【インタビュー】「賞金に興味はない」——現役教師プロゲーマーという様式美

近年、eスポーツの普及とともに「プロゲーマーになりたい」と考える若者は増えている。一方で、競技タイトルの寿命や収入の不安定さ、引退後のキャリア形成など、プロゲーマーという職業の現実が語られる機会も増えてきた。

そんな中、高校教師として働きながらプロライセンスを取得し、eスポーツチーム「Revo」所属選手として競技活動を続ける様式美選手は、業界の中でも非常に珍しい存在だ。なぜ彼はプロ一本ではなく、教師との両立という道を選んだのか。

教壇と大会、その両方を経験する立場だからこそ見える、eスポーツとの向き合い方、キャリア形成、そして競技シーンの未来について話を聞いた。

「ゲーセンは、輝いて見えた」——格ゲー全盛期にのめり込んだ原点


——初めてゲームにふれたきっかけを教えてください。

様式美:
もともとゲーム自体は好きで、家でもやっていたんですけど、小さい頃はゲームセンターや駄菓子屋さんにあるゲームのほうが高性能でした。特に輝いて見えたというか、魅力的に見えたんです。だから10歳くらいの頃から、機会があればゲームセンターに行っていました。

——確かに当時はゲームセンターのゲームは家庭用ゲームよりもクオリティー高かったですもんね。

様式美:そうそう。もう、夏休みに「今日は朝からゲーセンに行ける!」となったら、うれしくてうれしくて。家から自転車を立ち漕ぎで、全力で飛ばして通っていましたから(笑)。それくらい、当時のゲームセンターのゲームって、自分にとって輝いて見えたんですよ。『餓狼伝説』だったり『龍虎の拳』だったり、あとは『ストリートファイターII』とか——。まさに格闘ゲーム全盛期の頃からプレーしていました。

——ガッツリ格闘ゲームブームの時代からハマっていたと。

様式美:そうですね。といっても自分も小さかったので、やりたいだけやれるわけじゃなくて。お小遣いをやりくりして、時間が許す限り、どこかに連れて行ってもらった時にプレーする、というレベルでしたけど。

——いつ頃から自分の強さに手応えを感じたんでしょうか。

様式美:一番のターニングポイントになったのは、大学生の時に『ストリートファイターIV(ストIV)』が家庭用で出たことですね。あれはオンライン対戦ができたんですよ。それまでの格闘ゲームって、オンラインで対戦するにしてもラグが多かったり、通信費がかかったりで、現実的じゃなかったんです。

でも『ストIV』はネット環境さえあればやり放題で——。ちょうど大学生で時間があるタイミングと相まって、すごくハマりましたね。家庭用でめちゃくちゃ練習して、たまにゲーセンに行って「すげえ強いやつがいるぞ」みたいな。そこがターニングポイントだったかな。

——オンライン対戦がない時代はゲーセンの大会に出ていたんですか。

様式美:いや、地方出身ということもあって、大会自体そんなになかったですね。対戦が成立すること自体がラッキーみたいな感じでした。だから当時は対戦に飢えてましたよ(笑)。

——オンラインで無限に対戦できるのは、もう天国みたいな。

様式美:本当に天国だと思いました。今でも覚えてますもん。その時のステージがどこで、相手キャラが誰で、って。それくらい自分の中では感動でしたね。

——そのオンライン対戦を通じて注目されるようになったんですね。

様式美:そうですね。当時は三重県に住んでいたんですけど、「あそこのゲーセンに強い人がたくさんいるらしい」と声をかけてもらって、一緒に遠征に誘ってもらったり。そういうところで交流が増えていきましたね。

——当時はまだプロもそんなにいなかった時代ですよね。

様式美:『ストIV』を僕がやり込み始めて1年くらいしたころに、初めて梅原さんがMad Catzでプロになった、というのが最初くらいじゃないかな。だから本当に、単純に強いやつと戦うのが楽しくて格ゲーを遊んでいた、という感じでした。

「仕事してるからって、負けるつもりはなかった」——教師になっても競技をやめなかった理由


——大学卒業後、教師になられたわけですが、その道は最初から決まっていたんですか?

