長引く新型コロナの影響で増えた子どもの「ゲーム依存」、現状と解決策をカウンセラーに聞いてみた

新型コロナウイルス感染症の影響で外出自粛が要請されている中、自宅でネットやゲームをついつい続けてしまっている方も少なくないはず。

そんな中で話題になっているのが、子どもが「ネット依存」や「ゲーム依存」に陥っているのではないか、という問題だ。学校ばかりか公園さえも閉鎖され、友達と一緒に遊べないような状況の中で、子どもの楽しみがゲームやネットに向かうことはどうしても増えている。

ネットやゲームというのは適切に楽しむことができれば、現代において非常に有効なツールであり、レジャーであることは間違いない。その一方で、魅力的なタイトルであるがゆえに際限なく続けてしまうことに、親として、本人自身として悩んでいる人も多い。

特に、ゲームに関してはこれまでも、ことあるごとに子どもの健やかな成長に悪影響がある社会問題として取り上げられてきた。プロゲーマーが小学生のあこがれの職業になる中で、ゲームの時間を制限する条例を制定する地域も出てきているという、かつてない混沌とした状況にある。

そこで、このようなネット依存やゲーム依存に悩む家庭への相談サービス、「MIRA-i(ミライ)」を運営しているカウンセラーの森山沙耶さんに、ゲームを長時間遊んでしまっている子どもを持つ家族はもちろん、長時間遊んでいる本人も含めて、この問題をどのように考えればいいのか、そしてゲーム依存に至らないためにどうすればいいのかをうかがった。

なお、今回は新型コロナウイルス感染症の影響を鑑みて、オンラインでのインタビューを実施した。

森山沙耶(もりやまさや)
2012年東京学芸大学大学院教育学研究科を修了後、家庭裁判所調査官として勤務。少年事件・家事事件の調査を行う中で、非行少年の更生や離婚調停など家庭紛争の調整に関わる。大学病院に臨床心理士として勤務。2016年からうつ病など精神疾患を抱える方の社会復帰の支援に携わる。

2019年8月、独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターにてインターネット/ゲーム依存の診断・治療等に関する研修(医療関係者向け)を修了。2児の母としての経験と心理臨床の経験を生かして子育て支援に関する講演活動等も行っている。


気軽に相談してほしい、
そんな気持ちから立ち上がった「MIRA-i」


——まずは「MIRA-i」がどのような相談を行っているのかを教えてください

森山:「MIRA-i」はネット、スマホ、ゲームの依存の問題を抱えるご本人や、ご家族に向けた回復支援サービスです。主に個別のカウンセリングや家族会を実施することで、依存予防の啓発や、理解を深めていってもらっています。

サービスを開始したのは2019年の10月です。ただ当時はあまり認知されていないこともあり、相談件数はそれほど多いものではありませんでした。

そこで2020年2月から「オンラインカウンセリング」を開始したところ、より多くの方からご相談を受けるようになりました。


——なぜこのようなサービスをはじめようと思ったのですか?

森山:ネットやゲームのやり過ぎで日常生活が困難になる「ゲーム障害」というのは、世界保健機構(WHO)で国際疾患として正式に認定されるほど社会問題化しています。

日本でも2017年、厚生労働省の調査でネット依存が疑われる中高生が93万人(7人にひとり)に上ることが推計されています。

一方で、いわゆるネットやゲーム依存に対応できる専門医療機関は数少なく、どこに相談していいのかわからないという方々が増えてきているのも現状です。

そのような現状で、ネットやゲームに依存してしまうご本人や、その家族を支援したいという気持ちから「MIRA-i」の立ち上げに至りました。

——なるほど。具体的にはどういった症状の方を「ネット依存」や「ゲーム依存」と呼ぶのでしょうか?

森山:私たちは医療機関ではないので、診断はできません。なので、WHOが示している「ICD-11」を元に判断しております。

ただゲームを長時間プレイしているだけで依存と考えるのは早計ですので、スクリーニングテストでいくつかの質問に答えてもらったり、個別にヒアリングをしたりして判断しています。

ICD-11とは

世界保健機関(WHO)が作成している疾患の分類表で、「International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems」(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)の略である。「ICD-11」は第11回目の改訂版ということになる。

なお、改訂版が出たのは前回の「ICD-10」から約30年ぶりで、改訂にあたり「ゲーム障害(Gaming disorder)」が追加された。

https://icd.who.int/browse11/l-m/en

▲ICD-11はWHOのサイトで閲覧できる。そこで「Gaming disorder」(ゲーム障害)というのが追加されているのが確認できた

——どのような方がご相談に来られるのでしょうか?

