「選手の長所を伸ばすのがコーチの仕事」【『スマブラDX』プロスマブラー・aMSa選手&カイトコーチ インタビュー】
2019年4月、日本に新たなレッドブルアスリートが誕生した。『大乱闘スマッシュブラザーズDX』(スマブラDX)で世界最強の赤ヨッシー使いとして圧倒的な人気を誇る、aMSa選手その人だ。
国内でもその卓越したテクニックと、決して強キャラではないヨッシーにこだわり続ける姿勢から、aMSa選手のファンは多い。しかし、3世代前のハードウェアであるゲームキューブのタイトルをここまで続けながら、プロにまで上り詰めた選手は日本にはほかにいない。
aMSa選手がいかにして『スマブラDX』のトッププレイヤーに上り詰めたのかは、著書「日本人初プロスマブラーの軌跡」(三才ブックス/2016年)をご覧いただくとして、今回は特に日本ではまだ珍しい「eスポーツの専属個人コーチ」という存在について、aMSa選手と専属コーチであるカイト氏に、東京・中野のRed Bull Gaming Sphere Tokyoにてお話をうかがった。
eスポーツにおけるコーチという存在、aMSa選手とカイトコーチの関係性、そしてコーチの有無で成績はどのように変わったのかを、aMSa選手の『スマブラDX』との出会いから現在まで追いながら紐解いていきたい。
――aMSa選手はゲームキューブタイトルである『大乱闘スマッシュブラザーズDX』の選手として海外でも活躍してきましたが、今年Red Bullから支援を受け、レッドブルアスリートとしてプロ活動をすることになりました。まずは、aMSa選手が『スマブラDX』を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
aMSa選手(以下、aMSa):2001年にゲームキューブで発売されて以来、2012年くらいまでずっとプレイしていたのですが、当時はカジュアルに遊んでいただけでした。コミュニティに参加するとかそういったことはまったくなく、本当に身近な友達とだけ対戦プレイをしていた感じですね。
友達同士の対戦ではほぼ負けなかったので、地元最強とも呼ばれてかなり強いとは思っていましたが、東北大学に入って同じ大学にいたSanneに大きく負け越したのをきっかけに、ガチコミュニティに加わり、そこから大会にも出場するようになって、活躍できるようにもなっていきました。
選手としての転機は、「EVO 2013」で25位に入ったことです。これが初めての海外大会で、海外のトッププレイヤーと対戦することができました。翌年の「Apex2014」で9位に入った時には、スマブラ界隈で認められた感がありましたね。その後、VGBootCamp(北米の格闘ゲームコミュニティを中心とした動画配信団体)と契約し、プロ選手として活動することになりました。
2014年10月からは都内のIT企業に入社し、兼業プロプレイヤーとしてプレイは続けました。「Apex2015」では5位に入ることができたのですが、その後は仕事が忙しくなり、練習時間をとることができず、大会への参加も少なくなったので成績は落ちていきました。ちょうどその頃、『スマブラDX』だけでなく、Wii Uの『大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U』と「両方プレイしていたことも影響し、『スマブラDX』にかける時間が減ってしまいましたね。
それ以外に、主催者として大会やイベントを開催したり動画配信をするなど、『スマブラ』をより多くの人に知ってもらうための活動を開始したのもこの時期です。今回、レッドブルアスリートになったタイミングで会社を辞めたので、現在は海外に多く出向くこともできています。
――今回のインタビューのテーマでもあるのですが、aMSa選手はカイトさんをコーチとして迎えていますよね。個人でコーチを雇っているeスポーツ選手は日本では初だと思います。どうしてコーチを付けようと思ったのでしょうか?
