強さだけじゃ足りない。いまeスポーツ選手に必要なのは格好よさ【JUPITERオーナー 西原大輔氏インタビュー】

PUBG』、『オーバーウォッチ』をはじめ、FPSタイトルで大きな存在感を見せているプロゲーミングチームJUPITER」。ファッション、ストリートカルチャーなど、ゲーム以外のカルチャーとの融合により、プロゲーマーという存在を「憧れ」の対象に昇華するという姿勢、クリエイティブなサイトなどを見れば、チームのイメージは自ずと伝わってくる。

そんなJUPITERに、『Counter-Strike: Global Offensive』(以下、『CS:GO』)で日本最強の名を欲しいままにしてきた有力チーム「Absolute」が合流。しかもライアットゲームズが5月にリリース予定の新タイトル『Valorant』部門を立ち上げるとの発表は、大きな話題を呼んだ。

ただ、『CS:GO』ファンやAbsoluteファンにとっても、そもそもJUPITERというチームがどんなチームなのかを知らない人もまだいるかもしれない。

そこで今回は、JUPITERというチームの成り立ちとこれまでの歩み、2020年現在と未来の展望など、JUPITERについて気になることを、チームオーナーであるGANYMEDE株式会社代表取締役、西原大輔氏にじっくり聞いてみた。ちなみに、オーナー自ら単独でメディアに登場するのは、今回が初だという。

西原大輔(にしはらだいすけ)


GANYMEDE株式会社代表取締役。アートディレクター/グラフィックデザイナーとして広告制作や音楽アーティストのジャケットなどのデザイン業でキャリアを重ねると同時に、現在はeスポーツチーム「JUPITER」のオーナーとしてチーム運営にも携わる。

インタビューは3月末に実施。

影で支える使者でありたいという気持ちから生まれた「JUPITER」


――まずはじめに、どのような経緯でeスポーツチーム「JUPITER」が結成されたのか、お聞かせください。

西原:本業であるデザイン制作会社を営んでいる傍ら、2017年にeスポーツの大会やイベント運営、マネジメントを行う「GANYMEDE」という会社を立ち上げたのですが、そのイベントを運営しているスタッフの中に、デジタルカードゲームハースストーン』のコミュニティ活動をしているメンバーがいました。

そのコミュニティの中に、『PUBG』好きが集まる「HS PUBG支部」というのがあったんです。

――『ハースストーン』のコミュニティの中に『PUBG』の支部?

西原:はい(笑)。

それで、その「HS PUBG支部」の子たちが、『PUBG』の大会「GeForceCUP PUBG #02」で「HS PUBG支部」として優勝しちゃったんです。その優勝メンバー4人で結成されたのが「JUPITER」でした。

――公式サイトにあった「デジタルカードゲームをプレイしていたメンバーを中心に結成」というのは、そんな経緯だったんですね。なぜカードゲームのメンバーから? と不思議に思っていました。その「JUPITER」というチーム名はどのように決めたのですか?

西原:先ほどお話しした「GANYMEDE」という社名にちなんで付けました。

――というと?

西原:「GANYMEDE」という社名は、ギリシャ神話に登場する人物「ガニメデ」を意味しています。ガニメデは全知全能の主神「ゼウス」に仕える立場なのですが、ゲームラバーなコミュニティやeスポーツの選手たちをゼウスと見立てて、それらを支えるという意味を込めています。ちなみに『オーバウォッチ』で登場するバスティオンというヒーローのまわりを飛んでいる鳥の名前もガニメデだったりもあり、なんとなくこれに決まったんですよね。


また、ゼウスはギリシャ神話では「ユピテル=ジュピター」とも呼ばれています。我々「GANYMEDE」が支えるチームという意味合いから、「JUPITER」というチーム名になり、ロゴもゼウスがモチーフとなっています。

――順番は逆で、あとから「JUPITER」が生まれたという感じなんですね。

西原:はい。まあ簡潔に話すとそうなのですが……本当はいろいろ悩んだ結果ですね(笑)。

――なるほどですね。ところで西原さん自身がeスポーツに関わりを持つようになったのはいつ頃なのですか?

西原:僕自身ゲームはもともと好きで、コンシューマー、PC問わずさまざまなゲームをプレイしていたのですが、本格的にeスポーツに興味を持ったのは、『リーグ・オブ・レジェンド』(以下、『LoL』)の北米リーグ「NA LCS」(現・LCS)を観戦するようになってからですね。

2015年の夏に行われた、『LoL』の日本国内リーグ「League of Legends Japan League」(以下、「LJL」)の「LJL 2015 GRAND CHAMPIONSHIP」にはじめてオフライン観戦したときのことをよく覚えています。

そこで「DetonatioN FocusMe」が大逆転をし、チームオーナーの梅崎(伸幸)さんや熱心なDFMファンの方々が泣いているのを見て、「日本のeスポーツにもこんなアツイシーンがあるんだ」と感銘を受けて、そこからeスポーツに関わりたいと思うようになりました。


▲LJL2015 GrandChampionShip GAME5 & Ending


その後、『オーバーウォッチ』がリリースされ、国内の競技シーンを熱心に観戦するようになり、とあるアマチュアのチームに興味を持ち始めました。当時そのチームはとても強かったのですが、選手たちの情報が少なく「アマチュアでこれだけ強いのにもったいないなあ」と思い、僕が勝手に彼らと連絡を取り、ロゴとかHPとか作っちゃったんです(笑)。

――ええっ、すごい!

