【インタビュー】試合を動かす“もうひとりの主役”——ZETA DIVISION gya9氏が語るアナリストのリアル

VALORANT』の競技シーンにおいて、「コーチ」に次いで重要な役割を担っているのが「アナリスト」だ。試合を分析し実際に作戦へと落とし込んでいく——。膨大な知識量と発想力が要求される難しい立場でありながら、その実態については、依然として曖昧なままだ。試合中に目に見えるプレーとは異なり、彼らの仕事は基本的に表に出ることがない。

ZETA DIVISIONで約5年半に渡りアナリストを務めるgya9(ぎゃく)氏は、国内シーンの成長とともにキャリアを重ねてきた存在だ。ZETA DIVISIONを世界3位に導いた「VCT Masters Reykjavík 2022」での躍進の裏側にも、当然ながら彼の分析があったはずだが、その中身が語られる機会は多くない。

今回のインタビューでは、アナリストという職業の実態から、チームにおける役割、そして目指す人に求められる資質とは何なのか——その輪郭に迫る。

“まさにこれじゃないか”——募集を見て踏み出した一歩


——まずはgya9さんがeスポーツにふれたきっかけをお聞かせください。

gya9:もともと小さい頃からゲームはたくさんやってきました。それこそリズムゲーム(音ゲー)やカードゲームとか。ただFPSを始めたのは大学生になってからと遅くて、中でも一番やり込んだのが『Counter-Strike: Global Offensive(CS:GO)』です。プロではありませんが、アマチュアチームで本格的に活動していました。

——そこからどのようにアナリストという仕事にたどり着いたのでしょうか。

gya9:学生の頃からデータサイエンスが得意で、好きなことと得意なことを掛け合わせた「eスポーツ×データ分析」に関わる仕事を将来的にやりたいという思いがありました。

ただeスポーツの業界に進むのではなく、まずは2020年4月に新卒で一般企業に入社しました。そしたら、その夏にAbsolute JUPITER(現ZETA DIVISION)が、VALORANT部門のアナリスト募集を発表していたんです。それを見たときに「まさにこれじゃないか」と思って応募しました。

——新卒として一度企業に入った後に応募するって、結構勇気がいる決断だったと思いますが、そのときの心境を教えてください。

gya9:もちろん会社には入社したばかりだったし、eスポーツチームに所属した経験もなかったので、最初は副業前提で応募しました。やっぱり、実際どんな世界なのか分からない不安はありましたしね。まあ、半分だけ足を踏み入れるような気持ちだったのが正直なところです。

——そんな応募を経て、晴れてアナリストになったわけですが、具体的にアナリストというのはどんなことをしているのでしょうか。

gya9:僕の場合はちょっと特殊で、現在は当初就職していた企業を退職し、運営会社であるGANYMEDEの社員として働いています。なので、ふたつの業務を行き来している感じですね。

まずリモートで会社の業務を行い、途中からチームの練習がはじまるので、アナリストとしてサポートします。大会が近づくとアナリストとしての比重が大きくなりますね。

基本的にはチームのスケジュールに沿っているので選手やコーチたちと「今日はこういう練習をしよう」って話し合って決めています。


——チームの中でのアナリストという立場は、どのような立ち位置なのでしょうか。

gya9:基本的にはデータや統計、数学といった外の知識を持ち込む立場です。選手やコーチ取ったチームメンバーに「この数字にはこういう意味がある」という説明をする立場——といったら分かりやすいかな。

ただ僕以外のチームメンバーは、競技経験がある人たちばかりなので、説得するには大変な部分もあり、最大のやりがいでもあります。

——選手からしたら経験を元に「こっちの方がいいだろう」って思うこともありそうですもんね。

gya9:そうですね。ただ、戦術を考えたりゲームの知識を生かしたりすることは、試合を見るのが好きならば、選手経験がなくてもできることなんです。そこに数学やプログラミングの知識を掛け合わせて踏み込んでいくところがアナリストの腕の見せどころで、これができる人は少ないです。

なので、こうした自分にしかない武器を有効に使った結果、「この戦略はgya9にしかできないね」とメンバーに言ってもらえると、ものすごくうれしいし、やりがいを感じます。

