「eスポーツファンに『REDEE、分かってるね』と言ってもらえるような施設にしたい」【REDEE館長 佐藤文紀氏インタビュー】

2020.3.6 eSports World編集部
3月1日(日)に大阪府吹田市にオープンしたゲーム/eスポーツ専門施設「REDEE」は、関西としては初めての常設型eスポーツ施設として注目を集めている。

しかし、内覧会で実際に体験した印象としては、ガチなeスポーツの施設というよりも、eスポーツやゲームを題材としてより幅広い層にアプローチするレジャー施設という印象だ。むしろeスポーツ成分はやや薄いようにも感じられてしまう。

そこで、「REDEE」の館長を務めるレッドホース コーポレーション株式会社 Red-eプロジェクトリーダーの佐藤文紀氏に、「REDEE」設立までの経緯と目標についてうかがった。

初めてeスポーツに触れる人に向けたコンテンツ


――このたびは「REDEE」のオープン、おめでとうございます。まず一言で言って、「REDEE」は従来のeスポーツ施設となにが違うのでしょうか?

佐藤:これまでの施設は、eスポーツをやっていらっしゃる方、もしくはプロに近い方向けの施設がほとんどだと思います。しかし「REDEE」はまったくeスポーツをやったことがない、でもeスポーツという言葉だけは聞いたことがあるという方を対象としているところが、大きな特徴ですね。

施設利用に関しても、IDやパスをもらって、アプリをダウンロードして、ログインして……というのは非常に敷居が高いと思うんです。ここはそういう施設ではなく、入場料を払えばすべてのコンテンツを体験できます。まだeスポーツに入っていないような人たちに、eスポーツのいいところ、悪いところなども含めて、まずはタッチ&トライとして体験していただきたいと思っています。

一方、eスポーツをすでによく知っている方に向けては、40m×8mという巨大スクリーンを常設施設として持っていることが挙げられます。幕張メッセなどの大きなホールで大会を行うこともありますが、常設ではありませんよね。会場代が同じ金額だけかかったとしても、PCや映像・音響機材、ネットワーク回線など基本的な機材は「REDEE」に設備としてありますので、常設であることの意味はイベンターさんにとって大きなメリットだと思います。

アリーナに設置された巨大スクリーン。この前には200席の観戦席がある


――確かに、大会規模にもよりますが、設備を持ち込んで設営から撤収までとなると金額的にも大変ですよね。

佐藤:小規模なイベントを「REDEE」で低予算でできるようにして、eスポーツファンの方々にご利用いただけるような文化ができればいいなぁと思っています。「REDEE、盛り上げていこうぜ!」と思ってくれたらうれしいですね。

――そもそもEXPOCITYにこのような施設を作ろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

佐藤:まず、この施設にもともと40m×8mの巨大スクリーンとアリーナがあったという物理的な理由です。検討段階でいろいろなeスポーツ施設やイベントを見ていくなかで、この施設の設備ってeスポーツ施設そのものなんじゃないかと。

eスポーツ以前に考えていた案としては、ローカル5Gを館内に埋め尽くして未来の体験ができる施設という案もありました。ただ、「5G」が普及するのはもう少し先の話ですし、「5G」という言葉で誰もが明確に共通イメージを思い描ける状況ではなかった。

そうやってかみくだいていったときに、「eスポーツ」という言葉が出てきました。現在は、将来のテクノロジーなり自分のライフスタイルに「eスポーツ」という言葉が入ってくる、まさに過渡期にあると思うんです。だから、より明確なキーワードとして「eスポーツ」を事業にしたいと考えたわけです。

「プロゲーマー体験」はこのアリーナ席でeスポーツゲームをプレイした後、スタッフによるインタビューもある


大阪という地域については、eスポーツが盛り上がり始めているという機運を感じていたこともあります。プロデューサーの但木一真さんや、電通さん、ウェルプレイドさんなどがセミナーを実施していますが、圧倒的に関西の方がすぐに席が埋まるそうなんです。

おそらくこれまでまったくeスポーツに関わっていない企業も含めて、2025年の万博のこともあって、新しいことに積極的になっているように感じます。まあ、なんでもかんでも東京に行っちゃう傾向がありますから、西はうちでやれたら、という思いもありましたね(笑)。

