『LoL』を通して高校生に伝えたいこと、そして「LJL2020」の展望【「LJL」解説者 リールベルト氏インタビュー 後編】
2020年の「League of Legends Japan League」(LJL)に解説者として“英雄降臨”した、「大天使」ことリールベルト氏。
前編では、これまでの『LoL』との歩みについて伺ったが、後編では、解説とともに取り組んでいる「若手育成」という視点について、その経験と現在の取り組み、そして未来の「LJL」について話していただいた。
なお、今回は新型コロナウイルス感染症の影響を鑑みて、オンラインでのインタビューを実施した。
ーー今年から本格的に解説者になられたわけですが、「LJL CS」でのコーチになる前の解説と、コーチを経て正式な解説者となった現在とで、ご自身の変化はありましたか?
リールベルト:ひとつ大きいなと思ったのは、「LJL CS」の頃はeyesさんとRevolさんしか、お手本として見られる人間自体がいなかったことですね。
それに対して、今回はイェーガーくん、リクルートくんっていう解説の先輩がもう1組いるので、参考にできる人間が単純に増えたのは大きな違いですね。
ーー最初の解説の時に見本にしたのはeyesさん、Revolさん?
リールベルト:もちろんそうです。
僕はゲームをやる時、常にうまいなって思う人のプレイを100%マネるところから始めるスタイルなんです。
ただ、実況・解説で言うと、例えば僕が完全に第2のRevolさんになったとしても、Revolさんの劣化版だと面白くないじゃないですか。もっと言えば需要もないだろうなと。
なので、いいなと思うところとか基本のやり方は学びつつも、どうやったら自分の色を出せるかというのも同時に考えていました。
ーーそんな環境の中で、“リールベルトらしさ”はどこに見出したんですか?
リールベルト:「LJL CS」の頃も今も大きなところでは変わっていないのですが、選手とコーチを経験した部分で、単純に試合だけを見て分析する経験と、試合を見た上でそれを「LJL」で実戦に落とし込んでやってきたプロとしての経験の差は、ある程度出せるだろうと思っていました。
ーーなるほどなるほど。
リールベルト:さらにコーチになって、それを人に教えるところまでいったん経験はできました。なので人に教える時に、やってきたことを活かしてやろうっていうのが今のスタンスかなと思います。
いま僕の解説する上での課題として強く思っているのが、「正しいことを淡々と話すだけだとつまんない」というものなんです。
起こった出来事に対して、ここはこうこうこうだからこれがいいですね、とかこういうのがよかったですね、っていう、多分解説の一番最初にやるべきことだけをやっても、それは映像として面白くない。
たとえば、人気の配信者には人が集まりますよね。一般人のプレーの配信でも。
でも、「LCK」(韓国プロリーグ)のレギュラーメンバーが100人くらいしか観られていないのに、実力が圧倒的に劣る人が1万人、2万人に観られているっていうのもザラにあるわけじゃないですか。『LoL』がうまいだけが観られる要素じゃないと考えると、僕の中ではそれが足りないって思っているんですね。
その意味でいうと、やっぱりeyesさん、Revolさんの2人はそこがすごいなと思っていて。単純な実況・解説の能力ももちろんですけど、それ以外の空気作りだったり……特に「ゲームポーズ」がかかって間をつながないといけない時の話題とか。2人の掛け合いを観ていて、これは参考にしなきゃな、って一番思える2人なのかなって。
ーーリールベルトさんとカツディオンさんの解説って、戦っている選手に対してダメなところを教えてくれている、一種の「コーチング」のような時がありますよね。そこが選手出身、コーチ出身っていうことの特色として出ているのかなって、勝手に思っていました。
リールベルト:そこは、僕が選手の立場で聞いた時にレベルが上がるような解説をしたい、ということが土台にあるんです。なので、基本的な考え方を繰り返し意識して発言したりしています。
ただ、もうちょっとポップに話せるようにならないと。「ダメ出し」や「批判」として受け取られてしまうと相手の気持ちの中に入っていかないので、「意見」と受け取れるような話し方ってできないかなとか。
ーー「批判」と「意見」って、受け取る側の思いによる部分もありますから難しいですね……。若手のおふたりに対する評価はいかがですか?
