【eスポーツ映画】「FREE TO PLAY」プロゲーマーは楽しい職業? 選手が抱える苦悩とリアルを追う

2022.3.8 加藤由希
――ゲームを職業に!

そんな言葉を聞いても、違和感を覚える人はどんどん減ってきているのではないだろうか。中高生世代にもなれば、「ゲームで賞金を稼ぎたい!」と、夢や目標として掲げる人も多いかもしれない。

勝敗が大きく自分の将来を左右するというストレスはあるが、“強さがすべて”の世界。他の誰よりも力を持っていればトップになれる。とてもシンプルな構造だ。この瞬間すらも、寝る間を惜しんでプレイに励んでいるという人もいるだろう。

そんなeスポーツに情熱を捧げ、苦悩しながらも挑み続けた3人のプロゲーマーの世界大会での様子をおさめたドキュメンタリー映画がある。

それが、2014年に米国で制作された『FREE TO PLAY』。本作は、eスポーツ界の転換期となった2011年に開催された『Dota 2』の世界大会「The International 2011」で優勝を目指す3人のプロゲーマーの姿をおさめたドキュメンタリー映画だ。大会の賞金総額は160万ドル。優勝チームには100万ドル(日本円にして約1億円以上)もの賞金が贈られた。

当時最高額の賞金を目指し、プレイし続けるプロゲーマーたちはどんな思いを抱え、どんな戦いに挑んだのだろうか。


三者三葉。試合に臨む3人の思い


「プロゲーマー」は、言わずもがな「ゲームをしてお金を稼ぐ人」のことである。彼らの仕事内容を聞いて、「遊んでいるだけでお金をもらえるなんて」と思う人もいるかもしれない。

しかし、彼らは真剣にゲームや自分のプレイに向き合い、負けたらいつイスがなくなるかわからないというプレッシャーを抱えながら、さまざまな試合に挑んでいく。

©Valve

社会からの「ゲームをプレイしている人=遊んでいる人」という一つの認識は、彼らプロゲーマーたちを確実に苦しめているのだ。

『FREE TO PLAY』は、『Dota 2』の3人のトッププレーヤーにスポットを当てて、彼らがどんな思いでゲームに取り組んでいるのかを追っている。

3人の目標は、もちろん世界大会での優勝。しかし、その理由も、ゲームにかける思いもさまざまである。

2022年現在に比べて、2011年は世界的に見てもまだまだプロゲーマーが市民権を得ていなかった時代だ。彼らがゲームに没頭し続ける姿を、家族や社会はどんな思いで見つめていたのか。そして、彼らはどんなふうにゲームと出会い、挑戦し続けてきたのか。

3人のプロゲーマーの人生の、ほんの一片が、約80分の映画に凝縮されている。

DENDI


祖母が買ってくれたコンピューターがきっかけで、ゲームを始めたウクライナの天才プロゲーマー、「DENDI(デンディ)」。

©Valve

幼少期にピアノを始めた影響から、彼のキーボード使いはまさに“見事”のひとことに尽きる。技術力が抜群で、圧倒的なスキルでチームを勝利に導く。


そんな彼が『Dota 2』に熱中する理由は、「痛みを忘れる方法のひとつだから」。

彼は父の死をきっかけに、ゲームにかける時間が長くなったと語る。寂しさを紛らわせるために、彼はゲームにのめり込んでいた。母親もそれを察し、彼がゲームに没頭していく姿を見守ることに決めた。

©Valve

「打ちのめされたら立ち上がらなきゃいけない」。彼はその方法を模索しながら、試合に身を投じる。

HYHY


シンガポールの大学に通い、学生とプロゲーマーの二足の草鞋を履く「HYHY(ハイハイ)」。

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誰もが認めるトップゲーマーであるHYHYだが、彼の家族はプロゲーマーである彼を頑なに認めようとしない。ゲームを始める前の彼は“絵にかいたような”優等生であり、教育に熱心なシンガポールではまさに“自慢ができる息子”であったためだ。

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両親はもちろん、親戚すらも彼のゲームのキャリアについてよそで言及することはなく、「ゲームが彼の人生の足を引っ張っている」と話し、「ゲーム以外で、将来のプランは? 」と常に彼に問い続けている。