様式美:はい。「人のためになる仕事をしたい」という気持ちがあって——。自分の中での気づきを人に教えたり、誰かの将来に影響するような仕事ができたら最高だなと思って、教師を志しました。働き始めたのは2010年からですね。ちょうど『スーパーストリートファイターIV』が出たころです。

当時はゲームで飯を食うという選択肢がない時代だったので、仕事は仕事としてやって、格闘ゲームは好きだからやるという感じで両立していました。それこそ「eスポーツ」という言葉が定着する前からですね。

——ものすごく個人的な偏見かもしれませんが、教師がゲームセンターにいるというのが想像できなくて——。例えば同僚とかで格ゲー仲間はいたんでしょうか。

様式美:いないですね。イメージ通りです(笑)。そういう意味でも、結構変わった経歴かもしれないですね。

——やっぱり(笑)。職場の人には、格ゲーをやっていることは話していたんですか。

様式美:「ゲームがうまいらしいですね」くらいの話があったくらいかなあ。自分から進んで話すことはなかったです。高校の教師って結構忙しい仕事で、部活動の指導で土日も働いている先生も当然いるんですよ。その中で「先週、大阪まで行って大会に出てきました!」って話題を振るのは気が引けて——。

プロライセンスは「居酒屋の枝豆」——取得しても変わらなかった日常


——そんな中、2020年に開催された「CAPCOM Pro Tour 2020 アジア-東大会1」でプロライセンスを取得されました。何か環境の変化はありましたか?

様式美
:手前味噌なんですけど、プロライセンスを取得するもっと前、まだ大きな大会がほとんどない時代に、国内トップの人たちが集まるリーグ戦「TOPANGA LEAGUE」に出させてもらった時の方が、多くの人に自分を知ってもらったタイミングでしたね。

▲現在も人気コンテンツとなっている、「ストリートファイター」シリーズのリーグ戦「TOPANGA CHAMPIONSHIP」の前身となる「TOPANGA LEAGUE」。様式美選手は、招待選手として出場していた(出典:https://topanga.co.jp/topanga_league3B/

——プロライセンスを取得したことで、格ゲー界隈外からの注目も増えたのではないでしょうか。例えば学校で大騒ぎになるとか。

様式美:
こういう仕事をしているので、ネットで調べたら出てくるんですよ。でも本人に直接「プロライセンス取れたんやろ」とは言われなくて——。生徒たちが遠くでひそひそ噂しているな、みたいな感じですね(笑)。

——その後プロ選手として進む道は考えられなかった?

様式美:今の仕事が好きということもあって、プロ選手の道は考えていませんでした。ただ、もともと地方出身で、プレーできる時間も限られている中で、「不利な環境でも他のプレーヤーに勝ちたい」という気持ちもずっとありました。なので、仕事をしながらでもやれることはあるはずだし、「仕事をしているから負けた」なんて思われたくない。そういう気持ちのほうが強かったですね。

——逆に特に環境が変わることもなく、今まで通りの活動を続けていたって感じですね。

様式美:そうですね。やることも変わらなかったし——。ネタとして「プロなんだ」って言える、居酒屋の枝豆みたいな感じですよ。ちょっとした話題のひとつ。それくらいでした(笑)。

——ただ2026年にeスポーツチームRevoに加入しましたね。何か心境の変化があったのでしょうか。


様式美:ひとつは、今の働き方を全く変えずに入れること。あとは世間的にeスポーツの認識が定着して、格闘ゲームの印象が変わったところが大きいですね。それに、地元企業のチームなので、それが巡り巡って生徒に還元されたらうれしいし、地域への貢献にもなるかなと思って加入を決めました。

——現役教師がプロeスポーツチームに加入するとなると、学校側の許可も必要そうですが。

様式美:
そうですね。許可については、Revoに要項を作ってもらって和歌山県の教育委員会に確認してもらいました。「こういう働き方ですが、チームに入ってよろしいですか」と書類で出して——。

——多くの人が気になるのは、「教師が副業でプロゲーマーをやった場合、優勝賞金とか、どうなっちゃうの?」ってところだと思います。

様式美:こう言うと興ざめかもしれないんですけど、実は賞金は受け取っていないんです。以前、ある大会で決勝リーグまで上がった時、「こういう事情で受け取れないので、僕はいらないです」と先に伝えたくらい。
僕自身、賞金目的で大会に出ている訳ではないというのが大きいですね。チームに入ったからといって、何か報酬を受け取るといった契約ではないんです。

——チームに所属しながら、報酬を受け取らない。それでもRevoに入った理由は?

