【インタビュー】なぜ、ときど選手が新任役員に?——VARRELとTOPANGAが経営統合した新会社CELLORBの狙いとは

株式会社TOPANGAが運営するeスポーツチーム魚群。2020年3月に設立された魚群が、2024年4月に突然の解散を発表。

同時にTOPANGAはeスポーツチームVARRELを運営する株式会社VARRELと経営統合を発表し、新たに株式会社CELLORB(せるおーぶ)を設立した。

CELLORBの新任役員に、プロ選手として活躍している谷口一氏(ときど選手)が就任。センセーショナルなムービーは多くの反響を呼んだ。


なぜ経営統合だったのか、なぜTOPANGAとVARRELだったのか——。CELLORBが目指す新たなeスポーツシーンのあり方を、CELLORBの代表取締役社長の鈴木文雄氏、取締役副社長 豊田風佑氏にうかがった。

トパチャン生みの親とLJLの生みの親がタッグを組む!


——TOPANGAとVARRELが経営統合するニュースは多くのeスポーツファンが驚いたと思います。まずはおふたりの接点からお聞かせください。ふたりの出会いはいつ頃だったのでしょうか。

豊田:初めてお会いしたのは2012年頃ですね。ただ、その頃は「なんだかうさんくさい人だなぁ」みたいな雰囲気だったので、近づくのやめようって思ってたんです(笑)。

鈴木:いやいや出会った時は豊田さんも怖かったですよ(笑)。

豊田:それから6年後くらいかな、鈴木さんと直接話す機会があったのですが、話せば話すほど最初の印象とは真逆の人柄で——。「この人の器の大きさは半端じゃないな」って。そこから仲良くさせていただいています。

——なるほど。お互いのファーストインプレッションはなんとも微妙な距離感だったんですね(笑)。せっかくなので、おふたりの自己紹介もお聞かせください。

不思議とゲーマーが集まる雀荘からTOPANGAが生まれた


——豊田さんは“にゃん師”というプレーヤーネームで「ストリートファイターIV」シリーズや「ストリートファイターV」シリーズをプレーされていましたが、TOPANGAの代表になるまではどんなことをされていたのでしょうか。

豊田:いろいろやっていましたね。普通に働いていたり、会計士の資格を取ろうとしていたり。とはいえ、ゲーム業界に入ったきっかけは、アルバイト先の雀荘でウメさん(ウメハラ選手)に出会ったことでした。

——雀荘でウメハラ選手に?

豊田:はい。そこの雀荘は現在CELLORBでマネジャーを務めているボンちゃんもアルバイトしていた場所なんです。

——ゲーマーが集まる雀荘ってすごいですね。

豊田:まあ偶然なんですけどね(笑)。

そもそも僕がゲームをやりだしたのは、せっかく身近に「ストリートファイター」シリーズの世界チャンピオンがいるんだから、どれくらいすごいのか体験してみたいって思って『ストリートファイターIV』をはじめたのがきっかけでした。

ただあまりにも自分が弱すぎてウメさんのすごさがわからなかったこともあり、そのすごさがわかるようにとプレーし続けていたら、強豪プレーヤーとして認知されるまでになったって感じですね。

——そんないちプレーヤーであった豊田さんが、TOPANGAを設立させるにいたったきっかけは何だったのでしょうか。

豊田:ウメさんが招待された海外のイベントにクルーとして同行することがたびたびあったのですが、海外ではeスポーツプレーヤーがスターのように扱われていたんです。日本ではeスポーツがまだまだビジネスとして成り立っていないけど、今後どうにでもなりそうな予感がしました。

日本でもプロゲーマーとして食べていけるような土台を作りたい。マネジメントをしつつ、選手たちが活躍できる大会を運営していきたいという思いからTOPANGAを設立しました。


不思議とゲーマーが集う街——それが千葉県市川市


——鈴木さんは現在、一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)の理事でもあり、VARRELの代表でもありました。eスポーツに関わるまでの経緯をお聞かせください。

鈴木:私の本業は広告代理店で、2006年から広告代理店のSANKOを経営していました。どちらかというとエンターテイメント色の強い広告代理店ということもあり、新たなエンターテイメントを探していました。

そんな中「海外でeスポーツが流行っている」という話を聞いて、実際にアメリカや韓国にeスポーツの大会を見に行きました。日本では、ゲームというとオタクや引きこもりがやるものみたいなイメージがまだまだ強かった時代に、海外ではゲーマーがスター扱いされている。

