FENNELが創るeスポーツにおける新たな“ゲームチェンジャー”とは——【FENNEL 新CEO 高島 稜氏インタビュー】
「eスポーツに熱狂を」のミッションを掲げ、絶大な人気を誇るeスポーツチームFENNEL。
代表の仏氏もインフルエンサーとして活躍している異色なチームでもあるFENNELが経営体制の変更、ミッション・ビジョンの変更を発表。仏氏に代わり、高島 稜氏が新代表に就任した。
現在も多くのファンを獲得し、競技シーンで活躍しているFENNELが、なぜ経営体制の変更、ミッション・ビジョンの変更を行う必要があったのか——。リブランディングの真相や狙いを新代表の高島氏にうかがう。
参考:
FENNELが目指す“eスポーツの熱狂”とは——【FENNEL オーナー仏氏インタビュー】
仏氏から高島氏へ
——そもそもなぜFENNELのリブランディングが必要だったのかというところからお聞かせください。
高島:FENNELというチーム名もロゴも変わらないので、「リブランディング」というと少し齟齬(そご)があるかもしれません。
ただミッションの変更や会社としての今後の方向性を見定めていくタイミングが今だったのかなと思っています。
僕らが2019年に「eスポーツに熱狂を」というミッションを掲げ、FENNELを始めたのは、当時の競技シーンでコロナの影響で世界大会が中止になったり、公式大会以外の競技シーンコンテンツが十分でなく、競技選手がスポットライトを浴びる環境が整っていなかったためです。そんな中「FFL」という独自の大会ブランドを立ち上げ、競技シーンにスポットライトを集め、シーンの土壌を作るようなコンテンツを増やしたいという思いがありました。
しかし数年たって、今のシーンを俯瞰的に見たときに、競技選手が露出され、活躍するような大会やコンテンツがすごく増えたなと思いますし、さまざまな規模、スタンスのプレーヤーがシーンの熱狂を創ろうと動いているなと。これは非常にポジティブなことだと思っています。
そこで「これからのマーケットの広がりや、未来のeスポーツシーンを背負っていく上で、僕らにしかできない次のFENNELの目標設定をし直そう」という議論が経営陣内でありました。
eスポーツシーンの未来を担うプレーヤーが増えたからこそ、新しいミッションに切り替えてより挑戦的に動いていきたいというのが、今回の体制変更をした背景ですね。
——それにあたって、創業者であり代表でもあった仏さん(堀田アレクサンダーさん)から代表を変えたのはどういう意図だったのでしょうか?
高島:簡単に説明すると、これからFENNELが日本シーンを背負っていく覚悟として、企業としてのビジョンや目標設定をよりオープンに解像度高く発信していく必要があると考えたからです。
僕自身、FENNELには創業期から関わっていて、2年ほど前からCOOとして経営に参画していました。2023年から堀田(仏)や会長の遠藤とFENNELの未来を話し合っていく中で、チームとしての解像度が高い僕が代表権を持ち、CEOとしてよりFENNELを成長させていくのがベストではないかという結論に至りました。
——なるほど。高島さんはCOOを経験しているからこそ、よりチームの中を知っている——。だからこそ発信にも説得力が生まれるということですね。
高島:そうですね。FENNELも個のプレーヤーの集団みたいな会社から、マネジメント体制を組むような規模に成長していきました。これからは、もっと世界水準でメジャースポーツに負けないスケールの戦略を組んで会社経営していかないといけない——。僕が社長として引っ張っていく方がこれからFENNELはさらに伸びるんじゃないかと自信を持って伝えました。
ただ、堀田も遠藤も会社を離れるわけではないですし、熱量もこれまで以上のものを持っています。整理された経営体制で、それぞれの得意なことによりコミットしていけたらと思っています。
——そんな高島さんの強みというのはご自身でどう分析しますか?
高島:強みですか……。僕はFENNELがファーストキャリアなので、目立った経営実績やeスポーツシーンでの活動実績があってFENNELにジョインしたわけでもありません。
ただ、既存の枠組みにとらわれず、メジャースポーツスケールで戦っていくにはどうするべきか。世界水準のeスポーツチームにステップアップするにはどうするべきか。ということはFENNELに入ってからの4年間、常に愛を持って考えきたつもりです。
カルチャー、アートのシーンや、eスポーツに限らないスポーツビジネスに対してのキャッチアップはすごく好きですね。
——やはりファン目線からすると、仏さんから高島さんへ交代した強みというのを深掘りしたいと思っています。そもそも高島さんがFENNELに入ったきっかけはなんだったのでしょうか。学生時代からFENNELに入ったんですよね?
高島:FENNELが始まった2019年当時は大学生でしたね。ゲームは小学校高学年から中学校ぐらいに一番やっていたかな。『コール オブ デューティー』を一番プレーしていました。ただ実はPCゲームのプレー経験はありませんでしたね。
その後、『荒野行動』のリリース時に仏を知ってチェックしていました。2019年に仏がTwitterで「eスポーツやゲームの領域でこういうコミュニティ、コンテンツを作りたい」みたいなポストをしているのを見つけました。
そのタイミングで、メッセージを送ってみたら仏から返信があって、会話の流れで「それ、一緒にやってみないか?」という話になったのが出会いでしたね。
その後に一緒にゲームコミュニティを考えて動いていく中で、「eスポーツチームを作ろうと思っている。そっちを一緒に手伝ってくれないか?」というところから、遠藤と会って手伝っていくことになりました。
当時はまだ仙台に住んでいたので、手伝うといってもリモートでしたし、会社自体もいろんなゲーム部門を持っていたわけでもなければ、本格的に事業をやっていたわけでもない。組織もなくオフィスもなく、どこを目指していくのかも特に決まっていない状態で、とりあえず力のあるゲーマーに機材支援をしたり、競技大会が少ないシーンにFENNEL主催の大会を作っていきましたね。それが2019年末から2020年半ばくらいのことです。
——ちなみに、仏さんに返したDMってどんな内容だったんですか?
