【インタビュー】氷を食べたら死にかけた……いろいろあった今年をVARREL オーバーウォッチ部門 選手らが振り返る

2023.12.16 gappo3
DONUTS VARREL オーバーウォッチ部門にとって、2023年は躍進と試練の年でもあった。公式試合では国内戦全勝を貫き、オーバーウォッチワールドカップ(OWWC)においては日本代表選手として全メンバーが当確し、日本史上初となるグループステージ進出を決め、FlashOps:アジア キングオブキングス(FlashOps)では世界最高峰のチームを相手に熾烈な戦いを繰り広げた。

日本王者としての自他ともに認める絶対的な風格を纏いながらも、国際戦における世界の壁の厚さも体感したVARRELは今何を思うのか——。直近ふたつの大規模大会を振り返りながら、今後に向けた思いについても迫っていく。

▲左上からplankton(ぷらんくとん)、Nico(にこ)、Mint(みんと)、Mihawk(みほーく)、Qki(くき)、Qloud(くらうど)、KSG(けーえすじー)

史上初の快挙を達成したOWWC


——オフライン大会連続出場、おつかれさまでした。OWWCでは強豪フランスに勝利し、日本の歴史における快挙を達成しましたが、どのような対策を立てていましたか。

Qki:ありがとうございます。確かにフランスはレジェンドプレイヤーがそろっていて、世界的に見ても間違いなく強豪でした。しかしプレイヤーのヒーローピックが偏っていたため、事前に相手の構成を予測しやすいという特徴もありました。

plankton:そうだね。まずPoko(フランスのタンクプレイヤー)ならシグマ構成、BenBest(フランスのタンクプレイヤー)ならラインハルト構成がほぼ確定するのが大きいですし、FDGod(フランスのサポートプレイヤー)はルシオ専門ですからラッシュ構成は確定しています。なので僕たちからすると対策自体は立てやすい相手でした。

▲ワールドカップではシグマの超絶技巧を見せつけたplankton選手

——事前の対策がばちっとハマったと。初のワールドカップでしたが、選手間での緊張などはなかったですか。

Nico:メンタルの状態も良かったです。試合当日の雰囲気は日本チームの方がいい具合にバランスが取れていました。試合直前まで選手同士でリラックスした会話もできていましたし、緊張感もそこそこにあったので集中力も高かったです。

対してフランスは傍から見ていても明らかに緊張していました。張り詰めた糸のようなものを感じるほどだったので、パフォーマンスに少なからず影響を与えていたようにも思えます。

——OWWCにおける目覚ましい活躍を目撃したことで、海外メディアでもVARREL全員に注目するような記事が出ていましたね。OWWC前後で変わったことって何かありましたか。

KSG:えっ、そうだったんですか。配信などで応援してくれる人は増えたと思いますが、国際的に注目度が上がっているっていう自覚はあまりないですかね……。

▲注目度が上がっている実感はまだ無いと言うKSG選手

FlashOpsでは最弱のVARRELを見せてしまった


——先日行われたFlashOpsでは格上O2 High SchoolとライバルDAFと戦いましたが、各チームに対してどのような印象を受けましたか。

Nico:まずO2 High Schoolは、僕たちが公式大会で戦ってきた相手の中でも最強のチームでした。彼らはフィジカルゴリ押しではなく、戦術や構成を武器としていて、洗練された強さを感じましたね。

そしてDAFについては、SGYを中心に爆発していましたが、僕たちのパフォーマンスが低すぎました。2023年最弱のVARRELを見せつけてしまったと思います。

▲VARREL オーバーウォッチ部門のリーダーを務めるNico選手

——2023年のあらゆる大会で高いパフォーマンスを見せつけてきましたし、何よりDAF戦は毎回接戦でしたから、VARRELの不調はかなり珍しい印象です。

Nico:今回のオフライン大会での反省点は実は結構洗い出せていて、不調の原因に関しても目星はついています。大まかに分けると大体4つくらいですね。来年に生かせるいい収穫になりました。

——4つの反省点?

