【インタビュー】三和電子株式会社がレバーにこだわる理由とは——三和電子と神明電機がタッグを組で開発された可変式静音レバー開発秘話

格闘ゲームで欠かせないデバイスといえばアーケードコントローラー(通称、アケコン)。そんな常識が今、変わろうとしている——。

現在主流となっている格闘ゲームタイトルでは、レバーのないレバーレスコントローラーや、ゲームパッドなど、さまざまなデバイスが頭角を現している。

▲国内では2019年くらいからチラホラ見かけるようになった、レバーのないアケコン「レバーレスコントローラー」。キャラクターの移動をつかさどっていたレバー操作をボタンで行うというスタイルは、「理論値最速入力」とうたわれ、多くのプロプレーヤーが採用し始めた

そんな中、アーケードパーツ製造販売の老舗「三和電子株式会社」が、新たなレバーを開発していたのはご存じだろうか。

操作感はそのままに動作位置を可変するスイッチを採用した、まったく新しいレバー「JLX2-TPML-8YT-SK」。キーボードのアクチュエーションポイントを変更する感覚で動作位置を変えることができるうえに、静音性も兼ね備えたモデルとなっている。

今回は、6年ぶりに三和電子を訪ね、新レバー開発の背景をうかがった。

▲左から三和電子株式会社 営業部 第一課 コンシューマーチーム 主任の佐藤 望さん、神明電機株式会社 技術部 第1技術グループ長の山形 悟さん、三和電子株式会社 生産部 技術課 課長の齊藤邦男さん

参考:
静音式ボタンや着脱式レバーなど数々のヒット商品を生み出すアーケードパーツの老舗「三和電子」に聞く!

eスポーツの盛り上がりで変わったアケコン事情


——以前のインタビューから6年の歳月が経ちましたが、三和さん的にここ数年のeスポーツの盛り上がりをどう感じていますか?

佐藤:eスポーツという言葉は6年前のインタビュー以前から浸透しはじめたと思いますが、弊社はその頃からボタンやレバーを含め開発・販売を続けてきました。

eスポーツの盛り上がりと比例して需要が伸びてきたのが静音レバーです。

——確か2016年頃には静音レバーの第一弾が発売されていましたよね。

佐藤:そうですね。初代の静音レバー「JLF-TPRG-8AYT-SK」は、どうしてもスイッチの精度としてシビアでしたし、衝撃に弱いリードスイッチを採用していたので、生産性や管理面を含めるとどうしても価格も高くせざるを得ませんでした。

▲三和電子製初代静音レバーの「JLF-TPRG-8AYT-SK」。レバーの動作音である「カチカチ」という音が軽減されているので、家族のいる室内での使用などに適していた

——あくまで、価格を度外視した静音重視の人だけが買うニッチな製品になってしまうみたいな?

佐藤:はい。そういうものだと割り切ってしまえば価格を気にする世界ではありませんが、やはり弊社としてもeスポーツのプレー人口増加に伴い、求められる声が増えてきているのも感じていました。

そういった流れもあり、「静音レバーにリードスイッチを採用し続けていいものか」と考える時期になっていましたね。

——価格も操作性も求められる。ある意味プレーヤーの要望が増えてきたのが、ここ最近というわけですね。

佐藤:そこで、新たなスイッチの開発にいたったというのが、新静音レバー開発の経緯になります。

——現在発売されている静音レバー「JLX2-TPML-8YT-SK」は、スイッチの動作位置が可変するという機能も付いていますよね。ただ、開発の流れとしてはあくまで静音が主だったということなのでしょうか。

▲現在発売中の静音レバー「JLX2-TPML-8YT-SK」は、静音に加えスイッチの動作位置を変更できる機能も追加されている。黄色い部分のつまみを変更することで、入力のタイミングを早くしたり遅くしたりできる

齊藤:そうですね。従来の製品は既存のスイッチをそのまま採用していましたが、今回の「JLX2-TPML-8YT-SK」は自社で開発したスイッチを採用しています。そこで“同じものを作っても面白くない”ということもあり、ゲームに特化した機能を盛り込んだスイッチを作ろうと——。

ゲームタイトルによって、この方向に入力する際は遅めに反応させたいとか、この方向は早めに反応させたいということがある。そういったゲーマーの声を取り入れた機能を盛り込めないかということで、可変スイッチを採用することに至りました。


佐藤:例えば「鉄拳」シリーズですと、前後にステップする際は入力の判定が速ければ速いほどいいですよね。一方で「ストリートファイター」シリーズのような、しゃがみ状態から立ちに移行する際、レバーを下方向からニュートラルに戻した反動で上入力が反応してしまい、ジャンプしてしまうといった場合は、上入力だけは遅めに反応した方がいい——。

