【インタビュー】REJECT GEAR誕生秘話——“プレーヤーの声”から生まれた、使い続けたくなるギアとは
日本では数多くのeスポーツチームが存在するが、その活動内容は年々多様化している。これまではプロ選手の活躍をサポートする形が中心だったが、近年はストリーマーの育成やイベント運営、コンテンツ制作など、競技シーン以外の領域にも注目が集まっている。
そんな中、いち早く“ゲーミングギアブランド”を立ち上げたのが、国内有数のeスポーツチームであるREJECTだ。チームとしての知名度だけでなく、実際に所属する選手のフィードバックを取り入れた製品開発により、「プレーヤー目線のギアブランド」として確かな存在感を放っている。
話をうかがったのは、株式会社REJECT プロダクト事業部責任者 田中 七星輝(たなか なおき)氏。チームがなぜ“自社ブランド”を立ち上げるに至ったのか、その背景と開発に込めた思いを語ってもらった。
——まず、田中さんご自身についておうかがいします。REJECTにはどのような経緯で参加されたのでしょうか?
田中:自分は大学を卒業してすぐ、「Nitro Factory devices」という小規模ブランドを知人と一緒に立ち上げて、マウスソールやアタッチメントパーツなどの製品を自作していました。
もともと『Counter-Strike』や『バトルフィールド』といったFPSタイトルをプレーしていて、マウスの形状や持ち方を研究するのが好きだったんです。その経験をもとに、樹脂の削り出しでマウスソールの滑り感を調整したり、マウスの持ちやすさを改善するパーツを試作したりしていました。

——すでにギア開発の経験があったんですね。
田中:はい。当時は少人数で運営していたんですが、次第に自分の中で「もっと大きい規模で開発に携わりたい」という気持ちが強くなりました。そんな時に、以前の知人経由で「REJECTがギア開発の人材を探している」と聞いたんです。
実はその頃、音楽の道にも興味があって迷っていたんですが、REJECTにはVTuber運営やクリエイティブ事業などもあって、自分のスキルを生かせる環境で、さまざまなことにチャレンジができると感じました。
結果的にはヘッドハンティングのような形で声をかけてもらって、2024年7月に入社しました。
——REJECTのギアブランド「REJECT GEAR」が動き出したのはいつ頃なんですか?
田中:動き出したというのであれば2023年頃からですが、「東京ゲームショウ 2024」で初出展をしたのを皮切りに本格的に事業をスタートさせました。
——REJECTとしてゲーミングギアを開発するきっかけはあったのでしょうか。
田中:プロシーンの最前線で培った知見と情熱を、誰もが手に取れる「形」にすること。それが、私たちのゲーミングギア開発の始まりでした。
REJECTが大切にしている価値観は「Empower Gaming Life」です。選手だけでなく、すべてのゲーマーのゲームにおける体験を、より豊かで、素晴らしいものにしたいと考えています。
この活動を通じて生まれる力が、チームの基盤を強固にし、所属選手たちが安心して競技に打ち込める環境を実現できると考えています。選手が最高の舞台で輝き続けることこそ、eスポーツシーン全体を活性化させ、多くのゲーマーに夢と感動を与える源泉になると信じています。
——最初の製品は指サックですよね?
田中:そうですね。当時PUBG MOBILE部門が世界大会で活躍していた時期で、選手やゲーマーに貢献できるようなREJECTなりの手段はないか検討をしていました。
そのようなタイミングでオーナーの甲山が海外の展示会で指サックという製品に出会い、すごくいいと感じたのが始まり¥です。その後いろんなサンプルを入手して実際に試し、選手の反応が一番良かったものを製品として出しました。
やはりPUBG MOBILE部門が非常に勢いのある時期ということもあり、その流れで選手の使うギアとして注目されました。チームの成績が好調だったこともあって、相性のいい商品としてハマりましたね。