様式美:自分に「張り」が出るというか。今までより人に注目されやすい環境でゲームをするとなると、その緊張感がいい方向に働くんです。「今日はしんどいな」と思っても「基礎練だけでもやっておこう」とか、ランクマッチで「全然ダメだ」と思っても、「切り替えてもう少しだけ粘ろう」とか——。そういう小さな意識の違いは、自分でもすごく出てきたなと思います。

——働きながらだと、メンタルにこたえる日もありそうです。

様式美:ありますよ。一日しっかり働いて、疲れて帰ってきて、ランクマッチでJPの起き攻めで負けたりするとね。

「いや、今日も一日頑張って働いたんやけどなあ」って、しみじみしちゃいます。

——働きながらの競技活動となると、ご家族の理解も大きいのではないですか。

様式美:Revo加入の時も妻に相談したんですけど、自分自身がゲームに関して欲がない人なので「何でもいいよ」と。ただ、「こういうことは、きちんと話し合っておいたほうがいい」といったアドバイスはいただきました。例えば、コントローラーが壊れたら、それはもう仕事道具なわけで、部品代をどう扱うのか——とか。

また、両親は僕がもともとゲーム好きでラスベガスまで遠征に行っていたのを知っているので、特に驚きはなかったですね。

「生徒に何か還元できたらうれしい」——教師だからこそ、eスポーツを教える意味


——様式美さんと話していると、「仕事を大事にしたい」という教師の思いが伝わってきます。教師から見てeスポーツの可能性は感じていますか?

様式美:はい。実は部活にeスポーツを取り入れています。最初は僕の私物の機材を持ち込んで、生徒に声をかけるところから始まりました。その後、和歌山県のeスポーツ推進事業でうちの活動が認められてモデル校に選ばれ、機材の支給を受けました。

うちは生徒数が少なくて、チームゲームとは相性が悪いんですよ。でも格ゲーなら、ひとり一台パソコンがあれば各自オンライン対戦で活動できる——。そこがすごく合っていました。

——部活動を通じて、生徒に何を持ち帰ってほしいと考えていますか。

様式美:格闘ゲームをコツコツやっていると、最終的には「勝つためにどうするか」になるんです。「このゲージを無駄遣いしない」「この状況を作るよう意識する」と、逆算して考えるようになる。論理的思考力、という言い方がいいのかな。そういう力は実際ついてきているように感じます。

僕はティーチングというよりコーチングなんです。うまくいかなければ慰めて、うまくいったら「すごいね」と褒める。頭ごなしに「これをやれ」とは言わない。コツコツ上達して、それが純粋に楽しい、と思ってもらえるのが一番ですね。

——校内だけでなく、鹿児島の高校で『ストリートファイター6(スト6)』の指導をされたという話もうかがいました。

様式美:オーナーの中野さんからの紹介で実現しました。実際にやってみると、生徒との関係性がまだないので、どんな声かけが響くのか手探りで、そこは難しかったですね。でも、ゲームが好きなんだなというのは伝わってきて、楽しい時間でした。上達はもちろん、面白さに気づいてもらえる、いいきっかけになったかなと。

——教える中で、「自分もプロになりたい」という生徒は出てきますか。

様式美:それはまだ先の話かな、という感じですね。楽しいことではあるけど、逃げ場にはしてほしくないんです。もし本気で「プロになりたい」「専門学校に行きたい」と言うなら、「まず僕と対戦して、納得させてみろ」くらいは言おうかなと(笑)。

——なかなか熱血教師っぽい返しですね。ご自身がこうして教える側に立つのは、どんな思いからなんでしょう。

様式美:僕自身、人生を格闘ゲームに育ててもらったところがあるので。恩返しじゃないですけど、その魅力を次の世代に伝えていけたら、という気持ちはありますね。

「今が弱いから、強くなりたい」——賞金ではなく、強さを求める理由


——プレーヤーとしての目標や展望もお聞かせください。

様式美:これはあんまり記事にしにくい話なんですけど——。「教員」という肩書きなしでインタビューされるようになりたいです(笑)。

「教師だから」という注目のされ方ではなく、単純に「この人に話を聞きたい」と思ってもらえる存在でありたい。そのためにも、自分の仕事を大事にしながら、競技でもキャリアを積んで、大会で上位を目指したいですね。

——様式美さんは今年で42歳になりますね。『スト6』は、ベテランよりも若手が台頭しやすいタイトルのようにも感じます。そのあたりはどうですか。

様式美:感じますね。これはじゃんけんで例えると分かりやすいんですけど——昔の格闘ゲームって、「この場面なら、パーにも負けないグー」みたいな手が存在したんですよ。本来グーはパーに負けるはずなのに、その状況だけは相手が何を出してきても負けない“万能の一手”がある。だから読み合いというより、その最適解を覚えて、いかに正確に出せるかという勝負だった。そのぶん、経験を積んだベテランほど強かったんです。

