【大会レポート】「Worlds 2024」グランドファイナル、T1 vs Bilibili Gamingの勝敗を分けたポイント

2024.11.8 あかさん
リーグ・オブ・レジェンド』(LoL)の世界大会Worlds 2024」のグランドファイナル(決勝)が現地時間11月2日(土)の深夜〜3日(日)早朝にかけて行われ、韓国代表のT1が中国代表のBilibili Gaming(BLG)を下し連覇を達成。今年殿堂入りを果たした伝説のプレーヤー、Faker選手が5度目の世界制覇を成し遂げて幕を閉じた。


同時接続だけでも600万人以上のファンが見守るなかで行われたこの1戦は、10年以上の観戦歴を持つ筆者から見ても史上最高のグランドファイナルと言ってもいい内容だった。

本記事ではいくつかのポイントに絞って、難解な本大会のメタに立ち向かったプレーヤーたちの凄さを解説してみようと思う。

ある意味対照的である意味そっくり──T1 vs BLG 決勝までの道のり


各地域を代表する20チームが集まった「Worlds 2024」で最後まで生き残り、ロンドンで行われるファイナルへと駒を進めたT1とBLGだったが、その道のりは決して順風満帆と言えるものではなかった。


T1



T1 ロスター
トップ Zeus
ジャングル Oner
ミッド Faker
ADC Gumayusi
サポート Keria

T1 2024年シーズン戦績
LCK Spring 2024
(グループステージ 2位/プレーオフ 2位)
2位
MSI 2024 3位
LCK Summer 2024
(グループステージ 4位/プレーオフ 3位)
3位
LCK リージョナルファイナル 2位
Worlds 2024 1位

T1は韓国国内リーグで非常に苦しんだ1年だった。サマーシーズンも3位で終わり、シーズン優勝を逃した。

その後の「Worlds」出場権をかけたリージョナルファイナルでも最後の最後まで苦しみ、ライバルKT Rolsterとの激闘を制し、なんとか最後の1枠に滑りこんだ。


今季の不調の原因は1つに絞り切れないが、目立っていたのはミッドのFaker選手の不調だ。今年殿堂入りが発表された「生ける伝説」は、トリスターナやコーキといったマークスマンがピックされる変則的なメタへの対応に苦しみ、レーン戦から不利を背負ってしまう場面が多く見られた。

個人スタッツで見ても、CSD@15、GD@15といったレーン戦の指標は軒並み「0」付近の数値で、チームを引っ張ってきたレジェンドが「平均的なプレーヤー」といった程度のパフォーマンスしか発揮できていなかったのだ。

CSD・GDとは

「CSD」(Creep Score Difference)は対面のプレーヤーとのCS差、「GD」(Gold Difference)は対面プレーヤーとのゴールド差、「@15」は15分までの意。この数字が大きいほどレーン戦でリードを作れていることになる。

参考として「CSD」で例を挙げると、Gen.GのChovy選手が+12、HLEのZeka選手が+5、Faker選手は+1だった。

しかし、「Worlds」開催地であるヨーロッパに来てからのT1は、Faker選手自身も含めどんどんパフォーマンスを改善していった。

本大会で使用されたパッチ14.18はサマーシーズンのメタと全く異なり、ミッドにはメイジが採用される調整になっていたのもその一因だろう。

また、今回のような急激なメタの変化は、経験豊富なベテランやコーチ陣を抱えているチームに有利に働く傾向にある。逆に若手が多いチームは苦戦を強いられた。トップ/ミッドが若手の北米代表100 Thievesや、ルーキーを4人そろえたロスターでEU代表になったMAD Lions KOIは、実力を発揮できないまま大会から姿を消すこととなった。

160体を超すチャンピオンを、パッチの変化に応じて使い分けなければいけないという『LoL』の競技シーンの難しさ、厳しさが見て取れた「Worlds」だったと言えるだろう。

11年目のベテランと優秀なコーチ陣を有するT1は、初戦こそTop Esportsに敗れたものの、その後は危なげなく勝利を積み重ね、3勝1敗でスイスラウンドを突破。ノックアウトステージでは初戦で敗れたTop Esportsに3-0でリベンジすると、1年以上勝てていなかった同じ韓国の宿敵、優勝候補筆頭のGen.Gを3-1で破って決勝へと駒を進めた。


Bilibili Gaming



Bilibili Gaming Dreamsmart ロスター
トップ Bin
ジャングル XUN(Wei)
ミッド knight
ADC Elk
サポート ON