——続いてアームカバーも発売されていましたね。こちらのこだわりのポイントは?
田中:アームカバーの開発は前任の担当者が手がけていたんですが、その当時所属していた選手たちにサンプルを渡して使ってもらい、フィードバックをもとに改良を重ねたそうです。
必ず行っているのは「プロ選手の意見を取り入れること」。実際に使ってもらって得た意見を製品に反映させています。
——具体的にはどんな改良が施されているのでしょうか。
田中:例えば「サムホールロング」と呼ばれるタイプのアームカバーでは、親指を通す穴の部分をあえて縫製していません。他社製品だとそこを縫っているもありますが、プロの選手から「縫わないほうが付け心地がいい」という意見をもらって、あえて縫わない仕様にしています。
たまにお客様から「(穴を通す部分に縫製がないのは)初期不良ですか?」と聞かれることもあるんですが、実は意図的な設計なんです(笑)。

——ほかにはどのような製品がありますか?
田中:マウスのグリップテープがあります。これは自分が入社して最初に手がけた製品です。形状にすごくこだわりました。従来のグリップテープは長方形や正方形が多いんですが、REJECTのものは全く異なる形状を採用しています。マウスに貼っても見栄えを損なわず、持ち方の違いにも対応できるよう設計しました。

——なぜこのような形状をしているのでしょうか。
田中:従来のグリップテープだと、貼ったときにどうしてもシワができたり、マウス本体のデザインを損わせてしまうと感じていました。なので機能性とデザイン性を両立できる合理的な形を考えました。自分はもともとマウスの持ち方や形状をずっと研究してきたので、その知見を生かして作った形になります。
——ユーザーからの反応はいかがでしょうか。
田中:おかげさまで好評です。
グリップテープの評価軸は「グリップ力」、「薄さ」、「貼り直しやすさ」が一般的なんですが、そこに「形状」という新しい軸を加えました。「形状」という新しい価値提案を行い、お客様からは高い評価をいただいていますので非常にうれしく思います。
また、重要視されるグリップ力は他社より強く、薄さは少し厚めですが許容範囲。貼り直しは20回ほどできるという検証もあり、粘着の跡も残らないので安心して使えます。
——なるほど。貼り直しがストレスなくできるのはうれしいですね! 今後はどんな展開を考えていますか?
田中:今後はPCゲーム領域をより強化していきたいと思っています。
——個人的に作ってみたいものはありますか?
田中:そうですね、実は東京ゲームショーでアーケードコントローラー(アケコン)を発表する予定です。プロトタイプを展示して実際にさわってもらえるようにします。
——おお、それは楽しみですね! こだわりポイントを教えてもらえますか?
田中:個人的に最もこだわったのはキーの打ち心地です。毎日練習を続けられるアケコンにしたいという思いがありました。
最近では「ラピッドトリガー機能(浅い押下で即入力される高速反応機能)」を搭載したモデルが増えていますが、REJECTのアケコンではそのコンセプトに沿う仕様で開発を進めています。
もちろん、機能面の進化は素晴らしいことだと思います。でも、入力漏れや暴発のことを考慮すると、アナログスイッチも選択肢としては有力だと考えています。結局のところ、日々の研鑽による上達が勝つことにおいて大事だと思っているので、毎日さわっていたくなる“気持ちよさ”を取り入れたいです。
だから、僕たちは「触感」や「押した時のリズム感」、「反発の気持ちよさ」を徹底的に追求しました。機能だけでなく、“続けられる心地よさ”も意識して設計しているんです。

——スペックよりも、人の感覚を大事にしているわけですね。
田中:そうですね。もちろん技術的な部分もおろそかにはしませんが、プレーヤーが「このデバイスで練習するのが楽しい」と思えることを最優先にしています。
日々の練習を通して、プレーヤー自身が“成功体験”を積み重ねていけるような——。そんなアケコンを目指しています。単なるハードウェアではなく、「努力したいと思える道具」。それがREJECTのアケコンです。
——操作感はいかがですか?
田中:今回のプロトタイプはスライド入力を意識して設計しています。1フレーム以内の入力や押し・離しの間隔など、技の出しやすさを徹底的に調整しました。スライド動作で自然に技が出せる配置にしています。