そんなシーンを日本に持って帰りたいと思ったのがeスポーツに関わるきっかけでした。ただ、社内でそんな話をしても「ゲームをスポーツに? 社長は頭がおかしくなっちゃったんじゃない?」なんて思われていましたね(笑)。


——そんな時代からeスポーツに着目していたのはさすがですね。

鈴木:ただ、私も社員もゲームのことはまったく知らなかったので、まずはゲーマーの実態を調査すべく、韓国でいうPCバン(ネットカフェ)を作ろうと、千葉県市川市のJR市川駅前に「e-sports SQUARE(通称、eスク)」という日本で初のeスポーツ特化型施設を作りました。

——「eスク」っていうと秋葉原なイメージですが、第一号店は千葉だったんですね。

鈴木:そうなんです。小さな雑居ビルにゲーミングPCを25台ほど設置した施設だったんですが、当時はあまりお客さんもいませんでした。

ただ偶然にも個人運営のニュースサイトNegitaku.orgを運営しているYossyさんがご近所に住んでいて、第一号のお客さんはYossyさんなんです(笑)。

▲当時の記事がNegitaku.orgに残っている。さすがYossyさん!(出典:https://www.negitaku.org/news/n-15466

そこから少しずつ認知されはじめ、今ではeスポーツキャスターとして活躍されている、岸大河さんがアルバイトで入ったり、ハメコ。さんが遊びに来てくれたりと、今やeスポーツの第一線で活躍している人たちが、当時はいちゲーマーとして遊びに来てくれました。

若い子たちが「eスク」に遊びに来てくれたことで、当時の格闘ゲームの盛り上がりを知ることができ、そこでTOPANGAの存在も知ることに。そこで、代表の豊田さんとぜひ話してみたいと思ってコンタクトを取ったのが豊田さんとの出会いですね。

そうしたら、(豊田さんから)怪しい男だと思われちゃって(笑)。


豊田:(笑)。

鈴木:当時はeスポーツをビジネスにすること自体が怪しいと思われていたんですよ。「また、なんか出てきたよ」みたいに(笑)。ただ、私はeスポーツに可能性を感じていました。

——どういったところに可能性を感じていたんでしょうか。

鈴木:インターネットを通じて、世界中の若者がコミュニケーションを取っているということに衝撃を覚えました。我々の世代とはコミュニケーションの取り方がまったく違う。そんなインターネットを活用して対戦できるという点ですね。

我々としても「ストリートファイター」シリーズの競技シーンを作りたかった。ただ格闘ゲームはTOPANGAさんの専売特許みたいになっちゃってるじゃないですか?

豊田:んなことはないでしょ(笑)。

鈴木:しかも、2011年当時は国内のゲームメーカーさんもeスポーツに知見がなかったり、興味もなかったりとeスポーツに対して悲観的でした。そんな矢先に現れたのが『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』です。

2012年あたりから「eスクでLoLできませんか?」という問い合わせが増え始め、世界中でもユーザーが増えているだけでなく、競技シーンも盛り上がっていました。「eスク」でも試しにコミュニティー大会を開いてみたら、ものすごくお客さんが集まって——。

そんな中、これもまた偶然なんですが、今やDetonatioN FocusMeのオーナーである梅崎くんも、当時「eスク」に遊びに来ていて、「僕、会社辞めてeスポーツチーム作るんで、LoLのリーグ作ってください!」ってお願いされちゃって。

それで、ライアットゲームズに話を持っていって『LoL』の大会を開催する権利をいただき、2014年に「LJL(League of Legends Japan League)」を開催しました。

——eスポーツの可能性が形になった瞬間ですね。

鈴木:そうですね。そこからeスポーツ業務を専門としたRIZeSTを子会社として立ち上げ、私は一歩引いて広告代理店の立場からeスポーツに関わるようになりました。

ある日、飲料メーカーさんからeスポーツプレーヤーと商品開発をしたいというお話をいただき、「これは、ときどさんが適任だ」と久しぶりに豊田さんに話を持ちかけたのが、6年後のお話しです。

——なるほど。ここで、冒頭の6年越しの再会につながるんですね!