Bilibili Gaming 2024年シーズン戦績
LPL Spring 2024
(グループステージ 1位/プレーオフ 1位)
1位
MSI 2024 2位
LPL Summer 2024
(ランブルステージ 1位/プレーオフ 1位)
1位
Worlds 2024 2位

そんなシーズン終盤にかけて尻上がりに調子を上げてきたT1とは対照的に、BLGは国内リーグから絶好調だった。

サマーシーズンは、強豪チームのみで編成された上位リーグで7勝1敗の1位抜け。プレーオフでも勝率9割を記録して、「LPL」国内リーグ優勝を果たした。


しかし、「Worlds」に来てからのBLGは精細を欠いた。

ボットのElk選手、ON選手の不調もあったが、プレーオフで大活躍したジャングルのWei選手がうまくメタに対応できなかったのも大きな問題だった。

そこで、スイスラウンド1勝2敗と追い詰められたタイミングで、控えに回っていたXUN選手を投入することになる。3カ月近く実戦から遠ざかっていた彼を起用するのはコーチ陣としても勇気のいる選択だったと思うが、これが功を奏した。

復帰戦のPSG Talon戦ではさほどいいパフォーマンスとは言えなかったが、続くG2 Esports戦、Hanwha Life Esports戦と徐々にパフォーマンスを上げていき、中国を代表するミッドレーナーのknight選手との強力なジャングル-ミッドラインを復活させることに成功したBLGは、準決勝のWeibo Gaming戦では完全にサマーシーズンの時の輝きを取り戻していた。


夏の不調を「Worlds」で盛り返したT1、逆に夏好調で「Worlds」で調子を崩したBLGと、ある意味対照的な両チーム。だが、不調期を乗り越えて決勝の舞台に立つことができた、という意味では似た道を通ってきた2チームでもあった。


ドラフト戦術の鍵となったチャンピオン


さて、決勝のドラフトを見ていく前に、「Worlds 2024」を語る上で欠かせない本大会のメタの要点について、軽くふれておこう。

バンまたは即ピックされる3体のチャンピオン──オーロラ、ヨネ、スカーナー



この3体は、「Worlds」開催中のパッチであるパッチ14.18において評価が非常に高く、ほとんどが1stバンフェーズで消されるチャンピオンたちだ。

ただし、こういったOPチャンピオンが3体もいる場合、レッドサイドがドラフト面で不利になりすぎるため(基本的にOPチャンピオンをバンするのはレッドサイドになるので)、レッドサイドとしてはこのうち1体だけをバンし、残りの2体を分け合うといったドラフト戦術を採る場合がある。

決勝では、ゲーム1でこういったドラフトが行われた。

鍵となる2体のADC──カリスタ、アッシュ



どちらも序盤から力を発揮できるADCで強力なエンゲージ能力を有しており、自分で作った序盤のリードをエンゲージ能力を生かしてスノーボールしていくことが可能なため、ピックすることでゲームの主導権を握ることができる。

T1 vs BLGの場合、Gumayusi選手がカリスタ、Elk選手がアッシュを得意としており、両チーム視点で見ると、これらの片方だけを渡すドラフトは行いたくない。


強力なトップレーナー──ジャックス



本大会のトップはジャックスとナーを中心にメタが動いていたが、最終的にはジャックスの評価が一番上となった。

ナーの評価がやや落ちたのは、ミッドのメタの中心にサイラスが上がってきたため。ナーをピックするには、サイラスを自分たちで取る、もしくはバンするといった下準備をする必要が出てきてしまったからだ。

一方、ジャックスはある程度どんな構成にもマッチし、終盤にはゲームを壊せるだけのポテンシャルを持っている。また、上記の2体のADCの次点評価になるカイ=サとも相性がいいため、ナーよりも簡単にピックできるというわけだ。

BLGのトップ、Bin選手は特にジャックスを得意としており、決勝までに8回ピックし、7勝1敗の好成績を残していた。T1としては彼にジャックスを可能な限り渡さないか、仮に渡すとしても確実に用意してきたカウンターピックをぶつける必要があった。


数々の名場面を生んだ「Worlds 2024」グランドファイナル


これらの状況を踏まえた上で、フルセットまでもつれ込んだ「Worlds 2024」グランドファイナルの各ゲームのバン&ピックから、試合の流れに沿って順を追って見ていこう。