そういった入力のクセはタイトルごと、プレーヤーごとに千差万別なので、そういう細かいところにアタックできたら最高だなというところから、各方向独立した可変ができるようにしました。

▲この黄色いつまみは上下左右4カ所にあり、それぞれの入力を調整できるのがポイント。つまみを回し、右側にある丸いくぼみを中心に合わせれば、レバーを少し倒しただけで反応するようになり、逆に左側にある丸いくぼみを中心に合わせれば、しっかりレバーを倒さないと反応しない——そういった機能になっている

——三和さんのレバーといえば、古の格闘ゲーマーから愛され、信頼されているレバーです。そこから、ゼロベースで新しいスイッチを採用するとなると、悩みも多かったのではないでしょうか。

齊藤:やはり弊社としてもスイッチ自体を開発するという前例はなかったものですから、神明電機さんに協力いただいて開発を進めていきました。

当時は「そんなことできるのかな……」みたいな半信半疑なところからスタートしたのを覚えています。

——そもそも、なぜ神明電機さんとタッグを組むことになったのでしょうか。

齊藤:もともと神明電機さんのスイッチは、弊社の押しボタンで標準的に使われているスイッチなんです。長くお付き合いさせていただいていることもあり、今回はレバーの方も開発していただこうという流れになりました。

山形:最初は可変機能のない、単純に新しい静音性のスイッチというのを作ってみたんです。まあ、提案時は三和さんにめちゃくちゃダメ出しされたんですけどね(笑)。

▲こちらが初期段階の設計図。最初は単純な静音化からのスタートだったようだ

——三和さん的にいったい何がお気に召さなかったんですか。

齊藤:やはり、先ほどの話にもあったように「これだったら既存の静音レバーと変わらない」というところが根本にありました。ただ、この段階で静音性には問題ないということで、従来の非接触型のリードスイッチから、神明電機さんの接点タイプのリーフスイッチを採用する方向に決まりました。

山形:そこからまずはスライド式の3段階程度から可変機能を取り入れてみました。

齊藤:最初にできた可変機能は、ノブが接点を直に押す仕組みになっていました。この仕組みだと接点が壊れやすいという欠点がありました。


——中には力強くレバーを入力する人もいますもんね。そういう操作には向かなかったと。

齊藤:そこで操作力が強くても弱くても一定の力で接点がオンになるという機構を実現させる目標で開発を進めていきました。また、スライドもガイドの裏側にあったため、調整を行うには一度レバーを分解する必要があるという扱いづらさもありました。

▲レバーの裏面には操作を調整するガイド(透明なプラスチックの部分)で覆われている。最初に開発されたスライド式の可変レバーは、このガイドを外さないと調整できないため、ユーザビリティが低かったようだ

山形:そこで、ユーザー様がより調整しやすいように、側面につまみを付けるといった現在の形状へと変化していきました。開発を進めていく段階で、三和電子さんから「よりカスタマイズ性を高くしたいので5段階にしてほしい」という要望があり、現在の形になりました。

▲こちらが最終段階の設計図。現在販売されているタイプと同じ5段階の可変つまみが搭載された

——5段階にするこだわりの理由はあったのでしょうか?

佐藤:社長の「どうせなら(5段階)」っていうひと言で……(笑)。

——(笑)。まあ調整が多い方がユーザーさん的にはうれしいですもんね。おすすめの使い方はありますか?

佐藤:格闘ゲームにおいて“ジャンプの暴発”というのはかなり致命的な操作ミスだと思っています。なので、上方向だけ入力を遅めにすると格段に暴発が防げるので実感しやすいのではないかと思っています。

——ちなみにこの5段階というのは等間隔なのでしょうか?

佐藤:等間隔ではなく微妙に異なる間隔になっています。というのも、等間隔にすると斜めの入力が反応しないことが発覚したんです。厳密には反応するけど入力自体がシビアになってしまう——。操作性を考え入力が遅くなる方に関しては刻みを少なめにしています。

▲「JLX2-TPML-8YT-SK」に採用されている神明電機のスイッチ「MLS-57AU」の納品データの一部。動作特性の部分を見ると、つまみによる動作位置の変化が等間隔でないことが分かる

▲スイッチの断面図。このようにスイッチの中に動作位置を変化させるつまみが内蔵されている。この狭いスペースにユーザーが設定しやすいようなつまみを内蔵するには、かなりのトライ&エラーによるたまものといえる

齊藤:ちなみにこの構造は特許を取っています。

——神明電機さん的にはこういった技術を開発することは難しいことなのでしょうか。

山形:こういった構造自体を作るのは初めてでしたが、弊社の得意分野です。このような新しい技術は日本発のものが多く、我々の強みだと感じています。実はこのつまみの機構も、ロータリースイッチという弊社が製造しているスイッチを改良して作ったものなんです。

——ロータリースイッチ?