▲反省点について語る三人

Qloud:まずひとつ目としては休息です。今年を振り返ってみると、あまりにも休息期間が短すぎました。2月から12月までの10カ月間は、大会期間(練習含む)が終わったらすぐに次の大会期間に入るといったローテーションがずっと続いていましたし、わずかオフシーズンもファンミ・取材・配信・動画投稿などの活動にも注力してきました。

そういった活動は必要不可欠だと思っていますが、さすがにスケジュール配分的に詰め込み過ぎたと感じています。特にFlashOpsではその疲れが強く影響したように思います。

——確かに今思うと直近ですらOWWCから帰国し、2週間後に「FlashOps:アジア キングオブキングス」が始まり、国内優勝を決めたかと思ったらすぐに韓国への早入りという強行スケジュールでした。VARRELにとっても相当負担の大きい日程だったのではないでしょうか。

Nico:当初、僕たちとしてはOWWCを最後に、ひと区切りをつけて終わりたかったのが正直な感想でした。しかしFlashOpsの対戦カードには史上最強の韓国チームが複数並んでいましたし、有観客(OWWCのオフラインは無観客)でのオフライン大会はVARRELにとっては初体験だったので、来年以降に生かせるような経験を積む、という意識で出場しました。

試合には敗北しましたが、来年以降に生かすという意味では大収穫のイベントではありました。ただそれでも今年やった大会の中では一番落ち込みましたけど。


——そのほかの反省点はどういったものになりますか。

Qki:ふたつ目はデスク環境の再現率です。元々僕は自宅の環境をなるべくオフラインの現場で再現したいタイプなので、定規でモニターの高さ・距離・椅子の高さなどを事前に記録したり、モニターの細かい設定を写真で残したりして、オフライン大会の現場に反映する形を取ってきました。

▲自宅環境の再現にこだわりをみせるQki選手

——ほかのタイトルにもメジャーを使って微調整するプロプレイヤーは時々いますよね。Qkiさんの言葉を聞いていると十分な対策をしているように思いますが、何が問題になったのでしょうか。

Qki:モニターに表示される言語の違いですね。英語だったらまだ読めるので時間をかければモニターの調整はできるんですけど、今回は韓国語表記だったのでかなり大変でした。スマホの翻訳アプリを使って文章を翻訳しながらしどろもどろに調整したのですが、英語と比べるとかなり時間がかかりましたし、時間をかけて調整しても結構輝度や色味の感覚が違うみたいなことも起きたりしました。

今後いろいろなオフライン大会に出場することを考えると、英語圏以外での翻訳アプリの活用や通訳さんへの意見の伝え方などは慣れておいた方がいいなと感じましたね。

——基本的に自宅環境が一番パフォーマンスがいいといわれていますよね。そういえば今回のFlashOpsはVARRELにとって初の有観客オフライン大会だったと仰っていましたが、そちらの影響は何かしらありましたか。

Nico:実はそこが3つ目の反省点となります。前段階の話になってしまうのですが、OWWCの時は相手のピックに合わせて構成を変えることが何度かありました。実際にその判断がうまくいくこともあれば、逆にハマらないこともあり、一長一短の選択だったとチームは感じていました。

しかし今回のFlashOpsは練習期間も非常に短かったので、一番練度の高い構成をあえて重点的に使い続けてみないかと話し合ったんです。Overwatch LeagueのHanzhou Spark(※)みたいなイメージですね。

※Overwatch Leagueを代表する強豪チーム。少ないピックプールで2023年度は活躍した。

▲試合を振り返るNico選手

Mint:ここまでの判断に関しては悪くはなかったんですが、今回採用したドゥーム構成に問題がありました。ドゥーム構成はいわゆるサウンドプレイ中心の構成です。マイクを使ったVC(ボイスチャット)コミュニケーションが大前提で、あらゆる連携がVCを皮切りとした非常に繊細かつフィジカルの高い連携が必要なので、ワンミスですべてが崩壊してしまいます。

今回の大会では観客の盛り上がりや応援が特に凄かったので、とてもうれしい反面、VCコミュニケーションはほぼできませんでした。ですので僕たちはラッシュ構成を選ぶべきだったと今は反省していますね。

対DAF戦で最初の2マップをほぼ一方的に落としてしまったのも、相手の好調や自分たちの疲労などもありましたが、ドゥーム構成を貫き続けてしまった部分はかなり大きかったです。3マップ目のSuravasaで調子を取り戻しつつあったのも、構成をシフトしたことが少なからず影響を与えていました。

▲構成について悔しさを滲ませるMint選手

Nico:またサウンドプレイに頼らない構成だけではなく、“サウンドプレイに頼らない戦い方”も重要だと感じました。具体的には、通常のスクリムやオンライン大会よりも、目視によるクリアリングを増やすということです。

