【eスポーツ×アーケードゲーム】 「ゲームセンターを再びゲーム好きが集える場所に」── アミューズメントエキスポ2024実行委員長・児玉晃一氏インタビュー

2024.12.30 宮下英之
現在のゲームセンターはメダルゲームやクレーンゲームが主役になっているが、以前はブラウン管モニターの対戦ゲームやシューティングゲームが席巻した時代もあった。

当時を知らない若い層、オンラインゲームが主流のeスポーツを楽しんでいる層にはいまいちピンとこないかもしれないが、ビデオゲームにおいてeスポーツのルーツとも言える「対人戦」のブームは、間違いなくゲームセンターだったと言える。

今回は、そんなゲームセンターの歴史をよく知る人物として、2024年11月に開催された、一般社団法人日本アミューズメント産業協会(JAIA)が主催する「アミューズメント エキスポ2024」の実行委員長である児玉晃一氏にインタビュー。ゲームセンター業界の過去と現在を知る児玉氏に、「アーケードゲームとeスポーツ」というテーマでお話をうかがった。

児玉晃一氏 プロフィール

株式会社タイトーの執行役員、管理統括本部副統轄本部長 兼 総務管理本部 本部長。2024年現在「アミューズメントエキスポ2024」の実行委員長として、イベント全般を統括している。


“ゲームで競い合う”文化は『スペースインベーダー』からあった


──そもそも日本のゲームセンターでの「競技的なゲーム」の歴史として、対戦要素のあるゲームはいつ頃からあったのでしょうか?

児玉:日本でのゲームセンターやアミューズメント施設でのブームを振り返ると、1978年に発売したタイトーの『スペースインベーダー』、その次のシューティングゲームブーム、その後に格闘ゲームブームがあって、音楽ゲームブーム、カードで遊ぶサテライトゲームブームもありました。現在は景品が取れるクレーンゲームなどのプライズゲーム、音楽ゲーム、メダルゲーム、プリントシール機などが主流になりつつありますね。

eスポーツと同様の「競技」として考えると、実は『スペースインベーダー』が出た時にすでに「ゲーム大会」はあったんです。弊社の社内報に賞金付きの、しかも女性だけのインベーダーゲーム大会を開催したという記事があります。

──1970年代にすでに、しかも女性だけの大会があったとは驚きです!

児玉:現在のゲームセンターでは風俗営業法の関係で賞金などが出せませんが、『スペースインベーダー』の頃はまだ緩やかな時代でした。そういった大会などが日本におけるeスポーツの源流ではないかと、私は思っています。

当時のタイトーの社内報。100名が参加し、優勝者は5万円分の商品券がもらえた。エントリー時にB・W・Hを書く欄があるなど、時代を感じさせる


──シューティングをはじめとするハイスコア文化は、アーケードゲーム雑誌を経て「日本ハイスコア協会」が現在も継続していますね。一方、対人戦として発展したのは格闘ゲームが最初だったと思います。

児玉:それこそカプコンさんの『ストII』とかセガさんの『バーチャファイター』、ナムコさんの『鉄拳』などが出てきた頃が、まさに格ゲー全盛期でしたね。ですが、その後ゲームセンターの人気が落ちた大きな理由は、家庭用ゲーム機の性能が上がってきたことです。

『ストIV』やアークシステムワークスさんの『ブレイブルー』くらいからアーケード基盤と家庭用ゲーム機の性能が同等になり始め、『ストV』が出始めた頃には、正直、PlayStationやXboxといった家庭用ゲーム機の方がハードとしての性能は上でした。さらにネットワークの環境も良くなった結果、オフライン対戦と遜色ないクオリティでオンライン対戦が可能になったため、わざわざプレイ料金を払って対戦をする理由がなくなっていったんです。

そんな中でも、ゲームセンターだからこそ楽しめる強みもあったんですよ。例えば『バーチャファイター』が流行った頃はまだブラウン管モニターの時代だったので、ゲームセンターの方が家庭よりもモニターが大きい。それだけでも十分魅力がありました。

ただ、ゲームセンターにわざわざ行く理由が、『太鼓の達人』のような体感ゲーム、サテライトゲームのようなカードがコレクションできるとか、ゲームセンターでないと遊べないものに傾いてしまった。それで、家でも楽しめるものは家庭用ゲーム機で、というふうになってきたのかなと思っています。


タイトーが『ストリートファイター タイプアーケード』を出し続ける意味


──ゲームセンターでの格闘ゲームが衰退して行く中で、実はタイトーは「ストリートファイター」シリーズのゲームセンター版である「タイプアーケード」をカプコンからライセンス提供を受けて手掛けてこられましたよね。家庭でのオンライン対戦が中心となる中で、それでもアーケード版の「ストリートファイター」を維持している理由はどこにあるのでしょう?