ゲーム1:レベル1ですべてが終わってしまった


ゲーム1のバンピックフェーズ

ゲーム1のドラフトは、ヨネとスカーナーをトレードしあう形にして、BLGはアッシュを獲得。トップの主導権を取りたいT1はジャックスをバンしてナーを取るが、そこにknight選手のサイラスを合わせられてしまう。

T1のケイトリン・ブラウムのボットピックはおそらく準備してきたもので、レーン戦を無事行うことができれば、セジュアニ、ブラウム、ヨネで相手のスカーナーを捕まえてゲームから除外するというゲームプランになっている。

一方、BLGは豊富なエンゲージ手段と中盤にパワースパイクが集まる構成を選んでおり、積極的にオブジェクトファイトをしかけてスノーボールをしていこうという構成だ。

ただ、ここまで両チームの思惑を解説したものの、T1目線で話すとこのゲームはレベル1でGumayusi選手が捕まってしまったことで台なしになってしまった。

knight選手がドラゴンピットの壁を抜けて裏から回り込んでのファーストブラッド獲得。T1はレベル1ファイトが強いブラウムをピックしていたことから、相手が仕掛けてこないと予想していたのだろうか。


これにより、ケイトリンでレーンに勝って相手の強い時間をやり過ごすことができなくなってしまったT1は、BLGの豊富なCCにからめとられ、スノーボールを許してしまう。


BLGはつかんだ有利を手放すことなくしっかりと勝ち切り初戦を制した。

T1としてはドラフト面にも問題があったように見えたが、それがはっきりする前にゲームが終わってしまったのは痛手だった。逆にBLGとしては、このパッチで不利とされているレッドサイドで初戦を制することができ、シリーズの主導権を握ることに成功した1戦となった。



ゲーム2:レーンスワップの生かし方


ゲーム2のバンピックフェーズ

序盤の事故から初戦を落としてしまったT1は、ドラフト面でも工夫を加えてきた。ブルーサイドなのにもかかわらずヨネをバンする作戦だ。このバンによって、BLGはオーロラに加えてスカーナーをバンする義務が生まれるので、実質バン枠が残り1つになってしまう。

もしゲーム1のようにヨネとスカーナーを両方開けるドラフトにする場合、BLG側が2つバン枠を使って自由なドラフト戦術を仕掛けることができてしまう。そのため、自分たちのバン枠を1つ犠牲にしてヨネをバンし、それを防ぐのがT1の狙いだ。

T1がカリスタとアッシュでカリスタを優先したのは少し意外だった。どちらもレーン戦からパワーを発揮するチャンピオンだが、対面した場合の相性はアッシュ有利とされているからだ。しかし得意のレーンスワップで序盤のレーン戦をスキップできれば問題ない、というのがT1側の主張となっている。

それに対し、BLGはサイラスに対してガリオをカウンターでピックし、ミッドレーンの主導権を握って戦おうという考えにみえる。

レベル1ではまたGumayusi選手が捕まってしまう事件があったものの、このゲームはT1ペースで進むことになる。

スワップゲームということで、それぞれが孤立したZeus選手、Bin選手に対してプレッシャーをかけていく展開になったわけだが、Zeus選手はタワー下で果敢にもファイトを選択し、1-1のキルトレードに持ち込んでBLGの狙いを挫いたのに対し、Bin選手はタワー下で粘ることができずにゾーニングされてしまう。

そのカバーのために、BLGはON選手、knight選手を逐次投入することになるが、それが被害を広げる結果となり、トップレーンでのファイトでT1が勝利。一気にゲームのテンポを握るとそのままゲーム2を制した。

なぜZeus選手とBin選手でここまで差が開いてしまったのかというと、序盤のテレポートの使い方に原因がある。


Zeus選手はレーンイン後にElk選手、ON選手のハラスによって体力を削られてしまうが、リコールせずにタワー下で我慢した。それに対しBin選手は、ミッドレーンをガンクするような動きでknight選手を助けた後にテレポートを使用して、トップレーンのカバーを行っている。

Zeus選手はダイブによって倒されてしまうものの、テレポートを温存していたことですぐにレーンに復帰でき、最小限の経験値ロスだったのに対し、Bin選手はもしタワーダイブを受けてZeus選手のようにキルトレードに持ち込めたとしても復帰のためのテレポートがないので、大きなロスを背負うことになる。そのため、大胆なプレー選択ができなかったのだ。

せっかくBin選手の時間を使って有利を作ったミッドレーンも、Bin選手の負債を返すためにリソースをかけてしまい、最終的にBLGはどのレーンもアドバンテージを持てない状態に陥ってしまった。