リールベルト:イエーガーくん、リクルートくんの2人は、僕が苦手なデータとか数字をベースに分析するところに強いタイプなんですよね。数値で見た時に、平均値よりもこの数値がこうです、っていう解説がすごく得意な2人で。
それと、付き合いが長いからってこともあるとは思うんですが、息の合い方はすごいなって思います。参考にさせてもらいながら、どこをどういうふうに取り入れて行こうか、常に考えながら見ています。
ーー現在の実況・解説の4人って、みんなプロの経験は特にないわけですが、プロの選手から見てそんなに遜色はないわけですね?
リールベルト:ないと思います。
何かの記事で「コーチになるためにプロの経験は必要ですか?」という質問を読んだんですけど、あった方が楽なことは間違いないと思います。
ただそのうえで、なければいけない要素というのは僕はないと思うんですね。しっかりと理屈で物事を分析できれば。教える能力に関しては、プロ選手だからできるというものでもありません。
それは実況・解説、とくに解説に関しても同じ。ちゃんといまのメタとかが分析できたうえで、あとはもう話す能力だけだと思うので。
ーーRevol&eyesと、リクルート&イェーガーっていう、タイプが違うふたつのコンビがいるっていうことなんですね。最後に、今のパートナーであるカツディオンさんはどんな印象ですか?
リールベルト:カツディオンさんは、とにかく実況がうまいですよね。映像に出ない裏の部分で言うと、むちゃくちゃ真面目なんですよ。
よく「さっきの試合の実況・解説、こうこうこうだったね。だから次はこうしようか」とか、カツさんベースで話しかけてくれることが多いんですよ。なので、すごく助かってる部分もありますし、これからどんどん良くなっていけたらなって思います。「相方」って言っていいのかわからないですけど。
ーー最後に、「育成」という面について聞かせてください。リールベルトさんと言えばプロチームはもとより色々なところでコーチングをされていると思います。実際にいまやっているコーチングの活動って、どんなものが挙げられますか?
リールベルト:N高等学校の2チームに『LoL』を教えているのがひとつと、7月から始まった名古屋での高校生向けのコーチング、あとひとつは全国高校eスポーツ選手権に出場予定のチームに対するコーチングも少ししています。
ーー出場校に対するコーチングもやっているんですね。
リールベルト:ええ、出場校は120校くらいありますが、実際に教えた高校はN高も含めて20校くらいです。
ーーアマチュア層に教えることの難しさだったり、プロへのコーチングとの違いなどもあるんでしょうか?
リールベルト:大きな違いとして、ある意味でアマチュアには、結果を出さなければいけないという縛りはないわけじゃないですか。結果を求められるとどうしても「ティーチング」が増えてしまうんですね。
「ティーチング」はすぐに結果が出せるんです。ただ長期的に見るとマイナスが大きいっていう側面もあります。
「コーチング」に関しては、結果が出るまで時間がかかるケースもあるけど、のちのち自分で考えられるようになってくるので、圧倒的にプラスが大きいっていうのが違いです。
そういう意味では、プロのコーチ時代はどうしても「ティーチング」は外せない要素だったんですよ。割合として意識し出してからは減らしたものの。
ただ、高校生に関しては絶対結果を出さないといけないプロの世界ではないので、そのぶん「コーチング」を多くして、ひとりひとりが考えられるようなやり方ができるんです。
ーーただ、アマチュアと言っても、N高みたいにかなり経験している選手が集まっている学校もあれば、そうじゃないところもありますよね。『LoL』というゲームにおいて、実力のばらつきが多い部分に対してはどういうアプローチをされているんですか?
