【DFMオーナー 梅崎伸幸氏インタビュー 後編】応援歌を作りたい!?——梅崎ismが描く、次世代へつなぐチームビジョン

数ある国内eスポーツチームの中でも、長年トップシーンを走り続けているのがDetonatioN FocusMe(でとねーしょん・ふぉーかすみー/略称:DFM)。2012年の創設から13年が経ち、チームは国内外の舞台で数々の挑戦を重ね、日本のeスポーツを語るうえで欠かせない存在へと進化を遂げてきた。

その中心に立ち続けるのが、創設者であり現オーナーの梅崎伸幸氏。黎明期から日本のプロeスポーツを牽引してきた人物であり、現在もなお新たなビジョンを掲げてチームを率いている。

前編では、チーム設立からM&Aに至るまでの歩みと、その裏にあった葛藤を語ってもらった。後編となる今回は、2025年の躍進の裏側、そして梅崎氏が描くDetonatioN FocusMeの“これから”に迫る。

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梅崎伸幸(うめざき のぶゆき)


株式会社DetonatioN代表取締役CEO。2012年にチームを設立し、2015年に日本初の給与制プロチーム「DetonatioN FocusMe」を発足。もともとはプレーヤーとして活動していたが、現在は経営者として活躍している。

躍進止まらぬ2025年——梅崎ismが築いた勝てるチーム作り


——紆余曲折あった2024年まで、スタッフの想いに支えられてきた一方で、現実としては数字や結果の改善が求められる時期でもあったと思います。そんな中、2025年のシーズンは大会の成績だけを見ても、明らかにチームに変化があったように感じます。

梅崎:そうですね。CEOとしての立場になってからは、“感情論”だけではどうにもならない課題が多くなりました。

そこで今年の1月、以前から知人でもあり、とある会社で長年マーケティング事業を担当していた方に、「ぜひDetonatioNの経営企画を一緒にやってほしい」とお願いして、GameWith経由でチームに参画してもらいました。

DetonatioNは営業力やブランド力、結束力はあるのに、チームの成績が伴っていない——。

だったらまず、数字と仕組みを整えようと考えました。僕は正直、数字管理が苦手で(笑)。

でも上場企業のグループに入る以上、資料作りや会議の量は増えるわけです。だからこそ、自分のリソースを確保するために、社内の組織は会社の昔からいるNo.2が管理して、CFOの役割である財務や数字管理の部分をその方に任せ、自分はもう一度“営業の最前線”に戻ることにしました。

営業体制を徹底的に立て直した結果、5月〜6月あたりから数字に変化が出始めたんです。これまで未達が続いていた目標も、今年は順調にうまくいっています。

——CFOの登場で、本職で梅崎さんの本領を発揮できる環境が整ったわけですね。

梅崎:そうですね。営業の数字が安定すれば、チームも予算に追われずに動けるようになる——。そうすると、次はチームマネージャーの育成にも時間を割けるようになりました。結果として、今は経営と現場の両面から整備が進んでいます。

例えば、最近あった『リーグ・オブ・レジェンド』の大会「LCP 2025 Season Finals」でもSoftBank HAWKS gaming(SHG)に勝ったじゃないですか。実はあの大会の裏側でも、僕自身も関わっていました。

まあ語れない部分も多いんですけど、実はあの大会の裏では大きなコミュニケーションエラーが起こっていました。それをなんとかヘッドコーチや僕が舵を切って、チーム全体の雰囲気を立て直したんですよ。

あの時は“戦術”よりも“心の整理”のほうが大事だと感じた——。試合の戦略を詰めるよりも、まず全員で話して気持ちをひとつにすることを優先しました。

▲2025年からアジア太平洋地域で統合され、新たなリーグとしてスタートした「League of Legends Championship Pacific(LCP)」。DetonatioN FocusMeは「LCP」参戦以来初めてのプレーオフ進出、同時にSHGは初めてプレーオフ進出を逃す、明暗別れる結果となった(参考:https://esports-world.jp/report/52913

——現場を担うコーチ陣が土台にあり、そのうえで梅崎さんが要所で関わったことが、今回の初のプレーオフ進出につながったということですね。

梅崎:そうですね。ただ、あれは選手目線だけではできないことでした。全体的に言えることですが、日本のeスポーツには、本当の意味でチームをまとめられる“ゼネラルマネージャー”“ヘッドコーチ”的な人材がまだまだ少ないんです。

