「『DOA』が好きだからこそ本気で辞めようと思った」【『DOA6』プロゲーマー・輝Rock選手&シオロジカ選手 インタビュー<前編>】

2019.7.26 岡安学
eスポーツタイトルとして大規模な大会が開催されている格闘ゲームの中で、最も新しいタイトルといえば『デッド オア アライブ6』(DOA6)だ。先日プロデューサーの新堀洋平氏にインタビューを敢行したが、発売当初こそ混乱があったものの、海外人気にも押され、無料版が100万ダウンロードを突破。プレイヤーの裾野を広げて人口を増やすという開発陣の狙いが効果を上げている。

では、『DOA』シリーズを長年プレイし続け、待望の新作と同時にスタートした2019年のチャンピオンシップを戦っている選手たちは、最新作をどのように評価しているのか。ゲームシステムの変更、過去シリーズから踏襲してきた部分は、最新作でのバトルにどう作用し、戦況にどのように影響しているのか。

そんな『DOA6』の現状を語っていただくのにふさわしい人物として今回インタビューしたのは、『DOA』シリーズのプレイヤーとして、日本のみならず世界のトップに常に君臨し続けている輝Rock(テルロック)選手とシオロジカ選手のふたり。ともに株式会社コンプ所属のプロプレイヤーとして活動しており、取材直前に台湾で開催された「Taipei Major」では、シオロジカ選手(NiCO)が優勝、輝Rock選手(霞)が2位という好成績を残してもいる。

前編では『DOA6』でガラっと変わったシステムとその評価、後編ではeスポーツとしての『DOA6』と今後の展望&要望を伺った。世界で最も『DOA』を愛しているがゆえの厳しい発言も飛び出したが、『DOA6』のみならず、現在のeスポーツにおける格闘ゲームの状況を知る上でも、興味深いインタビューだと思う。

輝Rock(写真左)
『デッド オア アライブ』シリーズを2からプレイし続けている、株式会社コンプ所属の古参プレイヤー。2019年から『DOA6』に乗り換え、「KVO x TSB 2019」では3位(レイファン、かすみ)、「Taipei Major 2019」(台湾) で準優勝(かすみ)を獲得している。

シオロジカ(写真右)
『デッド オア アライブ』シリーズは3からという若手プレイヤー。輝Rockとともに株式会社コンプに所属するプロゲーマー。2019年は「EVO Japan」でのエキシビションマッチで優勝(NiCO、ディエゴ)、「KVO x TSB 2019」で4位(NiCO)、「Taipei Major 2019」では優勝を果たしている(NiCO)。


シンプルなシステムで初心者に優しくなったものの……


――久々に『デッド オア アライブ』のナンバリングタイトルがリリースされたわけですが、まずは『デッド オア アライブ6』をプレイしてみた、おふたりの率直な印象はどうだったんでしょうか?

輝Rock選手(以下、輝Rock):前作『デッド・オア・アライブ 5 ラストラウンド』(DOA5 LR)の更新が停止することが発表されたとき、『DOA6』の開発について言及されていたので、多分リリースされるんだなとは思っていました。『DOA5 LR』の更新が終了して公式大会もなくなったところで、『DOA6』が発売されるまでの空白の期間をどうすべきかとシオロジカから相談され、プレイヤーだったら「対戦会がしたい、大会がやりたい」と考えて、1年間は自分たちで大会を開催することにしたんです。

そして、ようやく2019年3月に『DOA6』が発売されたんですが、正直なところ、最初は『DOA5 LR』の頃の方が面白くて、『DOA6』をプレイするかどうか悩んだくらいでした……。

私は『DOA』シリーズのプロ選手として活動していますが、プレイし続けている理由は単純にゲームとして『DOA』が面白いからなんですよね。でも、『DOA6』には、その根源である面白さが見いだせなかったんです。

『ストリートファイターV』(SFV)がリリースされた当時も、『ストリートファイターIV』の方が面白いという評価が多かったですよね。『SFV』の人気が伸び悩んでいたのを傍観者として見ながら「こういうこともあるんだな」なんて思っていたんですが、まさか自分が好きなゲームで同じような感覚になるとは思っていませんでした。


――どの辺が面白く感じられなかったのでしょうか?

