eyesの「LJL 2023 Spring Split」レギュラーシーズン総括:ベストゲーム3選&全8チーム注目選手

2023.3.31 宮下英之
1月28日(土)より開幕した『リーグ・オブ・レジェンド』(LoL)の日本プロリーグ「LJL 2023 Spring Split」もついに2回ずつのレギュラーシーズンが終了。8チーム中上位6チームによるプレイオフを経て、Spring Splitの優勝と同時に、ロンドンで開催される国際大会「Mid-Season Invitational 2023」(MSI 2023)への切符を手にすることができる。

今回も「LJL」キャスターのeyes氏に、レギュラーシーズンの振り返りと、印象に残った試合ベスト3、そして今季の全8チームを斬っていただいた。かなり厳しい話もあるが、eyes氏の本音を聞いてほしい。

インタビューは、3月27日(月)に行った。

「LJL」初期からその歴史とともに実況を務めてきたeyes氏


eyesが見た「LJL 2023 Spring Split」レギュラーシーズン


LJL 2023 Spring Split」のレギュラーシーズンが終了しました。すべてのチームがBo3(2ゲーム先取)で2回ずつ対戦し、6位までが4月1日(土)から始まるプレイオフに進出して、春の優勝チームを決めることになります。



振り返ってみると、あらためて世代交代がやっぱり起こって、Sengoku Gaming(SG)、DetonatioN Focus Me(DFM)、Fukuoka SoftBank HAWKS gaming(SHG)が三つ巴の戦いを繰り広げ、リーグが面白くなりました。「このチームが勝つだろう」というチームが3つあって、自国のリージョン内で切磋琢磨できる環境になったんだなと実感します。

もうひとつは、Bo3に変わったことで前後半で大きく戦い方が変わったということ。Bo3での戦い方をどれだけ早く取り入れられるかが重要なシーズンだっただけに、うまく適応したチームが勝利を多く積み重ねていると思います。この2点についてもう少し深掘りしてみましょう。

DFM一強を破るのはどのチームか


結果としてSGがシーズン1位で終えましたが、正直不安に思っていました。SGは試合内容的に上下のブレがあるように思っていたからです。ただ、DFMに1度負けてからの残り3戦は、本当に強いチームの勝ち方をした。それまではまだDFMの方が強いと思っていたんですが、最後の3試合を見るとSGの方が強いと言われてもなんら不思議ではない戦い方をしていました。


「世代交代」の波は、確実に起きそうだなという予感がしています。

3強という意味でSHGについては、ちょっとまだ厳しそうですが、やり方次第かなと思います。絶対に優勝できないということではない。チームとしての練度をもうちょっと上げる時間が必要そうです。

例えば、新しい戦略を取り入れ始めたのもひとつですし、kinatu選手は素晴らしいプレイもあるけどミスも多い。DFMを超えるという意味では、Marble選手もあと少し足りないという印象です。追い越せるとしたら夏になるんじゃないかと思っています。

Bo3は戦況にどう影響したか


Bo3での変化について言うと、これまで「LJL」ではターゲットバンがあまりなかったんですよね。このプレイヤーにこのチャンピオンを持たせない、というのはあまりなくて、いかにメタに沿って戦うかということが多かった。

だけど、Bo3になると、1戦戦ってみてやっぱりこのチャンピオンは消さなきゃいけないというケースが増えたので、それにアジャストできたかどうか。トリスターナが活躍したらそのトリスターナをバンするケースもある、というのがBo3らしい展開です。

1戦目の内容を踏まえたとしても、自分たちが“うまく戦えなかった”ケースでは、あまりピックは変えないんですよね。相手も強い構成、自分たちも強い構成で当たった時に、主にプレイヤースキルが重要になります。

ですが、自分たちが“負けた”ケースでは、相手の序盤・終盤に強いチャンピオンはバンしなきゃ、という戦略になる。そんな駆け引きが増えて面白くなった印象はあります。

SG vs SHGの試合などは、ナーをSGがバンして、SHGは空けばピックするといった駆け引きが多くなりました。2ゲーム目はSGはレッドサイドで先にピックできないので、SHGがナーをピックして勝利。となると、3ゲーム目はバンしなきゃいけなくなる、といったところがBo3の面白さだと、僕は思っているんですよね。

ポイントは、SHGがナーをピックした時にもし結果を出せないと、「ナーを取られてもなんとかなる」と思われて脅威ではなくなってしまうところ。だから、ピックした選手は結果を残さなければいけないというのが、Bo3やBo5では本当に大事なんです。選手が期待に応えられるかどうかが問われるというところが、プロリーグらしい戦い、という感じがします。

