「LJL 2022 Summer Split Day16」DFM vs SG戦の問題の本質は何か

2022.8.6 宮下英之
※2022年8月6日追記:ライアットゲームズから公式発表が出されたため、補足・追記をいたしました。
公式発表はこちら。「2022年8月5日のLJLの試合での対応について

2022年8月5日に開催された『リーグ・オブ・レジェンド』(LoL)の日本最高峰リーグ「LJL 2022 Summer Split」の第4戦、DetonatioN FocusMe(DFM)対Sengoku Gaming(SG)戦においてゲーム内のバグのために試合がやり直しとなり、最終的にSGが勝利した。

DFMとSGはともに今シーズンの1位と2位であり、試合前の時点でDFMが14勝1敗、SGが13勝2敗と、この1戦の勝敗が首位獲得に大きな意味を持つ1戦。SGの勝利により、14勝2敗の1位タイに並ぶことになった。

さまざまな要素に感情的な面も重なり、Twitterのトレンドには「#グウェンBAN」「#ポッピー」「#riotjp」といったこの試合を指す言葉が長期にわたってランクインするなど、一夜明けてもおさまる気配がない。

今回はTwitterの多くの意見を方々の意見をもとに、「LJL」についてあまりご存じない方でもわかるように、事の顛末を整理してみたい。なお、本記事はeSports Worldとしてではなく、あくまで宮下個人の分析であることをご了承いただきたい。

DFM対SG戦で起きたこと


まず、今回の試合で起きたことを簡潔に整理してみよう。
※2022年8月6日:公式発表の内容をもとに補足しました。

  1. DFM対SG戦がスタート。DFMがSGを圧倒。
  2. ゲーム内バグ①(SG Onceのポッピーが即時復活)が発生しゲームがストップ。
  3. 別のバグ②(ポッピーのパッシブスキルが発動しない)が発生。
  4. バグ発生前までさかのぼっての再開(クロノブレイク)を試みたが、データが破損しており再開不能に。
  5. 〈ルールブック 9.7『判定によるゲームの勝利』〉にのっとって判定による勝敗を検討したが、条件を満たさなかったため、協議の結果、ルールにのっとって再試合が決定。
  6. 再試合を実施。キャラクター選択からやり直しに。
  7. SGが勝利。

かいつまんで言えば、ゲーム内バグにより試合が中断されてしまい、優勢だったチームが一転敗北してしまったことで、選手、関係者、ファンが感情的にも納得がいかない人が多くなってしまった、ということになる。

中断直後のLJL公式Twitterでは、協議していることが発表された。


そこから約1時間後に、再試合となることが発表された。かなりの時間がかかったことも否めない。


配信での公式な発表は、試合再開の際にリクルート氏より説明されたとおり。

先ほどのゲーム4 DFM vs SGの試合において、ゲーム内でバグが複数発生し、クロノブレイクを実施しましたが、バグを直すことができませんでしたので、ルールにのっとり試合のやり直しとなりました。判定によるゲームの勝利も検討しましたが、ルールブックに沿った条件を満たすことができなかったため、試合のやり直しとなりました。

特にこの1戦は、首位を決めるための重要な試合だった。「Summer Split」は全チームと2回対戦した結果に応じてプレーオフの順位が決定し、1位と2位では優勝するための有利度合いが全く異なることから、どちらのチームにとってもこの勝敗の意味は大きかったのだ。

そして、『LoL』を知る者なら10人が10人、あの段階からSGが逆転する可能性はかなり厳しかったこともわかるだろう。通常のランクマッチであれば「降参」しても何らおかしくないレベルの差がつけられていたからだ。

今回物議をかもしているポイントは、
  • 試合自体は逆転の可能性はほとんどなかった。そのまま勝利にならなかったのはなぜか
  • なぜ再開まで1時間以上もかかってしまったのか
  • 再試合を同じキャラクター選択で行わなかったのはなぜか
  • ライアットゲームズからの公式発表がされないのはなぜか
といった部分だ。

試合のやり直しは適切だったのか


まず、試合をやり直すことになった理由について。

ここは公にはされてない部分もあるが、「LJL」のルールとして、試合が中断した場合にそのまま勝利となるか再試合となるかは定められているはずだ。野球で言えば7回コールドのようなもので、一定のプレイ時間を超えた際にそこまでの結果が適用されるといったものと思われる。