そんな中でも、彼は強い意志と冷静な判断力をもって、シンガポールでトップのプレーヤーの座を着実に自分のものにしていった。


疎外感を覚えながらもゲームに打ち込み続けた彼を支えてくれたのは、シンガポールの『Dota 2』女性チームに所属していた元恋人のホァヤン。彼の才能を認め、一番の彼の理解者でいてくれた大切な存在だ。

「試合に勝ったら、彼女に電話をしたい。その瞬間を、彼女と共有したい」

©Valve

これが、彼が大会に挑む理由だ。優勝し、彼女にもう一度向かい合いたい。その一心で、彼は勝負に挑んでいく。

FEAR


「ゲームは一種の競技だと思っていて、闘争心を発散させている。」

そう語るのは、『Dota 2』のベテランプレイヤーのひとりである「FEAR(フィアー)」。アメリカのオレゴン州に住む、物静かな男性だ。

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彼は元々闘争心が強く、その万能な運動能力をバスケットボールなどで存分に生かしていた。しかし、身体が小さかったために、どんなに技を磨いても選手には選ばれなかった。

そんな彼が自由に闘えたのが、ゲームだった。彼は、小さいころから「ゲームで稼げるようになりたい」と母親に語っていたという。もちろん、ゲームで稼げる世界がくる、ずっと前のことだ。

©Valve

「ゲームで稼げるようになって、認められたい」

そう語る息子のことを、母親は不安視している。スポーツ選手で成功している人なら、たくさんいる。しかし、プロゲーマーを職業として成功している姿は、当時あまりにも想像ができなかったからだ。


だからこそ、FEARは母親に認めてもらうためにも「成功しなければならない」と語る。続けたいことを続けるためにも、結果を残さなければならないと。

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当時彼は20代半ば。プロゲーマーの世界でベテランに類されることも多い年齢だ。反射神経が必要なゲームは、年を重ねていくほどに若手選手に敵わなくなることもある。

当時のFEARには、選手としてのタイムリミットが迫っていた。しかし、彼にはこれまでのすべての経験がある。ゲームへの不変の思いを胸に、彼は試合に臨んでいく。

彼らがどんな試合を繰り広げたか、当時を知らない読者でも結果だけならネットですぐにわかる。しかし、「The International 2011」の場で3人それぞれがどのような結末を迎えたのかは、ぜひ映画を観てその目で確かめていただきたい。

すべてを一瞬にかける、プロゲーマーの世界


さて、本作で取り上げられた3人のプロゲーマーは、2022年現在どのように過ごしているのだろうか。

まず、ウクライナのゲーマー「DENDI」であるが、彼は2018年までNa'Viに所属し、現在はB8というチームのオーナーを務めている。


本作で取り上げられた2011年の大会以降、急速に名声が高まり、さまざまなトーナメントで活躍し続けた。

「HYHY」は、大会後に元彼女と念願の再会を果たしている。恋人として関係をやりなおして数年の交際後、結婚の話まであったようだが、別れてしまったという。


また、彼は2012年に一度『Dota 2』のフィールドから去り、『リーグ・オブ・レジェンド』(LoL)プレーヤーに転身している。その後、再び『Dota 2』に戻ったようだが、2017年に引退。現在はプレーヤーとしてプレイすることはないが、新しく開発されたゲームのPRに勤しんでいるようだ。

「FEAR」は、2012年から2021年10月まで『Dota 2』プレーヤーとしてさまざまなチームで活躍し続けた。


現在はコメンテーターとして活躍する姿を見ることができる。

※ ※ ※

プロゲーマーの世界では、賞金・名声をかけてこれまでのすべてを、ある一試合のある一瞬に託す。“間違いのない一瞬”が積み重なって、その手はようやくトロフィーに届く。勝ちにこだわり努力を続け、結果を出していかなくてはならない。

©Valve

厳しい環境のなかで、プロゲーマーたちはどんな思いを抱えて試合に挑んでいくのか。彼らの苦悩と、ゲームに身を投じ続けた日々をぜひこの映画で感じてほしい。


『FREE TO PLAY』(アメリカ・2014)


配信サービス:Valve公式チャンネル・Steam(無料)・Netflixで配信中
言語:英語(日本語字幕あり)
時間:76分
配給元:Valve
Steamサイト:https://store.steampowered.com/app/245550/Free_to_Play/
(Steamのみ、本編未収録のボーナス特典が視聴可能)
©Valve

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