リールベルト:これ、もう完全に僕自身の考え方なんですけど、『LoL』って9割が知識のゲームだと思っているんですね。
スポーツであれば、心・技・体ぜんぶ揃っていないといけないとか、FPSなら「エイム」と「立ち回り」みたいに分かれているんですけど、『LoL』に関してはフィジカルとかメカニクスって呼ばれるものと、「マクロ」って呼ばれるもので分かれてはいるものの、結局9割は知識だと思ってるんです。
例えばある程度『LoL』をやっている人で、「プロがやっているこういうコンボをやってください」って言われたとして、プラクティスツールで1〜2時間練習すれば絶対できるようになるんですよ。「どれだけプラクティスツールで練習してもまったくできません」っていうテクニックはほとんど存在しないんです。
『LoL』の一番難しいところは、知っている上でゲーム中にそれを瞬間的に判断したり組み立てる判断能力なんです。操作能力うんぬんというのもそんなに関係ないんですよ。
その意味でいうと、プロに教える内容を高校生に教えたとしても、前提の理解からちゃんと詰めていきさえすれば、同じことができるようになるんです。
ーーなるほど!
リールベルト:これは『LoL』の楽なところでもあるんです。面白いところでもあり、という意味で。
例えば、高校生の中にもチャレンジャーの子もいれば、「『LoL』を始めて数カ月です」とか「1年未満です」という子たちもいて、実際に教える内容にも違いはありますよ。
ただ結局は、10まで教えるべきレベルがあったとして、今の知識や実力によってこの子には3を教えるのか10を教えるのかって違いだけで。3ができるようになれば4もできるようになるし、最終的に10まで上がれるので、圧倒的に教える内容自体が変わるってことはないです。
ーーそうやって高校生に教える中で、劇的に成長する様子も見てきたわけですね。
リールベルト:はい、高校生の方が変化は早いですね。
やっぱりプロまで行くといろいろな癖がついちゃってるとか、プライドがあるとか、プロっていう環境の中でやる分ストレスがあって。それが人の意見を受け入れることを阻害しちゃう要因になったりもするんですけど、高校生はすごくフラットなんですよね。教えたものをどんどん吸収しようっていう素直さもあるし。
「ここまでやってきたことが違うよ」って言われても、「あ、違うんだな」ってスッて受け止められる柔らかさがあるというか。「こういう状態の時はこうプレイした方がいいよ」って教えると、もう次は実践しているんですよ。
ーー逆に、高校生だからこそ気をつけなければいけないところとかありますか?
リールベルト:高校生ならではという面では、周りがその子をチヤホヤしすぎて実力を勘違いさせてしまうことがあって。
メディアなどで「この子がすごい!」と紹介されれば、あの年代の子は誰だって勘違いしちゃうと思うんですよ。でもそれってその子にとって絶対にマイナスでしかない。
ーー私たちもeスポーツメディアに携わる者として耳が痛いというか、戒めないといけない部分です……。
リールベルト:特に高校生に関しては、気をつけてあげてほしいと思います。下手をすればそこから人生が変わってしまう子もいますから。
実際、実力がある子にはそういう道が用意される状態になってきているじゃないですか。「スカウティング・グラウンズ」といったかたちで。表に出なくても、練習生もたくさんいますから。
ーーちなみに、メンタル面についてはどうですか?
リールベルト:考え方なのかと思いますけどね、経験も含めて。
ーーと言いますと?