ちなみに、国際大会などでは選手ごとの得意なチャンピオンなどもお伝えしているんですが、「LJL」の中であまり選手を格付けしてしまうのもよくないという思いもあり……ここは難しいところです。


eyesが選ぶ「LJL 2023 Spring Split」ベストゲーム トップ3


Spring Splitで行われた試合の中で、特に印象に残ったベスト3(ベスト3ではなくなってしまいましたが……)を挙げてみたいと思います。

(1)SHGのバックドアとそれを阻止するSGの粘り(Day13 SHG vs SG)


ひとつめは、1巡目のSG vs SHGのゲーム2です。ゲーム1をSGが獲得し、ゲーム2もSGがドラゴンソウルを取るものの、SHGはバックドアをしかけつづけたのですがなかなか勝てず、それでもSHGが勝利をもぎ取りました。SGの粘り強さとSHGの焦りとがよく見えて、本当に熱い試合でした。


ただ、その後のゲーム3ではSHGが力尽きたかのように負けてしまい、SGの底力も同時に見えました。


(2)元LPL最強ADC vs 現LJL最強ADCの初対決(Day1 DFM vs SG)


ふたつ目は、DFM vs SGの初戦。Spring Splitの最初の試合でした。LPLから加入したLoken選手にYutapon選手とHarp選手が倒されてしまうんですよね。LPLから格付けされたように感じて衝撃でした。


ただ、ゲーム2に入ると逆にYutapon選手が反撃を見せます。Loken選手の強さは痛感しましたが、Yutapon選手の反撃も見られて本当にいい試合でした。

(3)久々に見られた勝利後の選手の表情(各試合)


3つ目は1試合だけではないんですが、今年から試合終了時にポップカメラで、ネクサスを折った瞬間の選手の顔が見られるようになったことです。野球の「珍プレー好プレー」みたいに、印象に残ったシーンがいくつもありました。

まず、AXIZのDicey選手が勝った瞬間に「YAKINIKU」というテロップを出したのがひとつ、BCのDICE選手がうれしくて踊ったのがひとつ、もうひとつがSHGが今季初めてDFMに勝った時の選手の表情が最高に良かったこと。DFMのtol2選手がSGにリベンジした時に思わず泣いていたのも印象的でした。

プレイオフでも、試合後の表情に注目していただきたいです。

Dicey選手がテロップでオーナーにアピール?(https://www.youtube.com/watch?v=RmYmCeT6jaE&t=21828s

DICE選手が小躍りするのを笑顔で見ているメンバーもいいですね(https://www.youtube.com/watch?v=i88wKtj6ioI&t=16493s

SHGが初めてDFMを倒した瞬間。全員の笑顔が印象的でした(https://www.youtube.com/watch?v=Nms2Gt8e_Go&t=18176s

勝って涙したtol2選手。顔は上げられませんでした(https://www.youtube.com/watch?v=2Kfqv7ERYFY


「LJL 2023 Spring Split」参戦全8チームを振り返る


最後に、Spring Splitを戦い抜いた8チームを、印象に残った選手を中心に、各チームの勝利ポーズとともに紹介してみたいと思います。

1位 Sengoku Gaming(13勝1敗)



SGはやはりLoken選手が注目ですね。

僕のSGへのイメージとして、大袈裟にいうとJett選手がZeka選手(2022年の世界王者である韓国DRXのミッドレーナー)のような、フィットしたチャンピオンをピックした時に爆発力がめちゃくちゃあって、フィットしない時にはとたんに薄れてしまうという、上下が激しい選手だと思っているんです。

Enty選手にしろOnce選手にしろ、前のめりに行くチャンピオンの時にパフォーマンスが上がるんですが、彼らが自由にやって、後ろでLoken選手がカバーしてあげるセーフティラインを作っているイメージなので、Loken選手が倒れるかどうかが集団戦でのSGの柱かなと思っています。

もうひとりは、シーズン前にも注目していたReaperedコーチですね。

彼はCloud9でベスト4まで行った時に「チャンピオンプールがあまりにもなさすぎて困った」という話をしていたんですが、それほどプールが広くない尖った選手たちを率いて、少ない手札の中であそこまで行ったという実績があるので、そういった選手たちを積極的に取り入れられるんです。

「サイラスなんてナシだろう」という場面で、Jett選手にあえてピックさせるというのが、逆に良さになったりするんですよね。弱点でもあるけど良さでもある、その良さの部分を最大限に生かすタイプのコーチだと思います。プレイオフでもJett選手は伸び伸びとやれると思います。

2位 DetonatioN FocusMe(12勝2敗)



DFMは難しいのですが……Aria選手という声も多いかもしれませんが、僕はtol2選手が注目だと思っています。

彼はタンクチャンピオンを使うことが多かったのですが、最後の最後にトリスターナを出して、しっかり結果を残したというところが重要です。プレイオフで戦うチームのトップはナー使いが多いんですが、あの勝利によってトリスターナという手札を見せたことで、グラガスが空いたり得意のタンク系が空くようになる。この“武器”をもっと増やせるかどうかはtol2選手にかかってきます。