西原:それが今現在プロチームとして活躍している「Green Leaves」(https://green-leaves.net/)です。

――おおっ!



西原:そのうち「Green Leavesのデザインまわりをしている人って誰なの?」と興味を持っていただき、そこからeスポーツに関わる方々とお知り合いになる機会が生まれ、それがきっかけでeスポーツに関わる仕事に携わるようになりました。

――実は影で「Green Leaves」の活躍を支えていたと。まさに「GANYMEDE」としての真骨頂ですね。

西原:ただ、当時は「GANYMEDE」もなく、僕がチームを運営するなんて思いもしなかったんです。僕がメンバーに代わり、彼らをマネジメントしてくれる方を探し、幸い選手マネジメントのノウハウがある方に受け入れていただき、その後彼らに協賛企業がつきプロチーム化を果たしたという経緯があります。

「Green Leaves」の運営を近くで見させていただく機会があったので、チーム運営の多岐にわたる業務と大変さはわかっていましたので、実際「JUPITER」というチームを立ち上げる際には「はたして僕たちにチーム運営ができるのか」と最後まで悩んでいました。

中途半端にチームを存続させて「やっぱり辞めました」っていうのは、選手だけでなくファンの方々や協賛企業、大会運営などシーン全体に迷惑もかかる。無責任に始めて無責任に終わるということができないプロゲーミングチームというのは、色んな人の想いが詰まっている分とても責任が重い立場だと思うんですよね。


日本代表として世界に挑まないとファンは獲得できない


――責任が重いと感じながらもチームオーナーを続けてきた西原さんですが、ズバリeスポーツチーム「JUPITER」として目指しているところはどこなのでしょうか?

西原:例えば『オーバーウォッチ』部門に関してですが、2018年11月に「CYCLOPS athlete gaming」さんが、『オーバーウォッチ』部門は当時のマーケット環境では部門運営を続けることが難しいという理由で、活動を休止されましたよね。

先ほどの「Green Leaves」の件もあり、僕自身『オーバーウォッチ』というタイトルに思い入れがあったことと、日本代表でもあった「CYCLOPS athlete gaming」さんのチームメンバーが行き場を失うのはファンとしても寂しいという気持ちがあり、「JUPITER」として彼らを受け入れ、2018年12月に『オーバーウォッチ』部門を設立しました。


もちろん、「JUPITER」としても『オーバーウォッチ』部門を運営していくのはコスト的に大変でした。しかし、日本一の部門を持つことで、僕の想像以上に多くのファンがついてきてくれたし、ある意味そこで「JUPITER」を知ってもらえるきっかけでもありました。

やはり「日本で一番強い」部門を持っているということは、そのゲームタイトルのブランド・エクイティの観点からもわかりやすいというか、2番じゃダメなんですよね。日本代表として世界に挑戦している姿は、見る側からすると強烈に印象に残ります。

もちろん国内リーグでは、おのおのひいきのチームがあると思うんですが、日本代表として応援してもらえるという熱量は変え難いものだと肌身を持って感じましたね。

「Absolute」とともに『VALORANT』で世界に挑む覚悟


——そういった意味で、『CS:GO』において日本ではほぼ敵なしといわれている「Absolute」のメンバーを「JUPITER」に取り入れたことは強みになったのではないかと思います。ただ、『CS:GO』の活動を休止し、ライアットゲームズによる完全新作FPS『VALORANT』部門として彼らが合流したと聞いた時は、正直驚きました。

西原:そうですね。僕自身も驚いています(笑)。


もともと彼らのTwitterで「『VALORANT』に移行します」というのを見て、まあ、声かけるのはタダだしなあと思ってコンタクトをとったのがきっかけなんです(笑)。



——なるほど(笑)。逆に「Absolute」が「JUPITER」を選んだ理由というのはなんだったのでしょうか?