高島:「仏が感じている課題感がこういうものなら、こんな戦略とコンセプトでやったらどうですか?」みたいな連絡でしたね。手書きの企画書みたいなものも送りました。
今思えば、何の実績もない学生が何いってんだって感じなんですが、仏というストリーマーを見ながら、リーダーシップやカリスマ性、視聴者のインサイトの理解などの強み、逆に彼の弱いところやネックになりそうなところを勝手に感じていて——。そのタイミングで仏がポストしたオンラインコミュニティ形成が当時の僕の興味領域と被っていて。返信が来るとも思わずにメッセージをしたのを覚えています。
——なるほど。そういう発想力、企画力をどんどん自分から作り出せるのが高島さんの強みなんですかね。
高島:ただの学生だった当時からこれまでの4年間で自分が成長できたのは、FENNELで仏や遠藤が作ってくれた、すごくフラットな社内のカルチャーのおかげだと思っていて——。
特に実績もない人間で、eスポーツで目立ったプレーヤーでもなければ実績もない。知見もめちゃくちゃ薄くて、PCゲームもわかっているわけじゃない。
そういう条件だったにも関わらず、熱意を持って戦略とかを考えていることを伝えれば、すごくフラットに聞いてくれるし、「じゃあ、それGOで」という判断もすごく早かったんです。
プロップスで人を評価したり、意思決定に反映するのではなく、アイデアやその背景や根拠の本質をすごく見てくれるし、裁量権をくれるところがありました。実績がなくても自信を持って、自分がこうだと思ったらアウトプットしてぶつけるっていう習慣があったことが、チャンスを掴めたきっかけだったかなとは思いますね。
——お話を聞いていると、高島さんご自身が何も恐れるものがないからこそ、そういうチャレンジができたのではないかと感じてきました。
高島:そうだと思います。FENNELに入ってからは自分で「これがFENNELの勝ち筋だろう」と思ったことを端から勝手にやっていきました。
だからこそ、仕事もマルチになりましたし、会社にとって完全新規の仕事は基本的に自分が探して、同じ業界の方からキャッチアップしてとりあえずやってみる。採用、マーケティング、大会企画、チームビルディング、コーチや選手の採用、営業資料作り、事業計画の作成など、FENNELの戦略の部分から経験してきました。
新たに提言した新ミッションで
——そういった経験を経て、今回新たなミッション・ビジョン・バリューに変えるということですが、今までのFENNELと何が違うのかを深掘りさせてください。
高島:FENNELの戦略とか動き方は、外から見ている以上にスピード感を持っています。朝令暮改気質な(命令がひんぱんに変わって一定しないこと)組織というか、1カ月前まではこの戦略で絶対いけると信じていたのに、1カ月後には「リアルじゃなかったからやめよう」みたいな感じで戦略を変えているんです。
これは、一貫性のなさとか、コアプレーヤーとして堂々と立ち振る舞ってシーン引っ張っていくにはまだまだ未熟だとは思っています。ただ僕としては、チャレンジして新しい戦略をいろいろ試さないと結局一次情報は得られないし、わからない。アップサイド高く、スケールしていくような会社の未来を探し続けています。
今回の変更にあたって、改めて考えたことは世界一のeスポーツチームを日本から作りたいし、日本に世界優勝のトロフィーを持って来たい。というすごく初心に立ち返ったことです。
あらゆることを世界水準に変えていきたい。世界一は今の僕らにとって憧れであり、その瞬間の輝きのためにすべてを緻密に戦略立てて作っているし、従業員はハードワークしてくれています。世界水準を事業の当たり前にし、世界一を憧れから明確に道の見える目標にしていく。それが僕がFENNELを経営していく上でのミッションだと考えています。
——具体的にFENNELが世界一を目指していく上での戦略はどのようなものなのでしょうか?
高島:競技面から話せる範囲で話します。さまざまなタイトルのチームビルディング、マネジメント体制に関する知見が溜まったことは、これまでの4〜5年間の中で大きな財産だと思っています。
今の国内シーンと世界シーンのギャップがどの程度あるのかをキャッチアップし、そのタイトルのキードライバーになっている事柄はなんなのかを明確にした上で何カ年計画を立てて、どういう成績を残していくのかにはチームの現場マネジメントメンバーと経営陣で議論して考えるノウハウが財産化しています。
単年規模の経営状況や市場の変化にアンテナを張って、1シーズンごとのチームのベストビルドを考えるのが、今の国内eスポーツシーンのベーシックになっていると感じています。スポーツにおけるベーシックな時間軸とは、いい意味でも悪い意味でもずれているなと感じていました。ファイナンスも事業もチームの数カ年計画と照らし合わせて意思決定していく必要があるし、基本的には時間もお金も投資していく。数年、シーン内で一次情報を得ながら回していく中で、経営とチームのバランス感覚がやっと少し得られたかなという感じです。
——特にFENNELのVALORANT部門は2023年とあまり変わらないメンバーで構成されている中、現在もかなり上位ですもんね。
高島:そうですね。選手やコーチ、マネジャーらがすごく頑張ってくれて、いい結果を残せていることにはとても感謝しています。会社全体の経営から見たら組織のリソースを完全にチームだけに充てることはできない中で、チームに現場で関わるメンバーが愛とハードワークで着実に結果を残してくれていて、本当にリスペクトしているし、感謝しています。
——話せる範囲で、こういうところに注目したから勝てるようになった、というノウハウを教えてもらえますか?