aMSa:『スマブラDX』にはスマブラ五神と呼ばれるトップ5のプレイヤーがいるんです。その中にHungryboxと言う選手がいるんですが、彼は五神の中では最弱と呼ばれていたんです。でも、2016年頃にコーチを付けてから格段の安定感を見せ、2017年の年間ランキングでは1位を獲得できたんです。
2017年の「Smash Summit 5」で初めてコーチを大会に連れて行くことができるという話がありましたが、そのときはまだコーチについてもらっていませんでした。
それまで自分もコーチの存在はそれほど考えていませんでしたが、Hungryboxの結果を見て、コーチの重要性に気づかされました。より効率良く練習し、やることをやらないと勝てないと思いまして、そこでカイトさんに連絡しました。
――カイトコーチとは元々指導してもらうような関係性だったのでしょうか。カイトコーチの現役時代のプレイスタイルとaMSa選手のスタイルが合致しているとか……。
aMSa:カイトさんとの出会いは2013年なんですけど、その時までカイトさんのことはまったく知らなかったんです。ちょうどガチコミュニティに参加したばかりで。カイトさんはそれまで関東ナンバーワンのプレイヤーとして活躍していて、出会った頃に引退しようとしていたんです。
カイト氏(以下、カイト):「Battle Gateway」という大会があって、この大会を最後に引退しようと思っていたんです。その時の大会が第1回だったので前情報もなく、学園祭レベルのコミュニティ大会だと思っていたんですよね。で、いざ出場してみたら結構なメンバーが揃っていて、ガチ大会だって後から気がつきました。
その大会の決勝でaMSaと初めて戦ったんです。結果は私が勝って優勝しました。実は、aMSaのことはそれまで知らなかったんですよ。だから、その時はお互いに初対面ですね。「ヨッシーで決勝かよ」って思ったくらいでした(笑)。
aMSa:カイトさんは2008年くらいから関東ナンバーワンとして活躍していたのに、僕はコミュニティに疎かったので知らなかったんですけど、大会に出場している他の選手は当然カイトさんを知っていて注目されていました。
カイト:『スマブラDX』って、操作性に関しては他に類を見ないほど、シビアなゲームなんです。先行入力とかがないですから、的確なタイミングで操作しないと思ったような動きにならないんです。なので、毎日しっかりとトレーニングを積んでいないと強さを維持するのは難しいんですね。
その頃、仕事が忙しくなっていて、「トレーニングできなくなって思うような操作ができなくなるのであれば、辞めた方がいいかな」と思いました。『スマブラDX』はゲームだし、その頃はeスポーツという感覚もまだなかったので、遊びであることに間違いはなかったんです。ただ、遊びだけど遊びにしたくないという気持ちがあって、遊びだからいいやって思いたくなかったんです。
大会にも出てはいましたが、勝ち負けよりも自分が以前よりブラッシュアップできているかの確認のためのようなもので、それができていれば続けるモチベーションにもなっていたと思います。なので、そのブラッシュアップができていないということが許せなくて、たとえ大会で結果を出しても納得いかなかったんです。
aMSa:カイトさんはそういう感じで『スマブラDX』に向かっていたので、私に何かアドバイスをしてくれるときは、クリティカルにヒットしてうまくいくことが多かったんです。他にもいろいろ言ってくれる人はいましたが、そこまでプレイに影響した人はいなかったので、コーチをお願いするのであればカイトさんしかいないと思っていました。それで、2017年12月にコーチに就任してもらいました。
――カイトコーチは、コーチの依頼を受けてすぐに引き受けたんでしょうか?
カイト:実際のところ、コーチの依頼を受けるかは本当に悩みました。aMSaの話を聞いていると本気であることはすごく感じましたし、自分がプレイヤーでやっていたときもそうですが、やるのであれば全力で本気でやりたいと考えていました。なので、即決はせずに一度考える時間をもらって考え抜いた結果、引き受けることにしました。
ーーコーチとしての初仕事はどんな内容だったのでしょうか?