森山:ゲーム依存を心配している対象は、小学生から大学生まで幅広いですね。とはいえ、実際にご相談に来られる方はご本人ではなく、親御さんがほとんどです。

また、ネットとゲームの比率で言うと、ゲーム依存のご相談が9割以上と多めになっております。

実際には、ゲームをしながら実況動画を見たりSNSを見たりと、ゲーム依存とネット依存は近い関係にはあります。ジャンルとしては、FPS系のゲームに依存しているというご相談が多いですね。

——なるほど。例えばどのようなきっかけでご相談される方が多いのでしょうか?

森山:やはり問題が表面化してからご相談されるケースが多いです。具体的に言うと、不登校や、引きこもり、家族に対する暴力、暴言といったケースですね。

ほかには受験勉強が迫っているのに勉強に手がつけられないとか、自分の部屋から出てこないので家族間のコミュニケーションが取れないといったケースも少なくありません。

——我々が思っている以上に深刻な状態なのですね……

森山:そうですね。私たちとしましてはもうちょっと早く、事態が深刻化する前にご相談にきていただきたいなという思いはあるんですけどね。なかなかこういった相談を外部にするというのはハードルが高いと思いますし、難しい課題ではあります。

歩み寄る心が大切、お子さんのやっていることに関心を


——実際に、相談に来られる方への解決策としては、どういったものがあるのでしょうか?

森山:依存の度合いによっても解決策は異なるのですが、中には依存によって家族とまったくコミュニケーションが取れなくなってしまっていたり、親御さんがゲームの話をすると「またゲームを止めさせられるのではないか」と言う気持ちから反発したり、言うことを聞かなくなってしまっているお子さんも少なくありません。

私たちがまず行っていることは、家族関係の改善であったり、親子で会話の糸口を探していくところからサポートしています。


親御さんの中にはお子さんの顔を見るなり「またゲームばっかりして」とか「どうしたら勉強してくれるようになるのか」とか、すぐに本題に入ろうとしてしまいがちです。

ただ、お子さんの立場からすると、そういうふうに言われると親御さんを避けてしまいたくなりますので、まずは親御さん側がポジティブな会話から話を進めていこう、というアドバイスはよくしています。

——確かに頭ごなしに自分の行動を否定されると大人でもいやですものね

森山:そうですね。なので、まずはゲームについて関心を示してみたり、まずはお子さんのやっていることを理解してコミュニケーションをとっていくことが大切だと思っています。

ゲームを止めないからWi-Fiを切ったり、ゲームを取り上げたりするのは逆効果で、それによって暴言や暴力が生まれてしまうことも少なくありません。

お子さんがゲームやネットの中に何を求めているのか、何を得ているのか。まずはそこを知ることが大切です。中にはゲームが心の支えになっているお子さんもいます。そういった背景を知ることで、親子関係が良好になっていくと考えています。

そして、親子関係が良好になっていけば、「今後どうしていくのか」とか「ゲームをする時間はどうしようか」とか、具体的な話ができるようになってくるんです。

実際に依存状態にあるお子さんと直接お話ししていくのは、本当に最後のステップになりますね。

——「ゲーム=悪」というイメージはなかなか消えませんものね

森山:そうですね。

それから、お子さんができていることをしっかり褒めるということも大切です。

中にはゲーム以外の時間に勉強をしたり、一緒に食事をしたり、やるべきことはやっているお子さんもいらっしゃいます。ただ、「それくらいは当たり前」と思っている親御さんも少なくありません。できている部分はしっかり褒める、お子さんなりに頑張っていることを認めてあげることも重要です。

あなたは大丈夫?
一日のルーティンを客観視してみよう


——今までは依存傾向にあるお子さんを持つ親御さんに対してのお話だったかと思います。逆に、自分自身が依存傾向にあると不安に思っている方に対してのアドバイスはありますか?

森山:ゲームってやっていると時間を忘れてしまうことが多いと思うんです。「気がついたらもうこんな時間」みたいな。

——確かに!(笑)

森山:食事や入浴すら忘れてゲームに没頭してしまうということもあると思うので、まずは自分の生活がどうなっているのか可視化することが大切です。

——というと?