——このボタン配列だとジャンプをボタンに割り当てる操作を想定されているようにも見えますね。
田中:実は上方向をレバーで入力するのかボタンで入力するのかを切り替えることができます。モードを切り替えると、レバーの上入力が無効になり、その代わりボタンで上入力が可能になる。
左右下の操作はレバーで、上入力だけボタンで入力ができるようになるので、例えば春麗の「天昇脚」のような下→下+Kといったコマンドも簡単にできるようになります。
具体的な操作方法としては、レバーを下に入れっぱなしにしながら、上ボタンとキックボタンをスライドさせるように入力する。コマンド入力も少なくて済むので、めちゃめちゃすばやく「天昇脚」が出せるんです。
——おおっ、これは確かに早い!

田中:またボタン配置や傾斜角度にも工夫があって、膝上プレーを想定して前面をわずかに傾斜させています。長時間プレーしても姿勢が崩れにくい設計です。

——ボタンのカスタマイズは可能ですか?
田中:標準でLS、RS(スティック押し込み)などの割り当てがありますが、自由に変更できます。アプリ不要で、物理的にプロファイルを切り替えられる仕様を目指しています。
また天板はプラスチック素材にしています。アルミよりも冷えにくく、実際に試作品をさわってもらったプロ選手からも「手が冷えにくくて助かる」と好評です。ABS樹脂製で軽量かつ扱いやすくしています。
——メンテナンス面はどうでしょう?
田中:背面から簡単にアクセスできる構造にしており、今後はホットスワップ対応なども検討しています。ボタン自体はキースイッチを採用しているので、自身でカスタマイズして楽しんでもらえるよう検討中です。
——最終的なデザイン面はどうなりそうですか?
田中:まだまだプロトタイプ段階ですので、さらにブラッシュアップを重ねながらクオリティの高いデザインに仕上げていく所存です。
——最後に今後の展望を教えてください。
田中:「REJECT GEARというブランドを、もっと多くの人に知っていただけるよう活動を続けていきたいと思っています。そのためにも今後は商品のラインアップを増やしつつ手に取っていただける場所や機会を増やしていきたいですね。
商品を買ってもらったお客さまに「この商品と出会えて良かったな」って思えるような、深みのあるブランドにしていけたらうれしいです。
——ありがとうございました!
所属プロ選手を多く抱えるeスポーツチームの運営において、切り離せないのが資金調達だ。近年では、プロ選手だけでなく人気ストリーマーやVTuberを抱えるチームも増え、まるで巨大な芸能プロダクションのような構図になりつつある。
その分、チームとしての活動を継続するための“収益の安定化”がこれまで以上に重要視されているのは間違いない。
そんな中で、eスポーツ選手と親和性の高いゲーミングギアブランドに着目するのは、非常に合理的な戦略といえる。単なる物販ではなく、自社ブランドとしての開発を通じて、選手の声を反映させた製品を生み出しながら、チームとして選手のポテンシャルもサポートしている。
REJECT GEARはプレーヤーの経験と開発者の発想を融合させた、“チーム発のものづくり”を形にした最たるものではないだろうか。
今後も彼らがどのようにこのブランドを育て、プレーヤーの“努力したくなる道具”を世に送り出していくのか——その展開に期待したい。
撮影:いのかわゆう
編集:いのかわゆう
そんな中、いち早く“ゲーミングギアブランド”を立ち上げたのが、国内有数のeスポーツチームであるREJECTだ。チームとしての知名度だけでなく、実際に所属する選手のフィードバックを取り入れた製品開発により、「プレーヤー目線のギアブランド」として確かな存在感を放っている。
話をうかがったのは、株式会社REJECT プロダクト事業部責任者 田中 七星輝(たなか なおき)氏。チームがなぜ“自社ブランド”を立ち上げるに至ったのか、その背景と開発に込めた思いを語ってもらった。
小さなガレージブランドからREJECTへ
——まず、田中さんご自身についておうかがいします。REJECTにはどのような経緯で参加されたのでしょうか?
田中:自分は大学を卒業してすぐ、「Nitro Factory devices」という小規模ブランドを知人と一緒に立ち上げて、マウスソールやアタッチメントパーツなどの製品を自作していました。
もともと『Counter-Strike』や『バトルフィールド』といったFPSタイトルをプレーしていて、マウスの形状や持ち方を研究するのが好きだったんです。その経験をもとに、樹脂の削り出しでマウスソールの滑り感を調整したり、マウスの持ちやすさを改善するパーツを試作したりしていました。

