伝説の格ゲーマー・太刀川氏が語る、eスポーツ以前の格ゲーシーンと未来 (2/2)
ゲームから離れて視野が広がった引退時代
——ところで、当時全国大会で優勝し、チャンピオンになったことで生活は変わりましたか?
太刀川:雑誌やゲームの攻略ビデオのお手伝いをするようになりました。自分でやってきたことがいろいろな人に役立ててもらえるというのはとても新鮮でしたね。
また、その手の書籍の制作に携わることで、いわゆるライト層のプレイヤーが上達するにはどのように教えればいいのかというのも勉強になりました。
その反面、ゲームをやることが仕事になることで、ゲームが急に義務的になってしまい、嫌になってしまったというのも正直あります。それでゲームの世界から離れ、まったく別の世界の仕事に就きました。
——なるほど、それでゲームの世界から姿を消してしまったのですね。
太刀川:ただ、ゲームから離れて気づかされたこともあります。
良くも悪くも、世の中初心者だらけなんだなということです。
なんだかんだで世の中は自分の知らないことが多く、それを知るための書籍だったり情報って非常に大事なんだと思いましたね。
ガチガチのゲーマーだった当時は、ゲームのスターターガイドみたいな本を見て「こんな説明書に毛が生えたような本、誰が買うんだよ」って思っていたんですけど、今は新しいゲームやるとき、めちゃめちゃ役に立ってますし(笑)。
そういった意味で、初心に返って行動するというのはどの分野でも大切だと感じました。
勝つこととは別のものに目を向けることも大切
——そんななか、時代はeスポーツ全盛期となり、太刀川さんが活躍していた時代に比べると、格闘ゲームの大会はeスポーツ大会と名を変え、市場も一気に大きくなりました。現状のeスポーツ市場について、率直な考えをお聞かせください。
太刀川:僕が優勝した頃の大会は賞品はたくさんいただけましたが、賞金はありませんでした。それに比べると、eスポーツの賞金額は確かにすごいとは思います。
ただ、プロになるためにはただ勝つだけではなくて、スポンサーを獲得するとか、魅せるプレイができるプレイヤーになるとか、求められるものが多くなった分、大変だとは思いますね。
また、プロになるからには一回優勝したら「はい、終わり」ではなくて、パフォーマンスやプレイスタイルの魅力も磨いていかないと、今の時代は難しいんじゃないかな。結局どんな大会でも賞金を取り続けるなんてことはできないわけで、スポンサードあってのプロ選手ですからね。
僕が今の時代にプロとして活動していたら、自分の存在感をいかにアピールできるかを模索するかな。ただ勝っているだけでは一般の人の記憶には残らないだろうし。僕自身、みんなを驚かせるプレイをするのが好きでしたから(笑)。
——確かに、大手の企業からスポンサードされている選手もいれば、プロになってほどなくして契約が終了してしまう選手もいますからね。
太刀川:そう考えると、スポットスポンサードって、なんか企業側がセコいなって感じちゃうんですよね。企業の宣伝をしたいのであれば、チームとかに投資をするのではなくて「大会を開く場」に投資することの方が大事だと思います。
僕らが大会に出場していた当時は、そうやって「大会を開く場」とか「イベント主催者」に投資がされていたんですよ。例えば「ゲーメスト杯」だったり「国技館」だったり、ゲームを開く場所に投資して盛り上げていたんです。
いま、eスポーツとはまったく関係のない企業の方が、eスポーツに参入してきている流れがありますが、選手への投資が圧倒的に多いと思うので、場の方にも投資が増えていけばもっと盛り上がる気がします。
——最後に、今後のeスポーツにどんなことを期待されますか?
太刀川:僕は今年で45歳になるんですけど、人生折り返し地点ですよね。この時代にプロの選手として活躍しているプレイヤーを見ると、ものすごくうらやましく思います。僕も時代が時代だったら、ゲームを続けてプロゲーマーを目指しちゃっていたかもしれませんし(笑)。
やっぱりゲームをやっていたときが僕にとって一番楽しい時代だったんですよね。そういう意味でもいまのプロゲーマーさんたちが、楽しいことを仕事にできているってことは素晴らしいなと思います。
これからも、彼らがeスポーツを盛り上げて、eスポーツに新たな風を吹かせてほしいです。
——ありがとうございました!
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太刀川氏が全国チャンピオンになってから27年。その間、彼は常に格ゲーシーンの前線に立っていたわけではない。しかし『ストII』とともに青春時代を過ごした太刀川氏の言葉には、ゲームから離れていた時代の人生経験も積み重なった重みが感じられた。
いまeスポーツで活躍し、大会で優勝を果たしたりしている若い選手の中で、果たして27年後に太刀川氏のようにレジェンドとして記憶に残る人物はどれほどいるのだろう。それはテレビやYouTubeで有名になることとも少し違う、その時代に突出した努力と才能の結晶なのだと思う。
eスポーツブームの渦中にある今、プロゲーマーひとりひとりが何を考え、どんなことをすべきか。太刀川氏は明確な答えを語ってくれたわけではないが、「彼らがeスポーツを盛り上げて新たな風を吹かせてほしい」とバトンを渡してくれた。
これからのeスポーツを支えていく若者たちが、全力でこのバトンを受け継ぎ、さらに未来の世代につなげていってもらえることを、eSports World編集部としても期待したい。
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