レーンスワップ時のリソース配分や対応といった点でT1が1枚上手だったゲーム2。これでシリーズは1勝1敗のタイに戻した。



ゲーム3:修正力を見せつけたBLG


ゲーム3のバンピックフェーズ

ゲーム3、そして次のゲーム4は、今大会のレッドサイドドラフトの難しさが出てしまった展開となった。

レッドサイドのT1としては、
  1. 当然、オーロラ、ヨネ、スカーナーはタダでは渡せない
  2. 自分たちがアッシュを取れないならカリスタを渡したくない
  3. Bin選手のジャックスもプレーさせたくない
と、3つのバン枠に対して、気にしなければいけないことが多すぎる。

3つ目のニーコのバンはまさに苦肉の策だった。カリスタと相性のいいサポートの1番手はレナータ・グラスク、ニーコは2番手なので、それをバンしておくことで、BLGが1stピックでカリスタを取ったらT1はジャックスとレナータ・グラスクを、BLGがジャックスを取ったらT1はカリスタとレナータ・グラスクを取る、といった作戦になっている。

BLGはボットにブリッツクランクを選択。主導権を握ったゲームでは高いプレッシャーをかけられる代わりに、負けている展開になると途端に活躍が難しくなるハイリスク・ハイリターンなチャンピオンだ。

ゲーム2では狙い通りのガリオvsサイラスのマッチアップをつくったものの、スワップゲームのリソース分配に失敗したBLGだったが、ゲーム3ではミッドが同じマッチアップながら、きっちりと修正を加えてきた。

XUN選手は物理ダメージの高いキンドレッドをピックし、ガリオ、オーンとの組み合わせを良くしつつ、ジャックス、サイラスというやや序盤は弱いT1の上半身(トップ/ミッド/ジャングル)にプレッシャーをかけていく。



ガリオが先にウェーブクリアできることを生かして、リバーでXUN選手がフラッシュインからOner選手をキャッチしてファーストブラッドを獲得。

ヴォイドグラブのタイミングでは、ON選手がリバーの視界確保に向かったかのようなフェイントをかけてFaker選手へのガンクを成功するなど、リスキーなピックがしっかりと機能しリードを広げていく。



ブリッツクランク、キンドレッドのプレッシャーに耐えかねたT1はトップレーンで浮いていたknight選手を狙うものの、「ホロウレディアンス」と「リフトメーカー」が完成したガリオにダメージを通すことができず、カウンターエンゲージを受け万事休す。

BLGが2勝1敗とし、王手をかけることに成功した。

対中国チームに無類の強さを誇り、今大会でもBLGを1回破っているT1が有利とされていたが、追い込まれる形になってしまった。



ゲーム4:レイトゲーム構成を許さない両チームのゲーム運営能力


ゲーム4のバンピックフェーズ

今度はBLG側がレッドサイドの作戦に悩むドラフトになった。

ゲーム2でのGumayusi選手のパフォーマンスから、BLGはラストバンにカリスタを選択。当然T1はアッシュを確保し、これによりBLGはボットの選択が難しくなった。

候補はジグス、カイ=サ、ザヤなのだが、その中からBLGはジグスを選択。となるとミッドにはADチャンピオンを置く必要性が出てくる。

そのためにBin選手のナーをあえて先出しし、Faker選手のサイラスを呼び込んで、サイラス対面ならある程度レーニングができるミッドスモルダー、という組み立てのドラフトになっている。

しかし、そこはさすがにジグス。スモルダー構成は今大会何度か挑戦したチームがあったものの、ゲームをキープするのに苦労していた印象だ。それがT1相手に通じるかどうか、といったところ。

ゲーム2の反省からBLGは、①Bin選手のテレポートを温存する、②Zeus選手を徹底的にガンクして潰す、という2つの作戦を実行する。

しかしアッシュ、レナータ・グラスクの強力コンビの前にBin選手は序盤のファーム場所を失い、スワップを戻したあとのElk選手もゾーニングを受けてしまう。



0/3/0と潰したはずのZeus選手にゴールドでも経験値でもビハインドを背負ってしまったBin選手は、レーンのコントロールが行えず、1体目のドラゴン、ヴォイドグラブともにT1の手に渡ってしまう。

かなりのリソースを割いて育てたElk選手もFaker選手にソロキルされてしまうなど、ちぐはぐなプレーになってしまったBLGは、T1の中盤戦構成に押しつぶされ、3ガンクで稼いだリードを失っていく。