▲「Nitro Factory devices」は、既存のマウスに取り付けることで形状が変えられるパーツなど、ゲーミングマウスのカスタムパーツを開発・販売している(出典:Nitro Factory-devices)
——すでにギア開発の経験があったんですね。
田中:はい。当時は少人数で運営していたんですが、次第に自分の中で「もっと大きい規模で開発に携わりたい」という気持ちが強くなりました。そんな時に、以前の知人経由で「REJECTがギア開発の人材を探している」と聞いたんです。
実はその頃、音楽の道にも興味があって迷っていたんですが、REJECTにはVTuber運営やクリエイティブ事業などもあって、自分のスキルを生かせる環境で、さまざまなことにチャレンジができると感じました。
結果的にはヘッドハンティングのような形で声をかけてもらって、2024年7月に入社しました。
指サックから始まった“プレーヤー視点のものづくり”
——REJECTのギアブランド「REJECT GEAR」が動き出したのはいつ頃なんですか?
田中:動き出したというのであれば2023年頃からですが、「東京ゲームショウ 2024」で初出展をしたのを皮切りに本格的に事業をスタートさせました。
——REJECTとしてゲーミングギアを開発するきっかけはあったのでしょうか。
田中:プロシーンの最前線で培った知見と情熱を、誰もが手に取れる「形」にすること。それが、私たちのゲーミングギア開発の始まりでした。
REJECTが大切にしている価値観は「Empower Gaming Life」です。選手だけでなく、すべてのゲーマーのゲームにおける体験を、より豊かで、素晴らしいものにしたいと考えています。
この活動を通じて生まれる力が、チームの基盤を強固にし、所属選手たちが安心して競技に打ち込める環境を実現できると考えています。選手が最高の舞台で輝き続けることこそ、eスポーツシーン全体を活性化させ、多くのゲーマーに夢と感動を与える源泉になると信じています。
——最初の製品は指サックですよね?
田中:そうですね。当時PUBG MOBILE部門が世界大会で活躍していた時期で、選手やゲーマーに貢献できるようなREJECTなりの手段はないか検討をしていました。
そのようなタイミングでオーナーの甲山が海外の展示会で指サックという製品に出会い、すごくいいと感じたのが始まり¥です。その後いろんなサンプルを入手して実際に試し、選手の反応が一番良かったものを製品として出しました。
やはりPUBG MOBILE部門が非常に勢いのある時期ということもあり、その流れで選手の使うギアとして注目されました。チームの成績が好調だったこともあって、相性のいい商品としてハマりましたね。

▲特にモバイルゲームの操作性が格段にアップするという「REJECT Clawsocks」(指サック)
——続いてアームカバーも発売されていましたね。こちらのこだわりのポイントは?
田中:アームカバーの開発は前任の担当者が手がけていたんですが、その当時所属していた選手たちにサンプルを渡して使ってもらい、フィードバックをもとに改良を重ねたそうです。
必ず行っているのは「プロ選手の意見を取り入れること」。実際に使ってもらって得た意見を製品に反映させています。
——具体的にはどんな改良が施されているのでしょうか。
田中:例えば「サムホールロング」と呼ばれるタイプのアームカバーでは、親指を通す穴の部分をあえて縫製していません。他社製品だとそこを縫っているもありますが、プロの選手から「縫わないほうが付け心地がいい」という意見をもらって、あえて縫わない仕様にしています。
たまにお客様から「(穴を通す部分に縫製がないのは)初期不良ですか?」と聞かれることもあるんですが、実は意図的な設計なんです(笑)。

