を作ってるんです(笑)。

——えっ?

大輪:惑星といってもバーチャル空間ですけどね。株式会社トライフューズという新しい会社を立ち上げ、3つの事業を進めています。その中のひとつが新しい形のVTuberなんです。

事業の業種は異なるけれど、さまざまな業種を巻き込んで融合させようという意味でトライ(挑戦)とヒュージョン(融合)を掛け合わせてトライフューズとしました。NORTHEPTIONでできなかったことをここで挑戦したいというトライもかかっています。

新事業の話はうちの社員でもあり、元NORTHEPTIONの運営でもある水野くんから説明しますね。

水野:はじめまして水野です。元々は運営陣としてNORTHEPTIONに所属していましたが、大輪さんがチームを退いたのをきっかけに別の企業へ就職し、再びご縁があって協力いただくことになりました。


——では、まず新しい形のVTuberについてお話を聞かせてください。

水野:僕が企画しているのはマスコット系のVTuberです。一般的にVTuberというと、アニメっぽい女の子や男の子が画面を通じて配信をしているというイメージだと思います。

VTuberの文化は2017年からはじまって今年で8年目です。今からはじめて、ある程度のポジションを取れるものはないかと考えたとき、マスコット系のVTuberがグループとして活動できればビジネスとして成り立つのではと思いついたのがはじまりでした。

今人気のVTuber事務所さんですと、VTuber事業としてひとくくりでやられているかと思いますが、我々のVTuber事業はマスコット系の強みを生かして、もっとほかの事業に派生していける可能性を秘めています。

名前はCHUM PLANET(ちゃむぷらねっと)で、これが先ほど大輪さんが話していた惑星につながります。

▲これがCHUM PLANET内にある世界のひとつ「レヴァーニア」の全体図。所属するマスコットVTuberはこの惑星で生活しているとのこと

——確かにマスコット系のVTuber事務所というのは類を見ないですね。具体的にマスコット系VTuberの強みを教えてください。

水野:例えば、現在主流になっているアニメのキャラクターのようなVTuberは、ターゲットが絞られてしまいますが、マスコット系のVTuberであれば、多くの層に親しまれる容姿をしているので、ターゲット層を問わずリーチできるというのが強みです。

もちろんライブストリーミングというVTuberの基本軸を事業の柱として進めていきますが、僕らが目指しているのは一般的なVTuber事業者というよりは、もっと裾野を広げた“国産キャラクターIP事業”といった形が近いものになります。

VTuberだけど、VTuber以外にも派生していくという点に可能性を感じています。

——ライブストリーミング以外の派生ですと、どのようなものを考えていますか?

水野:例えばキャラクターがアニメになったり、スマートフォンで遊べる育成型のゲームになったり、メタバースだったり——。そういった派生のしやすさが今までのVTuber事業とは異なる点ではありますね。

また、今までVTuberを見たことない人でも「こういう形であれば見やすい」という点を意識して人気を広めていけたらと思っています。

——なるほど。ある意味現実世界に出られるVTuber的な位置づけでもあるんですね。

大輪:そうですね。着ぐるみで登場することもできますし、マスコットキャラクターって行政が好む形なんですよ。そういった外の世界とeスポーツを結びつけやすいというのもメリットだと考えています。行政のイベントにも参加しやすいVTuberになり得ると。

——マスコット型ならばあえてVTuberでなくてもいいとは思ったのですが、なぜVTuber発進なんでしょうか。

水野:僕自身NORTHEPTION時代からストリーマー部門を担当していたんですが、ここ最近の流れとして「ストリーマー依存でゲームが流行る」傾向があります。例えばサッカーや野球といったフィジカルスポーツですと、日本代表が戦っているのを見て「かっこいいからサッカーを始める」みたいな流れが一般的だと思うのですが、eスポーツはストリーマーが遊んでいるのを見て「面白そうだからやってみよう」という流れの方が圧倒的に多いです。

そういったeスポーツの傾向を見てきた中で、ストリーマーやVTuberの可能性を感じたからですね。

——確かにeスポーツタイトルに限らずゲームの人気の火付け役がVTuberであることは大いにありますよね。例えば『Getting Over It with Bennett Foddy』だったり『Among Us』だったり——。

▲通称「壺男」とも呼ばれている『Getting Over It with Bennett Foddy』はそのシュールな絵面と高難易度からストリーマーやVTuberがこぞって配信していたこともあり、国内で一世を風靡したインディーズのゲームだ(出展:Steam

水野:そうですね。そういった訴求力はとても期待できると感じています。

年内100体を目指して制作中!——目指すビジョンは箱推し


——一方で、今VTuberは飽和状態とも感じています。素人の人でも簡単にモデリングができたり、毎日のように新しいVTuberが量産されている。そんなライバルが多い業界で注目をされるためには秘策がないと……とは思うのですが。

水野:おっしゃるとおり、VTuberは数でいうと2万、3万以上とも言われています。イラストが簡単に動かせるアプリだったり、スマホでVTuberの配信ができたりと敷居も下がっています。その中で注目されるには最初が肝心です。デビューのタイミングや見せ方とか。