BLGもT1の強引なタワーダイブを咎めるなど見せ場はあったものの、Faker選手の完璧なエンゲージが決まってT1はバロン獲得。そのままスモルダーやジグスの時間が来る隙を与えずに押し切って2勝2敗となり、「Worlds 2024」はBo5最後の1戦までもつれ込むこととなった。



ゲーム5:冷静さと勝利への執念がこもった、たった1度の通常攻撃



苦しい、難しいと言ってきたレッドサイドのドラフト。T1はBo5最終戦、今シーズン最後の戦いでいきなり戦略を変更してきた。

2つ目のバンまではゲーム3と同じだが、T1は最後のバンでカリスタを消している。これは一般的には悪手だ。なぜなら、カリスタ以外のチャンピオンを消しておけば、上でもふれたキーとなっているチャンピオンのうち、ジャックスかカリスタをピックできるからだ。

ゲーム4でもBLGは同様のドラフトをしたが、実際Gumayusi選手にアッシュを渡したことが敗着の1つになってしまったし、なんといってもT1はあの手この手で回避してきたBin選手のジャックスをタダで渡しているようなものなのだ。

BLGはもちろんBin選手のジャックスを確保。この流れなら並のチームならナー、サイラスとティアーの高いチャンピオンを取りつつ、相手にナーのアルティメットを利用されないようなドラフトにするところだ。

しかし、T1はグラガスとガリオをピック。これはカリスタバン以上にインパクトのある決断だった。

グラガスはジャックスに対するカウンターピックで、Zeus選手は今大会でも複数回このマッチアップをプレーしている。選択肢として疑問はないのだが、ザヤ&ラカンやサイラス、カイ=サといった、一般的に優先度の高くBLGがピックしそうなチャンピオンではなく、相手チームが取りそうもないグラガスを優先するのは、ドラフトの優先権を捨てたようなものだ。

ガリオも、ノックアウトステージから評価を上げたものの、先出しされることは稀で、リアルタイムで観戦していた筆者もT1の意図を計りかねていた。

しかし、ドラフトが進行するにつれてわかってきたのは、T1の全く新しいドラフト戦術だった。

従来のレッドサイドのドラフトは「ブルーサイドが選ばなかった強いチャンピオンを選ばされる」ことが多かった。それでは主導権が取れないと考えたのだろう、「相手を見てから自分たちでチャンピオンを選ぶ」へと切り替えたのだ。

受動から能動へ。聞こえはいいが、実際には“相手に取りたいOPチャンピオンを自由に取らせる”ということとほぼ同義なので、非常にリスクの高い、また負けたら批判は免れないような戦術だ。

BLGの目線に立ってみると、ジャックスに対してグラガス、ガリオを先出しというT1の最初の2ピックからは、T1の狙いが読み取りづらい。

ガリオを出されたのでサイラスは取りづらく、ならばとknight選手お得意のアーリ、キャリアで60試合ピックして勝率8割以上を記録する彼を代表するチャンピオン、そしてジャックス、アーリとのかみ合わせが良く3番目に強いとされているADCカイ=サと、順当に強いチャンピオンを選んでいく。

Gumayusi選手はそんなBLGの飛び込んでくるチャンピオンたちに強いザヤを選択。4thピックで取ったポッピーもT1の残ったロールであるジャングル-サポートのフレックスピックで、BLGに全く情報を与えようとしない。

チャンピオンのパワーを少し落としてでも、相性のいいピックを当てるという作戦に出たT1。それに対して、XUN選手のジャーバンIV以外は今大会トップティアーのチャンピオンで固めたBLG。

王道のピックをした挑戦者と、定跡から外れたピックで答えてきた前年度王者という対照的なドラフトになった最終ゲームは、序盤T1ペースでゲームが進んでいく。



ザヤとカイ=サのマッチアップ有利を生かして近くでファイトを起こし、オブジェクトを獲得していくT1。



それに対し、BLGはトップへのダブルテレポートを使ってキルを取り返すと、以降は無理に争わずに緩やかにオブジェクトを渡しながらミッド周辺の視界を確保し続け、Elk選手とBin選手の成長を待つ作戦を実行していく。

T1はZeus選手がBin選手を抑え込むことには成功しているものの、全体的に射程が短く、エンゲージ距離も短めの構成なため、ミッドのアウタータワーをなかなか破壊できず、Elk選手のファームを咎めることができない。