まずどういうメンタルがいい悪いっていうのをちゃんと認識してないと、今どう言う状態にあってそれがいいのか悪いのかもわからないわけじゃないですか。
僕は結構損得勘定で全部やっちゃうほうがいいって思っているタイプなので、極論なんですけど、挨拶とかもする方がいいからってさせられるより、する方が得だからすべきだよね、っていう方が納得感がある方なんですよ。
ーーなるほど。
リールベルト:だって挨拶ってめちゃくちゃコストが安いじゃないですか。「おはようございます」って言うだけでそういうの印象を変えられるなら、逆にやらない理由ないよね、っていうような考え方、すごい好きなんですよ。これが正しいのかどうかわからないですけど。
そういう意味でいうとメンタルも同じで、こういうメンタルの方がいいのであれば、そういうメンタルを意識した方が絶対にいい。それができるかどうかは実践の経験だと思うんですけどね。
ーー2020年の「LJL」は、いままさに日本一を決める戦いが続いています。ここからの動静についてはどんなふうに見ていますか?(※インタビューは7月に実施)
リールベルト:まず、2020年の「LJL」は、過去最高にレベルの高い8チームが揃ってるのは間違いないです。そのなかでも春はチームの土台を作るシーズンで、春を経て強くなったチームが、特に結果が出ているV3 Esports、 Crest Gaming Act、Sengoku Gaming。気になるのは、そのなかで王者であるDetonatioN FocusMeがどうなのかってところですよね。
V3の強さの限界がどこにあるのか。まだ見えないんですよ、今年の夏。特定のチームに対しては厳しいだろうなって予想していたゲームもあったんですけど、そこから盛り返したゲームもあって、実際底が見えない。それがどこで見えてくるのかを、今年は楽しみにしています。
SGはなんだかんだ言って、きれいに春から夏にかけてレベルが上がってきたなって思います。特に僕はEntyと個人的に仲が良いんですけど、Enty個人の話で言うと、あいつ毎回春調子悪くて、夏調子いいプレイヤーなんですよ(笑)。それが今年もそのまま来ていて、SGが夏に強さが見えるひとつの大きな要因だなって思っています。
そしてCGAは格上に強いと言うか、ワンチャンスのゲームを奪っていく強さがあります。
特にこの4チームがどういう試合をしてくるのかが、一番楽しみですね。
ーーDFMが不調と言われている点はどんなふうに見ていますか?
リールベルト:多分ですけど、「世界で勝つこと」に照準を合わせて、新しいことに挑戦しようとしていると思うんです。新しい監督も入って、世界で勝つことを目標としているチームなので。
国内では圧倒的に強い、でも世界ではもうひとつ足りない、っていうのを自分たちでも認識していると思うんです。産みの苦しみなのかなと思いますね。
あれだけのチームが国内トップを取れないっていう大変さもありますが、「つらい」とか「うまくいかない」とかみんな言っているんだけど、全然違う次元で戦ってる感じもしなくもないんですよね。日本を見ていないというか。
僕自身は変化についてはすごく肯定的で。あそこまで結果を出していて、同じメンバーでやっていて変化がないというのは、強みでもあり弱みでもあると思うんです。
横綱相撲じゃないですけど、きれいに勝とうとしすぎるきらいみたいなのがあるんですよね、DFMって。リスクを負わず安定して勝とうっていうのがしみついちゃってる部分があって。だからこそ世界に出た時に格上には難しいのかなって個人的に思っている部分もありそうですよね。
ーー最後に、ご自身の目標についてお聞かせください。
リールベルト:大目標で言うと6〜7年くらい前から変わっていません。世界で活躍する日本のチームを出したい、というか、出るきっかけになりたいんですね。自分が組織したチームが世界に出るというよりは、世界で活躍するチームになんらかの形で関わっていたい。
選手の時は「自分が!」「チームが!」って思っていましたし、コーチの時も「自分が今教えているチームが!」って思っていましたけど、いまは新しい世代の育成だったり、もしかしたらその他の部分で、なにかしらあとやっぱコーチの人数が、まだまだ少なかったりとかコーチを目指そうって思える環境がないって言うのも大きいと思うんですねまあ国内で。
プロ上がり以外でコーチになる方法っていまほとんどないわけじゃないですか、他の競技を見た時に、サッカーでめちゃくちゃ成績を残した監督が、実はサッカー経験があまりない人でしたってこともたまに起こるじゃないですか。ああ言うのもすごいいいなあって思うので、なにかしらコーチを目指したいなって人がそれを学べる環境だったりとか経験できる環境もできてくればいいなって思ってますね。
リールベルトさんご本人と面と向かって話したのは今回が初めてのことだったが、「LJL」の解説と同様に、常に示唆をめぐらせ、言葉を選び、相手にわかりやすく伝えようとする姿勢は、まさに解説者として心掛けていることと同じに思えた。
そして、そんな人がこれから「LJL」の新たなスターとなっていくであろう、高校生などの若手の育成に乗り出している。未来の「LJL」のレベルアップは間違いないだろう。
リールベルト Twitter:https://twitter.com/Lillebelt_lol
前編では、これまでの『LoL』との歩みについて伺ったが、後編では、解説とともに取り組んでいる「若手育成」という視点について、その経験と現在の取り組み、そして未来の「LJL」について話していただいた。
なお、今回は新型コロナウイルス感染症の影響を鑑みて、オンラインでのインタビューを実施した。
うまい人をマネて強くなるスタイルは解説にも
ーー今年から本格的に解説者になられたわけですが、「LJL CS」でのコーチになる前の解説と、コーチを経て正式な解説者となった現在とで、ご自身の変化はありましたか?