▲gya9氏が分析しているデータの一部。膨大な数値や統計が記載されているのだとか

——ちなみに、GANYMEDEの社員としてはどのような業務を行っているのでしょうか。

gya9:チーム公式や所属メンバーのSNSを管理したり、配信のアナリティクスデータを記録・分析して、スポンサーへの活動報告などに生かしています。アナリストの延長線上にあるデータ仕事ですね。

——なるほど。そこでもgya9さんの得意分野が生かされているんですね。

AI発展で大きく変わったアナライズの現状とこれから


——gya9さんがZETA DIVISIONのアナリストとして活躍し始めた頃は、アナリストという立場もまだまだ浸透していなかったと思います。約5年半の歳月を経て、今業界の成長は実感できていますか?

gya9:就職した頃はアナリストの仕事を友人などに話しても「よく分かんないけどすごいね」くらいの反応でした(笑)。

ただ最近は高校時代の友人から「ZETAでアナリストやってるらしいじゃん!」と驚かれるようになりました。こうして身近な人に認識されるようになったことで、確実に普及していると実感しています。

——アナリストとしての考え方には変化がありましたか。

gya9:初期の頃は『VALORANT』というタイトル自体がまだ完成されていなくて、「こういう仮説が立てられるんじゃないか」と手当たり次第に分析していました。正直、今振り返ると筋が悪いものもたくさんあったと思います。

今はチームにとって何が有益なのかがある程度分かるようになったので、効率よく動けるようになったと思います。ただ『VALORANT』はアップデートで大きく環境が変わるタイトルなので、以前通用しなかったことが、突然通用するようになることも多いです。なので、初心や探求心は忘れないようにしています。

——以前の対談動画で「Scrapbox」や「Skybox」といったツールを導入して情報を集約されているというのを拝見しました。近年のAIの進化によって、こうしたデータの使い方や分析のプロセスは変わりましたか?

gya9:2025年頃から世間的なAIブームが来ていますけど、僕たちは3年前の2023年頃から既にAIを取り入れた取り組みを始めていました。先駆者的に作業の自動化や、他のチームが手をつけていないようなデータ分析を積み上げてきた自負があります。

最近のAIの急速な進化で、これまで手作業で拾うしかなかった細かなプレーの相関関係や、膨大な映像データからのパターン抽出といった部分まで、一気に分析の幅が広がっていくのを感じています。

周りに追いつかれるスピードも速いかもしれませんが、僕たちは3年前からこの領域でトライアンドエラーを繰り返してきた蓄積があるので、さらに一歩先を行く分析ができるんじゃないかなとは思いますね。


——やはりAIの進化でアナリストの在り方も変化してきたんですね。そうした中で、gya9さんご自身が感じるアナリストの面白さとは何でしょうか。

gya9:ゲームというもともと遊びだったものに対して、科学や数学、統計の知識を当てはめていくというアナライズが小さい頃から好きでした。数学の文章題で「こういうゲームをやります、勝つためにはどうしたらいいでしょう」みたいな問題があるじゃないですか。あれに近い楽しさですね。

科学的なアプローチでゲームを攻略するというのは、アナリストならではの面白さだと感じています。

——今後もアナリストという立ち位置はeスポーツ業界で続いていくと思いますか。

gya9:役割としては残りますが、その形は大きく変わっていくでしょうね。僕が学生だった頃と違って、今はプログラミングができなくても、エンジニアじゃなくてもデータ分析ができる時代になってきています。今後、AIが統計や分析のプロセスを補助してくれるようになれば、大学で専門的に学んでいない中高生でもできる時代が来るんじゃないかな。

今はスマートフォンひとつあれば、意欲次第で誰でもプロレベルのツールにふれられる環境が作れますしね。

アナリストを目指す学生へ


——gya9さんはチームとしての活動だけでなく、チュートリアルやDiscordコミュニティを通じた発信にも力を入れていますね。

▲コーチ・アナリスト向けのDiscordサーバーを開設しているgya9さん。noteにはデータの作成方法など詳しい手順が書いてある記事も投稿されている

gya9:僕は割とeスポーツが盛り上がってきた初期からアナリストをやっていますが、これから参入する人にとって、今の環境は結構大変だろうなって思うんです。だからこそ、後発が入りやすい環境を作りたいという気持ちで発信するようになりました。

