どうして彼らは”選ばれた”のか? 新時代『LoL』実況・解説コンビ「イェーガー&リクルート」ダブルインタビュー!

2019.12.25 OGA
異例の大抜擢! 2019年、「LJL」に舞い降りた2つの才能、『リーグ・オブ・レジェンド』実況・解説イェーガー&リクルート。激動の2019年シーズンをやり通した直後の彼らにお話を伺った。

栄誉ある「LJL」のキャスターにどうして彼らが”選ばれた”のか。その真髄を垣間見るように「イェリク」はインタビューでも見事な掛け合いを見せてくれた。

実況者イェーガー「チームの6人目として共に戦う」


──夏の「神田明神カップ」で、イェーガーさんの実況を聞いたとき衝撃を受けました。第三者的な実況ではなく、チームの6人目のメンバーとして一緒に戦っているような臨場感のある実況でした。


イェーガー:ありがとうございます。コミュニティ大会の実況をしていたころから、集団戦の実況に関しては自信がありました。まさにコミュニティ大会実況の頃はチームの中に入り込むというか、チームメンバーの1人として実況するようなイメージでやっていたんです。

──「LJL」の実況に抜擢されて1年経ちました、今はどのようなお気持ちでしょうか?

イェーガー:月並みな感想ですが、あっという間でした。

無我夢中で全力疾走して、何とか「World Championship」までやってこられたという印象です。あとは周囲から掛けてもらえた言葉が変わり続けてきた1年だったという印象もあります。


──現場や配信、様々な場所からの言葉があったかと思います。

イェーガー:配信等での厳しいコメントについては元々あまり気になりませんでした。最初は「この新しい実況者ってどうなの?」というコメントが多かったですが、いま「LJL」の実況をやっているのは自分だ! という強い意志でやっています。ただ、同じことを指摘され続けるのは良いことではないと思っていたので、反響については様子を伺っていました。

──表舞台に立つと世間からの声は避けられないですね。特に実況・解説は選手よりもコメントの対象になりやすいと聞きます。

イェーガー:僕の実況は視聴者に向けてしゃべっている意識があるので、少しでも技術を向上しようと思い、自分の配信は全て観返して、コメントにも目を通していました。

誹謗中傷に関してはそこまで気に留めず、“この実況のこの部分が良かった!”とかポジティブな意見を優先的に取り入れるようにしました。最終的には、自分の従来のスタンスに戻すことになりました。

──「LJL」での実況が始まった当初と比べて、技術やメンタル面での変化は感じますか?

イェーガー:実は「LJL」の実況を始めた当初、スタンスを少し変えてしまったんです。「LJL」とコミュニティ大会は観る層が変わるので、自分も変わるべきだと思ってしまいました。ただ、全く上手くいかなかったので昔のスタンスに戻しました。

するとコメントでも「この実況熱いな」という意見が出てきて、ディレクターさんからも良い評価を頂けるようになりました。「あ! これでいいんだ」って感覚でした。そこが転機ではあった気がしますね。自分を変える必要はなく、今までの自分のやり方を維持したままレベルアップしていけば良いと気付きました。


解説者リクルート「選手の素晴らしさを伝える、ただそのために」


──リクルートさんの解説で印象的なのが、負けているチームの逆転方法について、絞り出すように勝ち筋を説明するところでした。あの解説はとても参考になるし、最後まで熱量高く観られるモチベーションにもなります。


リクルート:劣勢なチームが勝つ方法は、観戦者が最も聞きたい情報ではあるとは思うんです。ただ、『LoL』は勝っているチームがそのまま勝つことすら難しいゲーム、負けているチームが逆転するのはそれ以上にレアケースです。正直、逆転方法についてはあまり話したくないことではあります。

──なぜでしょうか? 一般的には「人数差つけて集団戦をやろう」みたいな話になりますが。

リクルート: 理由としてはまず、逆転の方法自体が限られているので似たような話になりがち。人数差をつけて戦うのもその1つですが、負けている時は人数差をつけることも難しい。

また、逆転方法に関する話題はそこまで話が広がるわけでもなく、勝っているチームがどう勝ち切るかを解説する方が生産的だったりするのです。

──解説時、リクルートさんの頭には試合に関するデータが整理されているので、試合の結末がある程度は見えている。その上で、逆転劇について解説するのは確かに苦しいですね。

リクルート:圧倒的な差がついている状況では、ほとんど冗談のようなことを言うことにもなります。ただ、逆転の道筋を提示することは大切だと思っていて、実際にその逆転劇が起こった際にもっと盛り上がる要素になります。解説した試合展開と違った道筋を辿れば、それは選手が特殊なプレイをしたというポイントにもなります。試合と選手の良さを際立たせる為にも、解説することを心掛けています。



──リクルートさんは「LJL」解説者のお話が来た時はどのようなお気持ちだったのでしょうか?