リールベルト:ひとつ大きいなと思ったのは、「LJL CS」の頃はeyesさんとRevolさんしか、お手本として見られる人間自体がいなかったことですね。
それに対して、今回はイェーガーくん、リクルートくんっていう解説の先輩がもう1組いるので、参考にできる人間が単純に増えたのは大きな違いですね。
ーー最初の解説の時に見本にしたのはeyesさん、Revolさん?
リールベルト:もちろんそうです。
僕はゲームをやる時、常にうまいなって思う人のプレイを100%マネるところから始めるスタイルなんです。
ただ、実況・解説で言うと、例えば僕が完全に第2のRevolさんになったとしても、Revolさんの劣化版だと面白くないじゃないですか。もっと言えば需要もないだろうなと。
なので、いいなと思うところとか基本のやり方は学びつつも、どうやったら自分の色を出せるかというのも同時に考えていました。
ーーそんな環境の中で、“リールベルトらしさ”はどこに見出したんですか?
リールベルト:「LJL CS」の頃も今も大きなところでは変わっていないのですが、選手とコーチを経験した部分で、単純に試合だけを見て分析する経験と、試合を見た上でそれを「LJL」で実戦に落とし込んでやってきたプロとしての経験の差は、ある程度出せるだろうと思っていました。
ーーなるほどなるほど。
リールベルト:さらにコーチになって、それを人に教えるところまでいったん経験はできました。なので人に教える時に、やってきたことを活かしてやろうっていうのが今のスタンスかなと思います。
いま僕の解説する上での課題として強く思っているのが、「正しいことを淡々と話すだけだとつまんない」というものなんです。
起こった出来事に対して、ここはこうこうこうだからこれがいいですね、とかこういうのがよかったですね、っていう、多分解説の一番最初にやるべきことだけをやっても、それは映像として面白くない。
たとえば、人気の配信者には人が集まりますよね。一般人のプレーの配信でも。
でも、「LCK」(韓国プロリーグ)のレギュラーメンバーが100人くらいしか観られていないのに、実力が圧倒的に劣る人が1万人、2万人に観られているっていうのもザラにあるわけじゃないですか。『LoL』がうまいだけが観られる要素じゃないと考えると、僕の中ではそれが足りないって思っているんですね。
その意味でいうと、やっぱりeyesさん、Revolさんの2人はそこがすごいなと思っていて。単純な実況・解説の能力ももちろんですけど、それ以外の空気作りだったり……特に「ゲームポーズ」がかかって間をつながないといけない時の話題とか。2人の掛け合いを観ていて、これは参考にしなきゃな、って一番思える2人なのかなって。
ーーリールベルトさんとカツディオンさんの解説って、戦っている選手に対してダメなところを教えてくれている、一種の「コーチング」のような時がありますよね。そこが選手出身、コーチ出身っていうことの特色として出ているのかなって、勝手に思っていました。
リールベルト:そこは、僕が選手の立場で聞いた時にレベルが上がるような解説をしたい、ということが土台にあるんです。なので、基本的な考え方を繰り返し意識して発言したりしています。
ただ、もうちょっとポップに話せるようにならないと。「ダメ出し」や「批判」として受け取られてしまうと相手の気持ちの中に入っていかないので、「意見」と受け取れるような話し方ってできないかなとか。
ーー「批判」と「意見」って、受け取る側の思いによる部分もありますから難しいですね……。若手のおふたりに対する評価はいかがですか?
リールベルト:イエーガーくん、リクルートくんの2人は、僕が苦手なデータとか数字をベースに分析するところに強いタイプなんですよね。数値で見た時に、平均値よりもこの数値がこうです、っていう解説がすごく得意な2人で。
それと、付き合いが長いからってこともあるとは思うんですが、息の合い方はすごいなって思います。参考にさせてもらいながら、どこをどういうふうに取り入れて行こうか、常に考えながら見ています。
解説者にプロの経験は必要?