非人間型というところではある程度注目されるポイントではありますが、もうひとつ付加価値はつけたいと思っています。そのひとつが同時に20体出すというところです。

▲CHUM PLANETのキャラクターはかわいらしい動物のようなシルエットが特徴。それぞれ好き嫌いがあり、個性豊か

——えっ、いきなり20体!? すごい数ですね。

水野:基本的にVTuber事務所さんって5〜8体がデビュー人数の相場なんです。これを一気に20体でスタートするというのは結構インパクトあるんじゃないかなぁと思っています。

ただ闇雲に数を増やせばいいというわけではないので、あくまでビジネスの流れとして年内に100体くらいまでキャラクターを増やしてこうとは思っています。もちろんその中にはVTuberでないキャラクターがいてもいいですし、ビジネスモデルと合致させたキャラクターを生み出していきたいと考えています。

また最近の傾向として、ひとりで配信するよりも複数のVTuberやストリーマーで配信している放送が注目されています。

——コラボ配信みたいな?

水野:そうですね。やっぱりひとりで配信するのってものすごく厳しいし、まさにレッドオーシャン(競争の激しい市場)です。どちらかというと僕らが目指していきたいのは“団体の面白さ”で、団体として好きになってもらえるファンを増やしていきたいと思っています。だからこその20体同時デビューなんです。

もちろんソロとして活動していくこともありますが、基本的にはCHUM PLANETを箱推ししてもらえるような、絡み合うことで生まれる面白さで勝負していきたいと思っています。

リリース自体は2025年4月30日(水)ですので、5月以降にデビュー配信や個人の活動を進めていく予定です。

——配信でプレーするeスポーツタイトルは決まっているんですか?

水野:最初はeスポーツ寄りのタイトルは想定していません。というのも、eスポーツに特化したタイトルは視聴層が限られてしまう傾向があるからです。『VALORANT』の配信は『VALORANT』を知らないと見ないし、『リーグ・オブ・レジェンド』も然りで、裾野が広がりにくいのが欠点です。

なので、まずは誰もフランクに遊びに来られる場所を想定して、誰もが知ってるゲームや自分がやったことがなくても楽しめるタイトルを選んでいく予定です。ゆくゆくは視聴者のブロックができたところで、コアなゲームをプレーしてeスポーツと結びつけたいと思っています。

——CHUM PLANETが目指す今後の展望もお聞かせください。

水野:まずは国内でしっかりと展開を進め、ゆくゆくは海外にも展開していけたらと思っています。そして、本当にやりたいところはメタバースなので、仮想空間の中で自分の分身となるキャラクターがCHUM PLANETという惑星で共存していけたらと思っています。

——ここで冒頭の惑星の話とつながってくるんですね。

大輪:そうですね。CHUM PLANETはひとつの惑星なんです。例えばCHUM PLANETで土地を買ってそこに企業の広告を流したり、家を買って住んだり、そこで買い物ができたり——。仮想空間自体がひとつのプラットフォームをしたいというのが今描いている構想になります。

僕は一度eスポーツ業界から離れましたが、根本としてはeスポーツの裾野を広げたいという思いです。株式会社トライフューズでは多くの人を巻き込んで、eスポーツとほかの業界をつないでいけたらと思っていますので、今後も新しい風を見つけていきたいと思っています。

水野:eスポーツに限った話ではありませんが、CHUM PLANETはどんな媒体とも融合できるのが強みだと思っています。さまざまな業種の認知を手助けできるITになっていければうれしいです。

まずは興味本位でもかまいませんので、ぜひ配信に遊びに来てください!

——ありがとうございました。ちなみに、新会社を設立しようと思ったきっかけってなんだったのでしょうか。

大輪:NORTHEPTIONを手放したあと、水野くんが「今VTuberの新事業やろうと思ってるんですけど、大輪さん一緒にやりませんか」って話が来て、「商売だからね。ちゃんと儲かるの?」って聞いたら「大丈夫ですっ!」って言うもんだから「じゃあ、やる?」って(笑)。

——あれ、この流れどこかで聞いたような……(笑)。

———

まったく別のアプローチからeスポーツの接点を生み出した大輪さん。株式会社トライフューズでは3つ事業が同時進行しているとのことで、VTuber事業とは別に、エステ事業、アスベスト事業などどれもベクトルの違うジャンルばかり。ふと思いついたことをすぐに行動に移せる大輪さんのフットワークの良さと、NORTHEPTIONで培ってきた人望はどのように融合していくのだろうか。

まずはCHUM PLANETという新たなVTuberワールドにぜひ注目してほしい。


CHUM PLANET公式X:
https://x.com/chumplanet_

CHUM PLANET 公式YouTube:
https://www.youtube.com/@chumplanet_official

CHUM PLANET 公式Instagram:
https://www.instagram.com/chum.planet?igsh=dG53NmR4OHhldno2

CHUM PLANET 公式TikTok:
https://www.tiktok.com/@chumplanet_


撮影:宮下英之/いのかわゆう
編集:いのかわゆう


【井ノ川結希(いのかわゆう)プロフィール】
ゲーム好きが高じて19歳でゲーム系の出版社に就職。その後、フリーランスでライター、編集、ディレクターなど多岐にわたり活動している。最近はまっているゲームは『VALORANT』。

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