〈追記 ルールブック 9.7『判定によるゲームの勝利』〉

運営チームが再スタートを宣言するような技術的問題が発生した場合、運営チームは再スタートを実施する代わりに、一方のチームの勝利を判定することができます。運営チームは、その単独の裁量により、一方のチームの敗北が合理的に確かな程度に避けられないものと判断することができます。合理的な確かさを判断するにあたっては、次に掲げる基準を使用できるものとします(ただし、これらを使用することが要求される訳ではありません)。
  • プレイ時間:プレイ時間がゲーム内時計で15分(00:15:00)を超えていた場合。
  • ゴールドの差異:チーム間のゴールドの差異が33%を超える場合。
  • 残ったタワーの差異:残ったタワー数のチーム間の差異が7を超える場合。
  • 残ったインヒビターの差異:残っているインヒビター数のチーム間の差異が2を超える場合。
  • 残ったネクサスタワーの差異:残ったネクサスタワー数のチーム間の差異が2の場合。
  • チャンピオンの差異:生存しているチャンピオンの数のチーム間の差異が4以上で、倒されているチャンピオンすべての残りデスタイマーが40秒以上である場合。
  • 議論の余地がない勝敗:技術的問題が発生した時点で、運営チームの意見において、一方のチームの勝利以外の結果となる展開が一切想定できない場合

今回の10分過ぎでの中断からの再試合というのは、このルールにのっとって行われたものだろう。DFMが勝利とならなかったこと自体に、SGに対する何らかの意図的な優遇などがあったというわけではないことは、誰もが理解できるはずだ。

では、バンピックがまったく同じで行われなかったのはなぜか。

「LJL」をご存じない方に向けて補足しておくと、『LoL』では毎試合時に互いに相手に使用させたくないチャンピオンを一人1体ずつ指定し、自分が使用したいチャンピオンを1体選ぶ「バンピック」が行われる。通常は1日1試合しかないため、その日準備してきた相手チームへの対策は試合が行われるまでわからないし、やり直すことは当然できない。

しかし、今回は再試合となったことで、再試合前のバンピックを踏まえた上で変更できてしまった。この点に関しては、SG側に有利に働いた部分があることは結果として事実だろう。

最初の試合でのバンピック。

再試合でのバンピック。SGは先の試合でやられたグウェンを最初にバンし、3回目のピックでポッピーを選んだ

バンピックをやり直すこと自体は再試合のルールにのっとったもので、何らとがめられるものではない。ただし、劣勢だったSG側が、どう考えても負けかけていた試合を踏まえたと考えられるバン(グウェンBAN)と、先の試合で直接バグの発生に結び付いたと考えられるチャンピオンのピック(ポッピーPICK)を行ったことが、物議をかもすこととなってしまった。

特に、バグの直接の要因となったであろうSGのポッピーのピックに関しては、再びバグが発生してしまったらと考えると疑問に思う人が多かったことも理解はできる(実際、再試合のピックの段階でも一度ストップしており、その際にポッピーのピックについて何らかの協議が行われた可能性はある)。

しかし「LJL」は真剣勝負だ。ルール上禁止されていなかった(もしくはライアットゲームズから「ポッピーは怪しいのでピックを禁じる」といった指示がなかった)としたら、SGのピック自体を責めることは誰にもできない。

〈追記 ルールブック 9.4.12『記録試合』〉

プレイヤー10人全員が読み込みを完了し、相手チームと互いに意味のあるやりとりが為されたポイントまで進行した試合。試合が記録試合(以下、「GOR」)のステータスを得ると、偶発的な出来事による再スタートが許可される期間はその時点で終了し、以降その試合は「公式」試合であるとみなされます。以下はGORが成立する条件の例です。
  • 敵対しているプレイヤーをお互いに認識した
  • ミニオン、ジャングルモンスター、建造物、または敵チャンピオンに攻撃やスキルが当たった
  • いずれかのチームが相手チームのジャングルに侵入、相手のジャングル内の視界を確保、または相手のジャングル内で方向指定スキルの狙いをつけた(相手のジャングルへと繋がる川を出る、相手のジャングルへと続く茂みに入ることも含む)
  • ゲームタイマーが2分(00:02:00)に達した

〈追記 ルールブック 9.6.2 『コントロールされた環境』〉

GORに達していない状況で試合がやり直される際、ピック/バンやサモナースペルを含む(かつこれらに限定されない)特定の状態が保たれる場合があります。ただし、対戦がGORに達している場合は、運営チームは一切状態を保つことはありません。


これは予想でしかないが、臨機応変に対応できるような「余地」が、ルールブック上においても、現場の担当者の権限としても用意されていなかったのではないか。「グローバルバン」として世界的に使用不可になるチャンピオンなどもある(今大会では新チャンピオンのニーラがバン対象)が、今回ポッピーに関してはそれもなかった。つまり、直前の1戦での疑わしい例からポッピーピックを禁じるという権限はなかったのではないだろうか。

※この時点でポッピーをバグの原因と断定することはできなかったと思われるが、8月6日3:00の時点でバグの原因となった「ヘクスフラッシュ」の使用がグローバルで禁止された。

どちらにしても、本質的にはゲーム内のバグに問題があったことは間違いない。


もし同じバンピックを相談していたら「八百長」の疑いも……


ここまで冷静に見ればわかるように、ルール上はSGのバンピックに何ら問題はなかったことは間違いない。両チーム協議の上での再戦であり、ルールは互いに把握していたはずだ。SGに対するさまざまな批判はあくまで「感情」の問題であり、それを日本的な美学としての「スポーツマンシップ」に置き換えてしまっている人も多くみられる。