ーー現在の実況・解説の4人って、みんなプロの経験は特にないわけですが、プロの選手から見てそんなに遜色はないわけですね?
リールベルト:ないと思います。
何かの記事で「コーチになるためにプロの経験は必要ですか?」という質問を読んだんですけど、あった方が楽なことは間違いないと思います。
ただそのうえで、なければいけない要素というのは僕はないと思うんですね。しっかりと理屈で物事を分析できれば。教える能力に関しては、プロ選手だからできるというものでもありません。
それは実況・解説、とくに解説に関しても同じ。ちゃんといまのメタとかが分析できたうえで、あとはもう話す能力だけだと思うので。
ーーRevol&eyesと、リクルート&イェーガーっていう、タイプが違うふたつのコンビがいるっていうことなんですね。最後に、今のパートナーであるカツディオンさんはどんな印象ですか?
リールベルト:カツディオンさんは、とにかく実況がうまいですよね。映像に出ない裏の部分で言うと、むちゃくちゃ真面目なんですよ。
よく「さっきの試合の実況・解説、こうこうこうだったね。だから次はこうしようか」とか、カツさんベースで話しかけてくれることが多いんですよ。なので、すごく助かってる部分もありますし、これからどんどん良くなっていけたらなって思います。「相方」って言っていいのかわからないですけど。
高校生へのコーチングで気をつけていること
ーー最後に、「育成」という面について聞かせてください。リールベルトさんと言えばプロチームはもとより色々なところでコーチングをされていると思います。実際にいまやっているコーチングの活動って、どんなものが挙げられますか?
リールベルト:N高等学校の2チームに『LoL』を教えているのがひとつと、7月から始まった名古屋での高校生向けのコーチング、あとひとつは全国高校eスポーツ選手権に出場予定のチームに対するコーチングも少ししています。
#放課後eスポ部 第一回の活動が開始しました!
— 放課後eスポ部 CTG GAMING NAGOYA (@CTG_nagoya) July 17, 2020
リールベルト監督による直接指導を行なってます!
本日は19時までの活動なので、近くにいる高校生はご来場ください!
無料体験実施中です!#CTG #LoL pic.twitter.com/jD8AxISkbu
ーー出場校に対するコーチングもやっているんですね。
リールベルト:ええ、出場校は120校くらいありますが、実際に教えた高校はN高も含めて20校くらいです。
ーーアマチュア層に教えることの難しさだったり、プロへのコーチングとの違いなどもあるんでしょうか?
リールベルト:大きな違いとして、ある意味でアマチュアには、結果を出さなければいけないという縛りはないわけじゃないですか。結果を求められるとどうしても「ティーチング」が増えてしまうんですね。
「ティーチング」はすぐに結果が出せるんです。ただ長期的に見るとマイナスが大きいっていう側面もあります。
「コーチング」に関しては、結果が出るまで時間がかかるケースもあるけど、のちのち自分で考えられるようになってくるので、圧倒的にプラスが大きいっていうのが違いです。
そういう意味では、プロのコーチ時代はどうしても「ティーチング」は外せない要素だったんですよ。割合として意識し出してからは減らしたものの。
ただ、高校生に関しては絶対結果を出さないといけないプロの世界ではないので、そのぶん「コーチング」を多くして、ひとりひとりが考えられるようなやり方ができるんです。
ーーただ、アマチュアと言っても、N高みたいにかなり経験している選手が集まっている学校もあれば、そうじゃないところもありますよね。『LoL』というゲームにおいて、実力のばらつきが多い部分に対してはどういうアプローチをされているんですか?