輝Rock:『DOA6』でゲームシステムを簡単にしようとしていることは理解できるんです。ただ、結局簡単なのか難しいのか、根幹がわかりにくいところですね。

『DOA5 LR』は読み合いを繰り返して、その択(選択肢)が成功したうえで浮かせ技を決めると、その後の空中コンボにダメージが加算されるんですが、『DOA6』はそのダメージ加算がなくなって確定ダメージになっているので、浮かせまでの読み合いが必要なくなりました。そういう意味では単純化はしています。

ただ、それによってキャラクター差が縮まったのかと思いきや、強いキャラはそのまま強く、どちらかというと格差が広がった感じがする。技の選択肢もキャラの選択肢も狭まっただけで、面白さが薄くなったイメージでした。

初心者向けにしたいのであれば、もっと簡単に遊べる方に振り切ってもよかったかもしれません。根幹の難しさは残してありますが、eスポーツタイトルとしてうまい人がよりうまくなれる“尖った方向”かと言われると、ちょっと違う感じがします。

ーーシオロジカ選手はいかがですか?

シオロジカ選手(以下、シオロジカ):『DOA6』になって、全体的に初心者にわかりやすくはなりましたね。

簡単になった点としては、前作はよろけに対してレバーをガチャガチャ動かすことでよろけ状態を早めに回復することができたんですけど、それがなくなりました。つまり、いつでも同じ状態なんです。そういう部分は良くなっていると思います。


ただ、同じく新しく入った要素として、レバーを上もしくは下に入れてから「S」ボタンを押すと、横移動で攻撃を回避しつつ打撃を入れられる「サイドアタック」というカウンター攻撃が追加されたんですが、これがバトルをかなりつまらなくしてしまったんです。

攻撃を仕掛けた側が有利を取ってさらに攻撃を繰り出せる状況になったとしても、この「サイドアタック」で返されてしまう危険性がある。つまり、攻撃側なのに警戒してガードせざるをえない場面も出てくるわけです。有利を取っているのに読み合いではなくガードしなければならないくらい、当初の「サイドアタック」は強力でした。

バージョン1.05のアップデートで、この「サイドアタック」がブレイクゲージを必要とするゲージ消費技へと修正されたことで、いつでも何度でも出せる技ではなくなったのでだいぶ改善されていますが、使い放題だった発売当時はかなりやる気を削がれました。

DEAD OR ALIVE 6 Ver.1.05アップデート内容
https://www.gamecity.ne.jp/doa6/images/update/doa6_update_v105_jp.pdf

『DOA6』の楽しさと難しさ


ーーゲームシステムとしては、ボタンひとつで強力な連携が出せる「フェイタルラッシュ」や強力な打撃技の「ブレイクブロー」、上中下の攻撃をすべて受け止めて反撃できる「ブレイクホールド」によってかなり簡略化され、初心者にとってはとっつきやすくなった印象はあります。一方で、「eスポーツ」の競技タイトルとして見た場合、その簡単さがあだになったりもしているんでしょうか?