試合は動かず、徐々にBLGが有利になっていく展開のまま、後半戦と言われる時間帯にさしかかっていく。

ゲーム時間27分30秒、T1はついにリコールタイミングを突いてミッドタワーを攻略するが、ここでElk選手のカイ=サのコアアイテムが3つ完成。ここからゲームが一気に動く。

視界取りの小競り合い中にOner選手がXUN選手に仕掛ける形でファイトが始まり、ジャーバンIVのアルティメット「決戦場」がザヤに直撃。たまらず「フェザーストーム」を切ったGumayusi選手だったが、無敵時間の終わり際にknight選手のアーリがチャームを発射。これにGumayusi選手は反応できたもののフラッシュを落としてしまう。



それを逃さずにバックラインに飛び込んだBin選手とElk選手は、Keria選手の「守護者の鉄槌」をしっかりと回避し、Gumayusi選手を倒し切った。

T1は1キルを返すものの人数不利の状況かつ、メインのダメージディーラーを失い絶体絶命の状況だ。BLGはゲームを決定づけるため、ミッドレーンを挟んで反対サイドへBin選手をテレポートで送り込む。



しかし、この決断が裏目となった。

一時的に人数差がなくなったのを見逃さなかったT1は、すぐさまknight選手のアーリにフォーカスを合わせると何もさせずに倒しきり、そのまま3v4の集団戦を0-4で制してバロンナッシャーを討伐。

最後はBLG決死のトップガンクをZeus選手、Faker選手がさばききってゲームエンド。T1が2年連続、5度目のサモナーズカップを手にした。


このミッドでの集団戦、ジャックスのテレポートの是非やガリオのフラッシュインが話題にされがちだが、私としてはOner選手が放った1発のAAについてふれておきたい。

Gumayusi選手とKeria選手が倒され、ミッドレーンに逃れていくT1メンバー。フラッシュインQでON選手を倒したOner選手は、BLGメンバーの追撃から逃げながら、ミッドレーンに流れてきた敵ミニオンに1回AAを入れていた。



逃げるだけなら必要のないプレーだが、これによってOner選手のシン=ジャオのQの持続時間とスタックが確保され、Faker選手のフラッシュインタウントの直後に3回目のQ=ノックアップが発生し、ガリオの「正義の鉄拳」へとCCチェインがつながったことで、knight選手は何もすることができずに倒されてしまったのだ。

世界大会の決勝、Bo5の最終戦、そして5時間近く集中してプレーを続けてきたというシチュエーション──ゲーム内容としても自分たちが築いていたリードを失い、ファイトに敗れ、「敗退」「シーズン終了」という言葉が脳裏にちらつく、精神的につらい状況だ。

そんなときでも、冷静にファイトのチャンスを伺って自分のスキル状況を把握し、ミニオンに1回AAを入れてタイミングを待つ。この過酷な大会を連覇した王者に相応しいメンタリティを象徴する1シーンだったと言えるだろう。

そして、敗れたBLGも素晴らしい戦いぶりだった。

「Worlds」に来てから調子を上げたT1とは裏腹に、大会中に調子を落とした状態から立て直すというのは並大抵のことではなかっただろう。

最終戦も見事なゲームメイクで、レイトゲーム構成が苦戦しがちだったこのファイナルの中で見事に相手をコントロールしており、コーチ陣のフィードバック能力、選手たちの修正能力の高さを証明してくれた。

中国人選手5人での「Worlds」制覇は持ち越しになってしまったが、間違いなくもっとも肉薄したチームだったと言えるだろう。

BLGコーチのEasyhoonとT1のFaker選手の物語など、まだまだ語るべきことはあるが、長くなりすぎるので本記事ではこの辺りにしておこうと思う。


まとめ


この素晴らしいBo5をもって、『LoL』の2024年シーズンはすべて終了となった。

2025年は世界大会の開催が1つ増え、「フィアレスドラフト」という新ルールが本格採用される予定だ。日本の『LoL』シーンについて言えば、「LJL」を含むアジアリーグも再編され、「Worlds 2025」は今年までとはまた変わった様相になっていくだろう。

ただ間違いなく言えるのは、「Worlds 2024」グランドファイナルは、数年後に「Worlds」の形式がどんなに変わったとしても語り継がれる、そんな名勝負だったということだ。

本記事を読みながらアーカイブ動画を見直すと、より一層「World 2024」を楽しめると思う。ぜひあらためて決勝の振り返りを読者の皆さん自身でも試していただきたい。




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