児玉:「ゲームセンターってなんだろう?」と考えると、我々はコミュニティが生まれる場所だと思っています。

『ストIV』あたりからウメハラ選手が「日本初のプロゲーマー誕生」ということで話題にもなり、ウメハラ選手自身がゲームセンター育ちだったこともあり、まだゲームセンターのコミュニティは残っていました。

確かにオンライン対戦は家庭でできますが、相手がどんな顔をしているのか、誰なのかわからない。それよりは「俺、こんなおっさんに負けたんだ」とその場でわかったり、そこで友達ができてゲームの会話ができるといったことを提供するのが、ゲームセンターのひとつの使命だと思っているんです。

そのためには、やはりゲームセンターに格闘ゲームは必要だと思います。

私どもは過去に「闘神祭」という格ゲーや音ゲーの大会を開催しており、「鉄拳」シリーズなどの他社製ゲームも採用してきました。その頃は「e-ARCADE SPORTS」という言葉を一生懸命叫んで、要は「アーケードからのeスポーツ」といったところを一生懸命推そうとしていたんです。

アーケードゲームを使った大会「闘神祭」は、2015年〜2021年までに全6回開催された

どんなスポーツでも、やはりスタジアムに行ったり生でプレーを見るのは楽しいですよね。ゲームも同じで、リアルで対戦する場所は必要だとあらためて思ったのが、今年の「EVO JAPAN」です。

コロナでオンライン化がだいぶ浸透したと思っていた一方で、アーケードゲームではないものの、やっぱり対面でのリアルな対戦は面白いし需要があるということを実感しました。

ゲームセンターは大きなターミナル駅にたいていありますし、気軽に遊びに行ける場所はやっぱり必要だと思っているので、これからも提供していきたいと思っています。

──その最新作として、今年は『ストリートファイター6 タイプアーケード』もリリースされましたが、反響はいかがでしたか?

児玉:ゲームセンターはゲームのプレーに対してお金が必要なので、売上だけで言うと格ゲー全盛期みたいな数字は出てきません。正直に言えば、クレーンゲームを置いた方が儲かると思います。

ただ、やはりゲームセンターにいろいろなコンテンツを揃えていくことで、多くの人に楽しんでもらおうと思っています。他社のゲームセンターも含めて『スト6』を置いてくれているのは一定の売上と人気があるからですので、全盛期ほどではありませんがそれなりに人気を集めてはいます。

我々としては、家庭でオンラインだけで遊んでいる方たちに、リアルの楽しさに気づいてもらうのが今の課題ですね。

ゲームセンターでの体験は「トキ消費」


──先日も、タイトーステーション 溝の口店でGood 8 Squadのガチくん選手や桃井ルナさんと対戦できる「公式対戦会 in メガレイジ溝の口」という対戦会がありましたよね。そういったイベントはゲーム機が常設されているゲームセンターであればやりやすそうです。

児玉:よくご存じですね(笑)。メガレイジ溝の口店にはイベントスペースがあるので実施できるのですが、最近はイベント運営ができるスタッフも少なくなっています。以前は店舗単位でのゲーム大会を年中やっていましたし、もっと増やしたいですね。



──それができれば、家庭でプレイするだけでほぼ人と触れ合わなかった人が、ふらっと地元や県内などで集まることもできそうですね。

児玉:アミューズメント業界に携わる者のひとりとして言うと、ゲームセンターはゲームを楽しむだけの場所ではないんです。

「モノ消費」や「コト消費」などで言えば、ゲームセンターは「トキ消費」。そのゲームを通じて、その場所で、そのメンバーでしか味わえない体験を提供しているし、そうすべきだと思っています。

たとえば、家族でアニメ映画を見た後、その施設にゲームセンターがあって、たまたまアニメキャラクターの景品がクレーンゲームにあったから頑張って景品も取って帰る──もちろん、それを狙って置いているわけですが、ゲームセンターはそういう思い出も生み出しています。