でも『スト6』は、その万能の手をなくしてあるんです。グーはちゃんとパーに負ける。だから純粋に、相手が次に何を出すかを読み合うしかない。相手のメンタルやその日の調子にも左右されるので、トッププロでもトーナメントでポコポコ負けるんですよ。「経験で正解を覚える」という強さが効きにくい。そのうえで全部の択をケアするには反射神経や体力も要るので、そこは年齢的にしんどさを感じますね。仕事の疲れで集中できない日もありますし——。

——そういった対策や情報は、同世代のプレーヤーと共有し合ったりはしないんですか?

様式美:
そうですね。同い年だとマゴさん、ネモさん、金デヴさん。ひとつ下にときどさん、ふ〜どさん、ももちさんと、まだまだ同世代もがんばっています。

金デヴさん以外は「ストリートファイターリーグ」で活躍していて、専業でコミュニティーが確立されているんですよ。だから、彼らと練習する機会はなかなか得られないのは僕のハンデではあるかな。よく「試合運びやゲームメイクはうまいけど、知識がない」と言われるんですけど、まさに情報を共有する相手が少ないんです。

新しいキャラの対策を知らないまま大会に挑んで、コテンパンにされることもありますからね(笑)。

——その「ひとりで戦っている」感覚は、先日の「EVO Japan 2026」でも感じましたか?

様式美:感じましたね。自分の取り組みの甘さと、大会への心持ちが足りなかったなと。257位タイだったんですけど、その辺りからもうプロ同士で当たって、勝ち上がっていく——。同じ大会をもう一度やったら結果が変わるくらい、全体のレベルが高かったです。

提供:中野サガット

——そういう環境の中で、「強くなる」目標はどう立てているんですか。

様式美:
それが、ぶっちゃけ難しいんですよ。このゲームは日々の成長が見えにくくて、「読み合いが回せるようになった」と思っても、翌日にはまた勝てなくなっている。正直、『ストIV』や『ストV』に比べると『スト6』はまだ全然勝てていないんです。だから目標というより、「今が弱いから、強くなりたい」。それを諦めたら、こんなに毎日やる意味がないですからね。

——その姿勢、賞金や結果ありきではなく、純粋に強くなりたい。本当に昔ながらのゲーマーらしいなと感じました。

様式美:そこに儲けるという下心があると、自分の好きなものが結果でしか測れなくなる。そうすると、どのゲームをやっても嫌になっちゃうんですよ。だから自分は、あくまで好きなものとして確かめながらやっている。そういう感じですかね。

——最後に、これから挑戦していきたいことを聞かせてください。

様式美:ひとつは、自分がもっと強くなること。それを諦めたら、毎日ゲームをやる意味がなくなってしまうので。もうひとつは、eスポーツの面白さや素晴らしさを、もっと多くの人に知ってもらう機会を作っていくこと。教師という立場も、Revoの選手という立場も、その両方に生かせるはずだと思っています。
育ててもらったこの世界に、自分なりの形で返していけたらうれしいです。

——ありがとうございました!

———

格闘ゲームに限らず、昨今のeスポーツは、チームに所属して専業で活動するプロ選手が増えてきている。チームから活動資金が援助され、選手はプレーに集中できる——。ある意味フィジカルスポーツに似た構図へと近づいていっているのが現状だ。

そんな中、様式美さんのような兼業ゲーマーも少なからずいるが、教師とプロゲーマーを兼業しているのは、なかなか見られないケースといえよう。さらに活動資金の援助や賞金を獲得することを目的とせず、ただ「勝ちたい」の一点で、プロ活動を進めている。

「あの純粋な輝きは忘れられない。あの時代を知っているのは、僕らの特権なんです」と、様式美さん。100円玉を握りしめてゲーセンに通った、あの頃の熱量のまま——。賞金でも肩書きでもなく、ただ「勝ちたい」の一点で戦い続ける。その姿は、古き良きゲーマーの矜持といえよう。


様式美 X:
https://x.com/Yoshikibi_

Revo:
https://x.com/WinRevo


撮影:いのかわゆう
編集:いのかわゆう

【井ノ川結希(いのかわゆう)プロフィール】
ゲーム好きが高じて19歳でゲーム系の出版社に就職。その後、フリーランスでライター、編集、ディレクターなど多岐にわたり活動している。最近はまっているゲームは『VALORANT』。

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