森山:うちのカウンセリングでも、まずは「生活を記録してみてください」とお願いしています。

——私もやってみたのですが……。その差は顕著ですね……

▲我ながらビックリする結果となった。ゲームに没頭するとご飯もいいかげんになっているのがグラフでわかる

森山:実際に可視化すると、ビックリしますよね(笑)。

ここから、1日をどうやって過ごしていくのかを考え直していくことを、カウンセリングでは行っています。そうすることですぐに実践できるとは限りませんが、まずはこうやって考えを見直していくというところも大切なプロセスと言えます。

ただ、ゲームってめちゃくちゃ楽しいじゃないですか。なので、そのゲームの時間を別の何かに置き換えるというのは難しい問題だったりもしますね。

——なるほど。時間を制限すると言えば、香川県や秋田県ではゲームの1日1時間という条例が規定されましたが、その点についてどう思われますか? Wi-Fiを切っちゃう親御さんと似ているような気もするのですが……

森山:個人的には、すべての人が守るのは難しいとは思いますね。

ただ、ゲームに理解のない親御さんの中には「ゲームの時間ってどうやって決めればいいのでしょうか」と悩んでいる方もいらっしゃいます。そういった方に対して、具体的な時間の目安を提案するという意味ではいいことだとは思います。1日1時間というのは短いと感じる人が多いだろうとは思いますが。

時間を決めて効果検証をして、そこからまた議論をして時間を定めていくというのが大切です。

——まあ、1時間は無理ですよね(笑)

森山:(笑)。

それから、依存している状態とそうでない状態との大きな違いは「目的」になります。

依存している状態というのは、現実から目を背けるためにとか、ただ退屈だからとか、本来楽しむためにしていたはずのゲームの目的が変わってきてしまう状態です。そうなると、ゲームをしていないと不安になったり、イライラしたり、ということが起こります。

純粋にゲームを楽しめているかどうかもポイントのひとつとなります。

——なるほど。はたから見たらゲームをやり続けていることには変わりはないけれど、ゲームをプレイする目的によって依存か、そうでないかが決まってくるんですね

森山:そうですね。依存状態に陥っている本人は「自分は目的を持って楽しんでいる」と正当化することもあるので、本人の言葉だけでなく、ゲームがどのような役割を果たしているかを総合的にみていくことが大切です。

——最後に、ゲーム依存やネット依存を解決するために大切なことを、あらためて教えてください

森山:大切なことは「依存しているご本人の自己責任にしないこと」。これに尽きます。

依存状態になっているということは、自分自身でコントロールできない状態なのです。その部分を本人の責任にするのではなく、現状を理解してあげることが重要です。

当事者が何を求めているのかを一緒に考えてあげることが、解決の近道だと思います。

また、現在は新型コロナウイルス感染症の影響で、学校にも仕事にも行けず、買い物や外での遊びもできないなど、本来できていたことができなくなっているという現状もあります。そういった問題も加味して、どうしたら今の現状を楽しむことができるのかといった前向きな話し合いをご家族で進めていってもらいたいですね。

「MIRA-i」でもオンラインでカウンセリングを受け付けていますので、ゲーム依存なのではないか、と悩んでいる方はお気軽にご相談いただければと思います!

——ありがとうございました!
———

eスポーツ」と「ゲーム依存」というのは似て非なるものであり、非常に近しいため、ゲームをプレイしている読者の中でも少なからず意識はしていたとは思う。

実はお話をうかがうまで、ゲーム依存問題を扱うカウンセラーというと、eスポーツやゲームに関してあまり好意的ではないのでは? という思い込みがあった。しかし、それはまったくの誤解であった。

ゲームを長時間し続けてしまうことは確かに依存傾向にある。しかし、ゲームを長時間プレイする=依存ではないのだ。目的を持たずにダラダラなにかをし続けてしまうことこそが依存であるということが、今回のインタビューでわかった。

ゲームの存在自体が悪いのではなく、ゲーム以外になにもできなくなる状況こそが、解決すべき課題だと感じた。

例えば、普段のゲームでも何気なくダラダラとランクマッチをするのではなく、「仕事や勉強の合間の限られた時間の中でランクマッチに挑戦する」とか、「平日に仕事を頑張ったご褒美に休日はこのゲームでここまでランクを上げるぞ!」という風に、目的を持ってランクマッチに挑戦するといったプレイに対する見直しをしてみたいと思う。


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