輝Rock:新システムが追加されても、決して初心者向けのゲームではないと思います。

例えば、大きな隙の後、叩き込む技自体が難しくなっています。

『SFV』で言えば、昇龍拳のような無敵時間のある強い技をガードすると大きな隙が出て、そこに強攻撃を入れると「クラッシュカウンター」というさらにコンボが決められる状態になりますよね。

『DOA6』の場合は、昇龍拳みたいな大技をガードしても、初心者だとたいしたコンボが入れられないんです。『SFV』で言うところの「クラッシュカウンター」を取れる技を出すのがすごく難しいので、そこからコンボを入れるには相当練習しないといけません。

でも、そこって難しくする場面ではないと思うんですよね。昇龍拳のような強い技を出すだろうと読んでガードしていたからこそ、それを読み勝ったボーナスとして、相手からすればペナルティとして、簡単に大技が入るようになっているわけですから。

それに、全キャラ共通のシステムなのに、キャラクターによってその強さや使い勝手に差があるというのも不条理な感じがします。新しいナンバリングになると、それまでいたキャラクターにも新技が追加されるんですが、そうなると最初からいるキャラクターと途中参戦のキャラクター、新キャラクターで持ち技の数がまったく違ってきてしまう。もちろん、なくなる技もあるんですけど、基本的には増える方向なので、技数の格差もありますね。

私はいろいろな対戦格闘ゲームを触ってきているんですけど、『DOA6』は圧倒的に難しいんです。やれることが多すぎて、技も多くて、キャラクターも多い。ひとりのキャラクターができることを覚えて、さらにその対策をしなくてはいけないわけで、それをひとつひとつ覚えていくのはまるで受験勉強のようです。

シオロジカ:まず技を減らすことから考えた方がいいかもしれないですね。既存の難しい状態に「ブレイクブロー」のようなわかりやすい新しいシステムを入れるのではなく、一回全部リセットして、わかりやすい土台を作ってからいろいろな要素を入れていかないと、初心者は飲み込まれてしまいます。


――『SFV』では、どのキャラクターもしゃがみ強キックやスライディングはダウンさせられる代わりに隙が大きいとか、一定のわかりやすいルールはありますよね。

輝Rock:言ってみれば、全キャラクターがそういったルールに当てはまらない感じです。このキャラのスライディングは確反(確定反撃)があるのに、こっちのキャラのスライディングは確反がないといった技があるんです。そのくせ硬直時間がバラバラだから、確反のタイミングも違ったりして。モーションがもっと違っていれば、技自体も違うので判断もできますし、確反もわかりやすいんですけど……。

シオロジカ:見た目が同じ技でも、単発技と連携の派生で出る技では硬直が違っていたりするのも、初心者にはわかりづらいと思います。同じ技なのに反撃できたりできなかったりするわけですから。それを全部のキャラクターの分だけ覚えなくてはいけないというのは大変です。

あとは、間違い探しのような技がいくつかあるんですよ。途中まで技のモーションが一緒なのに、途中から違う技になってしまう技があって、これも確反が違うので、とっさに対処するのは難しいと思います。

輝Rock:例えば、NiCOのH+K(プサル)とS(フェイタルラッシュ1)などですね。一瞬見ると同じ技じゃない? って思えてしまう。よく見ていれば判別できなくもないんですが、今の技はH+KなのかSなのかを判断したうえで、さらにそれぞれの確反が取れる技も違うので、適した確反を出さないといけない。これを大会でとっさに判断しろというのは難しいですよね……。

NiCOのH+Kで出る後ろ回し蹴り

こちらはSで出る前回し蹴り。プレイ中はキャラの右構え、左構えが変わるうえに前回し蹴りと後ろ回し蹴りとなるため、一瞬で判別するのは難しい


――個人的にプレイしてみても、たしかに技が多いと感じました。それと、連携技の派生もめちゃくちゃありますね。それが楽しい部分もあるんですけど。

輝Rock:そうなんですよ。それは神園さん(PGW所属のプロゲーマー)に言われて気がついたんです。

私は『DOA』をやりすぎているので、感覚が麻痺して当たり前のように感じていましたけど、派生がある技の選択肢がありすぎます。PPの後に上/中/下段技すべてが出せるんですよね。そういう派生って他のゲームと比べても結構珍しいんです。

