『ストリートファイター6』×ブレイキン=熱狂! 「Break Fighter」で生まれた新しい“eスポーツ”の形 【Red Bull BC One 2025】

2025.11.13 宮下英之
レッドブル主催の「Red Bull BC One 2025」は、今年で22回目を数える世界レベルの1on1ブレイキンバトルだ。世界30カ国以上で予選・プログラムを行い、毎年何千人ものB-Boy/B-Girlが挑戦し、それらを勝ち抜いた16名が11月9日(日)に両国国技館で行われた「Red Bull BC One World Final Tokyo 2025」の舞台に立った。

パリ五輪の種目として採用されたことで話題となったブレイキン(Breaking)だが、特に日本のブレイキンシーンでは、「世界最年少優勝者」「史上初の B-Girl 世界チャンピオン」「史上初の姉弟世界大会出場」など、多くの歴史的記録を打ち立ててきた。そして、今大会ではB-Boy ISSIN & B-Girl Riko が史上初となる日本人ダブル優勝を果たすという、記念すべき大会にもなった。

パリ五輪で世界4位に輝いたShigekix、3度のチャンピオンを獲得しているHong10らを退け、B-Boy ISSIN & B-Girl Rikoが史上初の日本人ダブル優勝を果たした(Jason Halayko / Red Bull Content Pool)


世界が注目する1on1ブレイキンの祭典「Red Bull BC One 2025」開幕!


そんな決勝戦前日の11月8日(土)、東京・原宿駅のヨドバシJ6ビルにて、体験型カルチャーイベント「Red Bull BC One Camp Tokyo 2025」が開催された。そのプログラムの中で、ブレイキンとeスポーツの異色コラボ「Break Fighter」が実施されるということで、今回取材にうかがった。

JR原宿駅と代々木第一体育館のそばにあるヨドバシJ6ビル。ジェイミーとのれん、ちょうちんといった和のテイストで彩られた

「Break Fighter」とは、ブレイカーとゲーマーがペアを組み、交互に戦う2vs2のバトル。第1バトルは『ストリートファイター6』、第2バトルはブレイキンで対決し、同点の場合はブレイカーが『ストリートファイター6』で決着をつけるというルールだ。

9月26日に行われた「東京ゲームショウ2025」(TGS2025)でも予選を行っていたが、「TGS2025」会場よりも圧倒的にファンとの距離が近いイベントとして、さらに大きな盛り上がりを見せていた。

「TGS2025」の会場で開催された予選の模様。タンタンメン&KONAコンビが優勝した(Keisuke Kato/Red Bull Content Pool)


今回の会場。右の円の部分がブレイキンのステージだが、もはや選手も観客も見分けがつかないほど。これぞダンスバトル


未来のスターを育てるRed Bullの挑戦──BC One Campが描く次世代カルチャー


「Breaking Fighter」をはじめとする“観る”だけでなく“参加する”“共有する”ダンスカルチャーの祭典「Red Bull BC One Camp Tokyo 2025」は、ダンスが好きなら誰でも参加できるオープンなイベントとして無料で開催され、会場にはさまざまなプログラムが用意されていた。

自由にブレイキンバトルを楽しめる「BATTLEFIELD」、最前線で活躍するダンサーによるトークショーやダンスを互いに披露し合える「TERAKOYA」、ダンサーによるワークショップやショーを楽しめる「DOJO」といったステージでは、国籍や人種、年齢や性別を問わずあらゆる層のダンス好きが訪れていた。この空間だけを見ると日本とは思えないような多様な空間がそこにはあった。

「TERAKOYA」でのトークショーの様子。クッションに座ってリラックスしているが、トークの中身は「日本のブレイキンの未来」など熱い話題が展開されていた

エントランス付近には「TGS2025」でも登場した巨大なアケコン型ゲームも登場。ブレイカーを操ってボタンを連打し、右上のゲージを貯めれば勝利


ゲームとダンスが交わる瞬間、「Break Fighter」開幕!


そんな中、「Break Fighter」では当日予選を勝ち抜いたゲーマー5名とブレイカー5名がランダムでタッグを組み、「TGS2025」予選で優勝した1組と招待枠の2組も加えた合計8組にて、トーナメント形式での2v2対決が行われた。

「TERAKOYA」で行われたゲーマー予選では、自前のコントローラーを持参しているガチ勢だけでなく、会場にあるコントローラーを借りて戦う初心者勢も多数。たしかに勝負としては経験者の方が強いのは間違いないが、ブレイキン側の関係者の中でゲーム好きな参加者も多かったようで、ガチで勝つというよりはイベントのひとつとして楽しみたいという向きもあったようだ。試合は1先と短時間ではあったものの、『スト6』というゲームを楽しんでいる姿が印象的だった。

予選会場は「TERAKOYA」で、勝負は漢の1先。1先には1先の戦い方がある

ブレイカーの予選は、4人1組のグループでブレイキンによる勝者を決め、最終的に5名が選出されるという流れ。この予選だけでも20人以上が踊る立派なショーとなっており、会場のボルテージはどんどんふくれ上がっていき、ギャラリーも超満員に。『スト6』でダンスと言えばジェイミーだが、その動きを取り入れたダンスを披露する参加者もいるなど、『スト6』とブレイキンのナチュラルなコラボも見られた。

決して広くはない会場内に、トリックを決めるたびに歓声が飛び交う

「Break Fighter」の対戦表

当日予選を突破したゲーマーたち。左からMerrymore、Shap Ling、Naruchu、Shimiso、Chelsea


ダンサーが格ゲーで大技を決める!? “モダン”が生んだ奇跡のバトル


予選を通過した選手たちの組み合わせが決定すると、さっそくBreak Fighterが開幕!

