【「LJL」新人解説者・Nemohインタビュー】解説者転身のきっかけ、セカンドキャリア、「Summer Split」の見どころを聞く (1/2)

2023.6.8 宮下英之
いよいよ2023年6月10日(土)より、2カ月に及ぶ『リーグ・オブ・レジェンド』の日本リーグ「LJL 2023 Summer Split」が始まる。このリーグを勝ち抜いたチームは、賞金1000万円とともに、世界大会Worlds 2023」への挑戦権を獲得する、『LoL』の1年間のシーズンの中でも最も盛り上がる期間だ。

筆者はeスポーツの中でも特に『LoL』のゲーム性や戦略性が好きで、下手ながらもプレイも観戦も続けているが、どうも最近は同じライアットゲームズの『VALORANT』に押され気味……。もっともっと『LoL』の面白さを知り、プレイヤーもファンも増えてほしい! という思いから、今回は「LJL」の3名のキャスターにインタビューさせていただいた。

ひとり目は、2021年〜2022年にかけて「LJL」で活躍した元プロ選手であり、解説者としては新人のNemoh(ネモウ)氏。「LJL 2023 Spring Split」では、現役選手をよく知る元プロの目線から、高度な駆け引きや心理戦も含めて詳しく解説してくれている。

とはいえ、選手としては知っていても、解説者、そしていち個人としてのNemoh氏のことはまだまだ知らないことばかり。そこで、2022年末までプロの道を探り続けていたNemoh氏が解説の道を志したきっかけ、「Spring Split」と解説者としてデビューした自身の振り返り、そして「Summer Split」の見どころとこれからの目標まで、たっぷり語っていただいた。


セカンドキャリアとして「LJL」選手から直接解説者の道へ


──Nemohさんといえば、2021年、2022年と「LJL」の選手として活動されて、今回解説者に転身されましたが、2022年12月の時点ではまだFA宣言もしていましたよね。

Nemoh:そうですね。2022年終わりはまだFAを出していました。


──そこからどんな経緯で解説に加わることになったんでしょうか?

Nemoh:「LJL」ではCrest Gaming Act(CGA)、AXIZ(AXZ)、再びCGAと渡り歩き、トップから始まってサポートに変わって3年間、プロ入りしてからもうすぐ4年半くらいになるのですが、解説者についてはkatsudionさんからお声がけいただいて、きっかけを作っていただきました。

──まだプロとしてやりたいという気持ちと、次の道に進む葛藤もあったんですか?

Nemoh:いや、本当に悩みに悩んで……プロ入りする時よりも悩んだかもしれないです。

やっぱりプロとして貪欲に勝っていくというのが僕としても望んで行っていたことだったので、諦めるというわけではないですけど、解説の道に逸れるということになりますよね。あくまでまだ選手としてやるかもしれないので、「逸れる」という言い方をしますが、実はずっと悩んでいて、今でも悩んでいます、正直。

──それは、「Spring Split」と「MSI」を終えた今でも、ですか?

Nemoh:はい。ただ、まずは1年解説者を務めてみないと、半年ではつかみきれていないものもありますし。どこまで解説として上達できるのかとか、キャスターやMCとしての仕事もこれからもらえるかもしれないとかも考えていて。いわゆるeスポーツ選手のセカンドキャリアの部分ですよね。そこに対して僕は多分、他の選手よりもかなりスムーズに来れたとも思っているので、やはり今のこの立場を逃すのかというところでも本当にかなり悩みました。

──プロチームには所属していないですが、仕事も解説者一本ですか?