『鉄拳』シリーズの場合は、下段か上段の2択になっていることが多いので、この連携が始まったらしゃがんでいれば大丈夫、とかあるんですよ。もちろん、連携を途中でやめて中段に移行するという方法もありますが、それは連携の派生ではないわけですから。

でも『DOA6』だと、連携が始まってから、しゃがんでいたら中段攻撃が来ますし、立っていれば下段攻撃が来る。ファジーガード(上下のガードを繰り返して、両方に対応しようとする3D格闘ゲーム定石のガード方法)をしてどちらにも対応しようとすると、ディレイ(プレイヤーがわざと攻撃を遅延させてタイミングをずらすテクニック)をかけた中段攻撃が刺さる。攻める側の選択肢が多いんです。こうなると、うまいこと択が合った時くらいじゃないと、攻撃を防げないんです。eスポーツとしてこれでいいの? と思うんですよね。

バイマンの固有打撃技リスト。P→Pからの派生のように、上中下いずれにも派生できる技が多い

「やらないアピール」にはなんの影響力もない


ーーまだ発売されたばかりですし、今後もアップデートが続いていきますが、『DOA6』をeスポーツタイトルとして考えた時、どういった部分を改善してほしいとお考えですか?

輝Rock:対戦格闘ゲームって、攻撃方法はある程度似通ってきてしまうので、上級者になるほど防御の対応力が強さにつながってきたりするんです。その防御がこれまで語ってきたように運任せになってしまうと、ただの「運ゲー」になってしまい、拮抗した技術力や読み合いによって勝敗を決するべきeスポーツとは違ってきてしまう。

「読み勝ちしたから今度は俺のターン!」というのは納得感があるんですけど、攻撃側が有利すぎて「ずっと相手のターン」になってしまうと、読み合いの意味がなくなって、ずっとジャンケンをしているような感じになってしまいます。

シオロジカ:技の多さの話で言えば、すべての技が場面や展開によって使える技かというとそうでもなくて。ある技に対する上位互換の技が追加されていたりして、「元の技、いらなくない?」みたいなこともあります。なので、その技を残すくらいなら、他の用途に使える技を入れるか、その技を削除して技の数を減らした方がよくない? と思ったりもします。

輝Rock:実は、神園さんに「『もうやらない』って選択肢もあるのでは?」「惰性でやっていると、試合や動画を見ている人たちから『面白いから最新作に移行してプレイしているんだな』って思われるよ」と言われて、いろいろ考えました。そんなふうに思われるくらいなら辞めてしまえばいいと。

ただ、海外のプレイヤーたちの中にはそれでも『DOA6』を受け入れている人もいたんですよね。だったら自分たちが“やらないこと”でアピールしたところで、あまり影響力はないのでは? と思い、とにかくやるだけやって成績を残したうえで、「これは違うんだ」って言う方がいいかなって。

――『DOA6』は、基本無料版の早期配信やロビーの未搭載など、リリース直後はさまざまな不満がありましたが、ゲームとしては面白いというのがもっぱらの評判でした。ただ、トッププレイヤーの目線でみると、そのゲーム自体の方に問題あったということですね。

シオロジカ:輝さんが先ほど言っていた神園選手とは私も話をしていました。『DOA6』に魅力を感じず、しばらくプレイをしていなかった時期があったんですけど、「辞めるなら辞める、やるならちゃんとやれ」って言われて、そこからやるのであれば結果を残さないといけないと、心を入れ替えてもう一度取り組みました。それがワールドチャンピオンシップ「Taipei Major」での優勝に繋がりました。


あの時は優勝するつもりでいましたし、自信もありました。たぶん負けるとしたら輝さんくらいかなと思っていたんです。実際、輝さんにはウイナーズファイナルで負けて、ルーザーズに落とされました。

――ちなみに、プレイしていなかった時期はどれくらいあったんでしょうか。

シオロジカ:3週間くらいだと思います。その時は『Apex Legends』ばかりやっていましたね。


(後編に続く)
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