長時間の練習あればこその“神の引き”だった──【Shadowverse部門 ふぇぐ選手インタビュー】

2019.4.24 岡安学
2018年12月15〜16日に幕張メッセで行われた『シャドウバース』の世界大会Shadowverse World Grand Prix 2018」で、並み居る強敵を倒し、見事優勝したのがよしもとLibalent所属のふぇぐ選手だ。


国内のeスポーツ大会では史上最高の100万ドル(約1億1000万円)という高額な優勝賞金も相まって、一躍時の人となったふぇぐ選手。この優勝で初めて存在を知ったという読者も多いかもしれない。しかし、一日のほとんどを練習に費やすほどの努力家であり、将来を見据えたその確かな練習量が今回の結果に結びついたと言える。

そんなふぇぐ選手に優勝から3カ月経った今、あの時、現在、そして未来の活動について聞かせていただいた。プロとして活動する思い、仲間との協力が必要なプロリーグでのチーム戦など、普段は聞けない話が伺えるインタビューとなった。

『シャドウバース』のおかげで人間として成長

――遅まきながら優勝おめでとうございます。まず根本的なお話からお伺いしたいのですが、『シャドウバース』を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

ふぇぐ選手(以下ふぇぐ):ゲーム自体はあまり遊ぶ方ではないのですが、小さい頃からトレーディングカードゲームは遊んでいました。「遊戯王」とか「デュエル・マスターズ」とかですね。大学に入ってから『シャドウバース』を友人に勧められて、遊んでみたのがきっかけです。

しばらく遊んでいた頃に「ファミ通カップ」という大会があることを知って、「賞金400万円すげ~、その大会に出てみたい」と思いまして(笑)、練習するようになりました。昔の友人たちも『シャドウバース』をプレイしていると聞いていたので、友人たちに会う同窓会のような、最初は軽い感じで参加しましたね。友人にはデッキ作りや対戦にも付き合ってもらっていて、そういった相手があのときいたのは恵まれていました。

――その「ファミ通カップ」でいきなり優勝を果たすわけですね。どの選手よりも練習をすると言われるふぇぐ選手ですが、その頃から生活の時間は練習時間にかけられていたのでしょうか。

ふぇぐ:『シャドウバース』を始める前は、決して真面目な学生生活を送っていたわけではなく、時間の管理もルーズになりがちでした。でも、『シャドウバース』を始めてからは、練習時間や学校の時間など、きっちり割り振るようになって、かえって時間を守るようになりましたね。人間としても成長できたように思います。

大学休学を延長して『シャドバ』に打ち込む

――ゲームを始めると生活がいいかげんになる人が多いなか、逆に生活態度が改まるというお話は珍しいですね。大学を休学してまで『シャドウバース』に取り組むことになったきっかけはなんだったのでしょうか?

ふぇぐ:「ファミ通カップ」で優勝できて韓国と台湾に行った時に、こんなに色々なジャンルのeスポーツが盛り上がっているんだ、こんなに規模が大きいんだ、ということを初めて知ったんです。それまではカードゲームのeスポーツどころか、ゲーム業界、eスポーツ業界をまったく知らない状態で、『シャドウバース』も先輩から勧められて始めたくらいでしたから。

この海外でのプロeスポーツに触れるという体験を通して、「こういう仕事もあるんだ」ということを考え始めました。将来の夢というか、目標のひとつになったことは確かですね。

でも、そこを目指す直接のきっかけになったのは、やはり2017年の世界大会を8位で終わったことでした。それが悔しかったので、1年間『シャドウバース』に打ち込もうと決めて、家族に『シャドウバース』に打ち込むことについて相談しました。

当時はプロリーグもなく、家族にとっては何のことかわからないような話だったと思いますが、1年で結果が出なければ諦めるということで、本格的に『シャドウバース』にのめり込むことにしました。


――「eスポーツ」という言葉もまだまだ浸透していなかった当時では、説得も難しかったでしょうね。

ふぇぐ:そうですね、プロリーグ設立も発表されていなかったので、父としても収入源や今後の生活が心配だったようです。でも、本気で説得したことで1年間だけ自由にさせてもらいました。母は結構放任なので、「やりたければやりなさい」って感じですね。結果を残せたので、大学を休学しつつ、『シャドウバース』を続けることができています。現在はふたりとも応援してくれています。昨年のグランプリの時もふたりで応援にかけつけてくれました。

賞金については父からは「無駄使いするな」と言われましたね。将来的に親孝行もしたいので、使い道は考え中です。

――賞金を手にしてから、生活は変わりましたか?

ふぇぐ:あまり変わっていないですね。電子書籍でマンガを買っているんですが、それを際限なく“大人買い”するようになったくらいです(笑)。

チーム戦の比重はプレイが3割、デッキ構築が7割

――グランプリで優勝した時に「100万ドルのポセイドン」と呼ばれる最後の引きを見せました。それ以前の試合でも脅威の引きを見せていましたが、あの瞬間を振り返るとどんな気持ちだったのでしょうか?