Nemoh:いえ、1月頃から昼間は一般職をしながら、LJLの解説と二足のわらじのような形でやらせていただいています。

──そこの両立も大変そうですね。

Nemoh:そうですね、ダブルワークを許していただいてはいますが、メインの仕事をおろそかにするわけにもいきませんから。

Nemohの強みは、プロとして戦ってきたからこそわかる目線


──katsudionさんに誘われるまで、解説を自分でやりたいとか、そういう道もあるかもしれないと考えたことってあったんですか。

Nemoh:1度だけありました。僕はプロになる前に、eスポーツの専門学校みたいなものに通っていて、在学中にプロ入りしたんですが、その卒業校で一度解説をする機会がありまして、神視点で見る『LoL』を解説していくのが楽しいって思ったことはありました。

ただ、正直解説者のスタートはだいたい「LJL Academy」とか2部リーグ、「スカウティンググラウンズ」とかからスタートして、徐々に経験を積むというのが常だと思うんです。僕はそのステップを飛ばして入っているので、その点がプレッシャーにも感じてはいましたね。

──悩みもあったとのお話ですが、いちファンとして見ていて、初めてとは思えないくらい落ち着いてるし、説得力があるというか安定している印象がありました。誰かと練習したり、参考にした人とかもいるんですか?

Nemoh:参考にしているのはもちろん、Revolさんやリクルートさん、eyesさんなどの先人のみなさんです。みなさんにアドバイスを聞きましたし、練習に関しては本当にkatsudionさんにつきっきりで教えてもらいました。僕はSpring Splitではだいたい金曜日の担当だったんですが、解説の2、3日前に仕事終わりの20時頃からkatsudionさんに、「すいません、練習にお付き合いお願いします」とお願いして、そのまま2時間、3時間と練習に付き合ってもらっていましたね。

練習の後も、自分がどういったことを話すのかをまとめたり、オンラインでも実況/解説の軽い練習をしていただいたりと、本当にご協力いただきましたね。

──実際にファンからの評判はどうでしたか? いいも悪いもいろいろ聞こえてきたかもしれませんが……。

Nemoh:実は評判はあまり見ていないんです。僕、メンタルが弱いので。

──そうなんですか?

Nemoh:そうなんですよ。あまり強い言葉が書かれていたりすると落ち込んじゃうので、直接お声がけしていただくポジティブな言葉だけ聞き入れるようにしています。

──自分自身では、Nemoh流の解説の良さはどこにあるとお考えですか?

Nemoh:そうですね。これに関しては何よりも元プロとして、この選手はどういった癖がある、この選手はこういうプレーをするという、実際に対戦していたからこそ話せる内容であったり、こういう環境にいた自分だからこそできる解説を目指していきたいと思っています。

──確かに選手目線とか、こういう場面ではこう行動するのがセオリーといった解説には、あたかも自分がプレイヤーとしてそこにいるような、ファンの目線にも近いイメージがあります。

Nemoh:僕の中では、勝っているチームサイドでのゲームの予測を展開してから、負けているチームに関するゲーム展開を予測するというテンプレートのようなものがありまして。どういう意図があってこういう動きをするのか、という解説を交えていくのが僕のスタイルですね。

元プロというところと、サポートだったので視界に関すること、あとは、ゲーム中に選手がやりたいことの予測に関しては、他の解説者と比べた時の僕の強みかなと思います。


解説では『LoL』の正式用語や禁止用語に四苦八苦……


──「Spring Split」の中で、やらかしてしまったことと、うまくいったことなどはありましたか?

Nemoh:やらかしてしまったことはいっぱいありすぎました。やはり公式番組なので、NGワードには気を付けています。それと、「LoL」はキャラクターのことをチャンピオンって呼ぶじゃないですか。なので、統一しなければいけないんですけども。どうしてもキャラクターと呼んでしまったり……。

──記事を執筆する人間としても、とてもよくわかります。

Nemoh:こういったところは常に矯正しようと思っているんですけど、意識しすぎるがあまり逆に出ちゃうんですよね。まだ不慣れで、公式の場に立つ人間としてまだまだです。

──言ってはいけない言葉というのは具体的にはどんなものなんですか?