まずはゲーマー同士が『スト6』で1セットマッチを行い、続いてブレイカーがブレイキンバトルで対戦する。それぞれの勝負でもしカウントが1-1だった場合には、ブレイカーによる『スト6』で勝敗が決するというルールだ。

ゲーマー対決は人よりもキャラを見せる形で熱いバトルを展開!

この日はゲーマー・ブレイカーで1-1のイーブンの試合が多く、3試合目はわずかな時間でゲーマーがブレイカーに操作をレクチャーしてなんとか勝たなければならない。ブレイカーのほとんどは『スト6』をプレーしていない様子で、勝負と言っても「ドライブラッシュ」を使った猛攻や「ドライブインパクト」による攻防一体の読み合いのような『スト6』らしさはない。

こんな時こそ、『スト6』で初実装された「モダンタイプ」が本領発揮だ。初心者でもボタンひとつで必殺技を出したり、ボタン連打でコンボが出せるシステムにより、ほぼ初めてのブレイカー同士の対戦の方がむしろ大技が炸裂するため、大歓声が上がる。

超満員のギャラリーたちも、試合回数が増えていくとだんだん『スト6』を理解していったのか、ド派手な技と豪快なやられモーション、そしてアール氏による実況システムも相まって、初めて見るボクシングの試合のように誰もが勝ち負け=盛り上がりどころがわかっていく。「なんかうまい!」「すごい技が当たってる!」と周囲のギャラリーの理解度も増していき、試合前の「Yeah! Yeah!」の掛け声も「EVO Japan」並みに揃っている。

決勝戦は勝利ポイント数を増やした特別ルールとなり、『スト6』バトルとブレイキンバトルの回数が増える展開に。特にブレイキンは短時間で何度も踊ることになるため、体力もダンスの引き出しも要求される。そんな長時間に及ぶバトルは、最終的にJose(ザンギエフ)/CLAUDIO組がタンタンメン(ジェイミー)/KONA組を下して勝利。ゲーマーバトルでは終始攻撃的だったザンギエフの圧が上回った。


ジャンルを越えて一体に ──eスポーツとストリートカルチャーの未来


『スト6』は基本的に1対1で戦うため、運の要素もあるとはいえ、勝っても負けても自分の責任。キャラ対策、人読み、コンボの練度、技への反応など、さまざまな要素が絡み合ってほんの一瞬で勝敗が決まってしまうこともある。

その点は1対1で争うブレイキンも同様だ。自分の方が相手よりテクニックが優れていたとしても、当日の体調やホールのコンディション、会場のグルーヴに乗れるかといった要素もあり、相手がミスによって崩れてしまうことだってある。

そんなふうにジャンルが全く異なる“戦士”がタッグを組んで一緒に戦える「Break Fighter」には、ほぼお互いの強さやうまさのことがわからない中でも、タッグとして一体感を感じられる一期一会だからこその魅力が感じられた。

それはおそらくギャラリーも同様。筆者のようなゲームオタクにとってはここまで直近でブレイキンを見る機会もなかったし、ブレイキンのファンにとってもクールなゲームを知るきっかけになっただろう。両者とも熱心なファンにとっては馴染み深いが、知名度という意味では広く知られている競技というわけでもない。異なるカテゴリーの競技同士が手を取り合って戦うところに、eスポーツ×ブレイキンコラボの大きな可能性と魅力を感じた。

「Breaking Fighter」の試合後、当日予選を勝ち抜いて参戦したNaruchu選手(ベガ)は、「昔からゲームばかりしてきてダンス文化にはふれてこなかったんですが、自分の試合が終わったあともペアの方のダンスや他の試合も初めて目の前で見て、ブレイキンが好きになりました」とブレイキンに興味が湧いたという。

また、「TGS2025」予選で勝利し、決勝は惜しくも準優勝となったタンタンメン選手(ジェイミー)は、「今日は海外の観客がすごく多くてDJの方も英語だったので、だいぶ雰囲気が違いましたね。ダンスというゲームとは違う世界にふれるいい機会になりましたし、次回もぜひ参加したいです」と語っていた。

Naruchu選手(左)とタンタンメン選手

eスポーツというとどうしても競技性の高いイメージが強く、子どもから大人まで楽しめるeスポーツという言い方をする時には、逆にパズルゲームや競技性がないゲームの協力プレイのような「誰でもできるゲーム」を使うことが多い。

その考え方で言えば、画面の中で年齢や性別、体の違いなどを気にすることなく、公平に戦えるのがゲームの強み。その点で、バイアスのかかった多様性ではなく、本当の意味で誰が何を楽しんでもいいというマインドは、ブレイキンとeスポーツに共通しているもののように思う。

勝ったら嬉しい、負けたら悔しいというのはどんな競技でも同じ。しかし、その日その場所で体験できたことには勝敗にかかわらず大きな価値がある。

今回の「Break Fighter」では、残念ながら日本代表は勝利できなかったが、次回再び日本で「Break Fighter」が開催される際には、さらなる『スト6』の猛者と新たな才能を持つ日本人ブレイカーのタッグにも期待したい。


Red Bull BC One Camp:https://www.redbull.com/jp-ja/events/red-bull-bc-one-world-final-tokyo/bc-one-camp-tokyo
Red Bull BC One:https://www.redbull.com/jp-ja/event-series/bc-one

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