「LJL」の申し子・リールベルトが語る『LoL』に生きたこの10年【「LJL」解説者 リールベルト氏インタビュー 前編】

2020.9.2 宮下英之
2020年の「League of Legends Japan League」(LJL)に解説者として“英雄降臨”した、「大天使」ことリールベルト氏。

昔からの「LJL」ファンであれば、彼のプロ選手→コーチ→解説者というキャリアについても当然知っているだろう。「LJL」黎明期から現在まで『LoL』の世界でキャリアを積み重ねながら、あらゆる角度から「LJL」を見続けてきた人物だ。

共に切磋琢磨してきた仲間やライバルたちが今も戦い続けている日本の『LoL』プロシーンに対する目は常に鋭く、コーチのキャリアから発展した若手育成の取り組みからは、これからの日本の『LoL』への期待と自らの役割についても意識している姿が垣間見える。

そんなリールベルト氏に今一番聞きたいのは、eスポーツにおける「育成」という視点。若くしてプロデビューするeスポーツのプロたちが、セカンドキャリアも含めて人生を考えていく上で、プロからコーチや解説者へと転身したリールベルト氏自身の歩みから学べることがあるのではないかと考えたからだ。

前編ではまず、リールベルト氏が『LoL』とともに歩んできた半生を振り返っていただいた。



なお、今回は新型コロナウイルス感染症の影響を鑑みて、オンラインでのインタビューを実施した。

アマチュアチームから「Rascal Jester」へ


ーーそもそもリールベルトさん自身は、『リーグ・オブ・レジェンド』を普通に遊んでいるところから「LJL」に入ったんでしたよね?

リールベルト:はい、2012年〜2013年頃ですね。当時は『LoL』のコミュニティ大会をベースにずっとプレイしていました。きっかけはJCGの大会で優勝した経験です。いい成績を収める中で、サンコー(当時の主催団体)が招待制で「LJL」をやろうっていう中の1チームとして呼んでいただいたのが最初のきっかけでした。

ーー他にもゲームは遊んでいたんですか?

リールベルト:主には、『スペシャルフォース』っていう韓国発のFPSです。やっていたメンバーで言うと、Sengoku Gaming所属のapaMEN(アパメン)とか、元Rascal JesterでチームメイトだったRkp(リキピー)とかは、同じチームではなかったんですけど同じゲーム出身です。

ーーMOBAがまだそれほど一般的ではなかった時代ですよね。

リールベルト:そうですね、国内では全く流行っていませんでした。『Dota』とか『Dota 2』とかは当時からあったかもしれないですが、こういうシステムのゲームに触れたのは『LoL』が最初でした。なんか新しくて面白いゲームだなあ、ってのが最初の印象で。

ただ『LoL』を始めた人みんな通るんじゃないかなって思うんですけど、僕も1、2カ月くらいで「ちょっともういいかな」って難しすぎていったんやめるんですよ(笑)。

ーー(笑)。

リールベルト:でも、なんだかんだでやっぱ戻ってきちゃって。そこからはもう抜けられなくなっちゃいました。

ーーそして、Rascal Jesterとしてプロになると。

リールベルト:正確に言うと、Rascal Jesterは「LJL」に参戦してからのチーム名なんですよ。元々「TeamSpeak」というサーバーの名前が「桃サバ」っていうサーバーだったんですね。そこから「ピーチサーバーオールスターズ」って名前でやってたんですよ、特に理由もなく。

ただ「LJL」に出ることになって、もうちょっとちゃんとした名前にするか、ってことで当時のメンバーで作ったのが「Rascal Jester」なんです。


二足の草鞋から始まったプロ生活


ーーそんな2013年当時って、「eスポーツのプロになる」っていうも今とだいぶ違ったと思うんですが、どういう感じだったんですか?

リールベルト:これ、本当に正直な当時の気持ちを言うと、「LJL」の中の人は僕らをプロとして扱ってくれたんですが、やっぱり僕らには全然プロっていう実感そのものはなくて。

というのも、「LJL」の初年度とかは賞金で食べていけるわけではなかったので、そんなに生活が変わるってわけでも、リーグに100%集中できるわけでもなくて。

なので、周りはプロって言ってくれるけど、僕らは今までと変わらない、っていうのが1、2年は続きました。

2014年の「LJL」でのRascal Jesterの選手としてのリールベルト氏


ーーそこから「プロのeスポーツプレイヤーになった」って実感できたのはいつ頃ですか?