山形:例えばカメラの操作部分で使われているものですね。

▲一眼レフカメラなどに付いているダイヤルには、ロータリースイッチというスイッチが採用されているのだとか。これを応用して「JLX2-TPML-8YT-SK」のつまみが作られていたのだ

理論値だけでは計り知れない操作感がレバーにはある——三和電子が重要視しているのは「レバーを操作する楽しさ」


——もともとは静音というコンセプトから、可変式という機能が追加されたことによってかなりカスタマイズ性の高いレバーになっていると思います。よりカスタムを楽しむ方法はあるのでしょうか?

佐藤:例えばガイドに当たるパイプという部分があるのですが、この部分の太さを変えることで操作性を物理的に変更することもできます。こういったカスタムパーツと組み合わせることで、より自分に合った操作感が楽しめると思っています。

一番太いパイプと可変スイッチを最速で組み合わせると、ちょっとレバーにふれただけでオンになる——みたいな挙動が楽しめます。

▲レバーカスタマイズ用P.Sパイプ「JLF-P-」。カラーによって太さが異なり、太ければ太いほどレバーとスイッチの接点が短くなり、素早い入力が可能になる

——格闘ゲームに限らずシューティングのような、ドット単位で操作したいというときには、可変を最速にすることでキビキビ動けるのを感じました。パイプを変えることでさらにシビアな動きも再現できそうですね。例えば、キーボードのラピッドトリガー機能のような、オンもオフも速くするといった機構は難しいのでしょうか。

ラピッドトリガーとは

昨今のゲーミングキーボードに搭載されている機能。キーやボタンを少し戻しただけで入力が解除され、すぐ次の入力ができる仕組みのこと。キーを完全に戻す必要がないため、動作の切り替えが速くなり、FPSなど一瞬の操作精度が求められるゲームで有利とされている。

齊藤:押しボタンを含め、メカ機能でそれを実現できているものは現時点で存在しないと思います。ラピッドトリガーという機能は、半導体で電子制御されているものです。チップとソフトウェアがセットで動作するものなので、物理的には難しいところですね。

——最近はレバーレスのコントローラーも増えてきて、レバーの影が少し薄くなってきているようにも感じます。そうした状況を、三和電子としてはどのように受け止めているのでしょうか。

齊藤:確かに、操作の速さだけを突き詰めれば、レバーレスのほうが有利な場面もあると思います。ただ、私たちが大切にしているのは“レバーを操作する楽しさ”です。

車に置き換えると、単純に速さを求めるならレーシングカーですが、乗っていて楽しいのはスポーツカーという感覚に近いですね。操作そのものを楽しめるという点では、レバーにはレバーならではの魅力がある。その価値は流行が変わっても、一定数のプレーヤーに支持され続けるものだと考えています。

——一方で、レバーレスの普及やプレーヤー層の変化によって、デバイスに求められる価値そのものも変わってきているように感じます。そうした市場の変化を、三和電子としてはどのようにとらえているのでしょうか。

齊藤:非常に流れの速さには驚いています。これまで弊社は、ゲームセンター向け製品を主軸としてきた背景もあり、できるだけ多くの人に安定して使ってもらえる“最大公約数”を意識したものづくりを行ってきました。

しかし現在では、格闘ゲームを遊ぶ主戦場がゲームセンターから個人の環境へと移り、ボタンに関しても「その人にとって使いやすいかどうか」が、より強く求められるようになっています。

そうした変化を受けて、ひとつの製品ですべてを完結させるのではなく、バネやカスタムパーツといった選択肢を増やすことで、さまざまなプレーヤーの好みに応えられる形を模索してきました。ひとりひとりの細かな要望をどう拾い上げ、製品に反映していくか——。そこは、今の三和電子にとって大きな課題だと感じています。

佐藤:以前まで三和電子は積極的にカスタムパーツを推奨してこなかったんです。というのも、業務用のゲームセンター向け製品が中心だったこともあり、分解や交換にはある程度の知識が必要で、扱い方を誤るとケガにつながる可能性もありました。そのため、基本的には説明書を付けない、交換中のトラブルは保証できない、といったスタンスを取ってきました。

ただ、時代は大きく変わりました。インターネットを通じて交換方法が共有され、以前であれば専門知識が必要だった作業も、一般のユーザーが安全に行える環境が整ってきています。加えて、プレーヤーごとに細かく調整したいという“カスタム志向”が、年々強くなっていることも感じていました。

そうした流れを受けて、ゲームセンター向けだけでなく、コンシューマー向けにも少しずつカスタマイズパーツを展開するようになりました。すべてを一気に切り替えたわけではありませんが、時代に合わせて、ユーザーの声に応えていく方向へと舵を切った形です。

——なるほど。新製品の開発について、言える範囲で教えてください。

齊藤:実はまだ公にはできないのですが、新製品のボタンの開発は進んでいます。

佐藤:完成した際にはまたご報告させていただきます!