リールベルト:これ、もう完全に僕自身の考え方なんですけど、『LoL』って9割が知識のゲームだと思っているんですね。
スポーツであれば、心・技・体ぜんぶ揃っていないといけないとか、FPSなら「エイム」と「立ち回り」みたいに分かれているんですけど、『LoL』に関してはフィジカルとかメカニクスって呼ばれるものと、「マクロ」って呼ばれるもので分かれてはいるものの、結局9割は知識だと思ってるんです。
例えばある程度『LoL』をやっている人で、「プロがやっているこういうコンボをやってください」って言われたとして、プラクティスツールで1〜2時間練習すれば絶対できるようになるんですよ。「どれだけプラクティスツールで練習してもまったくできません」っていうテクニックはほとんど存在しないんです。
『LoL』の一番難しいところは、知っている上でゲーム中にそれを瞬間的に判断したり組み立てる判断能力なんです。操作能力うんぬんというのもそんなに関係ないんですよ。
その意味でいうと、プロに教える内容を高校生に教えたとしても、前提の理解からちゃんと詰めていきさえすれば、同じことができるようになるんです。
ーーなるほど!
リールベルト:これは『LoL』の楽なところでもあるんです。面白いところでもあり、という意味で。
例えば、高校生の中にもチャレンジャーの子もいれば、「『LoL』を始めて数カ月です」とか「1年未満です」という子たちもいて、実際に教える内容にも違いはありますよ。
ただ結局は、10まで教えるべきレベルがあったとして、今の知識や実力によってこの子には3を教えるのか10を教えるのかって違いだけで。3ができるようになれば4もできるようになるし、最終的に10まで上がれるので、圧倒的に教える内容自体が変わるってことはないです。
ーーそうやって高校生に教える中で、劇的に成長する様子も見てきたわけですね。
リールベルト:はい、高校生の方が変化は早いですね。
やっぱりプロまで行くといろいろな癖がついちゃってるとか、プライドがあるとか、プロっていう環境の中でやる分ストレスがあって。それが人の意見を受け入れることを阻害しちゃう要因になったりもするんですけど、高校生はすごくフラットなんですよね。教えたものをどんどん吸収しようっていう素直さもあるし。
「ここまでやってきたことが違うよ」って言われても、「あ、違うんだな」ってスッて受け止められる柔らかさがあるというか。「こういう状態の時はこうプレイした方がいいよ」って教えると、もう次は実践しているんですよ。
ーー逆に、高校生だからこそ気をつけなければいけないところとかありますか?
リールベルト:高校生ならではという面では、周りがその子をチヤホヤしすぎて実力を勘違いさせてしまうことがあって。
メディアなどで「この子がすごい!」と紹介されれば、あの年代の子は誰だって勘違いしちゃうと思うんですよ。でもそれってその子にとって絶対にマイナスでしかない。
ーー私たちもeスポーツメディアに携わる者として耳が痛いというか、戒めないといけない部分です……。
リールベルト:特に高校生に関しては、気をつけてあげてほしいと思います。下手をすればそこから人生が変わってしまう子もいますから。
実際、実力がある子にはそういう道が用意される状態になってきているじゃないですか。「スカウティング・グラウンズ」といったかたちで。表に出なくても、練習生もたくさんいますから。
ーーちなみに、メンタル面についてはどうですか?
リールベルト:考え方なのかと思いますけどね、経験も含めて。
ーーと言いますと?