リールベルト:僕個人としては、「LJL」がライアットゲームズ公式になった年ですね。リーグからもしっかり固定給のようなかたちでお金が出るようになって、ゲームに100%集中できるようになり、他の仕事をしなくてよくなったタイミングが、2015年〜2016年のことです。

ーー「LJL」の黎明期からの歴史をそうやってずっと経験されているわけなんですね。その後、現役を引退されてRJのコーチに就任したと。

リールベルト:一応、選手とコーチの間に「LJL CS」の解説をやらせてもらいました。これが半年から1年弱の期間でした。

「LJL CS Summer Split 2016」でのリールベルト氏。カツディオン氏とのコンビはこの頃から

選手を辞めるタイミングで、コーチも面白そうだなとか、コーチってやっぱり国内チームが成長していくのに必要だなって思っていたんですけど、解説している中で選手に「もっとこうした方がいい」と考えたり解説の中で言っているうちに、実際にコーチをやってみたいなって気持ちがどんどんどんどん強くなってきて。もろもろのタイミングも含めて、RJでコーチをやることになったっていう感じですね。

ーーなるほど。解説者という仕事も、実はコーチにつながっていたと。

リールベルト:そうですね。特に、自分の考えとか何が良くて何が悪いっていうのをわかりやすく短く説明するという部分で、解説者の経験が当時役に立ったな、って思っているので、必要なステップだったのかなって思います。


日本的な「ティーチング」と海外的な「コーチング」


ーーその後、RJのコーチに就任されて3年間を過ごすわけですが、コーチの経験はいかがでしたか?

リールベルト:RJのコーチになって教える時に、「ティーチング」しかイメージになかったんですね、そもそも。

簡単に言うと、答えをそのまま挙げてしまうのが「ティーチング」で、「コーチング」は考え方を修正していったり、相手の話をベースに答えに導く、みたいなイメージです。

で、自分のコーチングでやっていくと、最終的には選手が自分で考えなくなっていくんです。もっと悪い例で言うと、コーチの顔色をうかがうようになっていく。

選手が正しいと思っていることを考えたり言うのではなくて、コーチの僕が答えて欲しそうなことを言うようになっていっちゃうんですよ。それが実際に起こっちゃった選手とかもいて。ふと気づいた時に「ああ、このやり方は失敗だったな……」っていう出来事もありました。


ーーその「ティーチング」と「コーチング」というのは、ご自身が今まで教わってきたやり方が根底にあるんですか?

リールベルト:あるとは思います。

偉そうな話になっちゃうかもしれないんですけど、多分日本の教育自体がそういう押しつけ型なのかなって部分も正直ちょっとあって。「これをこうしなさい」っていうやり方じゃないですか、日本自体が。

ーー確かにそうですね。その違いに気づけたきっかけはなんだったんでしょう?

リールベルト:RJの選手時代に、韓国人のコーチでSpawNとHocuryという2人が1年くらいいたんですが、当時2人から学んだことがすごく大きかったですね。片方が鬼コーチ、もう1人がお母さんみたいな感じで。

コーチング中は厳しいんですけど、それ以外のところはすごく気さくで、「飲みに行こうよ」「ご飯行こうよ」「一緒にゲームしようよ」っていう感じでした。教え方とかもろもろはそれを見て学んだ部分も結構ありました。

ーーご自身では、どんなタイプのコーチだと思っています?

リールベルト:「感覚派」と「理論派」みたいなもので言うと、個人的には根っこの部分は「感覚派」なのかなって思ってるんです。ただ、チームゲームの場合、人に説明する必要があって、その中で理屈に落とし込んでいくのも好きでした。

友達と一緒にやっていく中で、「自分はこうしたいんだけど、こういうふうに合わせてくれない?」って説明する時に、理屈を説明しないと相手もわかってくれないわけじゃないですか。そういうことをやっているうちに、「こういうふうに説明しないといけないんだな」っていうのはなんとなく自分の中で貯まっていったと思うんですね。

あとは、「なんで?」って聞かれた時に説明できないことは“諦める”っていうのを自分の中でのルールにしているんですよ。

ーー諦める?

リールベルト:例えば自分が「こうやってください」と伝えた時に、「なんでそれが強いと思うんですか?」って聞かれて説明できないのであれば、「自分の理論はいったん間違っているってことにしよう」っていう自分ルールなんです。

感覚とか実経験として合っていたとしても、「絶対に俺の言うことは正しいから」とはやりたくないタイプなんですね。場合によっては「とりあえず試してみて」というケースもあるんですけど。

だからその分、ひとつひとつのことをちゃんと説明できるようにならないと人に教えられないので、徹底的に理屈で説明できるように、常に考えていたところはありましたね。

「LJL」で勝ち抜くために必要なこと


ーー引退されたあとなのであえて伺いたかったのですが、コーチだった時代を振り返って、「LJL」はもちろん、日本の「LoL」チームが強くなるためには何が必要だったと思われます?