カイト:就任してからまず行ったのは目標の設定ですね。2018年のランキングトップ10を目指すことにしました。2017年は24位だったので、かなり無謀な目標でしたが、目標に対して年間でスケジュールを立て、計画的に活動していきました。
就任してからは思った以上にことがうまく運び、2018年の上半期にはランキング9位となり、半年でトップ10入りさせることができました。ちなみに世界レベルで考えたら、コーチ就任前の24位もかなり上位ではあるんです。たぶんトップ50に入れる選手はかなり強いですよ。しかもヨッシーというキャラクターで考えるとaMSaはダントツですね。あまり強くないし、使われないキャラクターなので。
ーーでは、カイトコーチが考えるプロ選手としての心構えなどはありますか?
カイト:プロ選手である以上、ファンへの影響力を考え、アピールする必要はあると思います。ただ、選手としての活動とインフルエンサーとしての活動は別物です。
aMSa:プロ選手には重要な3つの柱があると思っていて、それを結果として出せるようにしていきたいと思っています。
1つめの柱は「実力」です。選手は強さがあってこそ説得力が出てきます。まずプロとしての説得力、存在感を示すには強くなくてはいけません。
2つめは「価値」です。多くの人に影響を与えられる存在でなくてはならず、そのためにはセルフブランディングも行わなければならないですね。
3つめは「収益」です。プロなのでちゃんと稼がないといけません。これからプロになることを目標にできるように、夢を与えられる存在になることです。
カイト:aMSaは実力もありますし、価値も十分にあります。選手としてクリーンであることがaMSaの魅力のひとつですね。見ていて平和な感じがしますし、SNSなどでもトゲのある発言はしないですし、それが『スマブラSP』の解説とかにつながっていると思います。いい兄貴分的な感じですね。コーチは選手からの信頼が重要だと思っています。コーチ就任の件はaMSaから言ってきたので、コーチングに関しては信頼されていると思います。
ーーコーチの活動としては、先ほどaMSa選手がおっしゃっていたように、ゲームの的確なアドバイスというものがありますが、その他にもコーチとして選手と向き合うことはあるのでしょうか。例えばリアルスポーツであれば、試合展開がうまくいかず焦っている選手を落ち着かせたり、生活面やプロ選手としての佇まいを教えるようなことですね。
カイト:練習のときは細かい指導をしますが、大会のときはコンディションを整えることを重視し、ポジティブになれるように後押ししています。試合の1時間前にはaMSaから離れるようにして、必要があれば練習には付き合います。そのときも新しいことを試すのではなく、立ち回りの確認などですね。その日その日によって使いがちな技とかがあると、それを指摘します。偏りが出るとそこから対策されてしまいますので。
あとはアドバイスをするにしても、相手にどう捉えられてしまうか、考慮したうえで発言するようにしています。何気なく発した言葉が選手の頭にこびりついて、試合中にずっと引っかかってしまうかもしれないわけです。なので、言い方とか、伝え方には気を遣っています。
コーチとしてaMSaを支える部分としては『スマブラ』に対するマインド的なものですね。Twitterの発言とかに気をつけなくてはいけない選手とかも多いと思いますが、aMSaに限ってはそこに関しては心配していません。
aMSa:大会でやることは結果を出すだけ。という考えはしっかりと共有しています。
カイト:ただ、マインド的な部分で乱れてしまうこともあるんですよね。少し前に、aMSaがちょっと準備不足の状態で国内の大会に出ると言った時、私は反対しませんでしたが、「ああ、それ出るんだ」ってちょっと俯瞰した感じになってしまいました。
aMSa:あまりゲームに触れていない時期だったので、不安だったんです……。
カイト:結果として、その大会は負けて帰ってきたわけですが、本人もどうなるかはわかっていたりするんですよね。なので、負ける確率が高いなって思っていても、出ること自体には反対はしません。
そこでいろいろな提案をすることはできますが、コーチは選手の長所を伸ばすことが仕事であって、決して主役ではないんです。やらされた感が出てしまうと身にならないですし、失敗してもそれが経験となってくれればいいですから。
ーーaMSa選手としては、カイトコーチがコーチになってよかったことはなんですか?