▲頭のスポーツドリンクとして大塚食品から発売されたe3。大塚食品とときど選手が共同開発したまったく新しいスポーツドリンクだ

お互いが足りないところを補えるのがCELLORBの強み


——そんな6年越しの再会からCELLORB設立に至った経緯もお聞かせください。

豊田:2〜3年前からTOPANGA単体で経営をしていくことに限界を感じていました。どこか大きな企業と組んでほかのことにも着手するか、セルアウトして大きな会社に使ってもらう立ち位置に今後なっていくんだろうなと。

イベント、選手のマネジメント、配信がTOPANGAの主軸として動いています。選手のマネジメントに関しては問題ないのですが、イベントや配信に関しては違う。

イベントに関していうと、サウジアラビアで開催されている「Esports World Cup」のような大規模なeスポーツ大会が増えてきているじゃないですか。あれほどの大規模な大会が増えてくるとTOPANGAではとても太刀打ちできないという感覚があったんです。また配信もどんどんクオリティーが上がってきていて、配信の基準点を上げていくとなるとものすごくコストがかかってしまう。

現状を維持して会社を存続させることはできるけれども、新しい手を打たないとeスポーツのブームが去った時、みんなで野垂れ死ぬことになってしまう——。そんな未来が見えるようになってきたというか——。

eスポーツを単なるブームでなく、文化として昇華させるためには、大きなところと組んで今までできなかったことをやっていく必要があると考えていましたね。

——なるほど。ブームではなく文化としてeスポーツを根付かせるためのステップでもあったんですね。

豊田:そうですね。そんなことを考えていた時、鈴木さんから偶然連絡があったんです。別の話での連絡だったんですけど、鈴木さんが代表を務めているSANKOが株式会社カヤックの子会社になったのを思い出して「カヤックに売った時ってどんな感じだったんですか?」って何気なく聞いたら、「えっ? TOPANGA売るの?」って(笑)。

——鈴木さん、感づいていたんですね。

豊田:SANKOの代表としてのアドバイスが聞きたかったんですけど、「それだったら、一緒にやろうよ」って。まあ僕が聞きたいことは聞けなかったんですけどね(笑)。

鈴木さんはどんな人間でも支えてくれるような器の大きさを持っていたんで、鈴木さんとならうまくやっていけそうな気がしていました。僕の口の悪さなんかも笑って許してくれますしね。

鈴木:まあ、よくぞ統合の話を受けてくださったと思っていますよ。私自身2023年の3月にはVARRELの代表になったばかりでしたが、VARRELだけだと知名度も低いですし、豊田さんから話を持ちかけられた時は、絶対に一緒にやってきたいと思っていましたね。

ときどさんのような、人間的にもプレーヤー的にも優れた人たちと一緒に仕事をやってきたいと思って、必死に口説きましたよ。


——そんな流れでCELLORBが誕生したんですね。

鈴木:それぞれのブランドでやってきたことはそのまま生かしつつ、お互いの強みを生かしていきたいという思いから経営統合という形をとりました。TOPANGAという名前がなくなるわけではありませんしね。

豊田さんが持つ大会運営やマネジメントの強みと、我々が持つ営業の強みや企画力、対企業とのやりとりといったビジネスライクな経営方式を共有していく。コンテンツを作っていく側と、それを売り出していく側という立ち位置で協力していけたらと思っています。

ときどさんと一緒に仕事ができるとなると若い未経験の社員からしたら憧れでしかない。旧VARRELの社員はみんな大きな刺激を受けています。

——そのタイミングでTOPANGAが運営する魚群が解散になりました。なぜ魚群を解散しなければならなかったのでしょうか。


豊田:そもそも魚群というのは、TOPANGA一社のチームではなかったんです。TOPANGAが経営統合した際、魚群を継続させていくことは難しかった。そういった理由で解散しました。

もともとTOPANGAがマネジメントしている選手はVARRELに移籍して、もう一社がマネジメントしている選手やアーティストはそれぞれの道を進んだという流れになります。

——ときど選手もそうですが、TOPANGAでマネジメントされているけどREJECTに所属しているといった雇用形態がeスポーツの選手にはありますが、どういった仕組みなのでしょうか。

豊田:わかりやすい例でいうとAKB48みたいな感じですね。彼女たちは別々の事務所に所属しているけど、同じグループで活動しているじゃないですか。TOPANGAも選手のマネジメント会社であって、eスポーツチームではないんです。

——なるほど。あくまで選手の代理人的な存在なんですね。

ときど選手を新任役員に起用した理由


——そんな強力なタッグを組んで設立されたCELLORBですが、新任役員にときど選手が起用されたことも大きな話題になりました。


鈴木:eスポーツが発展していくにあたり、CEOやCOOといったCxO(Chief x Officer)の中に、プレーヤー出身となるCPO(Chief Player Officer)的な役割が今後必要になってくるんじゃないかと思っていました。そう考えた時、ときどさんほどの適任はいないと——。