――関西にはCYCLOPS athlete gamingというチームもありますし、『LJL』の決勝戦も今年は関西での開催ですよね。関東もイベントはありますが、施設が足りていないように感じます。

佐藤:大阪もeスポーツへの熱量は以前からあったと思うんです。ただ、ビジネス面でいうと、大阪はここ最近インバウンド(外国人観光客)へのアプローチが成功していたので、eスポーツの取り組みはやや遅れ気味だったということもあるかもしれませんね。それが、ここにきて急激にeスポーツに目を向ける方が増えたように思います。

もうひとつ、大阪は商圏として中国・四国・北陸までカバーしているので、大きな大会があっても東京には行けないけれど、大阪なら来れる、という人たちも「REDEE」でカバーできると思っています。

――そういった状況の中で、常設型のeスポーツ専用施設として「REDEE」の企画が進んだわけですね。コンテンツとしては、プログラミング、ドローン、動画配信などもあり、バラエティ感が感じられました。

佐藤:当然、eスポーツをメインでやっていきたいという思いもあるのですが、来場される方にとって「eスポーツ」という言葉のハードルを低くして、なるべくわかりやすい形にしてタッチ&トライとして入ってきていただきたいんです。

そのために、「eスポーツ」という言葉からコンテンツを分解していく方向と、「ゲーム」という言葉から分解していく方向の両方の側面があると思っています。

たとえば、いま子どもたちのなりたい職業の上位に「ユーチューバー」がありますが、eスポーツを実況してYouTubeに上げたりもできる。または、ゲームを題材にしてプログラミングを勉強することもできます。

実況体験ブースでは、ゲーム映像と自分の顔をクロマキー合成。収録した動画はQRコードであとで見られる


同時に、なんでもかんでも公開していいわけじゃないということも教えたいと思っていまして。やってはいけないこと、言ってはいけないことなど、教育機関ではありませんが、伝えていきたいと思っています。

――インストラクターも配信に詳しい方なんですか?

佐藤:それぞれ実際に自分で配信している方や編集作業をしている方を配置しています。

実は、「REDEE」のオープンに向けて人材募集をしたところ、想像していないくらい圧倒的な人数が集まったんです。「ゲームが好きなのでゲームに貢献していきたいです!」「自分の技術を生かしたいです!」という声が非常に多くて。

先ほどの子どもたちのなりたい職業にもつながると思うんですが、プロゲーマーになれるのはほんの一握りなんですよね。でも、eスポーツやゲームに携わる仕事がしたい、といったときに、マーケットにはいろいろな職業がある。「REDEE」で記者になるためのやり方を、eスポーツを題材にして実施してもいいでしょう。今後もどんどんコンテンツは増やしてきたいです。

YouTuber体験では、ライティングやグッズなども用意され、エンタメとしての番組づくりを体験できる


――オープン時点のものから、今後はさらにいろいろな展開も考えていらっしゃるんですね。

佐藤:はい、場所は限られてはいますが、なるべく増やしていきたいと思っています。5Gが広まれば次の配信技術も出てくるかもしれませんし、まったく違うデバイスになるかもしれませんよね。

そういったデバイスのひとつとして、「KATWALK」を用意しています。VRゴーグルが出てきて、「VIVE Pro」などで手の動きなどをキャプチャーできるようになり、「KATWALK」で足の動きも再現できるようになってきた。新しい技術はどんどん進化していきますから。

「KATWALK」では、VRゴーグルなどを用いて没入感のあるアトラクションを体感できる


PCやチェアなどは本物のeスポーツ環境を再現


――施設内を見渡したときに、「eスポーツ」を根幹に置くということが一番如実に感じられたのが、各ブースに置かれた本格的な設備でした。ゲーミングPCゲーミングチェアなどは、大会やプロゲーマーなどが使用している本格的なものですよね。

佐藤:そこはやはり、ビジュアルも大切だと思うんです。そこの空間演出を含めて、お客様に来ていただくわけですから、なんでもいいというわけではありません。

PCで言えば、eスポーツゲームを遊ぶためにスペックの高いPCを体験エリアに持っていきましたし、プロの方が実際に使う場所はプロが大会で使用しているものにしています。