aMSa:そうですね、負けた時にしっかり分析をしてもらえるようになりました。ミスしたから負けたという結論ではいつまでも成長しない、ただの運ゲーになってしまいます。相手の読み合いや駆け引きについてのアドバイスは参考になります。
ただ、現状では人対策もキャラ対策も足りていません。やりたいことの10%ちょっとくらいしかできていないですね。今はヨッシーや私自身の強さを伸ばしているところです。
――最後に、あらためてコーチの重要性についてお聞かせください。カイトコーチはaMSa選手が直で雇うかたちですが、コストをかけた以上の効果があるとお考えでしょうか?
aMSa:以前は、自分はいろいろなことに柔軟に対応できる方だと思っており、そもそも自分ができないことは人に聞かなければならないと考えていました。
コーチの重要性に気がついたときは、ちょうど成績的に停滞していた時期でもありますので、コーチという存在を欲していたわけです。カイトさんのアドバイスは、本当にクリティカルに刺さるので、素直に受け入れられています。
コーチを迎えてからのaMSa選手の安定感と戦績の向上は結果を見れば一目瞭然。折しも今年のEVO 2019では、Nintendo Switch向けの最新タイトル『スマブラSP』が他の格闘ゲームを抑えて最大勢力となるなど、eスポーツシーンも盛り上がってきている(aMSa選手は『スマブラSP』の開発に関わっているため参戦しない)。
aMSa選手とカイトコーチのコンビは、1v1のeスポーツ競技において単なる個人の力量と知識だけでなく、コーチのような存在が他のタイトルでも必要とされ始めるきっかけになるだろう。
『スマブラDX』でのaMSa&カイトコンビのさらなる活躍から目が離せない。
aMSa|Twitter
https://twitter.com/aMSaRedyoshi
カイト|Twitter
https://twitter.com/anjerokaito
国内でもその卓越したテクニックと、決して強キャラではないヨッシーにこだわり続ける姿勢から、aMSa選手のファンは多い。しかし、3世代前のハードウェアであるゲームキューブのタイトルをここまで続けながら、プロにまで上り詰めた選手は日本にはほかにいない。
aMSa選手がいかにして『スマブラDX』のトッププレイヤーに上り詰めたのかは、著書「日本人初プロスマブラーの軌跡」(三才ブックス/2016年)をご覧いただくとして、今回は特に日本ではまだ珍しい「eスポーツの専属個人コーチ」という存在について、aMSa選手と専属コーチであるカイト氏に、東京・中野のRed Bull Gaming Sphere Tokyoにてお話をうかがった。
eスポーツにおけるコーチという存在、aMSa選手とカイトコーチの関係性、そしてコーチの有無で成績はどのように変わったのかを、aMSa選手の『スマブラDX』との出会いから現在まで追いながら紐解いていきたい。
aMSa(あむさ)プロフィール
1991年兵庫県生まれ。世界最強の赤ヨッシー使い。2014年にVGBootCampのスポンサードを受けて日本人初のプロスマブラーに。2017年よりKaito選手を専属コーチとし、2018年のスマブラDX世界ランキングは9位。2019年にレッドブルのスポンサードを受けて専業ゲーマーとなる。
1991年兵庫県生まれ。世界最強の赤ヨッシー使い。2014年にVGBootCampのスポンサードを受けて日本人初のプロスマブラーに。2017年よりKaito選手を専属コーチとし、2018年のスマブラDX世界ランキングは9位。2019年にレッドブルのスポンサードを受けて専業ゲーマーとなる。
初の海外大会「EVO 2013」がプロへの転機に
――aMSa選手はゲームキューブタイトルである『大乱闘スマッシュブラザーズDX』の選手として海外でも活躍してきましたが、今年Red Bullから支援を受け、レッドブルアスリートとしてプロ活動をすることになりました。まずは、aMSa選手が『スマブラDX』を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
aMSa選手(以下、aMSa):2001年にゲームキューブで発売されて以来、2012年くらいまでずっとプレイしていたのですが、当時はカジュアルに遊んでいただけでした。コミュニティに参加するとかそういったことはまったくなく、本当に身近な友達とだけ対戦プレイをしていた感じですね。