リクルート:まだ早いな、と思いました。ただ、憧れの「LJL」の解説の機会でしたので引き受けました。1年間、この環境に揉まれて成長したいという思いもありましたね。

ところが、「LJL」最初の解説で大コケしたんです、スキル不足を痛感しました。解説者に関しては、コミュニティと「LJL」では求められているスキルが大幅に異なることが分かったんです。

イェーガー:確かに、解説者は特に話すべきことが違いますね。

リクルート:コミュニティ大会では自分が知っている知識や面白いと感じた事について話していたのですが、LJLではそれでは成り立ちません。情報の取捨選択ができていませんでした。限られた時間しか与えられていない中、回りくどい話をしていたんです。そのギャップが本当に痛くて、修正にかなりの時間を要しました。

──「LJL」に舞台を移すと情報の取捨選択がさらにシビアになったんですね。リクルートさんが試行錯誤されていたことを、イェーガーさんはお気づきでしたか?

イェーガー:いえ、その頃は僕は変えてしまったスタンスを戻そうとしていた時期だったので、周囲を気にする余裕はありませんでした。

──お互いに自身のことで精一杯だったんですね。

リクルート:次から次へと課題は出てきました。解説すべき情報の整理はついたのですが、次は話したい内容と連動する言葉が出てこなかったんです。春から夏にかけては修正していく日々が続きました。

そもそも、僕の場合は「LJL」の雰囲気に慣れることがスタートだった気がします。憧れだった「LJL」の裏側が見られる、「LJL」の舞台に立てる……これらの出来事がすぐには信じられなかったんです。

──あれだけの大舞台なので仕方ないかと思います。精神的に落ち着き始めてからは、どのような取り組みをされたのでしょうか?

リクルート:僕も配信のコメント欄を見ました。有用なご意見もいただいたのですが、同時にかなりの誹謗中傷もありました。落ち込んでしまうことのほうが多くなってしまい、精神的に苦しい時期が続きました。コメントには具体的に「こういう解説をしてほしい!」というご指摘もあったのですが、全てを踏まえての解説が成立するわけがないと気付きました。

──お二人ともコメントに関しては、参考程度に留めたのですね。

リクルート:はい。夏には積み重ねたものを全てリセットして、自分の従来の解説スタイルに色を足していくことを試すようにしました。ただ、その時にまたメチャクチャ叩かれました(笑)。それからは身近な方から技術を吸収するようになりました。eyesさん、Revolさん、katsudionさん、それからスタッフさんからも意見をいただいて、話し方の基礎から訓練し直しました。

eyesさんには入念にご指導いただいて「ここまで直してきたんですけど、どうでしょうか?」というやり取りを何度も何度も繰り返し、技術的なことを細かく教えていただきました。

──想像以上の訓練です。もう修行の域ですね。

リクルート:また、Katsudionさんは本当に僕たち二人のことをよく見て下さいました。

僕がうまく解説できず落ち込んでいる時、Katsudionさんは裏で悩みを聞いて励ましの言葉をかけて下さいました。本番前の緊張している時、「大丈夫だよ」と声をかけていただき、とても励みになったのを今でも鮮明に覚えています。プライベートでもご飯に連れて行って下さり、踏ん張る元気をいただきました。


まず身近な挑戦を逃さないこと


──周囲の方の支援を得ながらお互いが成長していく中、コンビとしての連携面での変化はありましたか?


イェーガー:ありましたね。お互い別々のコミュニティ大会出身の実況・解説なので、最初は向いている方向が違った感じでした。回数を重ねるごとに徐々に息が合うようになってきました。練習として他の実況・解説の方とコンビを入れ替えたこともありました。

リクルート:多くの方と組ませていただきました。ちなみに、基本的には解説側が実況側のスタンスに合わせることが多いんです。実況のスタンスは皆さん全く異なっています。katsudionさんは解説側に多めに振ってくる方、eyesさんは自身で解説を織り交ぜて実況される方でした。

イェーガー:僕は実況する際、極力ゲーム内容には触れないようにしています。フィジカルスポーツでは実況担当者は自分の意見は言わないことが多く、僕はそれを参考にしています。リクルート君は僕の実況スタイルに上手く合わせてくれました。

──今後、お二人の影響で「実況・解説をやりたい!」と思う方も増えてくると思います。そのような方々にメッセージはありますか?