高島:先程伝えた通り、本当に前線で選手、コーチ、マネジャーが頑張ってくれている結晶かなと思っています。
その上でひとつ挙げるとすれば、経営サイド、これまでビジネスシーンの競争に浸かり、戦略設計から執行をしてきた人間が特にコーチ、マネジャーと近い距離感にいて、現場が意思決定に自信を持てるようファシリテートしてあげたり、持っている手札を共有してあげられるかは大事にしています。
オーナーの遠藤にも時には選手とも、コミュニケーションをとってもらっています。もちろん、インゲームの戦術だったり、数カ月単位の計画は現場のメンバーを信頼しているので、意思決定を任せつつ、一定の近い距離感にいて、彼らが動きやすい環境づくりはより進めていきたいですね。
——選手やコーチからしてもうれしいですよね。
高島:ビジネスサイドと競技サイドの距離感に関してはチーム毎に思想は違うと思いますし、賛否あるかと思いますが、僕らはすごく大事なことだと思っています。
ランクがブロンズとかシルバーくらいの人間がチームに対してできることなんてないように思えるし、競技実績がない人間にチームを語られたくないというのが普通な感想なのかと思います。
ただ僕がFENNELのマネジャーやコーチをすごく評価しているのは、彼らに目立った競技成績はなかったとしても、その競技の具体的な内容やミーティングの設計まで選手に突っ込んでいく力があるところなんです。
そこってeスポーツが好きであればあるほど、選手にリスペクトがあるほどすごく勇気が必要だなって思うし、覚悟とストレスがかかる仕事だと思います。ただここに突っ込めるのは、マネジャーやコーチの覚悟が選手に伝わっているからだと思いますし、普段からのコミュニケーションに全力でコミットしていい関係性を作ってくれているからだと思っています。
ひとつひとつのコンテンツが紐づく——
——では新たなビジョン「デジタルとリアルで新しいカルチャーをつくる」という狙いもお聞かせください。
高島:本当に多くのコンテンツが溢れている社会の中でより心地のいい回遊を生んでいきたいと思っています。
eスポーツだけを切り取っても多くのチームが生まれ、イベントオーガナイザーの数もすごく増えたと思っていて。
FENNELがeスポーツのユーザーやファン層に対して、もう一段階憧れや共感の対象になっていきたいと考えたときに、ひとつひとつのコンテンツ体験を紐づけてストーリーを作っていきたいと考えています。
例えば、アパレルを購入してからイベントに行く、普段画面の向こうで熱狂的に応援している中で、まれに選手と会える、動画コンテンツで作られている伏線がリアルイベントで回収されるとか。
チアパやポップアップストア、アパレル、ライブのようなオフラインの体験を中心としながら、デジタルの体験でつないでいく——。
FENNELというブランドを、さまざまなタッチポイントで楽しんでもらい、ファンの方々の人生に新しい拠り所と、刺激を提供し続ける会社になっていきたいとも考えています。
部門の垣根を越えた
——「FENNEL FAMILY」というアイデアについてもお聞かせください。
高島: eスポーツチームは、確固たる勝ち筋が世界シーンで見ても定まってないからこそ、どのチームも事業を横に広げがちだと感じています。
これは未成熟な市場において仮説検証を進めていく上では必要なチャレンジだと思っていますが、いわゆるバーティカルにいち事業で勝ち切るような経営はし辛くなってしまう。どのチームもどんな規模でもリソースは足りていなくて、事業ごと、プロジェクトごとに単一で形にしていくのが精一杯。
みたいな状況でFENNELも選手部門、ストリーマー部門など、それぞれ単一で動いてしまって横の連携とか絡めて作っていくような余裕、余力がありませんでした。
これからは部門をまたいでコンテンツ、事業を作り、FENNELメンバー同士の横の絡みを作って、お互いを刺激しあったり、支えあったりしていけるような組織にしたいと思っています。
より大きくなっていくための勢いをつけないといけないタイミングだと思っているからこそ、軽いダッシュをするのではなくて、一瞬立ち止まって力を溜めて、もう1回めちゃくちゃダッシュできる状態を作るというか、メリハリを大事にしたいなと思っています。
ファンの方々も含め、世界を目指していく上でFENNEL FAMILY全体で楽しみ、刺激を受け合いながらチャレンジしていくようなカルチャーにしていきたいですね。
——すでに考えている企画はありますか?
高島:昨年作ったFENNEL STUDIOを生かしたゲームと音楽がハブになるイベントを考えています。
中国VCTシーンのコンテンツを見た選手が音楽にも凄く興味を持っていたり、OZworldも毎回FENNELの試合を観にきてくれていて。またmittiiiとも音楽×ゲームでオフラインイベントしたいよねみたいな話もしています。そういったデジタルコンテンツを僕ら自身で作っていく動きもできると思っています。
シーンの中でも僕らがリーダーシップをとって動いていける領域だと思っているので、ビジョンを固めながらメンバーやファンの方々といろいろと試していきたいですね。
選手を輝けるスターにしたい
——「世界一になる」という目標に向けてズバリいま、FENNELにとって何が必要ですか?
高島:これさえあれば世界一になるっていうような、すごく単純な話ではないと思ってるんですが、インパクトが大きいのは、とにかく経営体力と組織力の強化に向き合うことですね。
もちろん、求められているものはお金だけじゃない。ただ僕らは前提として、選手をスターにしてあげたい。彼らの自信とプロフェッショナル意識に繋がるような環境を作ってあげたいからこそ、そのための経営体力とスケールする戦略を作っていくことは必須だと思っています。
最近はeスポーツのセカンドキャリアの議論もありますけど、本当の理想はそんな心配なんてしないぐらい5年、10年で稼いじゃうみたいなシーンにしていきたい。すぐには難しい部分ですが、この目標のために世界のトップスポーツクラブの規模感までスケールさせることを常に考えています。
そしてもう一点の組織力の強化。これもすごくフワッとした言葉ですが、業界が未成熟で若いからこそ、社内では常に意識している点です。
コーチとかマネジャーはマルチに色んな粒度の仕事が振ってきて、デリバリーするだけで精一杯です。ビジネスサイドのプレーヤーも同じくで、目標設定が曖昧になり、明確でなくなっている中でとにかく現場をさばいている状態。
eスポーツ領域の将来を考えた時に、マルチな人材が少数精鋭で活躍していくだろうという考えはある中でも、ジュニア人材が多い現状だからこそ、ビジネスサイドのプレーヤーがより成長していくためのマネジメント組織設計、権限分解はより精緻にしていきたいと考えています。
あとはとにかく常に視座は高く。
どんなマーケットでもスタートアップは常に勝つことを信じ抜いて、考え続けて動くことで世界的な企業が生まれているし、FENNELが世界一になることを疑わず、やり切っていける組織になっていけたらと思います。
——FENNELのブランド力とか魅力とか、ファンベースを広げていきながら、世界一になるためにお金と時間をかけていける企業規模と組織を作っていくと。
高島:その通りです。
——世界一になるために資金が必要で、そのためにはチームの魅力や選手への報酬も必要だというのは納得できます。その上で、高島さん個人にとって、ビジネスとしてのeスポーツの面白さ、魅力はなんでしょうか?