Nemoh:「キル」「デッド」などのゲーム内で使われている用語はいいんですけど、「死ぬ」「殺す」など、いわゆる映像業界のNGワードがダメなのは同様です。『LoL』ならではという点で矯正した方がいいと言われたのは、チャンピオンのスキル名とかルーン、サモナースペルの読み間違いですね。僕、間違えて覚えていたものも多くて。

──読み方を、ですか?

Nemoh:というのも、プロ入りしてからずっと韓国サーバーでプレイしていたので、日本語の名前を正式に覚えていないものも多かったんですよ。プロ入りする前もプレイはしていたんですが、例えば「プレスアタック」を「ブレスアタック」って言ってたんですけど、正解は「プレスアタック」なんですね。

──普段使う言葉ではないし、声に出さないとあまり気にしませんよね。

Nemoh:どちらかというと口にするのは実況の方が多いんですけど、やっぱりアルティメットスキルの名前とかを叫んだ方が盛り上がるシーンはあるじゃないですか。そんなシーンで名前が出てこない時に、どうしてもQWERなどのスキルセットで言ってしまうところはまだまだですね。

──考えてみれば、160体超×スキルセット分ありますからね……。逆に、自分の中でここはうまくできた、という瞬間ってありましたか?。

Nemoh:パッと思いついたものがひとつだけあるんです。前提として、集団戦などのファイトが始まったら、そのシーンの状況をしゃべるのは実況の役割じゃないですか。なので、極力解説はしゃべらないのが鉄板なんですね。

ただ、ファイトが起こった瞬間にアーリの「チャーム」が使えるようになるタイミングがだいたいわかったので、「チャームが上がりますよ」とひと言言った次の瞬間に「チャーム」がヒットして、相手が負けたというシーンがありました。

僕としては、プロとしての経験やいつも意識してきた時間感覚が、解説をしていても生かされたという意味で、うまくいった解説だったかなと思います。

DAY3のDFM vs CGAの初戦。Aria選手が操るアーリのスキルのクールダウンに注目


──確かに、選手じゃないとそこまで意識するのは難しそうですね。ファンとして見る限り、Nemohさんはいつも落ち着いている印象だったのですが、解説がうまくいかずにへこんだりはしなかったですか?

Nemoh:いやー、めちゃめちゃへこんでいましたよ。先輩たちと自分を比べてしまって、あの人たちはここまでできるけど僕はこれができないとか。僕自身、『LoL』に使える時間が減ってしまっているので、どうしても自信がなくなってしまうんですよね。

僕は基本的に数をこなして、それを頭の中にインプットするというタイプなので、そもそもゲームをする時間が削られてしまってる中でも、新しい情報に追いついていかないといけないという焦りとか不安はありましたね。

──では、解説するために一番時間を割いていることは?

Nemoh:プレイする時間が取れないので、見る方に比重を置いています。本来であれば、僕も配信しながらプレイしたいんですけど、メインの仕事が遅くまであったりすると配信できないことが多くて。たまに配信していても、プロ生活から半年弱抜けるとこれだけハンドスキルが落ちるんだなと実感します。

Nemoh氏個人のYouTubeチャンネルでは、初心者に向けたアドバイスやプレイ動画なども配信している


──でも、セカンドキャリアという意味で言うと、安定した仕事もあって解説者をやれるというのはすごくいいことだとも思うんですけど、今後はどういう方向に行きたいとお考えですか?

Nemoh:そうですね、目指す方向としては『LoL』の元プロという実績も生かしつつ、FPSなども含めたマルチゲーマーとして、キャスター・MCなどの仕事をやっていきたいと思っています。今は二足のわらじですが、やはりゲーム1本にしたいという気持ちはあります。

──プロの経験を持ってできることがあるというのは、たくさんの選手にとっても次につながる道を示すことでもありますよね。

Nemoh:そうですね。『LoL』を中心にマルチに活動されているのってZerostさんとかBrookさん、あとはAXIZの先輩のDay1さんとかがいらっしゃいますが、みなさんのような形で、キャスターとかMCとかもしていくのが、僕の将来の展望です。


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