僕を世界に連れていって!【NORTHEPTIONオーナー 大輪和広氏インタビュー】

2022.1.22 井ノ川結希(いのかわゆう)
2019年、『レインボーシックス シージ』シーンに突然現れたNORTHEPTIONeスポーツの隆盛の中で生まれ、コロナ禍に見舞われながらも、『Apex Legends』、『VALORANT』でも実績を積み重ねている。

中でも、昨年開催された『VALORANT』の国際大会「VALORANT Champions Tour」で見せた底力は記憶に新しい。

特徴はやはり北海道発のeスポーツチームということ。これまでであればオフライン大会への参戦には移動の障壁もあったが、オンライン大会全盛となった中では、むしろ地域のデメリットはなくなったのではないだろうか。

eスポーツを用いて地方を活性化するという流れは、以前から言われていたことだが、現実的には厳しい面もあった。今回は、北海道でのeスポーツ活動の実態、強いチームを作るための方法など、地域にとらわれずに世界を目指す稀有な存在として、NORTHEPTIONオーナー大輪和広氏にお話をうかがった。

世界各地を観光したい——。そんな軽い気持ちから立ち上がったNORTHEPTION


——北海道からeスポーツを発信しているNORTHEPTIONですが、まずはチーム結成のいきさつを教えてください。

大輪さん(以下、大輪):ざっくり説明すると、「eスポーツチームを作ってみない?」という知人の声かけがきっかけですね。

——これまたシンプルな感じですね(笑)。

大輪:ただ僕自身、ゲームはやる側だったり観る側だったりの人間なので、eスポーツチームを持つことは考えていませんでした。

でもeスポーツチームを持つならば、国際大会に出場して、ついでに世界各国を観光したいじゃないですか?(笑)

なので「世界大会に出られる実力のあるメンツが集まるならいいよ」って無理難題な返事をしておいたんです。

——あはは(笑)。

大輪:そうしたら、世界大会経験者だったり、プロリーグに出場していた選手が集まっちゃって——。「これは、いよいよチームを作らないとやばいぞ……」ってなって、NORTHEPTIONが設立されました(笑)。


——それが2019年「Rainbow Six Siege ALIENWARE JAPAN LEAGUE AUTUMN SEASON FINAL」で準優勝を飾った『レインボーシックス シージ』部門なんですね。

▲彗星のごとく現れたNORTHEPTIONが準優勝を獲得した「Rainbow Six Siege ALIENWARE JAPAN LEAGUE AUTUMN SEASON」。奇抜な作戦で日本におけるシージシーンの常識を覆した(出典:レインボーシックス 日本公式

大輪:そうですね。

——ちなみに、設立当初からプロeスポーツチームとして活動されていたんでしょうか? それともアマチュアとして活動していた?

大輪:いや、ちゃんとプロとして活動してもらってお給料出してましたね。

——いきなりeスポーツチームを持つことになった流れでお給料を支払うことに?

大輪:うーん。なんかプロゲーマーだからお給料がないと生活ができないというのを事前に聞かされてて……(苦笑)。

——大丈夫ですか。それ騙されてませんか?(笑)

大輪:今思えば騙された感はありますね(笑)。

まあでも、「確かにお給料ないと、選手は生活できないよなあ」とは思ってたんで、生活できる分はお給料として出すということははじめから考えてはいましたね。

——ただ選手にお給料を支払うには資金も必要かと思います。どのような形でお給料を支払っていたのでしょうか。

大輪:僕は建設業を営んでおりまして、「札幌ビケ足場」という会社の代表取締役でもあります。「札幌ビケ足場」は創業36年の建設会社なのですが、ちょうどこれから多角経営をしていこうと考えてた矢先に舞い込んできたeスポーツの話なので、新規事業の一環としてeスポーツチームを運営しているという形ですね。

——なるほど。そうだったんですね。NORTHEPTIONは「北海道から世界へ」というスローガンを掲げて活動しているチームということでも注目を浴びていると思いますが、「北海道から」という地域性にこだわった理由はなんだったのでしょうか。

大輪:北海道のビジネスは雪がある以上偏りがちです。僕ら建設業なんかは、冬になると仕事が空いてしまいますし——。じゃあその空いた時間は何をしているのかというと、やっぱりゲームをしたり、eスポーツを観戦したりする時間が増えるわけです。

そういった中で、僕らのような北海道のチームが活躍しているのを見かけたら、やっぱり同じ北海道民としてうれしいわけで、話題性にもなります。少しでも北海道の人々が熱くなって、経済的にも影響を与えられたらという気持ちで、「北海道から世界へ」というスローガンを掲げています。

——ちなみに、NORTHEPTIONの名前の由来も北海道に関係しているんですか?