高島:その問いならあと10時間はしゃべれると思いますが(笑)。
前提として、僕は勝てなくてもチームは経営できるし、維持できると思っています。スポーツって常に変数が存在していて、勝率はどれだけ磨いても100%になることはない。
ただ、どんな成績でも会社は成長させていかなければいけない。だから競技成績がビジネスの軸にならないような経営戦略が理想だよね。と分析される方もいると思いますし、投資サイドから見ても合理的な考えだと一定は納得しています。
ただ、その感覚での経営では、今の時点で世界にビハインドしている日本シーン、僕らFENNELは絶対に勝てません。
FENNELって世界の競合チーム、日本で上にいるチームに比べても後発のチームなので、そもそもチャレンジャーだし、ビハインドしている分をまくらないといけない。やっぱり加速度が必要なんですよね。そのためにはドライで負担をかけるような意思決定をしないといけないかもしれない。でもそれは、すべて将来のためを考えての決定です。
その上でビジネスの面白さとしては、日本から世界一のものを生み出すことができるチャンスを僕らがいただいていて、トップを目指してチャレンジができること。これはどんなドメインにもあるチャンスではないと思っていますし、スポーツシーンの成熟度と比較したときに、今のeスポーツシーンの状況だからこそまくれると思いますし、そこに挑めるポジションをこれまで作れてきたからこそだと思います。
人生を捧げてチャレンジするのであれば、やはりトップを見ていきたいし、選手やコーチが本気でそれを目指しているからこそ、ビジネスサイドのプレーヤーも同じ視座を持つ必要があると思っています。こんなチャレンジができることはeスポーツビジネスの面白さですね。
またeスポーツがデジタルとリアルの両方に良さを持っているコンテンツであることですね。ファンの皆さんに何かしらの体験を提供したいという時に、できないことが基本的にほぼありません。マーケティングの範囲も当たり前に全国区で地域を選ばないですしグローバルでもやっていける。
いろいろな仮説を持っていけるし、どこで何を張ったら面白いかとか、どういう流入をさせたら面白いかとか、どういうコンテンツ、どういう体験を作っていくのが面白いのか、みたいなことを常に考え続けられるところは、eスポーツビジネスのすごく面白いところですね。
あとは、一喜一憂するところ。競技の成績とか結果というのは、やっぱり試合となれば会社のみんなで応援しますし、全員で追いかけながらも自分たちは裏方としてできることをやっていく——。相互に熱量を持って仕事ができるところが何よりも面白い。
——そういったeスポーツビジネスの中で、アパレル、イベント、eスポーツ事業などFENNELとしての部門ごとの割合はどんな感じなのでしょうか。
高島:基本的な柱としては、BtoCの領域、BtoBの領域、競技チームの領域という3つには分かれていて、その組織構成でやっていますが、3つの柱が相互に関係するという前提がありつつも、すべて大事ですね。
ここは経営者としてはすごく難しい部分で、スリムにしきれない。どれかが突出していてもいけない。ただ、成果を出すために時間がかかるところは、先にやらないといけないと思ってはいます。例えばファンが生まれるところとか、チームが強くなるまでには時間がかかるので、早くから取り組まないと勝負すべきタイミングでやり切れない。
それぞれを大切にしつつ、投資をかけるべき時には思いっきりかけることを僕は大事にしています。この一年間でやってきたことは、まさにそこでした。
例えば、部門の選定に関しても、かけるとなったらかけきるし、かけきらないんだったらやめなければならない。この意思決定を中途半端にしないことは大事にしています。
——最後に、高島体制になったFENNELとしての今後の展望をお聞かせください。
高島:2024年でFENNELは5周年を迎えます。
認知もしていただきましたし、応援してくださる方もすごく増えてくださるのがありがたいし、チームとしてもストリーマーとかがすごく頑張ってくれています。
とはいえ、リバプールとかレアルマドリードとか、NBAを見てもNFLを見ても、彼らのバリエーションに比べたら本当に何段も下にいて、もちろんチャレンジャーだと思っているので、会社としてよりいろいろなこと、よりレベルの高いことを、より勢いを持って、いま取り組んでいる既存のものも、もう1段階、2段階、3段階上のレベルでチャレンジし続けていきたいと思っています。
その中で失敗することもたくさんあると思います。けれど、すべてにおいて学びを得て、次のチャレンジに生かしていく。
僕がeスポーツにとって一番重要だと考えているのは、何十年頑張り続けられるか、勝負すべきタイミングで勢いを失わずにやりきれるか、というところだと思うので、いい意味で落ち着かずに、いろんなことチャレンジして、失敗もしていけたらなとは思っています。
——ありがとうございました。
FENNELは国内eスポーツチームの中でも競技における実績を残しながらも、音楽やファッションといった異なるジャンルを融合させて新たなブランドを構築することに成功しているといっても過言ではない。
今回の発表は、FENNELがより垣根を越えた活動にチャレンジしていくためのステップにすぎない。世界一になるという高島氏の野望が夢物語で終わってしまうのか、はたまた現実味を帯びてくるのか——。それは今、彼らに与えられた使命なのかもしれない。
高島氏の行動力、瞬発力を生かし、まさにeスポーツ界のゲームチェンジャーとしてFENNELがよりいっそう飛躍していく瞬間を見届けていきたい。
編集:いのかわゆう
撮影:いのかわゆう
代表の仏氏もインフルエンサーとして活躍している異色なチームでもあるFENNELが経営体制の変更、ミッション・ビジョンの変更を発表。仏氏に代わり、高島 稜氏が新代表に就任した。
現在も多くのファンを獲得し、競技シーンで活躍しているFENNELが、なぜ経営体制の変更、ミッション・ビジョンの変更を行う必要があったのか——。リブランディングの真相や狙いを新代表の高島氏にうかがう。
高島 稜(たかしま りょう)