友達同士の対戦ではほぼ負けなかったので、地元最強とも呼ばれてかなり強いとは思っていましたが、東北大学に入って同じ大学にいたSanneに大きく負け越したのをきっかけに、ガチコミュニティに加わり、そこから大会にも出場するようになって、活躍できるようにもなっていきました。
選手としての転機は、「EVO 2013」で25位に入ったことです。これが初めての海外大会で、海外のトッププレイヤーと対戦することができました。翌年の「Apex2014」で9位に入った時には、スマブラ界隈で認められた感がありましたね。その後、VGBootCamp(北米の格闘ゲームコミュニティを中心とした動画配信団体)と契約し、プロ選手として活動することになりました。
2014年10月からは都内のIT企業に入社し、兼業プロプレイヤーとしてプレイは続けました。「Apex2015」では5位に入ることができたのですが、その後は仕事が忙しくなり、練習時間をとることができず、大会への参加も少なくなったので成績は落ちていきました。ちょうどその頃、『スマブラDX』だけでなく、Wii Uの『大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U』と「両方プレイしていたことも影響し、『スマブラDX』にかける時間が減ってしまいましたね。
それ以外に、主催者として大会やイベントを開催したり動画配信をするなど、『スマブラ』をより多くの人に知ってもらうための活動を開始したのもこの時期です。今回、レッドブルアスリートになったタイミングで会社を辞めたので、現在は海外に多く出向くこともできています。
「スマブラ五神」の躍進で知ったコーチの重要性
――今回のインタビューのテーマでもあるのですが、aMSa選手はカイトさんをコーチとして迎えていますよね。個人でコーチを雇っているeスポーツ選手は日本では初だと思います。どうしてコーチを付けようと思ったのでしょうか?
aMSa:『スマブラDX』にはスマブラ五神と呼ばれるトップ5のプレイヤーがいるんです。その中にHungryboxと言う選手がいるんですが、彼は五神の中では最弱と呼ばれていたんです。でも、2016年頃にコーチを付けてから格段の安定感を見せ、2017年の年間ランキングでは1位を獲得できたんです。
2017年の「Smash Summit 5」で初めてコーチを大会に連れて行くことができるという話がありましたが、そのときはまだコーチについてもらっていませんでした。
それまで自分もコーチの存在はそれほど考えていませんでしたが、Hungryboxの結果を見て、コーチの重要性に気づかされました。より効率良く練習し、やることをやらないと勝てないと思いまして、そこでカイトさんに連絡しました。
――カイトコーチとは元々指導してもらうような関係性だったのでしょうか。カイトコーチの現役時代のプレイスタイルとaMSa選手のスタイルが合致しているとか……。
aMSa:カイトさんとの出会いは2013年なんですけど、その時までカイトさんのことはまったく知らなかったんです。ちょうどガチコミュニティに参加したばかりで。カイトさんはそれまで関東ナンバーワンのプレイヤーとして活躍していて、出会った頃に引退しようとしていたんです。
カイト氏(以下、カイト):「Battle Gateway」という大会があって、この大会を最後に引退しようと思っていたんです。その時の大会が第1回だったので前情報もなく、学園祭レベルのコミュニティ大会だと思っていたんですよね。で、いざ出場してみたら結構なメンバーが揃っていて、ガチ大会だって後から気がつきました。
その大会の決勝でaMSaと初めて戦ったんです。結果は私が勝って優勝しました。実は、aMSaのことはそれまで知らなかったんですよ。だから、その時はお互いに初対面ですね。「ヨッシーで決勝かよ」って思ったくらいでした(笑)。
aMSa:カイトさんは2008年くらいから関東ナンバーワンとして活躍していたのに、僕はコミュニティに疎かったので知らなかったんですけど、大会に出場している他の選手は当然カイトさんを知っていて注目されていました。
カイトの引退、aMSaがコーチを依頼した理由