彼はキャリーできるプレイヤーなので、僕はそういうピックを見せてほしいとずっと思っていたんです。SGのPaz選手とかはそういうピックをしないと思われていますが、ジェイスがあったりもします。重要なのは、tol2選手が結果を残したこと。これによりドラフトが難しくなります。Evi選手が「お前、オーン使わないでしょ」と思われている中でオーンをピックするとか(笑)、そういう感じですね。

他の4人の選手たちは、もうチーム歴も長いのである程度手の内はバレていますし、ある意味完成されています。その中でDFMが新しいカラーを作れるという意味でも、tol2選手が今までのDFMになかった存在になりますよね。

3位 Fukuoka SoftBank HAWKS gaming(11勝3敗)



Marble選手……と言いたいところですが、僕の注目はBlank選手です。

「LJL」の全ジャングラーの中で、ここまで安定感があるジャングラーはいません。いてほしいところにいてくれるし、集団戦もうまいし、やはり世界のBlankなんだなとSpring Splitを通してあらためて思いました。

この安定感があるからこそ、レーナーがいろいろなことに挑戦できるんです。いつ崩れるかハラハラする場面もありますが決して崩れない。不思議な感じですよね。

ただ、Blank選手が崩れると途端に崩壊するのがSHG。絶対崩れないけど、崩れたら終わってしまうという2つの意味でも、Blank選手に注目してほしいです。

「LJL」みたいなトップ同士の戦いって、その中でさらに光るものがあれば作戦に組み込めるんですけど、現在のSHGのメンバーにはちょっと足りない。それを持っているのが、Blank選手なのだと思います。試合を通じて5人で戦うというチームなので、その中心にいるBlank選手がこけてしまうと全員がずるずる落ちてしまう、という危うさもあります。

でも、来年はわからないです。Marble選手がYutapon選手の領域に足を突っ込み始めたら。

実況をしながらでも、この場面にこの選手がいたらこうやって勝つよな、というイメージってあるんですよね。Jett選手とかYutapon選手ならどうにかしてくれる、勝ってくれるというような。それをMarble選手が見せられるようになってくると、相手にかかるプレッシャーは大きくなってきます。

4位 FENNEL(7勝7敗)



FENNELは、Recap選手のレーニングが改善されれば化けるチームだと思います。トップのtana選手はタンクもファイターもキャリーできるインパクトがありましたし、hachamecha選手は毎年うまくなっているし、Corporal選手はエンゲージできる。コマはそろっているんです。

ミッドレーンは特に今季、実力者がそろってきているので厳しいと思うんですが、Recap選手の得意分野であるレーニングからのロームができれば、一気に化けます。

彼の得意チャンピオンがメタかどうかといったところもあると思います。あとは、今まではトップレーンを放置してミッド・ボットに集中するタイプのチームでしたが、今季はトップ・ボットがキャリーできるようになって、ミッドのRecap選手に対しても「両方見てくれ」という役割が増えてしまった。

今までならボットサイドにジャングラーがいたらボット側に体を寄せればよかった。でも、今季はトップに敵と味方のジャングラーがいたらミッドは“勝たせなければいけない”ので、トップ側に寄りつつプッシュもしなければいけないという感じで、一手間、二手間が増えています。そこに合わせきれていないのかなと思います。

Recap選手ほどのベテランであっても、『LoL』というゲームは毎シーズン、常に苦しめられるということがよくわかる状況ですね。

5位 Burning Core(6勝8敗)



Burning Coreはもう、Rayfarky選手を見ていてください(笑)。トップでキャリーゲームが発生している選手はこの選手だけと言っても過言ではないです。勝利には今一歩結びついていないですが、勝たせてくれそう、というプレイを見せてくれる選手ですし、今はチームの事情でキャリーしなければならないのでキャリーチャンピオンをとっているだけであって、元々はタンクが得意なプレイヤーなんですよね。両方できる最強トップレーナーになれる期待も込めて、彼を見れば楽しめると思います。

もっと活躍するためには、ボットレーンのレーニングと、安易にキャッチされたり体力を削られて、これから何かしようという時に攻められないことが課題です。Rayfarky選手がトップレーンで有利を築いているのに、攻められているミッドを守らなければならない、というシーンが多いので、ボットがイーブン以上戦えるようになって、安易なデッドがなくなれば上位に行けると思います。


6位 AXIZ(4勝10敗)