大輪:North(北)とInception(はじまり)を合体させた造語で、「北からはじまるよ!」という意味が込められています。

選手において最も大切なのは「人柄」


——そんな北海道発のeスポーツチームとして活動をされているNORTHEPTIONも立ち上げから3年が経つわけですが、3年経ってどのような成長を遂げたと感じていますか?

大輪:『レインボーシックス シージ』部門だと、「X-MOMENT」に最初から出場していて、活動し続けられている点ですね。

▲「X-MOMENT」とは、NTTドコモが運営するeスポーツ大会。昨年の『レインボーシックス シージ』部門では7位という結果を残したNORTHEPTION(出典:https://x-moment.docomo.ne.jp/

『Apex Legends』部門は、発足からわずか1年で世界大会「ALGS ChampionShip」に出場することができましたし、『VALORANT』部門も「VALORANT Champions Tour」(以下、「VCT」)に出場できたりと大きな結果を残せたと思いますね。

——確かに、eSports Worldでもインタビューさせていただいた「VCT」で、NORTHEPTIONの名前が一気に話題になった感はありましたね。

大輪:そうですね。直近で言うとやっぱり「VCT」の影響は大きかったです。

▲世界を相手に底力を見せつけたNORTHEPTIONの「VALORANT」部門。eSports Worldでも「VCT」の試合直後に、Astell選手、seoldam選手に独占インタビューを行ったのは記憶に新しい

——各部門共に急成長しているイメージですが、3年間eスポーツチームを運営してみていかがでしたか?

大輪:まあ、苦労の数々ですよ(笑)。

実際、eスポーツを新規事業として取り入れたとはお話ししましたが、実際に運営に携わっているのは僕ひとりでしたしね。

——ええっ。そうだったんですか!

大輪:はい(笑)。

選手やストリーマーも含めると選手だけで20名以上を抱えてましたから、もうそれだけでちょっとした学級ですよね。しかも、地域も国もバラバラで、話するのはオンラインのカメラ越しでしょ?

選手個人の性格やら個性がわからないうちに辞めてしまった選手もいますしね……。

——あらら……。eスポーツの選手といえば、やはり各タイトルにおける「強さ」がひとつの指針になると思いますが、NORTHEPTIONは選手のどの部分に注目していますか?

大輪:強さももちろん大切ですが、NORTHEPTIONでは「人柄」を大切にしています。

特にシューティングのようなチーム戦では、個々の強さよりもチームワークが大切だと思っています。そういった中で、文句の多い選手がひとりでもいると、ほかのメンバーにも影響が出てしまいますし、ケンカが原因でチームを離れてしまうこともありますからね。


まあ、強くて人柄もいい人が一番なんですけどね(笑)。

——とはいえ、やはり強さがなければ「X-MOMENT」なり「VCT」なり、大きな大会で結果は残せないと思います。NORTHEPTIONがここまで強さを発揮できている理由は何でしょうか?

大輪:自由にやらせてたから?(笑)

——あはは(笑)ええっ、本当ですか?

大輪:まあ、ここまで話をしてきた流れでわかると思いますが、僕自身カチカチッとした人間ではないので、大体のことは「いいよいいよ〜」って自由にやらせてましたね(笑)。

——具体的に「自由にやらせてた」というのはどういうことなんでしょうか。

大輪:例えば、各部門の方針だったり、試合に勝った負けたってなっても、あまり干渉しないようにしています。オーナー自身がゲームの経験者だと、どうしても口を挟みたくなるとは思いますが、僕はあえて口を挟まないことも意識していました。

よっぽど負け続けた場合は励ましたり、一緒に考えたりはしますけどね(笑)。

——口を挟まない方が、選手がのびのび活動できて、結果強くなるということなんですね。

大輪:そうですね。

——eスポーツチームの選手というと、強い選手であることが第一条件で、人柄や性格などは二の次という考えで採用するイメージが強いですが、大輪さんはチームというより組織という考え方なんですね。

大輪:そこは経営者としての目線が強く出てしまうのかもしれませんね。

ただ、ほかのチームのオーナーさんとお話しする機会が増えてきたのですが、ほかのオーナーさんは選手を獲得することに凄い力を入れているなあと感じました。

——ええっ。そんなひとごとみたいな感じでいいんですかー!

踏み台になってもいい
ダイアモンドの原石を見つけるのも楽しみのひとつ


——チームを存続するために、強い選手を獲得することも大事だと思うのですが、大輪さんはそこまで重要視していない?