リールベルト:一番簡単な方法で言うと、お金を使って、選手を引っ張ってくることです。

ーーなるほど(笑)。

リールベルト:ただ、それだとあまりにも身もフタもなさすぎるので(笑)、やっぱりコーチングスタッフはもう少し、可能であればもう2人いたら、とは思いますね。

コーチの手が届かない部分というのはすごくあるんですよ。というのも、チーム全体の「マクロ」って言われるような部分を修正するだけであればいいんですけど、それに加えて個人の「ミクロ」の部分を修正しようとすると、やっぱり1人だけだともうどうしようもないんですよね。

もっと言うなら、サブチームを作って育成するシステムですね。やっぱり下を底上げして、センスのある子はどんどん上げてチャンスを作って実戦を経験させて、っていうことをやらないと、現レギュラーの子たちも慣れちゃいますから。

ーーチームの資金事情もありますが、日本が今できていないところがそこだと。

リールベルト:そうです。それと、国内チームが海外に行って活躍するには、っていう話で言うと、韓国選手が4、5年くらい前に日本に来ましたが、その選手に対抗するために国内のレベルも上がりました。

その次の流れとして、コーチが全チームに最低1人、今は2人、3人いるチームも珍しくなくなってきています。おかげで各チームのベースのマクロレベル、コミュニケーションレベル、戦略・戦術のレベルも上がってきているのは事実です。

じゃあ次のステップは、って考えると、やっぱり「ポジションコーチ」だと思います。野球で言うとピッチングコーチ、バッティングコーチ、守備コーチ、走塁コーチみたいな感じで。それぞれの役割に対しての専門的なコーチングスタッフは、世界と比べて今一番劣っている部分だろうなって思いますね。


ファニーキャラクターとしてのリールベルト氏


ーー話は変わりますが、現在の「LJL」は吉本芸人のタケトさんや、グラビアアイドルの霜月めあさんが参加して観戦の敷居が下がった気がします。リールベルトさんは解説者ですが、試合中のコメントとかでその見た目からファニーなキャラとして扱われていますよね。率直に、ご本人はどういうふうに思ってるのかなと聞いてみたくて(笑)。

リールベルト:僕自身は大阪の出身で、タケトさんにもよくいじっていただくんですけど、いじっていただいたりポーズとか見た目とかもろもろ含めて「面白い」って言ってもらえるのは結構「おいしい」って思えるタイプなんです(笑)。マイナスに捉えてることは一切なくて、嬉しいっていうのが率直なところですね。

ーーそうなんですね。みなさんのおかげで「LJL」の新しいファンに対してもいい雰囲気を生んでいる気がしています。ただ、「大天使」って呼んでいいのかそうじゃないのかっていうのが、配信越しでは少しつかみにくくて気になっていたんです。

リールベルト:もう全然。もっと言っていただければ、っていうくらいです。


ーーそれは安心しました! でも大阪出身なのに関西弁、全然出ませんね。

リールベルト:なんだかんだこっちにきてから6〜7年弱くらい経ちますし。敬語だと出ないところも多分あって。控室とかではたまに「あれ? 関西出身ですか?」とか言われたりするので、イントネーションとかが出ているんだと思います。

ーーリールベルトさんご自身の性格についても聞きたいのですが、ゲーマーって言うと激昂するタイプとか物静かなタイプとかいると思うんですけど、ご自身ではどう分析されていますか?

リールベルト:怒ることはあまりないですけど、それこそ若い頃は自分もあったと思いますよ。チームで活動するうちに、良くも悪くも感情がブレるのってマイナスだなって思うようになって。そこからは怒ることも萎えることも激減しましたね。

やっぱり「意識」と「トレーニング」だと思います。僕自身、理屈で考えるのが好きなんですよ。だから自分の感情とかコミュニケーションひとつとっても、それが勝つことにプラスになるのであればやるし、味方に対して「大丈夫だよ」とか元気づけるような言葉かけも、勝つことに必要だと思えばやります。

そして、仮に怒ることが味方のためになるなら怒る、っていうのも意識していますね。それでもやっぱり完璧ではないので、状況によってはトーンに怒気が入るというか、「あれ、ちょっと怒ってない?」て思われることはもちろんあると思います。

ーーなるほど、少しリールベルトさんのことがわかった気がします。


(後編に続く)


リールベルト Twitter:https://twitter.com/Lillebelt_lol

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