2000年3月18日生まれ。東北大学工学部在学中に Twitter(現X)のダイレクトメッセージにて、前代表の堀田と知り合い、FENNEL創業期に参画。FENNELのチームビルディングやFFLの企画に従事後、2022年より取締役COOとして経営に参画、幅広く事業執行を行う。2024年1月に代表取締役社長CEOに就任。
2000年3月18日生まれ。東北大学工学部在学中に Twitter(現X)のダイレクトメッセージにて、前代表の堀田と知り合い、FENNEL創業期に参画。FENNELのチームビルディングやFFLの企画に従事後、2022年より取締役COOとして経営に参画、幅広く事業執行を行う。2024年1月に代表取締役社長CEOに就任。
参考:
FENNELが目指す“eスポーツの熱狂”とは——【FENNEL オーナー仏氏インタビュー】
仏氏から高島氏へ
FENNELが代表を変えた理由
——そもそもなぜFENNELのリブランディングが必要だったのかというところからお聞かせください。
高島:FENNELというチーム名もロゴも変わらないので、「リブランディング」というと少し齟齬(そご)があるかもしれません。
ただミッションの変更や会社としての今後の方向性を見定めていくタイミングが今だったのかなと思っています。
僕らが2019年に「eスポーツに熱狂を」というミッションを掲げ、FENNELを始めたのは、当時の競技シーンでコロナの影響で世界大会が中止になったり、公式大会以外の競技シーンコンテンツが十分でなく、競技選手がスポットライトを浴びる環境が整っていなかったためです。そんな中「FFL」という独自の大会ブランドを立ち上げ、競技シーンにスポットライトを集め、シーンの土壌を作るようなコンテンツを増やしたいという思いがありました。
しかし数年たって、今のシーンを俯瞰的に見たときに、競技選手が露出され、活躍するような大会やコンテンツがすごく増えたなと思いますし、さまざまな規模、スタンスのプレーヤーがシーンの熱狂を創ろうと動いているなと。これは非常にポジティブなことだと思っています。
そこで「これからのマーケットの広がりや、未来のeスポーツシーンを背負っていく上で、僕らにしかできない次のFENNELの目標設定をし直そう」という議論が経営陣内でありました。
eスポーツシーンの未来を担うプレーヤーが増えたからこそ、新しいミッションに切り替えてより挑戦的に動いていきたいというのが、今回の体制変更をした背景ですね。
——それにあたって、創業者であり代表でもあった仏さん(堀田アレクサンダーさん)から代表を変えたのはどういう意図だったのでしょうか?
高島:簡単に説明すると、これからFENNELが日本シーンを背負っていく覚悟として、企業としてのビジョンや目標設定をよりオープンに解像度高く発信していく必要があると考えたからです。
僕自身、FENNELには創業期から関わっていて、2年ほど前からCOOとして経営に参画していました。2023年から堀田(仏)や会長の遠藤とFENNELの未来を話し合っていく中で、チームとしての解像度が高い僕が代表権を持ち、CEOとしてよりFENNELを成長させていくのがベストではないかという結論に至りました。
——なるほど。高島さんはCOOを経験しているからこそ、よりチームの中を知っている——。だからこそ発信にも説得力が生まれるということですね。
高島:そうですね。FENNELも個のプレーヤーの集団みたいな会社から、マネジメント体制を組むような規模に成長していきました。これからは、もっと世界水準でメジャースポーツに負けないスケールの戦略を組んで会社経営していかないといけない——。僕が社長として引っ張っていく方がこれからFENNELはさらに伸びるんじゃないかと自信を持って伝えました。
ただ、堀田も遠藤も会社を離れるわけではないですし、熱量もこれまで以上のものを持っています。整理された経営体制で、それぞれの得意なことによりコミットしていけたらと思っています。
——そんな高島さんの強みというのはご自身でどう分析しますか?
高島:強みですか……。僕はFENNELがファーストキャリアなので、目立った経営実績やeスポーツシーンでの活動実績があってFENNELにジョインしたわけでもありません。
ただ、既存の枠組みにとらわれず、メジャースポーツスケールで戦っていくにはどうするべきか。世界水準のeスポーツチームにステップアップするにはどうするべきか。ということはFENNELに入ってからの4年間、常に愛を持って考えきたつもりです。
カルチャー、アートのシーンや、eスポーツに限らないスポーツビジネスに対してのキャッチアップはすごく好きですね。
仏氏との接点は何気ない投稿だった
——やはりファン目線からすると、仏さんから高島さんへ交代した強みというのを深掘りしたいと思っています。そもそも高島さんがFENNELに入ったきっかけはなんだったのでしょうか。学生時代からFENNELに入ったんですよね?
高島:FENNELが始まった2019年当時は大学生でしたね。ゲームは小学校高学年から中学校ぐらいに一番やっていたかな。『コール オブ デューティー』を一番プレーしていました。ただ実はPCゲームのプレー経験はありませんでしたね。
その後、『荒野行動』のリリース時に仏を知ってチェックしていました。2019年に仏がTwitterで「eスポーツやゲームの領域でこういうコミュニティ、コンテンツを作りたい」みたいなポストをしているのを見つけました。
そのタイミングで、メッセージを送ってみたら仏から返信があって、会話の流れで「それ、一緒にやってみないか?」という話になったのが出会いでしたね。
その後に一緒にゲームコミュニティを考えて動いていく中で、「eスポーツチームを作ろうと思っている。そっちを一緒に手伝ってくれないか?」というところから、遠藤と会って手伝っていくことになりました。
当時はまだ仙台に住んでいたので、手伝うといってもリモートでしたし、会社自体もいろんなゲーム部門を持っていたわけでもなければ、本格的に事業をやっていたわけでもない。組織もなくオフィスもなく、どこを目指していくのかも特に決まっていない状態で、とりあえず力のあるゲーマーに機材支援をしたり、競技大会が少ないシーンにFENNEL主催の大会を作っていきましたね。それが2019年末から2020年半ばくらいのことです。
——ちなみに、仏さんに返したDMってどんな内容だったんですか?