自分がアナリストという特殊なポジションで仕事を続けられているのは、業界が盛り上がってeスポーツが産業として成立しているからなので、自分たちが勝つだけじゃなく、シーン全体を成長させる意味で、コミュニティへの還元は積極的に行うようにしています。

——すばらしいですね。現状、アナリストは業界的に足りているのでしょうか。

gya9:アマチュアチームも含めると、『VALORANT』では全然足りていないと思います。選手5名とコーチ1名しかいないチームで、アナリストが1名でもいてくれたら——と思っているところはたくさんあるんじゃないかな。

一方でトップチームにおけるアナリストの席は限られているので、まずはアマチュアからステップアップしていくのが現実的ですね。FENNELのEulerコーチも、最初はアマチュアチームのアナリストからスタートして少しずつキャリアを積み上げていった方です。

——では、これからアナリストを目指す人にアドバイスをお願いします。

gya9:これはアナリストに関わらずeスポーツ業界で働きたい人に向けたアドバイスでもあるんですけど、ひとつは『VALORANT』というタイトルの枠に限定しないこと。

僕の場合は「eスポーツ×データ分析」という掛け算がありました。大事なのは、自分にとっての掛け算が何なのかを見つけることです。好きなこと、得意なこと、学問として興味がある分野——それをしっかり把握しておけば、掛け算に当てはまる仕事は時代に応じて見つかるはずです。

——「何から手を付けていいのか分からない!」って人にアドバイスするならば?

gya9:実はよく聞かれる質問なんですけど、『VALORANT』のアナリストとしてコーチのような戦略的な部分に興味があるなら、大会の映像や配信を見て研究をするのが一番の近道です。

一方で、チームの中でデータを付けてサポートしたいというタイプなら、まずはビジネス的能力を身につけて、その上で、『VALORANT』の知識を最低限持っていく——というアプローチが効果的だと思います。

アナリストという仕事は守備範囲が広いんです。コーチっぽい側面だったりエンジニアっぽい側面だったり——チームによってもアナリストに求めているものが全然違うこともあります。

なので志望するチームがどういったアナリストを求めているのかも知っておくことが大切です。

——なるほど。ビジネス的能力ということは、一度一般企業に就職するということもメリットになる?

gya9:僕自身の経験からすると結構役立ったこともあります。例えば、選手やコーチに説明する上で必要なプレゼンテーションの資料を作成するといった工程は、社会人時代の経験が生きてるかなぁと。

——最後に今後に向けてひと言お願いします。

gya9:ではひとつ宣伝をさせてください。ご存じかも知れませんが「ZETA DIVISION Gaming Academy」が2027年4月から開講予定で、競技シーンと裏方の両方に道を用意しているというコンセプトのeスポーツスクールです。


「競技にも興味があるけど、裏方もやれるかもしれない」という人にはまさにピッタリだと思うので、興味がある人はぜひそちらもチェックしてみてください。

もしかしたら、今後僕も特別講師として参加するかもしれません!

——楽しみにしています。ありがとうございました!

———

eスポーツにおいて選手やコーチ、オーナーといった多くの役割がある中で、アナリストという業種は、まさに裏方中の裏方だといえる。膨大なデータと分析の中、チームを勝利に導く——ある意味、軍師のような立ち位置だ。

そんなアナリストという業種が注目を浴びるようになったのも、ZETA DIVISIONのVALORANT部門が、2022年に国際大会「VCT Masters Reykjavík 2022」で世界3位という偉業を陰で支えていたgya9氏の存在に他ならない。

当時、試合後毎日のように実施されていた試合後のインタビューで、選手が度々名を上げていたgya9氏という存在。eスポーツのチーム戦において、いかにアナリストが重要なのかを国内に知らしめた存在であったといっても過言ではないだろう。

そんなアナリストのパイオニアともいえるgya9氏から、アナリストを目指す具体的なアプローチを聞けた貴重なインタビューとなった。

また今回は、新たな取り組みとして、ライター未経験の学生にインタビュー実施を経験してもらった。彼もまたgya9氏に影響を受け、同じ道を目指したことがある学生のひとりだ。そんな彼がインタビュー後に感じたのは、「eスポーツのアナリストを目指すというのは厳しい道のりだ」ということ。