なかでも、全体の空間演出の中で、AKRacingのゲーミングチェアのビジュアルと座り心地は、「REDEE」に絶対に必要だと思ったものでした。かなりご無理なお願いでしたが、館内のほとんどのチェアでご協力いただけて、非常にありがたかったです。

プロゲーマーエリアに並ぶゲーミングPCとAKRacingのゲーミングチェア


――もうひとつ、eスポーツにおいて重要なインフラ面の設備についても教えてください。

佐藤:一番大切な回線については、10ギガの超高速回線をオプテージ様に依頼しました。関西では有名なブランドですしメンテナンスもしっかりしていますからね。

スマートフォンゲームなどではWiFiも使われますが、大会向けの10ギガ回戦と、館内の一般利用者向けの10ギガ回線の2本を引いておりまして、大会には専用回線しか使用しません。

ステージの設備については、eスポーツ大会ではスポンサーの関係で機材を持ち込むケースも多いので、持ち込みも可能な体制にしています。もちろん、子どもたちの体験用の常設設備も利用可能です。


eスポーツ大会時は無料入場も可能に。体験コンテンツは有料


――ここまで「REDEE」で用意しているコンテンツについてうかがってきましたが、eスポーツ大会を開催したい場合はどうすればいいのでしょうか?

佐藤:基本的には大会やイベントについては「箱貸し」ですので、何のタイトルで行うかは主催者に任せることになります。ただし、タイトルごとの年齢制限など、主催者としてしっかり運用してくれることが前提です。

――そういった大会開催時も、入口で入場料を支払わないとアリーナまで入れませんよね?

佐藤:イベントを行う場合は、リストバンドのタグの色を変えることで会場まで入れます。移動途中にあるコンテンツを体験するには、入場料をお支払いいただく必要がありますが、無料で入った場合も見るだけならOKにするつもりです。興味を持っていただいて、次回は有料で体験していただけたらと思います。

アリーナの入り口は施設1階にある。ここまでの入場が大会開催時は無料になるとのこと


――その大会やイベントは、どんなビジネスモデルで運営される予定でしょうか?

佐藤:3月1日(日)のオープン記念イベント「ウェルプレイドフェスティバル」がまさに、初のコミュニティイベントだったのですが、全館貸切で一般のお客様も無料で入れるかわりに、コンテンツはいずれも実施しない予定でした。もし全館貸し出しでコンテンツを動かしてほしいなら対応はできますし、必要なければ撤去させていただきます。

すでに一部の企業から、ここを借り切って年に1度の社内イベントや社員総会をやってみたいという声もいただいています。社内にeスポーツをやっている方がいるなら、そちらはそちらでやってもいいですよね。親子で遊んだりもできますし。

2階のプログラミング体験ブースの脇にある白いスクリーンは、大会時などに設備を片付けて別の目的として使える


――初年度の収益としては、どれくらいを見込んでいますか?

佐藤:実を言うと、当面はトントンになればいいと思っています。というのも、この建物の建設は我々の会社が行っているので、建物自体の投資はほぼ終わっています。内装や演出だけを変えるだけだったから、これだけのeスポーツ施設が作れたというわけです。

もしeスポーツの施設としてこれをゼロから作ったとしたら、現在のeスポーツシーンを見る限り、事業の採算ラインには絶対に乗らないでしょう。

初年度は20万人くらいで十分だと思っています。過去に運営していた「Orbi」という施設の頃は、年間40万人くらいは入っていました。水族館の「リフレル」は100万人超え、観覧車も40万人くらいですから、いかに少ない目標か分かっていただけると思います。

――今後はどんなかたちで集客を増やす予定でしょうか?

佐藤:営業先の候補には、eスポーツ関係はほとんどありません。弊社の営業としては、小学校や身体障害者施設、自治体などを想定しています。

実は「Orbi」の頃も年間700団体くらいにお越しいただいていたんです。「REDEE」には教育的なコンテンツもあるため、たとえば先生が子どもたちに人気の「YouTuber体験」を経験して子どもの興味を知ることで、先生と子どもたちのコミュニケーションツールにもなりえます。


コミュニティに「分かってるね」と言ってもらえるように


――「REDEE」の教育的なコンテンツについてひとつ気になるのが、先日の香川県のゲーム条例案のように、ゲームに対して否定的な見方をされる方もまだまだいらっしゃるという点です。そのような意見に対して、館長としてはどうお考えでしょうか?