高島:「仏が感じている課題感がこういうものなら、こんな戦略とコンセプトでやったらどうですか?」みたいな連絡でしたね。手書きの企画書みたいなものも送りました。
今思えば、何の実績もない学生が何いってんだって感じなんですが、仏というストリーマーを見ながら、リーダーシップやカリスマ性、視聴者のインサイトの理解などの強み、逆に彼の弱いところやネックになりそうなところを勝手に感じていて——。そのタイミングで仏がポストしたオンラインコミュニティ形成が当時の僕の興味領域と被っていて。返信が来るとも思わずにメッセージをしたのを覚えています。
——なるほど。そういう発想力、企画力をどんどん自分から作り出せるのが高島さんの強みなんですかね。
高島:ただの学生だった当時からこれまでの4年間で自分が成長できたのは、FENNELで仏や遠藤が作ってくれた、すごくフラットな社内のカルチャーのおかげだと思っていて——。
特に実績もない人間で、eスポーツで目立ったプレーヤーでもなければ実績もない。知見もめちゃくちゃ薄くて、PCゲームもわかっているわけじゃない。
そういう条件だったにも関わらず、熱意を持って戦略とかを考えていることを伝えれば、すごくフラットに聞いてくれるし、「じゃあ、それGOで」という判断もすごく早かったんです。
プロップスで人を評価したり、意思決定に反映するのではなく、アイデアやその背景や根拠の本質をすごく見てくれるし、裁量権をくれるところがありました。実績がなくても自信を持って、自分がこうだと思ったらアウトプットしてぶつけるっていう習慣があったことが、チャンスを掴めたきっかけだったかなとは思いますね。
経験がないからこそ恐れるものがないのも強み
——お話を聞いていると、高島さんご自身が何も恐れるものがないからこそ、そういうチャレンジができたのではないかと感じてきました。
高島:そうだと思います。FENNELに入ってからは自分で「これがFENNELの勝ち筋だろう」と思ったことを端から勝手にやっていきました。
だからこそ、仕事もマルチになりましたし、会社にとって完全新規の仕事は基本的に自分が探して、同じ業界の方からキャッチアップしてとりあえずやってみる。採用、マーケティング、大会企画、チームビルディング、コーチや選手の採用、営業資料作り、事業計画の作成など、FENNELの戦略の部分から経験してきました。
新たに提言した新ミッションで
eスポーツの世界一を目指す
——そういった経験を経て、今回新たなミッション・ビジョン・バリューに変えるということですが、今までのFENNELと何が違うのかを深掘りさせてください。
高島:FENNELの戦略とか動き方は、外から見ている以上にスピード感を持っています。朝令暮改気質な(命令がひんぱんに変わって一定しないこと)組織というか、1カ月前まではこの戦略で絶対いけると信じていたのに、1カ月後には「リアルじゃなかったからやめよう」みたいな感じで戦略を変えているんです。
これは、一貫性のなさとか、コアプレーヤーとして堂々と立ち振る舞ってシーン引っ張っていくにはまだまだ未熟だとは思っています。ただ僕としては、チャレンジして新しい戦略をいろいろ試さないと結局一次情報は得られないし、わからない。アップサイド高く、スケールしていくような会社の未来を探し続けています。
今回の変更にあたって、改めて考えたことは世界一のeスポーツチームを日本から作りたいし、日本に世界優勝のトロフィーを持って来たい。というすごく初心に立ち返ったことです。
あらゆることを世界水準に変えていきたい。世界一は今の僕らにとって憧れであり、その瞬間の輝きのためにすべてを緻密に戦略立てて作っているし、従業員はハードワークしてくれています。世界水準を事業の当たり前にし、世界一を憧れから明確に道の見える目標にしていく。それが僕がFENNELを経営していく上でのミッションだと考えています。
——具体的にFENNELが世界一を目指していく上での戦略はどのようなものなのでしょうか?
高島:競技面から話せる範囲で話します。さまざまなタイトルのチームビルディング、マネジメント体制に関する知見が溜まったことは、これまでの4〜5年間の中で大きな財産だと思っています。
今の国内シーンと世界シーンのギャップがどの程度あるのかをキャッチアップし、そのタイトルのキードライバーになっている事柄はなんなのかを明確にした上で何カ年計画を立てて、どういう成績を残していくのかにはチームの現場マネジメントメンバーと経営陣で議論して考えるノウハウが財産化しています。
単年規模の経営状況や市場の変化にアンテナを張って、1シーズンごとのチームのベストビルドを考えるのが、今の国内eスポーツシーンのベーシックになっていると感じています。スポーツにおけるベーシックな時間軸とは、いい意味でも悪い意味でもずれているなと感じていました。ファイナンスも事業もチームの数カ年計画と照らし合わせて意思決定していく必要があるし、基本的には時間もお金も投資していく。数年、シーン内で一次情報を得ながら回していく中で、経営とチームのバランス感覚がやっと少し得られたかなという感じです。
——特にFENNELのVALORANT部門は2023年とあまり変わらないメンバーで構成されている中、現在もかなり上位ですもんね。
高島:そうですね。選手やコーチ、マネジャーらがすごく頑張ってくれて、いい結果を残せていることにはとても感謝しています。会社全体の経営から見たら組織のリソースを完全にチームだけに充てることはできない中で、チームに現場で関わるメンバーが愛とハードワークで着実に結果を残してくれていて、本当にリスペクトしているし、感謝しています。
——話せる範囲で、こういうところに注目したから勝てるようになった、というノウハウを教えてもらえますか?