まずどういうメンタルがいい悪いっていうのをちゃんと認識してないと、今どう言う状態にあってそれがいいのか悪いのかもわからないわけじゃないですか。
僕は結構損得勘定で全部やっちゃうほうがいいって思っているタイプなので、極論なんですけど、挨拶とかもする方がいいからってさせられるより、する方が得だからすべきだよね、っていう方が納得感がある方なんですよ。
ーーなるほど。
リールベルト:だって挨拶ってめちゃくちゃコストが安いじゃないですか。「おはようございます」って言うだけでそういうの印象を変えられるなら、逆にやらない理由ないよね、っていうような考え方、すごい好きなんですよ。これが正しいのかどうかわからないですけど。
そういう意味でいうとメンタルも同じで、こういうメンタルの方がいいのであれば、そういうメンタルを意識した方が絶対にいい。それができるかどうかは実践の経験だと思うんですけどね。
過去最高レベルの「LJL 2020」
ーー2020年の「LJL」は、いままさに日本一を決める戦いが続いています。ここからの動静についてはどんなふうに見ていますか?(※インタビューは7月に実施)
リールベルト:まず、2020年の「LJL」は、過去最高にレベルの高い8チームが揃ってるのは間違いないです。そのなかでも春はチームの土台を作るシーズンで、春を経て強くなったチームが、特に結果が出ているV3 Esports、 Crest Gaming Act、Sengoku Gaming。気になるのは、そのなかで王者であるDetonatioN FocusMeがどうなのかってところですよね。
V3の強さの限界がどこにあるのか。まだ見えないんですよ、今年の夏。特定のチームに対しては厳しいだろうなって予想していたゲームもあったんですけど、そこから盛り返したゲームもあって、実際底が見えない。それがどこで見えてくるのかを、今年は楽しみにしています。
SGはなんだかんだ言って、きれいに春から夏にかけてレベルが上がってきたなって思います。特に僕はEntyと個人的に仲が良いんですけど、Enty個人の話で言うと、あいつ毎回春調子悪くて、夏調子いいプレイヤーなんですよ(笑)。それが今年もそのまま来ていて、SGが夏に強さが見えるひとつの大きな要因だなって思っています。
そしてCGAは格上に強いと言うか、ワンチャンスのゲームを奪っていく強さがあります。
特にこの4チームがどういう試合をしてくるのかが、一番楽しみですね。
ーーDFMが不調と言われている点はどんなふうに見ていますか?
リールベルト:多分ですけど、「世界で勝つこと」に照準を合わせて、新しいことに挑戦しようとしていると思うんです。新しい監督も入って、世界で勝つことを目標としているチームなので。
国内では圧倒的に強い、でも世界ではもうひとつ足りない、っていうのを自分たちでも認識していると思うんです。産みの苦しみなのかなと思いますね。
あれだけのチームが国内トップを取れないっていう大変さもありますが、「つらい」とか「うまくいかない」とかみんな言っているんだけど、全然違う次元で戦ってる感じもしなくもないんですよね。日本を見ていないというか。
僕自身は変化についてはすごく肯定的で。あそこまで結果を出していて、同じメンバーでやっていて変化がないというのは、強みでもあり弱みでもあると思うんです。
横綱相撲じゃないですけど、きれいに勝とうとしすぎるきらいみたいなのがあるんですよね、DFMって。リスクを負わず安定して勝とうっていうのがしみついちゃってる部分があって。だからこそ世界に出た時に格上には難しいのかなって個人的に思っている部分もありそうですよね。
ーー最後に、ご自身の目標についてお聞かせください。
リールベルト:大目標で言うと6〜7年くらい前から変わっていません。世界で活躍する日本のチームを出したい、というか、出るきっかけになりたいんですね。自分が組織したチームが世界に出るというよりは、世界で活躍するチームになんらかの形で関わっていたい。
選手の時は「自分が!」「チームが!」って思っていましたし、コーチの時も「自分が今教えているチームが!」って思っていましたけど、いまは新しい世代の育成だったり、もしかしたらその他の部分で、なにかしらあとやっぱコーチの人数が、まだまだ少なかったりとかコーチを目指そうって思える環境がないって言うのも大きいと思うんですねまあ国内で。
プロ上がり以外でコーチになる方法っていまほとんどないわけじゃないですか、他の競技を見た時に、サッカーでめちゃくちゃ成績を残した監督が、実はサッカー経験があまりない人でしたってこともたまに起こるじゃないですか。ああ言うのもすごいいいなあって思うので、なにかしらコーチを目指したいなって人がそれを学べる環境だったりとか経験できる環境もできてくればいいなって思ってますね。
※ ※ ※
リールベルトさんご本人と面と向かって話したのは今回が初めてのことだったが、「LJL」の解説と同様に、常に示唆をめぐらせ、言葉を選び、相手にわかりやすく伝えようとする姿勢は、まさに解説者として心掛けていることと同じに思えた。
そして、そんな人がこれから「LJL」の新たなスターとなっていくであろう、高校生などの若手の育成に乗り出している。未来の「LJL」のレベルアップは間違いないだろう。
リールベルト Twitter:https://twitter.com/Lillebelt_lol
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