大輪:そうですね。僕は強い選手を獲得しようとする中には入っていかないですね(笑)。なんなら余った選手でもいいです。

例えば、もう少しで18歳になるものすごい強い無名な子とか、まだ世に出ていない子を探して採るのも楽しみのひとつなんです。『レインボーシックス シージ』部門だと、現在父ノ背中に所属しているCoPaHiPo選手だったり、『VALORANT』で活躍していたseoldam選手なんかも、競技シーン未経験でも採用してましたね。

——へええ。そうだったんですね! ただNORTHEPTIONで経験を積んだ選手が、現在ほかのチームで活躍しているのを見ると悔しい思いをするのではないでしょうか。

大輪:まあ、なきにしもあらずですけど、僕は選手たちに「NORTHEPTIONを踏み台にして、いいチームに入れよ」とは伝えてあります(笑)。

——ええっ!

大輪:やっぱり選手の人生を大切にしたいじゃないですか。選手としての実績をうちで積んで、もっと強いチーム、もっとグローバルなチームに所属すれば、選手としての成長にもなると思いますしね。

なので、「ダメダメ〜! 行かないで〜!」とかはないです(笑)。


——あはは。大輪さんと話していると、eスポーツに対するとらえ方がほかのオーナーさんとは違う。そんな雰囲気を感じます。なんというか、切羽詰まった感がないというか(笑)。

大輪:これはeスポーツに限らず言えることなのですが、経営する上で利益ってとても重要ですよね。ただ、その利益がでなかったときに「利益が上がらなかった……どうしよう……」ってネガティブな考え方になるよりは、「売り上げを上げるためにはどうすればいいだろう」というポジティブな考え方を持つように心がけています。

マイナスのことを考えていると、いいアイデアは生まれないですしね。なので、僕はできるだけ困らないふりをしています(笑)。

——困らないふり?(笑)

大輪:はい。選手がいなくなった時も、「お前らがいなくなっても困らないぞ!」みたいな。本当は困ってるけど(笑)。

——あはは。(笑)

大輪:選手がいなくなったということは、逆に考えれば部門を再建できるということでもあるので、新しい気持ちでシーンに挑める。そう考えるとポジティブに動けるんです。

——なるほど! ただ一時的に「強さ」を捨ててしまうことにもなりかねませんか? 「強さ」があれば、大会でじゃんじゃん優勝して賞金も稼げる。そういう「強さ」を犠牲にするのは辛いと思うのですが。

大輪:確かに、指針を強さに定めるのか定めないのかの見極めは大事だと思います。そういった意味で、今のZETA DIVISIONさんは「強さ」に指針を定めているのかなあ思いますね。

僕の場合、「強さ」が絶対という考えではないので、一時的な犠牲もポジティブに考えられるのかも。

——では、NORTHEPTIONの強さの秘訣とは一体なんでしょうか?

大輪:うーん。最初から強かったという感じですね(笑)。あとは「期待」という言葉を選手によく投げかけています。

——期待?

大輪:はい。やっぱり、人って期待されるとうれしいじゃないですか。eスポーツ選手も然りで、勝てないことを批判するよりも、「期待してるよ」って伝えるだけでも意気込みが変わると思っています。

ただ『Apex Legends』部門は苦労しました。選手同士の相性が悪かったり、選手間で言いたいことを言えない環境になってしまったり——。

——日本人はあまり自分の意見を言い合うのが苦手ですものね。

大輪:そうですね。ただ、競技シーンでは意見を言い合っていかないと強くはなれませんし、選手同士の理解も深まりません。「ダメなところはダメ。いいところはいい」そういう部分を選手間で把握することも強さの秘訣だと思います。

言い合えることも経験になって、今後の選手活動においての糧になりますしね。

新部門設立でさらなる飛躍を見せるNORTHEPTION


——大輪さんはチームよりも個々の選手を大切にしているように感じます。セカンドキャリアも視野にいれているというか。

大輪:今、日本ではセカンドキャリアについての考え方が大きな問題になっていると思います。eスポーツ選手もそのひとつです。

僕らは建設業としての軸がありますので、選手としての道が閉ざされた時に、建設業という新しい道を示すこともできます。プロゲーマーだけではない、ほかの道に進むきっかけを作るためにも、冒頭にお話しした多角経営というのを視野に入れているのもあるんです。


eスポーツに限らず、ほかのことをやりたいっていう選手が出てきた時のことも考えて、飲食業だったり運送業だったり、建設業だけでない道を示せるようにしてあげたいと思っています。

——おおっ。それは選手にとっては頼もしいチームですね。そういった考えはNORTHEPTIONを設立される以前から考えられていたのでしょうか。

大輪:そうですね。

やっぱり今、どこの事業も人材が不足しているじゃないですか。ある意味eスポーツチームを運営することは、リクルートの一環でもあったんです。

「こういう会社の人がeスポーツチームを運営してるんだ」って若者に知ってもらえることって大事ですしね。一般的に建設業はとっつきにくい分野でもありますからね。

——なるほど。そういうリクルートの一環というのを視野に入れていたというのは、やはり2018年のいわゆるeスポーツ元年の盛り上がりを目の当たりにしたからというのはありますか?