6位のAXIZは、DFMとの最後の試合のDicey選手がやばかったですね。めちゃくちゃよかった。タンクメタになってくるとDicey選手が輝けるので、彼のエンゲージに依存している部分は大きいですね。V3が優勝した時のRaina選手のようなエンゲージ力を感じます。

上に行くためという意味では、ミッドとトップのケアレスミスをなくすこと。あまりに言いすぎてIno選手のファン界隈から「Inoアンチでしょ?」と言われたほどでした。

ただ、Hoglet選手は復活していますし、僕としてはもっと上の順位を期待していたというのが正直なところでした。優勝を狙うためには、個人の技量が足りない部分を夏に向けて鍛えていくことが必要だと思います。


7位 Crest Gaming Act(3勝11敗)



ここからは残念ながらプレイオフ進出を逃した2チームです。

CGAは、どんな戦い方で勝ちたいのかがちぐはぐな印象のシーズンになってしまいました。Primo選手の話などもあり、Qooコーチがサポートに入ったりと少しスタートが厳しかったですよね。ボットレーンの2vs2で勝っていきたいのか、ジャングラーのCassin選手をスノーボールさせたいのか、その2軸をやろうとしてうまくいっていない感じがありました。

Cassion選手がうまく動くにはミッドが勝たなければならないんですが、つまりはEugeo選手がAria選手やJett選手から主導権を取らなければならない。となると、Honey選手に頼りたいところですが、Primo選手もまだ1年目ですから。

AXIZのmegumin選手は、レーンで多少負けてもジャングラーのHoglet選手についていけているんですよね。ただ、Cassin選手はHoglet選手以上にテンポが早くて攻撃的なので、Eugeo選手もそれに合わせないと勝てない。

Primo選手は、レーニングをうまくなる必要もありますね。今の日本人のボットのメンバーは、KRの選手などに教えてもらって成長してきていますから、Honey選手に教えてもらってまだまだ強くなれるはずです。


8位 V3 Esports(0勝14敗)



V3 Esports、最終的に0勝でしたが、2ゲーム勝利しました。

残念ながら、ボットはレーニングではまだ戦えていないと思います。もしくは、Yuhi選手みたいにいろいろなチャンピオンを使えるようになって、その中で結果を残すというのも手です。ヴァルス、ベイガー、ジグスみたいに、自分の“武器”になるものを見つけることが必要ですね。

僕の中では、トップのWasidai選手にいい印象があるんですが、ナーくらいうまく使えるチャンピオンをもう少し増やしてほしい。ジェイスとかもチャレンジしていましたね。HRK選手も動きはいいですが、考えるべきことが多すぎて操作技術が追いついていない感じがします。結果的に、Acee選手への依存度がいくらなんでも高すぎました。

いまの彼らに必要なのは、自信を持ってプレイすること。自信がつくと急に強くなることがあります。だから、例えばカ=サンテにガレンを当てるみたいなチャンピオン選択の“汚い手”を使ってでも、勝つことによって強気に戦えるようになれば、それが強くなれるきっかけにもなると思います。

負けが込んでいるチームは、強いチャンピオン、メタのチャンピオンを取ろうと考えがちなんですが、V3は後半戦から得意チャンピオンを取るようになってきていました。なので、少し違う方向に尖らせたピックをしてみてもいいような気はしますね。

プレイオフには出られませんでしたが、このオフでしっかり練習して、シーズン中にも成長することだってありえます。プロと呼ばれる人たちは、どれだけ努力していても結果でしか評価されない世界ですから。ただ、せっかく『LoL』を選んでくれた選手たちなので、夏までにみっちり練習をこなして、それぞれの選手の強みを生かした戦いができるようになってほしいです。


プレイオフの見どころ


言いたい放題語らせていただきましたが、シーズンを振り返るとやはりSG、DFM、SHGの3強がいて、プレイオフではそこに必ず1チームが食いつくかたちになります。

その中で注目してほしいのは、SGが初めての「LJL」優勝を果たせるのか(それはEnty選手にとってのリーグ初優勝ということでもあります)、それともDFMがtol2選手というルーキーを携えて史上初の6連覇という快挙を達成するのか、あるいは「ネクストYutapon」と言われている(本人は言われたくないと思いますが)Marble選手が「待った!」をかけて世界に初めて挑戦するのか。SHGが勝てば、世界大会にBlank選手が凱旋することにもなります。その三つ巴の戦いと、ダークホースの登場に注目してほしいと思います!



■ プレイオフ / 決勝日程
  • 4月1日(土) Round 1 Match 1 AXZ vs SHG
  • 4月2日(日) Round 1 Match 2 BC vs FL
  • 4月8日(土) Round 2 Match 1 SG vs マッチ1の勝者
  • 4月9日(日) Round 2 Match 2 DFM vs マッチ2の勝者
  • 4月15日(土) Finals

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<配信チャンネル>
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