日本では、スポーツマンシップを語る際に「相手が傷ついたりした部分を必要以上に攻めないこと」といった意味でとらえられることが多い。1984年のロス五輪の際、柔道の決勝戦で、足を痛めた日本の山下泰裕に対してエジプトのモハメド・アリ・ラシュワンが痛めた足を攻めず、クリーンに勝利した逸話は有名だ。そのことが神格化されている部分すらあるかもしれない。

では、今回の試合はどうだったのかと言われると、SGの行為がスポーツマンシップに反する行動だったとは思えない。

仮に、SGが前の試合と同じピックをしたとして、DFM側がそれに応じたかどうかもわからない。これは「DFMがそんなことをするはずがない!」といった感情論ではない。バンピックが「自由」なかたちでの再選となったことは両チームとも織り込み済みのはずであり、ライバルチームとあうんの呼吸で当然一緒にするでしょ、というのは理想論でしかないからだ。

もうひとつ多くの人が見逃している重要な点は、もしルールを超えてお互いにスポーツマンシップにのっとり、「先ほどと同じピックでやり直そう」という意思疎通があったとしたら、自由なピックが可能となっている状態でのその行為自体が「八百長」(談合)とみなされてもおかしくはないということだ。

もちろん、DFMの選手にとっても忸怩たる思いだったであろうことは痛いほどわかる。ファンの感情として、SGに対して「そこまでして勝ちたいか」という言葉を発したくなる気持ちも、感情では理解できる。

しかし、「LJL」はあくまでルールにのっとった競技であり、それを超えてしまったらそれこそなにをもってeスポーツと呼べばいいのかがわからなくなってしまう。

ルールの中に「再試合の際はバンピックは維持するべし」とされていなかった以上、ライバルであるチーム同士が内々にバンピックを示し合わせてしまえば、もしDFMが勝利すると今度は「不正」とみなされる可能性が出てきてしまう。ここは「感情論」ではなく「ルールに対する公平性」という観点での話だ。

LJL 2022 Summer Split」での優勝チームに対する賞金は1000万円だ。彼らは趣味で戦っているわけではなく、互いの人生をかけて戦っている。どれだけチームを超えて普段は仲が良かったとしても、勝負となればまったく別の話だ。


問題の本質はゲームのバグと不整備が露出したルール


ひとつ深呼吸をして考えてみれば、さまざまな意見を発している人たちも頭では理解できてはいるはずだ。今回の件は、「LJL」という世界最大のeスポーツ大会の日本最高峰リーグの中で、厳格なルールにのっとって行われた試合の中の不幸な1戦でしかないと。

そして最大の問題は、事の発端となったゲーム内のバグと、それを回避する手段がなかったこと(結果的にバグが重なってしまったことと、臨機応変な対応ができなかったこと)。そして、今回のようなケースで、チームや選手、ファンに、感情的に失望感を抱かせてしまうような再試合のルールだったこと。この2点に尽きる。

最も悔しい思いをしたのは、ほかならぬDFMの選手たちであり、勝利したSGの選手たちだったはずだ。その当事者であるEvi選手、Once選手自身がわざわざフォローや謝罪のコメントも出している。



一番残念だったのは、スポーツにおける審判のような立場の人間による状況説明がなく、上記の解説者によるコメントとTwitterの投稿のみで終わってしまったことだ。選手たちに対してどのような説明がされたのかは定かではないが、Twitterの選手のコメントを見る限り、明確な説明がされているとは考えにくい。また、試合終了後にもLJL公式などからのコメントは特に出ていなかった。

そして、選手の納得を得ないままの再試合と、ファンに対する適切な説明がなかったことが、結果的に試合中のTwitchでのコメント、Twitterでのさまざまな憶測と感情的な言い合いを助長してしまったことも確かだろう。

その後、8月6日に経緯説明と公式発表が行われた。内容を見るに、ライアットゲームズもLJLも過去にない事態に対して、最も重視したのは最初の試合をどうにか維持し続けることだったようだ。最も悔しいのは大幅にリードしており、勝利すれば単独首位になれたDFMの選手である。運営もその不利益を産まないために尽力していたことがうかがえる。それゆえに、中途半端な情報を小出しにするのではなく、正確な情報を届けるために、当日もこの発表までにも時間が必要だったことも間違いないだろう。

スポーツは人の感情を揺さぶり、自分の人生や生活を重ね合わせたり、選手に対する愛を強く感じることもある。選手だって、ファンだって、解説者であっても、時には感情的になってしまうことだってあるだろう。それは、真剣に戦っている選手たちのことを思えばこそだ。

ただ、たとえ感情的に許せないことがあったとしても、当事者ではない外野の人間が、死力を尽くして戦っている選手たちに対するリスペクトだけは忘れないようにしたい。そのことが、eスポーツ、「LJL」が今以上に日本で成長・発展していくために必要なことではないだろうか。

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