▲親指を通す部分の穴はあえて縫製をしないというプロの意見を取り入れた「REJECT Armsleeve」。通気性や着け心地など利用者からの評価も高い
——ほかにはどのような製品がありますか?
田中:マウスのグリップテープがあります。これは自分が入社して最初に手がけた製品です。形状にすごくこだわりました。従来のグリップテープは長方形や正方形が多いんですが、REJECTのものは全く異なる形状を採用しています。マウスに貼っても見栄えを損なわず、持ち方の違いにも対応できるよう設計しました。

▲マウスのグリップ力を高めるグリップテープ「UNIVERSAL GRIP TAPE ”YOROI”」。独自開発された形状は、さまざまなマウスにフィットするのだとか。以前からマウスのカスタムパーツに知見があった田中さんならではのアイデアだ
——なぜこのような形状をしているのでしょうか。
田中:従来のグリップテープだと、貼ったときにどうしてもシワができたり、マウス本体のデザインを損わせてしまうと感じていました。なので機能性とデザイン性を両立できる合理的な形を考えました。自分はもともとマウスの持ち方や形状をずっと研究してきたので、その知見を生かして作った形になります。
——ユーザーからの反応はいかがでしょうか。
田中:おかげさまで好評です。
グリップテープの評価軸は「グリップ力」、「薄さ」、「貼り直しやすさ」が一般的なんですが、そこに「形状」という新しい軸を加えました。「形状」という新しい価値提案を行い、お客様からは高い評価をいただいていますので非常にうれしく思います。
また、重要視されるグリップ力は他社より強く、薄さは少し厚めですが許容範囲。貼り直しは20回ほどできるという検証もあり、粘着の跡も残らないので安心して使えます。
——なるほど。貼り直しがストレスなくできるのはうれしいですね! 今後はどんな展開を考えていますか?
田中:今後はPCゲーム領域をより強化していきたいと思っています。
——個人的に作ってみたいものはありますか?
田中:そうですね、実は東京ゲームショーでアーケードコントローラー(アケコン)を発表する予定です。プロトタイプを展示して実際にさわってもらえるようにします。
——おお、それは楽しみですね! こだわりポイントを教えてもらえますか?
田中:個人的に最もこだわったのはキーの打ち心地です。毎日練習を続けられるアケコンにしたいという思いがありました。
最近では「ラピッドトリガー機能(浅い押下で即入力される高速反応機能)」を搭載したモデルが増えていますが、REJECTのアケコンではそのコンセプトに沿う仕様で開発を進めています。
もちろん、機能面の進化は素晴らしいことだと思います。でも、入力漏れや暴発のことを考慮すると、アナログスイッチも選択肢としては有力だと考えています。結局のところ、日々の研鑽による上達が勝つことにおいて大事だと思っているので、毎日さわっていたくなる“気持ちよさ”を取り入れたいです。
だから、僕たちは「触感」や「押した時のリズム感」、「反発の気持ちよさ」を徹底的に追求しました。機能だけでなく、“続けられる心地よさ”も意識して設計しているんです。

▲実際に「東京ゲームショウ 2025」ではアケコンとレバーレスの試作品が展示されていた。確かにボタンの押し心地は小気味よく、快適にプレーできた
——スペックよりも、人の感覚を大事にしているわけですね。
田中:そうですね。もちろん技術的な部分もおろそかにはしませんが、プレーヤーが「このデバイスで練習するのが楽しい」と思えることを最優先にしています。
日々の練習を通して、プレーヤー自身が“成功体験”を積み重ねていけるような——。そんなアケコンを目指しています。単なるハードウェアではなく、「努力したいと思える道具」。それがREJECTのアケコンです。
——操作感はいかがですか?
田中:今回のプロトタイプはスライド入力を意識して設計しています。1フレーム以内の入力や押し・離しの間隔など、技の出しやすさを徹底的に調整しました。スライド動作で自然に技が出せる配置にしています。