ーー当時、カイトコーチも選手として関東最強のプレイヤーだったわけですよね。なぜ引退を考えたのでしょうか?カイト:『スマブラDX』って、操作性に関しては他に類を見ないほど、シビアなゲームなんです。先行入力とかがないですから、的確なタイミングで操作しないと思ったような動きにならないんです。なので、毎日しっかりとトレーニングを積んでいないと強さを維持するのは難しいんですね。
その頃、仕事が忙しくなっていて、「トレーニングできなくなって思うような操作ができなくなるのであれば、辞めた方がいいかな」と思いました。『スマブラDX』はゲームだし、その頃はeスポーツという感覚もまだなかったので、遊びであることに間違いはなかったんです。ただ、遊びだけど遊びにしたくないという気持ちがあって、遊びだからいいやって思いたくなかったんです。
大会にも出てはいましたが、勝ち負けよりも自分が以前よりブラッシュアップできているかの確認のためのようなもので、それができていれば続けるモチベーションにもなっていたと思います。なので、そのブラッシュアップができていないということが許せなくて、たとえ大会で結果を出しても納得いかなかったんです。
aMSa:カイトさんはそういう感じで『スマブラDX』に向かっていたので、私に何かアドバイスをしてくれるときは、クリティカルにヒットしてうまくいくことが多かったんです。他にもいろいろ言ってくれる人はいましたが、そこまでプレイに影響した人はいなかったので、コーチをお願いするのであればカイトさんしかいないと思っていました。それで、2017年12月にコーチに就任してもらいました。
――カイトコーチは、コーチの依頼を受けてすぐに引き受けたんでしょうか?
カイト:実際のところ、コーチの依頼を受けるかは本当に悩みました。aMSaの話を聞いていると本気であることはすごく感じましたし、自分がプレイヤーでやっていたときもそうですが、やるのであれば全力で本気でやりたいと考えていました。なので、即決はせずに一度考える時間をもらって考え抜いた結果、引き受けることにしました。
プロ選手に求められる3つの柱
ーーコーチとしての初仕事はどんな内容だったのでしょうか?
カイト:就任してからまず行ったのは目標の設定ですね。2018年のランキングトップ10を目指すことにしました。2017年は24位だったので、かなり無謀な目標でしたが、目標に対して年間でスケジュールを立て、計画的に活動していきました。
就任してからは思った以上にことがうまく運び、2018年の上半期にはランキング9位となり、半年でトップ10入りさせることができました。ちなみに世界レベルで考えたら、コーチ就任前の24位もかなり上位ではあるんです。たぶんトップ50に入れる選手はかなり強いですよ。しかもヨッシーというキャラクターで考えるとaMSaはダントツですね。あまり強くないし、使われないキャラクターなので。
ーーでは、カイトコーチが考えるプロ選手としての心構えなどはありますか?
カイト:プロ選手である以上、ファンへの影響力を考え、アピールする必要はあると思います。ただ、選手としての活動とインフルエンサーとしての活動は別物です。
aMSa:プロ選手には重要な3つの柱があると思っていて、それを結果として出せるようにしていきたいと思っています。
1つめの柱は「実力」です。選手は強さがあってこそ説得力が出てきます。まずプロとしての説得力、存在感を示すには強くなくてはいけません。
2つめは「価値」です。多くの人に影響を与えられる存在でなくてはならず、そのためにはセルフブランディングも行わなければならないですね。
3つめは「収益」です。プロなのでちゃんと稼がないといけません。これからプロになることを目標にできるように、夢を与えられる存在になることです。
カイト:aMSaは実力もありますし、価値も十分にあります。選手としてクリーンであることがaMSaの魅力のひとつですね。見ていて平和な感じがしますし、SNSなどでもトゲのある発言はしないですし、それが『スマブラSP』の解説とかにつながっていると思います。いい兄貴分的な感じですね。コーチは選手からの信頼が重要だと思っています。コーチ就任の件はaMSaから言ってきたので、コーチングに関しては信頼されていると思います。
大会では技術よりもマインドが大切
ーーコーチの活動としては、先ほどaMSa選手がおっしゃっていたように、ゲームの的確なアドバイスというものがありますが、その他にもコーチとして選手と向き合うことはあるのでしょうか。例えばリアルスポーツであれば、試合展開がうまくいかず焦っている選手を落ち着かせたり、生活面やプロ選手としての佇まいを教えるようなことですね。