佐藤:私は会社員として30年以上、こういった事業に携わっているのですが、子どもがゲームを遊ぶことの是非を決めるのは、「REDEE」にご来場いただくお客様自身だと思っています。

では、お客様にいかに受け入れていただくか。そこは、子どもたちに変えていってもらいたいと思っているんです。そのための環境は私たち「REDEE」が提供します。

昔からそうですが、親は子どもたちがどんなゲームをやっているのかを理解していませんよね。今年の4月からプログラミング教育が義務化されますが、先生もわからない、お父さんもわからない、だからいきなり塾に行かせるといっても、子どもが楽しめるかはわかりません。

子どもが興味を持っているゲームやeスポーツに関して、正しい知識を伝えていくことが大切で、親が正しく理解して子供の活動を応援できれば、学校の中でeスポーツ部を作るとか、先生や教育委員会も変わっていくかもしれません。



――逆に、すでにあるeスポーツファンやコミュニティに対してはどんなことを伝えていきたいですか?

佐藤:eスポーツ大会などは、コミュニティやファンが大会を盛り上げたいと思ってくれていると思います。

そんなコミュニティの方たちから「わかってるね」と言ってもらえる側にいたいですね。「REDEE」がeスポーツを推し進めるというよりも、コミュニティが「こうなっていたらいいのにな」と思っていることが「REDEE」を利用すれば実現できる、そんな施設になりたいんです。

――ただ、ゲームが好きな人たちがゲームで生きていくために立ち上げた施設ではなく、ビジネスとしてゲームを活用する立場で立ち上げた「REDEE」は出発点が違いますよね。

佐藤:その意味では、今回、ゲーマーサイドの気持ちがわかるウェルプレイドさん、教育サイドの専門家であるNext Group Holdingsさんと、エデュテイメントビジネスを行う我々、それぞれの立ち位置の方が協業していることは大きいですね。

プロジェクトとして1年くらいかけて、理想と現実を語り合うなかで、最終的に予算の関係などで実現できないことに「すみません」とお伝えするのが僕の仕事でした(笑)。だからこそ、この「REDEE」が生み出せたのだと思います。

――最後に、「REDEE」で実現したいことをお聞かせください。

佐藤:僕らができることは、eスポーツという大きな業界のなかのほんの一部分にすぎません。

ありきたりですが、1回ぜひ体験していただきたいです。初めてeスポーツに触れる方の敷居を低くして、裾野を広げる。それによって、いまeスポーツをやっている方たちのステータスをひとつ上げる一助にもなれるし、選手も活動しやすくなると思うんです。

「eスポーツ」という言葉を用いている方たちは、単にゲームを遊ぶだけではなく、自分も業界に対してなにかしたいと考えていると思います。ゲームに対してネガティブな話題が出てきた時に、「こんな時こそ」と思っている方たちと一緒に、eスポーツという分野の底辺を上げていきたいと思っています。

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正直に言うと、施設の運営会社へのインタビューということで、あまり期待はしていなかった。ビジネスライクな考え方なのではないかと予想していたからだ。

しかしその想像以上に「REDEE」をどのように運営し、いかにeスポーツ業界やファンコミュニティに受け入れてもらえる施設にするか、ということを真剣に考えている方が館長であることに、eスポーツに携わる者として安心も感じられた。

「REDEE」は単なる箱ではなく、eスポーツやゲーム文化の発展そのものを考えている。eスポーツを知っている者、知らない者の両方に耳を傾け、時代に合わせた変化もいとわない。eスポーツやゲームをコンテンツの根幹に据えながらも、それらを理解しにくい世代や批判する人たちさえも受け入れることができれば、日本のeスポーツシーンも大きく変わる。そして、そんな人たちに説得力をもって、eスポーツやゲームの魅力を伝えることができると思う。

日本最大の設備を持つeスポーツ施設「REDEE」はまだ始まったばかりだ。ぜひ読者のみなさんもそのコンセプトに触れ、体験してみてほしい。


REDEE
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