海外では戦略や人材育成を担う専門職が確立していますが、日本ではまだ発展途上で、どうしても選手主体の運営になりがちなんですよね。だからこそ僕自身がチームの中に入って、コーチや選手と向き合い、信頼関係を築くようにしました。

いわば「GM」としてメンタル面を整え、自信と一体感を取り戻す。その積み重ねが、今回のプレーオフ進出という結果につながったと思っています。

他の部門でもコーチ陣と連携を取ることも多く、チーム統制を図りました。

▲2023年から開幕して、今年3年目となる国際リーグ「VCT Pacific 2025」では、初のプレーオフ進出を果たした(出典:VALORANT Champions Tour Pacific Photos

——つまり、梅崎さん自身がチームをまとめるようになったことが今年の大きな変化ということなんですか?

梅崎:それも要因としてあるかもしれませんが、一番はコーチの成長が大きかったと思います。本来、代表者が現場に降りてきすぎるのは良くないですし、現場を任せて成長を見守ることも大事です!

DetonatioN FocusMeが競技シーンにこだわり続ける理由


——やはり梅崎さんが元選手だということもあり、DetonatioN FocusMeは、ほかのチームに比べると競技シーンに重きを置いているチームだと感じています。ストリーマーやVTuberが多く加入しているチームも増えている中、競技シーンに力を入れ続ける理由はどこにあるのでしょうか。

梅崎:元選手ということもあるからか、競技シーンに特化したいという思いが強くあります。よく言えば硬派と見られるかもしれませんが、ストリーマー強化は必要不可欠だと思っています。

過去にDetonatioN FocusMeに所属して活躍していた選手が、今では別のところで有名なストリーマーになっている——なんて事例がたくさんある中で、もっとそこに目を向けるべきだったと反省しています。

それでもやっぱり僕は競技シーンが大好きなんですよね(笑)。

——やはりストリーマーやVTuberといったプロ選手とは違ったアプローチも必要?

梅崎:そうですね。ストリーマー文化の発展のお陰で競技シーンを見てくれる層が増えたり、選手が引退したあとの選択肢が増えたりすることはとてもいいことなので、どちらも必要だと改めて感じています。

ただ、チーム(会社)が成長していくために収益の柱をどこに置くか——。スポンサーなのか、グッズ・アパレルなのか、あるいはイベント・キャスティング事業やファンビジネスなのか。チームによって進め方は違っていきます。

DetonatioN FocusMeの場合、これまでの強みは企業との信頼関係にありました。長年支援してくださっているスポンサー企業とのつながりを大切にしながら、動画制作やキャスティング、デザインなど、派生ビジネスも少しずつ広げています。

僕らは“競技シーンで戦う”という根幹を維持しながら、チームとして食べていくための仕組みを再構築している最中です。それがいま、僕たちが取り組んでいる新しい挑戦ですね。

——DetonatioN FocusMeは日本のeスポーツチームの中でも、最も歴史が長い部類に入るチームだと思っています。ここまで長く続けられる秘訣はあるのでしょうか。

梅崎:ひとつは信念を貫き通すこと。そして考えがブレないこと、これが最も大切だと思っています。

——そう考えると、所属する選手の在籍期間も長いですよね。

梅崎:そこは大事にしている部分ですね。簡単に人を切りたくない。長い競技人生の中でたまたまその年が悪いタイミングだったのかもしれないし、それをきっかけに変わるかもしれない。僕は人が変わる瞬間を見届けたいんです。

まぁ中々変わらないこともあるので、根気が大事です(笑)。

——(笑)。

梅崎:まあ、そんなもんですよ。ただ、僕は人の成長を見守りたいんです。


10年後のDetonatioN FocusMeの未来像は


——これまでのDetonatioN FocusMeの歴史を踏まえて、今後どのようなチーム像を描いているのでしょうか?

梅崎:僕が「チームとしてやらなければならないことってなんだろう」と考えたときに、やはり“技術・ノウハウの継承”だと思ったんです。

日本のeスポーツってゲームタイトルによっては、世代交代がうまくいかずに新しいスターが生まれづらい傾向にあると思っています。これは「技術や経験のバトンがきちんと次の世代に引き継がれていないのでは?」と考えるようになりました。

そう考えると、やはり必要なのはアカデミーなんじゃないかと。韓国はこのアカデミーの育成システムが本当にしっかりしていて、若手がどんどん成長して、次々にプロの舞台に上がってくる。

一方で日本はまだそこまで整っていない。第一世代、第二世代の選手たちが引退すると、急に新しい人材が出てこなくなる。だからこそ、若い世代を救い上げてしっかり育てていく仕組みを、少なくとも競技シーンを根幹としている自分たちが率先して作っていかないといけないと思っています。

もちろんいくつもの日本のチームも積極的にユース部門を育成している例もありますが、もっと根本的に“日本のeスポーツ全体を強くするための土台”を作らなきゃいけない。

そういう意識を持って、今のDetonatioN FocusMeとしてもアカデミー制度の構築に力を入れていきたいと考えています。

——そういったビジョンは現段階で見えていますか?