西原:これは僕の推測なんですけど、「JUPITER」を選んでくれた理由は、「実力だけでは職業にはならない」ということを彼ら自身が実感したからではないかと思います。

先ほど、「実力あってのチーム」というお話をしましたが、逆も言えるということです。実力があるだけでなく、広く知ってもらい、応援され、その結果世の中に影響を与えられるような存在にならないと、プロゲーマーとして生活できないというのを、彼ら自身しっかり肌身に感じています。その結果、彼らは『CS:GO』から『VALORANT』にステージを移したのではないかと思っています。

——確かに『CS:GO』は、世界的に見ればFPSのメジャータイトルではありますが、日本だとほかのFPSタイトルに人気をとられていますものね。

西原:そうですね。そういった意味で『VALORANT』で活動する際、「JUPITER」が持つ、クリエイティブの発信力や僕が目指すチームのあり方に共感してくれたのではないかと思っています。

ただ、「JUPITER」としても『VALORANT』に注力するということは賭けでもあったんです。というか、今現在もまだ賭けの状態でもあります。何せまだ日本ではリリースされていないタイトルですからね。

VALORANT(ヴァロラント)とは

世界的に人気の『リーグ・オブ・レジェンド』を開発したライアットゲームズが制作している新作FPS。5対5の対戦型タクティカルシューターとなっていて、どことなく『Counter-Strike: Global Offensive』に近い印象だ。日本では2020年夏のリリースが予定されている。


公式サイト:https://playvalorant.com/ja-jp/


——確かに大きな賭けではありますよね。

西原:実力のあるチームを取り込むことは、『オーバーウォッチ』部門での成功体験もありました。それ以上に今回は、強さとともに生来の格好よさを備えていた「Absolute」と共に歩んでみたいという気持ちが強かったですね。

チームの格好よさは、選手の強さにもつながる


——実力あってこその格好よさというお話でしたが、「JUPITER」というとスタイリッシュでファッショナブルなチームカラーが特徴だと思っています。アートディレクターでもある西原さんがオーナーだからこその魅せ方というか、ほかのチームにはない魅力だと思うのですが。

西原:今の時代、これだけモノがあふれている中で、消費者がなにを基準に取捨選択するかというと、「格好いい」とか「かわいい」の、視覚に訴えかける部分は少なからず影響していると思うんです。

eスポーツチームにしてもそれは言えることで、やっぱり格好よさというのは大切です。

何かのきっかけで初めてeスポーツシーンに興味を持った方に対して、SNSの空気感やクリエイティブも含めたチームのブランディングやアチチュードがしっかりしていないと、せっかくの興味の火も消えてしまうと思うんです。

実力で興味を持ってもらえることがチームとしての本分ですが、常に勝ち続けるのは難しいことと、そもそもシーンを知らない人達からすると強いも弱いもわからない段階の人だったりするので、そういった方々に興味をもってもらいたいですし「JUPITER」のファンになってもらいたい。

そのためには、まず興味を持ってもらえないとチームや選手のことを深く知ってもらえないので、視覚が興味の導入でいいと思ってます。


サッカーや野球など他のスポーツチームで名門と呼ばれるような、見た目も含めたブランディングがしっかりしたチームは、所属選手がチームの一員であることへの誇りを持っており、またファンの目からの期待に対しての責任も感じています。

同様に「JUPITER」に所属していることに、選手自身が価値を感じてくれるようなチーム運営を目指しており、こういったチーム運営によって「どう見られたい、どう魅せたい」という選手側の意識にもつながると思っています。

格好いいチームに所属していれば、自ずと立ち振る舞いもしっかりしてくると僕は考えていますし、格好いい存在になることは選手たちの自信になり、その自信が強い精神力につながり、試合結果にも反映されると信じています。

他チームさんにもそれぞれ大切にされている部分や美学があると思いますが、僕は今お話しした「選手たるもの格好いい憧れの存在であるべき」という部分を大切にしており、少しずつ体現化できるよう、チーム運営をしています。

eスポーツを知らない人でも、SNSを通じてeスポーツに興味を持ってもらうきっかけにもなる。そういった意味で、「JUPITER」は格好いいチームであり続けたいと思っています。


——ありがとうございました!

———

現在日本で活躍している多くのeスポーツチームのオーナーと西原氏とでは、明確に立場が違う部分がある。

それは、自身が生粋のゲーマーとして頂点を目指す者ではなかったということ。そして、eスポーツというシーン、選手たちの過酷な戦いに挑む姿を第三者として眺め、憧れ、彼らを支えたいという思いから「JUPITER」を続けてきたというところだ。

そもそも今回「Absolute」ではなく「JUPITER」にフォーカスしたのは、そのチーム運営の実態があまり伝え聞かれてこなかった、という理由からだった。プロチームといっても、名乗りをあげて個人が立ち上げただけのものから、スポンサービジネスとして確立された企業まで、その規模も方針もさまざまだからだ。

その意味で西原氏に話をうかがって「JUPITER」を評するなら、「選手が輝くことだけをひたすら第一に考えた最強のサポーター」という表現が一番近いかもしれない。

西原氏は最後に「これまで少し、本業と『JUPITER』の運営のバランスが中途半端だった部分もありましたが、今年からは『JUPITER』により力を入れて行く予定です」と決意を新たにした。

新型コロナウイルスの影響がさらに広がり、先行きが見えない状況が続くが、この夏から始まる「Absolute JUPITER」が刻む新たな“神話”を、「Absolute JUPITER」のいちファンとしても見守っていきたい。


JUPITER公式:https://jupitergaming.jp/
GANYMEDE:https://gnmd.co.jp/
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