音で壁向こうの状況を知るとか、戦いながら周囲の状況を音で判断するとか、そういったプレイングだとハイドしているヒーローに気付けません。なので視覚情報を中心としたクリアリングを主軸にして、いつもとは違う前線の上げ方も必要になるなと痛感しました。

ただ来年以降に増えてくるであろうオフライン大会に向けて、サウンドプレイに頼らない戦い方の必要性をノウハウのひとつとして取り入れられたのは非常に大きいと思います。

▲得た者はあると語るNico選手

——今回が初の有観客試合であったことを考えると、既に十分な収穫は得たように感じますね。

Qki:4つ目の反省点もかなり密接に関わっているんですが、パフォーマンスが低い時のことを考慮した構成や戦い方を用意するべきだったと思っています。2023年はほぼ休みなくがむしゃらに活動してきましたが、その割には各選手のパフォーマンスはチーム全体で良好でした。

一方で、今回のような極端にパフォーマンスが低かった大会は経験上初めてで、サウンドプレイうんぬんを抜きにしても、いろいろと対応が遅れてしまいました。パフォーマンスが低い時はドゥーム・ソジョーン・エコーを引っ込めて、メイ・シンメを出すとか。調子が悪い時にはそれ相応の構成や戦い方があるということを痛感しました。同じ轍を踏まないよう、次回以降に必ず生かします。

▲決意を新たにするQki選手

海外遠征はトラブルだらけ!? 皆生きていて良かったね……


——反省点中心のちょっと重めな話題が続いたので、心機一転、FlashOpsやOWWCで印象に残った面白い出来事などはありましたか。

plankton:実は表に出してない事件があったんですよね。KSGの氷事件っていうんですけど。ね?

▲問いかけるplankton

KSG:あぁ~、ちょっとあの~。はい……、ありましたね。

▲KSG選手、少しだけ気まずいか?

——何ですかその氷事件って。

KSG:OWWCでアメリカに行った時の話なんですけど、日本人は海外で氷を食べちゃいけないみたいな話ってよくあるじゃないですか。

——衛生面とかで日本人は耐性がないからみたいな話はよく聞きますね。

KSG:OWWC期間中に購入した飲み物には大抵氷が入っていたんですけど、いつもの癖で全部ガリガリ食べちゃったんですよね。しかも機内アナウンスで食べるなっていわれてたのに、あまりよくわかってなくて。

——もしかして腹を壊しました?

KSG:夜中に人生で味わったことのない腹痛に襲われて、ER?みたいな所に緊急搬送されました。しかも血だらけの重症患者が搬送されるような所に連れていかれて、命の危険も危ぶまれる状態になりながら、意識朦朧の中で点滴を打つことになって。

▲自分で笑い始めるKSG選手

——アメリカでそうなるのヤバいですよ! 保険とか入っていました?

KSG:「アメリカ行く時に保険なんて要らないだろ~」って思ってたんですが、本当に万が一のために一応保険に入っていたので、ギリギリセーフでした。一時は入院も本気で検討されるような容体だったらしいんですが、どうにか体調が回復したので事なきを得ました。ちなみにこれがその時の写真です。


——なんでピースしてるんですかこれ(笑)。

KSG:気分で……(笑)。アメリカにいた時はシャレになっていなかったのでSNSで発信できなかったんですけど、今はもう笑い話にできるので本邦初公開ということで。

——こんな形で初公開していいんですかね……。

Nico:当時は本当に重症だったんでSNSで投稿しにくかったんですよね。KSGは笑い話にできるということなので、公開しちゃって大丈夫です(笑)。


KSG:ちなみに実はまだあって。

——えっ、まだある?

KSG:大丈夫です、こっちは別に事件とかじゃないです。韓国のFlashOpsでの話なんですけど、僕って普段から左右逆で音を聞いてるんですけど。

KSG選手のヘッドホン事情

何を言っているのかわからない方もいらっしゃると思うので注釈で解説します。KSG氏は幼い頃に左右逆にヘッドホンをつけてPCを操作していたせいで、常に左右逆の状態でゲームをプレイすることが日常になっています。ちなみにゲームだけではなくアニメも映画もすべて左右逆で視聴しているらしいです。おそらくプロゲーマーの中では世界で唯一の特徴かもしれません。

——そうですね。KSGさんの怪物エピソードとして日本では有名ですよね。

KSG:それでFlashOpsの韓国人のスタッフさんにサウンドカードを左右逆に設定したい旨を説明したんですけど、どうしても意味が伝わらなかったんですよね。「音が左右逆になってるから直せってことか?」みたいな(笑)。