一方で、アナリストは非常に狭き門ではあるが、eスポーツ業界にとってまだまだ不足している人材でもある。gya9氏の展開するDiscordサーバーや、「ZETA DIVISION Gaming Academy」を通じて、新たなアナリストが誕生してくれることを期待したい。

【番外編】世界3位の裏側——あの名シーンを振り返る

——gya9さんと言えば、「VCT Masters Reykjavík 2022」での活躍が印象深いですが、あの大会ではどんなことをしてたのでしょうか。

gya9:あの大会では特に対戦相手の対策にフォーカスして担当していました。出場が決まってグループ分けが出たら、まずその相手を研究して準備して選手やコーチに共有するみたいな作業をしていました。

特に大会が進んでいくと準備していなかったチームとの試合が発生することもあるので、それも大会中に分析して、相手がどういう作戦を使ってくるとかっていうのを試合と試合の合間にひたすらやっていました。

——聞くだけで大変そうですね。やはり現地に出向いてアナライズしていたんですか?

gya9:いや、実は僕だけ日本でサポートする形だったんですよ。

僕だけかなり昼夜逆転生活というか、コーチたちが寝ている間に分析して、コーチたちが起きた頃にデータを共有して、「じゃあ僕は寝る」みたいなことをやっていました(笑)。

——そんな状況だったんですね。やはり私が記憶に残っているのはブラジルのチームNinjas in Pyjamas(NIP)戦のワンシーンです。crow選手がチームを救った「ショックボルト」は、当時のインタビューでも、gya9さんが見つけた情報だということで話題になっていました。

▲マッチポイントを迎えたZETAに奇襲を仕掛けたのはNIPのxand選手。この存在に気づかず攻めを展開してしまうと一網打尽されかねない非常に危険な状況だ。絶対に負けられないラウンドで、crow選手が「ショックボルト」でxand選手を撃退。見事勝利に導いたワンシーンだ(https://youtu.be/5Fl-nhSQpgY?t=18172

gya9:あのシーンは鮮明に覚えています。「xand選手は、めちゃめちゃこのポジションを使うよ」っていうのを、かなりcrowさんに入れ込んだのを覚えています。crowさんって、当時のロスターの中でも特にこういう話を聞いて実践してくれる選手だったんですよ。

——すごい。どうやって分析したんですか?

gya9:詳しくは話せないのですが、ラウンド開始時のポジションを分析して、その配置の回数をカウントしたり、よく使うパターンを割り出すツールを試作で使っていたんです。

それでNIPだけ初期ポジションのパターンがくっきりしているのが分かって、あの情報をcrowさんに共有しました。

——あのラウンドを落としてたら一気にピンチになる試合でしたもんね。ちなみに、gya9さんは当時から一貫してZETAに所属していますね。選手やコーチが入れ替わる中、ZETAでアナリストを続けている理由はあるのでしょうか。

gya9:GANYMEDEの社員として働いている面もあるからというのが理由のひとつですが、やっぱり日本のeスポーツ業界の中でもZETA DIVISIONってどの部分を取っても、すごくいいチームだなとこの約5年間何度も感じているからですね。

競技であったりクリエイターであったりイベント開催であったり——。表に見えないサポートの部分を踏まえても、社員としてアナリストとして携わり続けたいなという思いがずっとあります。


編集:いのかわゆう
インタビュー/文字起こし協力:榊原 琉生


■関連リンク
gya9氏 X:
https://x.com/gya9_

gya9氏 note:
https://note.com/gya9

gya9氏 Discordサーバー:
https://discord.gg/dQUDC2mjPk

ZETA DIVISION GAMING ACADEMY POWERED BY VANTAN:
https://x.com/zetadivision_ac


【井ノ川結希(いのかわゆう)プロフィール】
ゲーム好きが高じて19歳でゲーム系の出版社に就職。その後、フリーランスでライター、編集、ディレクターなど多岐にわたり活動している。最近はまっているゲームは『SEKIRO』。

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