イェーガー:実況をやりたいと思っているなら、受け身では絶対ダメですね。昔、配信でeyesさんに実況を指導してもらえる機会があって、僕はその配信を偶然観ていたので「僕、やりたいです!」ってコメントしたんです。すると、実際に実況をさせてもらえて「声がよく通るし聞きやすかったよ! 熱量も伝わってきたよ!」って言ってもらえたんです。

それが実況を本気で目指すキッカケでもありました。その後、自分の実力を試す目的で1週間に8回の大会実況をしました。とても大変でしたが、やり遂げたことで自信がつきました。

──身近なことに積極的に挑戦していくことが重要なんですね。

イェーガー:そうですね。実況をする機会は周囲にたくさんあります。今はコミュニティ規模の大会はたくさん開かれているんです。しかし、実況・解説に名乗りを上げる人は少なく、主催者の方が仕方なく自分でされています。将来的に、実況をやりたいと考えているのなら、まずはそこに手を挙げるところがスタートです。


この仕事、オススメしません


──リクルートさんは如何でしょうか?


リクルート:いやぁ、イェーガー君にそんな良いエピソードがあるなんて知りませんでした(笑)。解説に関しては、はっきり言ってオススメしません! 少なくとも、「LoL」をプレイしている延長線上で目指すポジションではないですね。試合とゲームに関する知識量、勉強量に加えて、解説者としての最低限の話し方の練習が必要です。どれだけ時間があっても足りません。

──非常に大変なポジションなのはお話を伺っていても伝わってきます。国内大会に加えて世界大会もチェックされているんですよね。

リクルート:そうですね。また、解説に関しては『LoL』がどんなに上手くても、ほとんどゼロからのスタートになると考えた方が良いです。チームに所属してのプレイが未経験である場合は、さらにハンデを背負うことになります。

僕は、解説を目指してからすぐに計画的に動き始めました。2年間、『LoL』の競技シーンをずっと観続けて、アナリストとしてチームに所属、同時に大会の解説を務めて経験を積みました。また、eyesさんに教えていただいたことですが「なりたいからなる」ではなくて「○○をしたいからなる」でなければ根気が続きません。

──『LoL』のプレイの上手さと解説の上手さは直結しないということですね。「○○をしたいからなる」が必要とのことですが、リクルートさんが解説を志したのは、どのようなモチベーションが理由だったのでしょうか。

リクルート:『LoL』が素晴らしいゲームだということ、選手のプレイが素晴らしいんだってことをもっと多くの人に伝えたいと思いました。『LoL』の素晴らしさを伝える手段には、イベント運営や映像スタッフなど様々な仕事がありますが、実況・解説のポジションが最もダイレクトに良さを伝えられると思いました。eyesさん、Revolさんをはじめとした先人の存在も大きかったです。

──昨今eスポーツ実況者は増えてきましたが、eスポーツ解説者というポジションはまだまだ珍しく、現役プロに解説を任せることが多々あります。解説を専門化するとどのような利点があるのでしょうか?

リクルート:これは他のゲームにも当てはまるのか分かりませんが、現役プロの方はどうしても自身の練習が必要なので、他の試合に関する情報収集を行う時間が限られています。解説者を専門化することで、全世界の動向を踏まえた解説ができるようになります。

一方、操作技術の細かいところや勝負勘に関しては現役プロの方が精度高く説明できるので、一長一短だと思います。

「良い試合だった」と言ってもらえれば


──本日はありがとうございました! お話していてお二人からは、1年「LJL」で実況・解説をやり通したことによる “自信”を感じました。自信の有無は声色に出やすく、素敵な実況・解説をする上で重要なんだと今一度、気付かされました。


イェーガー:ありがとうございました! 僕らの実況・解説は、試合を観終わった人たちに「良い試合だった」と思ってもらえることを常に意識しています。

リクルート:「良い実況・解説だった」という感想も嬉しいのですが、僕らに評価が集まる必要はありません。「良い試合だった」、これが僕らの目指す実況と解説です。

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