カイト:練習のときは細かい指導をしますが、大会のときはコンディションを整えることを重視し、ポジティブになれるように後押ししています。試合の1時間前にはaMSaから離れるようにして、必要があれば練習には付き合います。そのときも新しいことを試すのではなく、立ち回りの確認などですね。その日その日によって使いがちな技とかがあると、それを指摘します。偏りが出るとそこから対策されてしまいますので。
あとはアドバイスをするにしても、相手にどう捉えられてしまうか、考慮したうえで発言するようにしています。何気なく発した言葉が選手の頭にこびりついて、試合中にずっと引っかかってしまうかもしれないわけです。なので、言い方とか、伝え方には気を遣っています。
コーチとしてaMSaを支える部分としては『スマブラ』に対するマインド的なものですね。Twitterの発言とかに気をつけなくてはいけない選手とかも多いと思いますが、aMSaに限ってはそこに関しては心配していません。
aMSa:大会でやることは結果を出すだけ。という考えはしっかりと共有しています。
カイト:ただ、マインド的な部分で乱れてしまうこともあるんですよね。少し前に、aMSaがちょっと準備不足の状態で国内の大会に出ると言った時、私は反対しませんでしたが、「ああ、それ出るんだ」ってちょっと俯瞰した感じになってしまいました。
aMSa:あまりゲームに触れていない時期だったので、不安だったんです……。
カイト:結果として、その大会は負けて帰ってきたわけですが、本人もどうなるかはわかっていたりするんですよね。なので、負ける確率が高いなって思っていても、出ること自体には反対はしません。
そこでいろいろな提案をすることはできますが、コーチは選手の長所を伸ばすことが仕事であって、決して主役ではないんです。やらされた感が出てしまうと身にならないですし、失敗してもそれが経験となってくれればいいですから。
「ミスしたから負けた」では成長できない
ーーaMSa選手としては、カイトコーチがコーチになってよかったことはなんですか?
aMSa:そうですね、負けた時にしっかり分析をしてもらえるようになりました。ミスしたから負けたという結論ではいつまでも成長しない、ただの運ゲーになってしまいます。相手の読み合いや駆け引きについてのアドバイスは参考になります。
ただ、現状では人対策もキャラ対策も足りていません。やりたいことの10%ちょっとくらいしかできていないですね。今はヨッシーや私自身の強さを伸ばしているところです。
――最後に、あらためてコーチの重要性についてお聞かせください。カイトコーチはaMSa選手が直で雇うかたちですが、コストをかけた以上の効果があるとお考えでしょうか?
aMSa:以前は、自分はいろいろなことに柔軟に対応できる方だと思っており、そもそも自分ができないことは人に聞かなければならないと考えていました。
コーチの重要性に気がついたときは、ちょうど成績的に停滞していた時期でもありますので、コーチという存在を欲していたわけです。カイトさんのアドバイスは、本当にクリティカルに刺さるので、素直に受け入れられています。
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コーチを迎えてからのaMSa選手の安定感と戦績の向上は結果を見れば一目瞭然。折しも今年のEVO 2019では、Nintendo Switch向けの最新タイトル『スマブラSP』が他の格闘ゲームを抑えて最大勢力となるなど、eスポーツシーンも盛り上がってきている(aMSa選手は『スマブラSP』の開発に関わっているため参戦しない)。
aMSa選手とカイトコーチのコンビは、1v1のeスポーツ競技において単なる個人の力量と知識だけでなく、コーチのような存在が他のタイトルでも必要とされ始めるきっかけになるだろう。
『スマブラDX』でのaMSa&カイトコンビのさらなる活躍から目が離せない。
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https://twitter.com/aMSaRedyoshi
カイト|Twitter
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