▲こちらはアケコンのプロトタイプ。ボタンのサイズは24φで、『ストリートファイター6』を想定したボタン配列になっているのが特徴だ。ボタンはひっかかりが少ない形状になっているので、ずらし入力などもしやすい
——このボタン配列だとジャンプをボタンに割り当てる操作を想定されているようにも見えますね。
田中:実は上方向をレバーで入力するのかボタンで入力するのかを切り替えることができます。モードを切り替えると、レバーの上入力が無効になり、その代わりボタンで上入力が可能になる。
左右下の操作はレバーで、上入力だけボタンで入力ができるようになるので、例えば春麗の「天昇脚」のような下→下+Kといったコマンドも簡単にできるようになります。
具体的な操作方法としては、レバーを下に入れっぱなしにしながら、上ボタンとキックボタンをスライドさせるように入力する。コマンド入力も少なくて済むので、めちゃめちゃすばやく「天昇脚」が出せるんです。
——おおっ、これは確かに早い!

▲こんな感じで親指で上ボタンを押しつつ、右にスライドさせて隣のボタンを素早く入力する。右のボタンをキックボタン同時押しに設定すれば「OD天昇脚」を最速で出すことも可能に
田中:またボタン配置や傾斜角度にも工夫があって、膝上プレーを想定して前面をわずかに傾斜させています。長時間プレーしても姿勢が崩れにくい設計です。

▲傾斜が付けられているので膝置きしても安定感がありそうだ
——ボタンのカスタマイズは可能ですか?
田中:標準でLS、RS(スティック押し込み)などの割り当てがありますが、自由に変更できます。アプリ不要で、物理的にプロファイルを切り替えられる仕様を目指しています。
また天板はプラスチック素材にしています。アルミよりも冷えにくく、実際に試作品をさわってもらったプロ選手からも「手が冷えにくくて助かる」と好評です。ABS樹脂製で軽量かつ扱いやすくしています。
——メンテナンス面はどうでしょう?
田中:背面から簡単にアクセスできる構造にしており、今後はホットスワップ対応なども検討しています。ボタン自体はキースイッチを採用しているので、自身でカスタマイズして楽しんでもらえるよう検討中です。
——最終的なデザイン面はどうなりそうですか?
田中:まだまだプロトタイプ段階ですので、さらにブラッシュアップを重ねながらクオリティの高いデザインに仕上げていく所存です。
——最後に今後の展望を教えてください。
田中:「REJECT GEARというブランドを、もっと多くの人に知っていただけるよう活動を続けていきたいと思っています。そのためにも今後は商品のラインアップを増やしつつ手に取っていただける場所や機会を増やしていきたいですね。
商品を買ってもらったお客さまに「この商品と出会えて良かったな」って思えるような、深みのあるブランドにしていけたらうれしいです。
——ありがとうございました!
———
所属プロ選手を多く抱えるeスポーツチームの運営において、切り離せないのが資金調達だ。近年では、プロ選手だけでなく人気ストリーマーやVTuberを抱えるチームも増え、まるで巨大な芸能プロダクションのような構図になりつつある。
その分、チームとしての活動を継続するための“収益の安定化”がこれまで以上に重要視されているのは間違いない。
そんな中で、eスポーツ選手と親和性の高いゲーミングギアブランドに着目するのは、非常に合理的な戦略といえる。単なる物販ではなく、自社ブランドとしての開発を通じて、選手の声を反映させた製品を生み出しながら、チームとして選手のポテンシャルもサポートしている。
REJECT GEARはプレーヤーの経験と開発者の発想を融合させた、“チーム発のものづくり”を形にした最たるものではないだろうか。
今後も彼らがどのようにこのブランドを育て、プレーヤーの“努力したくなる道具”を世に送り出していくのか——その展開に期待したい。
撮影:いのかわゆう
編集:いのかわゆう
【井ノ川結希(いのかわゆう)プロフィール】
ゲーム好きが高じて19歳でゲーム系の出版社に就職。その後、フリーランスでライター、編集、ディレクターなど多岐にわたり活動している。最近はまっているゲームは『Bloodborne』。
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