高島:先程伝えた通り、本当に前線で選手、コーチ、マネジャーが頑張ってくれている結晶かなと思っています。
その上でひとつ挙げるとすれば、経営サイド、これまでビジネスシーンの競争に浸かり、戦略設計から執行をしてきた人間が特にコーチ、マネジャーと近い距離感にいて、現場が意思決定に自信を持てるようファシリテートしてあげたり、持っている手札を共有してあげられるかは大事にしています。
オーナーの遠藤にも時には選手とも、コミュニケーションをとってもらっています。もちろん、インゲームの戦術だったり、数カ月単位の計画は現場のメンバーを信頼しているので、意思決定を任せつつ、一定の近い距離感にいて、彼らが動きやすい環境づくりはより進めていきたいですね。
——選手やコーチからしてもうれしいですよね。
高島:ビジネスサイドと競技サイドの距離感に関してはチーム毎に思想は違うと思いますし、賛否あるかと思いますが、僕らはすごく大事なことだと思っています。
ランクがブロンズとかシルバーくらいの人間がチームに対してできることなんてないように思えるし、競技実績がない人間にチームを語られたくないというのが普通な感想なのかと思います。
ただ僕がFENNELのマネジャーやコーチをすごく評価しているのは、彼らに目立った競技成績はなかったとしても、その競技の具体的な内容やミーティングの設計まで選手に突っ込んでいく力があるところなんです。
そこってeスポーツが好きであればあるほど、選手にリスペクトがあるほどすごく勇気が必要だなって思うし、覚悟とストレスがかかる仕事だと思います。ただここに突っ込めるのは、マネジャーやコーチの覚悟が選手に伝わっているからだと思いますし、普段からのコミュニケーションに全力でコミットしていい関係性を作ってくれているからだと思っています。
ひとつひとつのコンテンツが紐づく——
そんなカルチャーを作っていきたい
——では新たなビジョン「デジタルとリアルで新しいカルチャーをつくる」という狙いもお聞かせください。
高島:本当に多くのコンテンツが溢れている社会の中でより心地のいい回遊を生んでいきたいと思っています。
eスポーツだけを切り取っても多くのチームが生まれ、イベントオーガナイザーの数もすごく増えたと思っていて。
FENNELがeスポーツのユーザーやファン層に対して、もう一段階憧れや共感の対象になっていきたいと考えたときに、ひとつひとつのコンテンツ体験を紐づけてストーリーを作っていきたいと考えています。
例えば、アパレルを購入してからイベントに行く、普段画面の向こうで熱狂的に応援している中で、まれに選手と会える、動画コンテンツで作られている伏線がリアルイベントで回収されるとか。
チアパやポップアップストア、アパレル、ライブのようなオフラインの体験を中心としながら、デジタルの体験でつないでいく——。
FENNELというブランドを、さまざまなタッチポイントで楽しんでもらい、ファンの方々の人生に新しい拠り所と、刺激を提供し続ける会社になっていきたいとも考えています。
部門の垣根を越えた
FENNEL FAMILYの創出
——「FENNEL FAMILY」というアイデアについてもお聞かせください。
高島: eスポーツチームは、確固たる勝ち筋が世界シーンで見ても定まってないからこそ、どのチームも事業を横に広げがちだと感じています。
これは未成熟な市場において仮説検証を進めていく上では必要なチャレンジだと思っていますが、いわゆるバーティカルにいち事業で勝ち切るような経営はし辛くなってしまう。どのチームもどんな規模でもリソースは足りていなくて、事業ごと、プロジェクトごとに単一で形にしていくのが精一杯。
みたいな状況でFENNELも選手部門、ストリーマー部門など、それぞれ単一で動いてしまって横の連携とか絡めて作っていくような余裕、余力がありませんでした。
これからは部門をまたいでコンテンツ、事業を作り、FENNELメンバー同士の横の絡みを作って、お互いを刺激しあったり、支えあったりしていけるような組織にしたいと思っています。
より大きくなっていくための勢いをつけないといけないタイミングだと思っているからこそ、軽いダッシュをするのではなくて、一瞬立ち止まって力を溜めて、もう1回めちゃくちゃダッシュできる状態を作るというか、メリハリを大事にしたいなと思っています。
ファンの方々も含め、世界を目指していく上でFENNEL FAMILY全体で楽しみ、刺激を受け合いながらチャレンジしていくようなカルチャーにしていきたいですね。
——すでに考えている企画はありますか?
高島:昨年作ったFENNEL STUDIOを生かしたゲームと音楽がハブになるイベントを考えています。
中国VCTシーンのコンテンツを見た選手が音楽にも凄く興味を持っていたり、OZworldも毎回FENNELの試合を観にきてくれていて。またmittiiiとも音楽×ゲームでオフラインイベントしたいよねみたいな話もしています。そういったデジタルコンテンツを僕ら自身で作っていく動きもできると思っています。
シーンの中でも僕らがリーダーシップをとって動いていける領域だと思っているので、ビジョンを固めながらメンバーやファンの方々といろいろと試していきたいですね。
選手を輝けるスターにしたい
世界一を目指すFENNELにいま必要なものとは
——「世界一になる」という目標に向けてズバリいま、FENNELにとって何が必要ですか?
高島:これさえあれば世界一になるっていうような、すごく単純な話ではないと思ってるんですが、インパクトが大きいのは、とにかく経営体力と組織力の強化に向き合うことですね。
もちろん、求められているものはお金だけじゃない。ただ僕らは前提として、選手をスターにしてあげたい。彼らの自信とプロフェッショナル意識に繋がるような環境を作ってあげたいからこそ、そのための経営体力とスケールする戦略を作っていくことは必須だと思っています。
最近はeスポーツのセカンドキャリアの議論もありますけど、本当の理想はそんな心配なんてしないぐらい5年、10年で稼いじゃうみたいなシーンにしていきたい。すぐには難しい部分ですが、この目標のために世界のトップスポーツクラブの規模感までスケールさせることを常に考えています。
そしてもう一点の組織力の強化。これもすごくフワッとした言葉ですが、業界が未成熟で若いからこそ、社内では常に意識している点です。
コーチとかマネジャーはマルチに色んな粒度の仕事が振ってきて、デリバリーするだけで精一杯です。ビジネスサイドのプレーヤーも同じくで、目標設定が曖昧になり、明確でなくなっている中でとにかく現場をさばいている状態。
eスポーツ領域の将来を考えた時に、マルチな人材が少数精鋭で活躍していくだろうという考えはある中でも、ジュニア人材が多い現状だからこそ、ビジネスサイドのプレーヤーがより成長していくためのマネジメント組織設計、権限分解はより精緻にしていきたいと考えています。
あとはとにかく常に視座は高く。
どんなマーケットでもスタートアップは常に勝つことを信じ抜いて、考え続けて動くことで世界的な企業が生まれているし、FENNELが世界一になることを疑わず、やり切っていける組織になっていけたらと思います。
——FENNELのブランド力とか魅力とか、ファンベースを広げていきながら、世界一になるためにお金と時間をかけていける企業規模と組織を作っていくと。
高島:その通りです。
——世界一になるために資金が必要で、そのためにはチームの魅力や選手への報酬も必要だというのは納得できます。その上で、高島さん個人にとって、ビジネスとしてのeスポーツの面白さ、魅力はなんでしょうか?