正確に翻訳して伝えれば伝えるほど、スタッフさんも混乱しちゃって、結局理解されなかったんです。なので大会本番ではヘッドセットを反対にして装着してたんですけど、カメラでアップされてる姿を見てると多分僕だけヘッドセットのマイクが逆から生えてるのを確認できると思います。これ観戦ポイントです。

▲大会配信を見てみると確かにそこには右からマイクを生やしているKSG選手の姿が確認できた

——大会見てた時は気付かなかった……。

Mihawk:あとは集団で旅行するとありがちかもしれないんですけど、結構みんな体調崩しちゃったんですよね。アメリカでも韓国でも必ず誰かが発熱したり。自分もそこそこ高熱が出てたんですが、OWWCの帰りの飛行機で12時間くらい耐え続けなくてはいけなくて、割と地獄でした。

いっつも元気なのはQloudくらいかな?

▲飛行機で地獄の時間を味わったMihawk選手

Qloud:何でか自分だけぴんぴんしてるんですよね。いや~体が丈夫なのかな。

インタビューではノリノリなQloud選手。しっかりとインタビューの数日後に体調を崩しました

——反省点に体を鍛えることも追加する必要があるかもしれないですね。

2024年はさらに成長を!


——最後に今後の目標や抱負についてお聞かせください。

Nico:とりあえず今はリセット。FlashOpsでの経験は糧にして、切り替えていきます。まず今年最後の大会であるinゼリーでは、日本チームに対しては全勝優勝を狙います。そしてドリームチームに対しても、厳しい戦いにはなると思いますが、勝利を納めて今年を終えたいと思っています。

そしてFlashOpsで感じましたが、世界への階段は登れなくはないと感じました。昔はどれくらい高いのかすらまるでわからないし、登り方さえもわからない絶壁のような感覚でしたが、今は階段に変化した印象です。ただし階段は果てしなく長く続いていているので、一朝一夕で追いつくとかではなく、一段一段時間をかけて確実に登っていくしかありません。

ただ僕たちがやらなければ誰がやるという思いで、時間をかけて強くなっていくつもりです。

▲帰国直後にも関わらず選手のモチベーションは高い

あとFlashOpsで敗北した相手の中でも、特にDAFに対してはリベンジをしたいです。先日完敗した直後は自分たちのパフォーマンスの低さも相まって今年一番落ち込んでしまいましたが、今は逆に闘争心で煮えたぎっている状態に変化しました。

オフライン大会に出場しても何も得られなかった、みたいな状況にならなかったことがうれしいんです。反省点もたくさん見つけられて、まだまだ成長できる。来年はDAFにも絶対勝ちたいし、OWWCが開催されるならまた出場したいです。

来年もよろしくお願いします!
成長していくVARRELを皆さんに必ずお見せします!

——ありがとうございました!

———

FlashOpsで歯車の噛み合わないVARRELを目撃した時、正直目を疑った。あまりにもらしくない姿だっただけに何かあったのではないかと思っていたが、話を聞いたことで腑に落ちた。

また帰国直後にも関わらず、反省点の内容は既に筋道が立っており、お互いにとことん話し合ったことが察せられた。加えてインタビュー時点でVARRELは全員寝不足で疲労困憊だったにも関わらず、闘争心はまったく萎えていなかった。手痛い敗北だったにも関わらず、既に次に向けて準備を進めていたのだ。

今回の敗北による収穫は、想像以上のものだったのではないかと感じた。

今年はOverwatch Leagueの終了という悲しいニュースもあったが、来年以降も競技シーンは続くと明言されている以上、2024年からは新たなる競技シーンの幕開けを意味しているはずだ。VARRELならば2023年の敗北を、2024年の挑戦に上手く活かし切ってくれることだろう。進化するVARRELの姿を、来年もまた見ていこう。


撮影:いのかわゆう
編集:いのかわゆう


gappo3 プロフィール


オーバーウォッチ 2』のプロリーグ「Overwatch League」公式日本語配信の解説担当。初代『オーバーウォッチ』にて創設されたプロゲーミングチーム「Green Leaves」での活動を基盤に、2017年からライター業を開始。eスポーツ中心のインタビュー記事やコラム記事を数多く手がけてきた。

Twitter:https://twitter.com/gappo3gappo3
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