それは格闘ゲームや音楽ゲームも同じで、友達や全然顔も知らない人と、ゲームセンターで勝った負けたというリアルな体験を提供しています。こういったリアルだからこそできる遊びを提供する場としてのゲームセンターは、多分なくならないんじゃないかとは思っています。

──その一方で、今日(「アミューズメントエキスポ2024」)の展示でも、ゲームセンターからオンラインで遊べるクレーンゲームなども多く展示されていました。オフラインで集まる場所の必要性もなくなってしまいそうな不安もあります。

児玉:ネットショッピングなどは重いものを届けてもらえて楽ですが、洋服などはまだ試着するためにお店に行ったりしますよね。これだけAmazonやECサイトもあるのにスーパーがなくならないのも、自分の目で見て買いたいという人がいるからです。

当社にもオンラインクレーンゲームはありますし、オンラインがダメというわけではありません。ただ、例えばカプコンさんの「Capcom Pro Tour」の大会はほとんどがオンラインで、勝っても仲間とハイタッチなどできません。

「闘神祭」をやってみて思ったのが、やっぱり勝てばハイタッチしたいし、ゲームをしている時にみんな後ろで見ていて「いけるいける!」とか「やった!」と抱き合うとか、そういうことは時代が変わってもなくならない。我々がそういう場所を作ってあげないといけないんですよね。

2020年に開催された「闘神祭」決勝の様子。仲間と一緒に戦う、これぞゲーセン

ラスベガスで開催された「闘神祭」予選の様子


ゲーセンからeスポーツへ


──そんな中で、タイトーのeスポーツチーム「TAITO STATION Tradz」にスト6部門を設立することが発表されました。アーケード主体のタイトーがeスポーツに進出する意図はなんなのでしょうか?

児玉:彼らがいわゆるエバンジェリストとして、「ゲームセンターでプレーするとこんなに楽しいよ」ということを伝えていってほしいという思いから部門を作りました。スーパーバイザーとして松田泰明さんにも協力していただいているのは、「闘劇」や「EVO JAPAN」の責任者という経験を生かしていただきたいという話もしています。

──『ストII』時代にゲームセンターに通い詰めた私としても、「EVO JAPAN」などのeスポーツとゲームセンターは決して遠い場所ではないとは思います。ゲームセンターに再び注目を集めるには何が必要でしょうか?

児玉:ゲームセンターはもともと「装置産業」と言われており、最初はゲーム機を置いて営業してきましたが、『プリクラ』などはいわば写真の自動販売機でした。ゲームセンター自体もそうやって形を変えてきているので、その時代その時代に合わせていけばいいとは思っています。

ただ、今どきのゲームセンターのスタッフは、クレーンゲームの動き方とかは設定できるのですが、大会の運営などができる人材は少ない。そういうものを運営できる人材やお店を少しずつ増やしていきたいんです。

『スト6』も最初は私どものゲームセンターでもいろいろな店に置いていたんですが、最近は4台、6台など店内対戦できるように設置店舗を絞っています。要はリアル対戦の良さをわかってもらいたいんです。1台しかなくてオンライン対戦するだけだと、ゲーセンに来なくてもいい、という話になってしまいますから。

※ ※ ※

古き良きゲームセンターで育ってきた“おじ”からすると、当時の熱狂的でちょっとダークなゲームセンターへの郷愁は心のどこかにある。店舗がどんどん減少し、ニーズが減少しているということも理解はしている。

しかし、そんな中でもタイトー、GIGO、ラウンドワンのような大型アミューズメント施設や、高田馬場ゲーセンミカドや大山ニュートンのように、昔ながらのゲームセンターの雰囲気のままで頑張っている店も少なからずある。

オンラインプレーがメインのeスポーツも、オフライン大会が行われれば数万人の観客がその試合を見るためだけに集まる。だが、もっと気軽に、オフラインで知り合いや仲間を自然と見つけられる場所として、ゲームセンターにできることはまだまだあるはずだ。そしてそこには、まだまだビジネスチャンスもあるように思う。

あの頃の熱狂をゲームセンターに取り戻すというよりは、いまのeスポーツの熱狂をゲームセンターが担うことができればいい。新たなアーケード文化が今後どのようになっていくのか、楽しみに待ちたい。

アミューズメントエキスポ2024:https://amusementexpo.jp/
株式会社タイトー:https://www.taito.co.jp/
TAITO STATION Tradz:https://www.taito.co.jp/tradz

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