高島:その問いならあと10時間はしゃべれると思いますが(笑)。
前提として、僕は勝てなくてもチームは経営できるし、維持できると思っています。スポーツって常に変数が存在していて、勝率はどれだけ磨いても100%になることはない。
ただ、どんな成績でも会社は成長させていかなければいけない。だから競技成績がビジネスの軸にならないような経営戦略が理想だよね。と分析される方もいると思いますし、投資サイドから見ても合理的な考えだと一定は納得しています。
ただ、その感覚での経営では、今の時点で世界にビハインドしている日本シーン、僕らFENNELは絶対に勝てません。
FENNELって世界の競合チーム、日本で上にいるチームに比べても後発のチームなので、そもそもチャレンジャーだし、ビハインドしている分をまくらないといけない。やっぱり加速度が必要なんですよね。そのためにはドライで負担をかけるような意思決定をしないといけないかもしれない。でもそれは、すべて将来のためを考えての決定です。
その上でビジネスの面白さとしては、日本から世界一のものを生み出すことができるチャンスを僕らがいただいていて、トップを目指してチャレンジができること。これはどんなドメインにもあるチャンスではないと思っていますし、スポーツシーンの成熟度と比較したときに、今のeスポーツシーンの状況だからこそまくれると思いますし、そこに挑めるポジションをこれまで作れてきたからこそだと思います。
人生を捧げてチャレンジするのであれば、やはりトップを見ていきたいし、選手やコーチが本気でそれを目指しているからこそ、ビジネスサイドのプレーヤーも同じ視座を持つ必要があると思っています。こんなチャレンジができることはeスポーツビジネスの面白さですね。
またeスポーツがデジタルとリアルの両方に良さを持っているコンテンツであることですね。ファンの皆さんに何かしらの体験を提供したいという時に、できないことが基本的にほぼありません。マーケティングの範囲も当たり前に全国区で地域を選ばないですしグローバルでもやっていける。
いろいろな仮説を持っていけるし、どこで何を張ったら面白いかとか、どういう流入をさせたら面白いかとか、どういうコンテンツ、どういう体験を作っていくのが面白いのか、みたいなことを常に考え続けられるところは、eスポーツビジネスのすごく面白いところですね。
あとは、一喜一憂するところ。競技の成績とか結果というのは、やっぱり試合となれば会社のみんなで応援しますし、全員で追いかけながらも自分たちは裏方としてできることをやっていく——。相互に熱量を持って仕事ができるところが何よりも面白い。
——そういったeスポーツビジネスの中で、アパレル、イベント、eスポーツ事業などFENNELとしての部門ごとの割合はどんな感じなのでしょうか。
高島:基本的な柱としては、BtoCの領域、BtoBの領域、競技チームの領域という3つには分かれていて、その組織構成でやっていますが、3つの柱が相互に関係するという前提がありつつも、すべて大事ですね。
ここは経営者としてはすごく難しい部分で、スリムにしきれない。どれかが突出していてもいけない。ただ、成果を出すために時間がかかるところは、先にやらないといけないと思ってはいます。例えばファンが生まれるところとか、チームが強くなるまでには時間がかかるので、早くから取り組まないと勝負すべきタイミングでやり切れない。
それぞれを大切にしつつ、投資をかけるべき時には思いっきりかけることを僕は大事にしています。この一年間でやってきたことは、まさにそこでした。
例えば、部門の選定に関しても、かけるとなったらかけきるし、かけきらないんだったらやめなければならない。この意思決定を中途半端にしないことは大事にしています。
——最後に、高島体制になったFENNELとしての今後の展望をお聞かせください。
高島:2024年でFENNELは5周年を迎えます。
認知もしていただきましたし、応援してくださる方もすごく増えてくださるのがありがたいし、チームとしてもストリーマーとかがすごく頑張ってくれています。
とはいえ、リバプールとかレアルマドリードとか、NBAを見てもNFLを見ても、彼らのバリエーションに比べたら本当に何段も下にいて、もちろんチャレンジャーだと思っているので、会社としてよりいろいろなこと、よりレベルの高いことを、より勢いを持って、いま取り組んでいる既存のものも、もう1段階、2段階、3段階上のレベルでチャレンジし続けていきたいと思っています。
その中で失敗することもたくさんあると思います。けれど、すべてにおいて学びを得て、次のチャレンジに生かしていく。
僕がeスポーツにとって一番重要だと考えているのは、何十年頑張り続けられるか、勝負すべきタイミングで勢いを失わずにやりきれるか、というところだと思うので、いい意味で落ち着かずに、いろんなことチャレンジして、失敗もしていけたらなとは思っています。
——ありがとうございました。
———
FENNELは国内eスポーツチームの中でも競技における実績を残しながらも、音楽やファッションといった異なるジャンルを融合させて新たなブランドを構築することに成功しているといっても過言ではない。
今回の発表は、FENNELがより垣根を越えた活動にチャレンジしていくためのステップにすぎない。世界一になるという高島氏の野望が夢物語で終わってしまうのか、はたまた現実味を帯びてくるのか——。それは今、彼らに与えられた使命なのかもしれない。
高島氏の行動力、瞬発力を生かし、まさにeスポーツ界のゲームチェンジャーとしてFENNELがよりいっそう飛躍していく瞬間を見届けていきたい。
編集:いのかわゆう
撮影:いのかわゆう
【井ノ川結希(いのかわゆう)プロフィール】
ゲーム好きが高じて19歳でゲーム系の出版社に就職。その後、フリーランスでライター、編集、ディレクターなど多岐にわたり活動している。最近はまっているゲームは『VALORANT』。
X:@sdora_tweet
ゲーム好きが高じて19歳でゲーム系の出版社に就職。その後、フリーランスでライター、編集、ディレクターなど多岐にわたり活動している。最近はまっているゲームは『VALORANT』。
X:@sdora_tweet
eSports World の
Discord をフォローしよう
Discord をフォローしよう
SALE
大会
チーム
他にも...?
他にも