そのときどさんがCELLORBに所属してくれるのであれば、絶対に取締役になった方がいいと思い、本人にお願いしました。

——ときど選手自身迷いはなかったのでしょうか。

豊田:そもそもTOPANGA初期からマネジメントしている、ときど、マゴ、ボンちゃんらは、自分たちが何のためにeスポーツ業界にいて、どういうふうに貢献できるのかというのは常日頃考えていたことでした。ときどはプロゲーマーの社会的地位の向上を目指すことを目的のひとつとして活動し続けているので、今までできなかった範囲のこともできるようになるのであればと前向きでした。

——具体的に新任役員になってどのようなことをしているのでしょうか。

鈴木:まずは経営について学んでいただきたいので取締役会に参加してもらっています。会社の仕組みや成り立ちといった部分を知っていただくということですね。もちろん、REJECT所属のプレーヤーとしての活動もありますから、今は少しずつ理解を深めてもらう段階ですね。

今後は取締役会でときどさんに経営方針について意見を求めてもいいのではないかと思っています。

——確かに、ときど選手はeスポーツプレーヤーのお手本となるような存在ですもんね。

豊田:ときどは明確にスペシャルですよ。

鈴木:VARRELの若い子たちにもいい刺激になっています。特にオーバーウォッチ部門のNicoはものすごく刺激を受けていました。

参考:
【インタビュー】Nico「改善の余地はある。もっとファンを楽しませたい!」——VARREL オーバーウォッチ部門 選手&マネジャーが語るファンミの重要性

——CELLORBが掲げているビジョンとして「プロeスポーツプレーヤーのセカンドキャリアの創造」というのがありました。eスポーツプレーヤーのセカンドキャリアについてどのようなことをしていく予定なのかもお聞かせください。

鈴木:近いうちに発表になると思いますが、事業計画を立てて活動を進めています。

——eスポーツ選手の引退後というと、どうしてもストリーマーといったセカンドキャリアしか目立っておらず、そのほかの選手はふわっと業界から姿を消していくというイメージしかありません。そういった部分はどのように考えているのでしょうか。

豊田:それはとても僕たちも問題視しています。2023年に「ストリートファイター」シリーズの選手たちによる選手会を立ち上げたのもセカンドキャリアについて考えるための一環で、僕たちがeスポーツを盛り上げてきたのに、選手の引退後を考えていないなんて無責任じゃないですか?

僕たちはプロ選手という憧れの存在を作ってしまった以上、セカンドキャリアの道も作るのが責任だと考えています。選手会を作ることで、対メーカーといった企業側にお話しをさせていただく機会ができればと思っていました。

そういったセカンドキャリアにつながる道をCELLORBとしても形にしていこうと思っています。

——では、最後に今後の展望もお聞かせください。

豊田:TOPANGA由来のイベントは継続してやっていきます。

鈴木:今後はeスポーツプレーヤーが生涯活躍できる場を作っていきたいと思っています。そのためにも、eスポーツプレーヤーを3,000人くらいはマネジメントできるような会社にしていきたいですね。

またCELLORBとしてIPコンテンツを作っていく予定です。TOPANGAだけでなく、新たな配信番組やグッズ、アパレルといったファン獲得のコンテンツを作り、会社を成長させていきたいです。

——ありがとうございました!

———

eスポーツ黎明期からeスポーツを影で支えていたふたりが長い年月を経てタッグを組んだ。LJLの生みの親でもある鈴木氏が見据えるeスポーツの可能性と、格ゲーマーを職業へと昇華させた豊田氏が掲げるブームを文化にしたいという思いは、CELLORBというひとつの組織で体現されようとしている。

CELLORBには「プロeスポーツプレーヤーのセカンドキャリアの創造」という明確なビジョンがあり、ときど選手が新任役員に起用されたことは、ある意味ひとつのビジネスモデルとなったのではないだろうか。

まだまだ動き出したばかりのCELLORBが、今後どのような形でeスポーツ業界を盛り上げてくれるのか——。日本のeスポーツが細胞分裂のように拡大し、さらなる飛躍を遂げる未来に期待したい。


CELLORB公式:
https://cellorb.jp

公式X:
https://x.com/_VARREL
https://x.com/topangajapan


編集:いのかわゆう
撮影:いのかわゆう


【井ノ川結希(いのかわゆう)プロフィール】
ゲーム好きが高じて19歳でゲーム系の出版社に就職。その後、フリーランスでライター、編集、ディレクターなど多岐にわたり活動している。最近はまっているゲームは『VALORANT』。

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