大輪:ありますね。『PUBG』の大会なんかを観て、「今、eスポーツってこんなに人が集まってるんだ」という盛り上がりは感じていました。そこでなにかeスポーツを使って会社の宣伝ができないかと考えていたところで、eスポーツチーム運営の話が舞い込んできたという流れですね。

——そう考えると、選手を縛り付けるのではなく、セカンドキャリアを視野に入れたチームの方針というのも合点がいきますね。最後にNORTHEPTIONの今後の展望をお聞かせください。

大輪:今年は今活動している3部門に加え、新部門も設立が決まっています。また、新しいNORTHEPTIONを発信できるかと思いますので、今後も応援よろしくお願いします!

あとは、海外旅行したいんで……どうしても……(笑)。


——あはは。(笑)まだ海外旅行行けてませんもね。世界で活躍するチームになるためには、何が必要でしょうか。

大輪:どうしてもタクティカルなタイトルだと、作戦が一定になりがちです。そういう常識を外した奇抜なプレイを積極的に取り入れることが大事だと思います。例えば野良連合さんが『レインボーシックス シージ』の世界大会でベスト4を取ったときに見せたムーブのような、今までのメタを根本から変えていくスタイルみたいな。

ほかにない武器をどれだけ身につけられるかが大切なんじゃないかなあ。あとは気力ですね。1試合にどれだけ体力を使えるかだと思います。

まあ、いろいろ話しましたがチームとして「強くありたい」という気持ちはあるんで、応援よろしくお願いします!

——ありがとうございました!

———

NORTHEPTIONの強さは、読者の皆さんが一番よく知っている部分ではあると思う。今回のインタビューで感じたことは、とてもやさしい、あたたかいチームだということ。そして、なにより個々の選手の人生を大切にしているチームだとういうこと。

そしてオーナーの大輪さんが面白いこと(笑)

自由でおおらか。のびのびとした活動スタイルが選手の秘めたる強さを引き出せているのではないかと感じた。これは今までのeスポーツチームとは大きく異なる部分なのではないだろうか。

今後もNORTHEPTIONの活動を見守るとともに、大輪さんの「世界観光の野望」が実現できるのを願いたい!

大輪さん Twitter:
https://twitter.com/r1o_a1

NORTHEPTION Twitter:
https://twitter.com/northeption

NORTHEPTION公式:
https://www.northeption.com/

札幌ビケ足場:
http://www.bi-ke.com/


【番外編】『VALORANT』におけるFA権

——eスポーツのFA権って、ほかのスポーツとは異なり曖昧な部分が多いと感じています。「X-MOMENT」や『リーグ・オブ・レジェンド』界隈では、しっかりとしたルールが定められているのに対し、『VALORANT』は、なんとなくやりたい放題というか無法地帯になっている気がします。

大輪:確かに……。まあでも、僕の口からは言えませんよ(笑)。


ただ、こんなにもeスポーツシーンでトップになれるコンテンツなんだから、そういう部分をしっかりしておかないと今後シーンが不安になりますよね。

「なんでもありやんけ!」ってなっちゃいますし(笑)

——あはは、確かに。『VALORANT』といえば、NORTHEPTIONの『VALORANT』部門は今再建しているところですね。

大輪:そうですね。強い選手が辞めてしまうことは辛い部分でもありますが、逆にイチから再建できるというメリットもあります。先ほどお話ししたポジティブな考え方です(笑)。

選手の所属年数が長くなるとその分お給料も増えて運営費もかさみます。でも、新しい選手ならばお給料のスタートラインもイチからになるので運営費は抑えられる。そう考えると前向きに考えられますよね。

——なるほど!

ただ、僕はもともと『VALORANT』部門作る予定なかったんですよ。とあるコーチの子から『VALORANT』部門作りたいって言われてましたけど、3カ月くらいずっと断り続けてました。

——あら、それはまたどうして。

大輪:『VALORANT』を初めてプレイした時に、暴言を吐くプレイヤーと同じチームになってしまいましてね。「なんて民度の低いゲームなんだ!」って思っちゃって、あまりやる気が出ませんでした。

それでも、その子からチームを作りたいってアプローチを受けてて——。「じゃあ、世界行けるの?」って聞いて、「行けますっ!」って言うもんだから、「じゃあ、やってみる?」って(笑)。

——あはは。結局その流れかーい(笑)

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