——おおっ、楽しみにしております。最後に今後の展望をお聞かせください。

佐藤:eスポーツの広がりとともに、海外メーカーを含めて本当に多くのデバイスやボタンが登場してきています。正直、知らないメーカーや、見たことのないボタンも増えました。

ただ、レバーに関して言えば、ボタンほど簡単に作れるものではありません。内部構造が非常に複雑で、精密なパーツが組み合わさって初めて成立するものなので、新しいレバーが次々と出てくる、という状況ではないと感じています。

だからこそ、三和電子としては、レバーならではの「操作する楽しさ」を大切にしながら、引き続きレバーの開発には力を入れていきたいと考えています。レバーを操作することで「ゲームをしている」「格闘ゲームをしている」と実感できる、その感覚を楽しんでくれるユーザーは、今後も必ずいるはずです。

その一方で、他社が打ち出しているような新しい発想のボタンやコンセプトにも目を向けつつ、そこに三和電子らしさを掛け合わせた形で、製品ラインアップを少しずつ広げていきたいですね。レバーとボタン、どちらかに偏るのではなく、老舗のパーツメーカーとして時代に取り残されないよう、挑戦を続けていく必要があると感じています。

——本日はありがとうございました!

———

レバーレスが普及し、理論上は「最速」を狙えるデバイスが増えた。それでもトップシーンでは、今なおレバーで結果を出す選手がいる。

例えば「Esports World Cup 2025」のストリートファイター6部門で優勝した🇨🇳Xiaohai選手、「SNK World Championship 2025」の餓狼伝説部門で優勝した🇯🇵Laggia選手、両大会の餓狼伝説部門で優勝、準優勝を果たした🇯🇵GO1選手など——。最前線で活躍する選手の中にも、レバーを愛してやまないプレーヤーは少なくない。

勝敗を分けるのは、理論値の差よりも自分が使い慣れ、思い通りに動かせるかどうか——。三和電子の考えは、そこにある。「弘法筆を選ばずではないですけれど、結局は道具そのものが勝たせてくれるというより、最後は腕なんですよね。理論的にはレバーレスのほうが速い場面もある。でも、レバーでも勝てるし、逆にレバーなら誰でも勝てるわけでもない。大事なのは、自分にとって一番使いやすいものを選ぶことだと思います」と佐藤さん。

レバーには、入力の速さだけでは測れない「操作する楽しさ」がある。そして三和電子は、その楽しさを守りながら、時代に合わせて進化させていく——。レバーレスが主流になりつつある今だからこそ、レバーの価値は、もう一度見直されるべきなのかもしれない。

番外編【型番の由来は?】

三和製のアーケードパーツの型番は、「JLF-TP-8YT」「OBSF-30」といったアルファベットと数字の組み合わせで構成されている。実はこれ、日本語表記の頭文字をベースに作られていることはご存知だろうか。
型番というと英数字の羅列でなかなか覚えにくいというのがあるが、三和のパーツは商品名から型番が連想できるので、非常に覚えやすいのが特徴。

ちなみに、今回開発された可変式静音レバー「JLX2-TPML-8YT-SK」も同様の規則になっている。

JL→ジョイスティックレバー
X2→バージョン
TP→プリント基板を表す品番
ML→マイクロリーフの略
8→8方向
YT→横に端子
SK→シャフトカバー


■関連リンク
三和電子株式会社:
https://www.sanwa-d.co.jp/index.html

【静音】動作位置可変スイッチ採用レバー:
https://item.rakuten.co.jp/sanwadenshi/lever_0014/?l-id=shoptop_widget_in_shop_ranking&s-id=shoptop_in_shop_ranking

三和電子株式会社 公式X:
https://x.com/sanwadenshi

神明電機株式会社:
https://www.shinmei-e.co.jp


撮影:いのかわゆう/宮下英之
編集:いのかわゆう


【井ノ川結希(いのかわゆう)プロフィール】
ゲーム好きが高じて19歳でゲーム系の出版社に就職。その後、フリーランスでライター、編集、ディレクターなど多岐にわたり活動している。最近はまっているゲームは『Bloodborne』。

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