ふぇぐ:確かにあの時はポセイドンを引けたことが大きかったのですが、それまでの戦術やデッキ構成による積み重ねの上でのポセイドンだったので、単純に引きで勝てたという感じでもなかったですね。相手との駆け引きに勝った、という感じです。相手の手札の強さがわかるのは、経験から来る勘によるところが大きく、そのあたりで長時間の練習が自信につながったと思います。


――そこは練習の賜物というところですね。打って変わって、先日行われた「RAGE Shadowverse Pro League 2018 Championship」は、惜しくも出場できませんでしたが、チーム戦と個人戦とではやはり戦い方や難しさは違いますか?

ふぇぐ:個人で戦う場合はプレイ自体が中心となるのですが、チーム戦になるとプレイ3割、デッキ構築7割といった感じです。

先日まで開催されていた2ndシーズンでは、4つ目にいいデッキを探すことに時間をかけすぎて、プレイの中身(練度)がおろそかになってしまいました。なので、次のシーズンではデッキ構築とプレイを両立できるような調整をしていこうと思っています。

チーム戦としての戦い方は、1stシーズンでは守りに入ったり、仲間のことを考えて思考がブレてしまって……チームの重圧を感じて、緊張してミスする場面も多かったんです。2ndシーズンに入ってようやくチームで戦うことの重圧を受け入れられるようになりましたね。

でもそれも、1stシーズン最後の大きなミスとか、そういう経験を経たからこそ成長できたのかなと思っています。今後もミスを少なくしていけば、もっとしっかり勝てるようになると思います。


――来たる次のシーズンに向けて、すでに対策などは始めているのでしょうか?

ふぇぐ:ちょうど新しいカードパック「鋼鉄の反逆者(リベリオン)」がリリースされたばかり(取材日は3月29日)で、新しいカードがどんな内容か、様子を見ているところですね。追加された「機械」というジャンルに注目していますが、他のカードに比べて数が少ないので、どう扱うかじっくり考えていきたいです。カード自体は強いと思いますので。

――気になっているライバルチームや選手はいますか?

ふぇぐ:ライバルとしては、GxG(ジーバイジー)が強敵になりそうです。Riowh選手には勝ちたいですね。もちろん、チャンピオンシップで優勝したレバンガ☆SAPPOROや、準優勝のauデトネーションも変わらず強敵だと思います。

チーム対策としては、いくつかのチームがメンバーを変更しているので、新メンバーについては調べておきたいですね。

とはいえ、今はオフシーズンなので、シーズン前やシーズン中に比べて練習量も少なく、試合では絶対使わないような“ネタデッキ”を使ったり、勝ち負けにこだわらずに『シャドウバース』を楽しんでいます。それでも大体1日に3~4時間はプレイしていますね。

ーーちなみに、普段の練習はPCですか?

ふぇぐ:そうですね、ゲーミングチェアに座って、PCでやっています。スマホとPCでどっちがいいといった要望も特になく、世界大会とかと同じ環境で練習したいと思って。音もホワイトノイズがかかった環境でプレイしています。PC自体にもマウスにも特にこだわりはないです。『シャドバ』しかしませんしね(笑)。

体を張る系の仕事もしてみたい

――昨年の優勝が様々なメディアで取り上げられ、これから『シャドウバース』を始める人、プロを目指したいという人が増えていくと思います。ふぇぐ選手を見て『シャドウバース』を始める方に、アドバイスはありますか?

ふぇぐ:確かに、『シャドウバース』を始める人も増えた気がしますね。

これからプロを目指すのであれば、SNSには気をつけた方がいいです(笑)。eスポーツ業界ではSNSは“履歴書”みたいなものなので。プロになってからではなく、それ以前の発言も遡って見られてしまいますからね。僕ですか? 僕はほとんど書き込んでいないです。

――では最後に、『シャドウバース』以外で、ふぇぐ選手が今後やってみたいことなどはありますか?

ふぇぐ:僕、体を張って何かするのが嫌じゃないんですよ。罰ゲームとかで「世界王者が体張ってるよ」といった感じで『シャドウバース』界隈が盛り上がってくれたらうれしいので、ぜひ体を張る系の仕事もしてみたいです(笑)。あとは、実況や解説ができるようになりたいですね。

―――――

1億円という大金を手にしても、『シャドウバース』へのモチベーションをまったく失っていないふぇぐ選手。ユニフォームを脱いだ姿は、一見するとイマドキの大学生という印象なのだが、『シャドウバース』に関する話題になると、こちらの発言を伺うような眼光の鋭さを見せた。

「『シャドウバース』をいつまで続けたいですか?」という質問に対しては、「自分が衰えるまで」と答えたふぇぐ選手。勝負の世界に身を置く者としての矜持が、そこに感じられた。

とはいえ、eスポーツの最前線において、新たなシーズンでも変わらず活躍することができるかどうかは、本人の努力や練習次第。ふぇぐ選手自身が脚光を浴びたことで、まだ見ぬライバルもこれまで以上に増えていくことだろう。

来たる新シーズンでのふぇぐ選手の活躍が楽しみだ。


■リンク
ふぇぐ選手 Twitter
https://twitter.com/feeeeeeeeeg
よしもとLibalent
https://www.teamlibalent.com/
RAGE Shadowverse Pro League
https://rage-esports.jp/league/sv/
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