梅崎:はい、すでに明確に見えています。というより、ようやく見える段階に入ったというほうが正しいかもしれません。

これまでDetonatioN FocusMeとして10年以上積み重ねてきた経験や失敗、そして世界の強豪チームとのギャップを肌で感じてきたことで、日本が本当に強くなるために何が必要なのか、具体的にイメージができるようになりました。

特にアカデミーに関しては、単なる育成部門ではなく、世代へ技術とノウハウを継承する仕組みそのものとして体制づくりを設計したいと思っています。

10年後、DetonatioN FocusMeがどういう組織であるべきか、そのために今、何を積み上げるべきか、このふたつのビジョンが見えているので、あとはひとつずつ形にしていくだけだと思っています。

そういった仕組みを作るのが僕の使命なんじゃないかと思ってもいます。

——チームとしての在り方としてどうでしょうか。

梅崎:先日、「2025 T1 Home Ground」に行ってきたんです。ものすごい熱量で、サッカーとか野球と同じレベル感の熱量なんですよ。

▲韓国のeスポーツチームT1が主催する大規模イベント「T1 Home Ground」。ショーマッチやファンミーティングのほか、『リーグ・オブ・レジェンド』の公式戦もイベント内で開催されるなど、海外ファン向けにも楽しめるプログラムが多数行われた

——あの規模感のイベントをチーム主体で行えるのはすごいことですよね。

梅崎:しかもそのイベントの数日前に公開されたT1の応援歌があるんですけど、会場のファンの子たちがすでに歌えているんですよ! あれこそがeスポーツチームの究極系なんだなって感じました。

「これを俺はやりたい! DetonatioN FocusMeをここまで育てたいっ!」って思いましたね。

▲T1の応援歌。なんとも耳に残るキャッチーなメロディーだ

——eスポーツチームの応援歌って日本国内では前例がなさそうですもんね。

梅崎:ああいうチームブランディングをしていきたいと強く思っていますね。日本に戻ってきて「T1の応援歌みたいなの作りたい! 作りたいっ!」って社内で言ったんですけど、「まだ早い。もうちょっとブランディングしてからね」とたしなめられちゃいました(笑)。

——(笑)。これからに期待ですね!

梅崎:でも、あれこそが最終的なゴールだと思います。『リーグ・オブ・レジェンド』でも『VALORANT』でも、サッカーや野球のように各大会でホーム&アウェーの試合があって、収益化ができるのであれば健全なeスポーツシーンの運営ができるんじゃないかと思っています。

——ありがとうございました!

———

まだまだeスポーツという名も浸透していなかった黎明期に選手として活躍し、そこから身銭を切ってeスポーツチームを立ち上げた梅崎さん。元選手だからこそ選手に寄り添い、時にはアツく、時には厳しく——。

「やっぱり口出したくなるよね〜。ダメなんですけどね……(笑)」とCEOという立場との葛藤も語る梅崎さん。しかし、そういった情熱が選手の心を動かし、今年はDetonatioN FocusMeにとって大きな躍進となる一年となった。

梅崎さんはよく「メンタルに勝る技術なし」と語っている。プレーの精度や戦術の完成度ももちろん大事だが、それ以上に“チームの空気”“信頼関係”こそが勝敗を左右するという。

「戦術が崩れるときって、結局はメンタルの乱れからなんです。チームの雰囲気が良くて、みんなが同じ方向を向けている状態なら、多少のミスはカバーできる。だからこそ、技術よりもまずメンタル。僕はそこを一番大事にしています」と語るその言葉には、選手時代の経験がにじむ。

立場は変われど気持ちは現役。そんな梅崎さんが今後どのような形でDetonatioN FocusMeを発展させていくのか——。今後の活躍を追い続けたい。


撮影:いのかわゆう
編集:いのかわゆう


【井ノ川結希(いのかわゆう)プロフィール】
ゲーム好きが高じて19歳でゲーム系の出版社に就職。その後、フリーランスでライター、編集、ディレクターなど多岐にわたり活動している。最近はまっているゲームは『Bloodborne』。

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