「一般の人も楽しめるコミュニティ大会を続けていきたい」【ボタンマッシャーズ代表 がまの油氏インタビュー】 (2/2)


CPT主催で誕生した「ボタンマッシャーズ」


――スランプからの脱却後の活動はいかがでしたか?

がまの油その後2016年には「CPT」に認定された『ストリートファイター V』の大会イベントを行うことになったのですが、いかに『ストリートファイター V』の大会を面白くして盛り上げることができるかというのを考えさせられましたね。

その結果、東京都大田区の産業プラザPiOの会場を貸し切って、全員参加型のオープントーナメントイベントを開催しました。イベントでは大会だけでなく対戦会スペースも設けて、プレイヤー同士のコミュニケーションもとれるようにしたりと、さまざまな工夫を凝らしました。そんなこともあって会場には300人以上のプレイヤーが集まり大盛況でした。

このイベントを成功させるべく結成されたのが今あるボタンマッシャーズで、このイベントが「ボタンマッシャーズ」が主催する初めての大会でもありました。

【ボタンマッシャーズとは】

ボタンマッシャーズは対戦ゲームを中心に、オフラインのゲームイベント、企画、運営する団体です。ゲームを通じて楽しむ姿を見せることで、ゲームとイベントを通じて、人を彩る活動をしています。その活動は自主企画イベントだけでなく、コミュニティやオフィシャル、国内外問わず、さまざまなイベントへの協力を積極的に行い、イースポーツシーンに貢献しています。

主な実施イベント(一部のみ抜粋)
– 2016年6月5日 CAPCOM PRO TOUR TOKYO BUTTON MASHERS 2016 開催
– 2016年11月20日 THE KING OF FESTIVAL 2016 開催
– 2016年12月24日 ぶるクリ
– 2017年5月20日 PRE EVOLUTION JAPAN 賽
– 2018年1月26日 EVOLUTION JAPAN
– 2018年8月4日 EVOLUTION 2018 パブリックビューイング
– 2018年9月1日 NSB4

ただひとつ抱えていた悩みがあって。

当時はまだゲームセンターの文化があって、ゲームセンターの大会は参加費100円とか200円で開催していたんです。それがコンシューマーのイベントになると会場を貸し切るということもあり、参加費1000円や2000円でも安いくらいなのですが……。

ただ、ゲームセンター文化のあるプレイヤーからしたら急に参加費の値段が跳ね上がるので、どうやったら彼らを(この値段で)満足させられるイベントができるかが課題のひとつでもありました。

そこで、PlayStation 4を40台用意して、会場で野試合ができるようにしたのですが、これがまた難儀でして……。まず40台のPS4を3階の自宅マンションに階段で運び込み、全台をアップデートするのは地獄の作業でした。

――当時はシステムアップデートが毎週のようにありましたからね……。

がまの油:そうなんです。しかもひとつのアップデートで5〜6GBの容量があったりしますから、寝る前に数台アップデート作業をして、朝起きたらまた別の台をアップデート、お昼休みに自宅に帰ってきてアップデート、仕事から帰ってきたらまたアップデートと、まさにアップデート地獄でしたよ(笑)。

ほかにもアケコンを用意したりゲームのソフトを用意したりと、野試合をするだけでもこれだけの設備投資が必要ということを考えると、いかにゲームセンターの環境が恵まれていたかというのを思い知らされました。

準備の逆算をしなければならないというのが思いの外大変でしたね。


地方のコミュニティにも頑張ってもらいたいからこそ
コミュニティとメーカー間の架け橋になりたい


――「ボタンマッシャーズ」さんは、これほどの機材を調達したからこそコミュニティの大会を運営できているという部分もあるかと思いますが、今現在コミュニティとしてイベントを開催したいけど、機材や設備が整わずに大会が開けず困っているという人たちもいらっしゃるかと思います。

がまの油:先日も地方のコミュニティの方に「ボタンマッシャーズ」でイベントをやってほしいと頼まれたんですが、それだと地域に残らないし、プレイヤーにも残らない大会になってしまうと育たないと思って「アドバイスや支援はするから自分らでやってみなよ」って言いました。

開催準備や運営方法、機材支援を伝えたところ、彼らだけで大会を開くことができたようでよかったと思ってます。

地域のコミュニティを活性化させるには、「ボタンマッシャーズ」が運営するだけではダメだと思うのです。

――なるほど。ズバリ大会を運営するにあたって気をつけたいこととは?

がまの油:まず第一に、自分たちが続けられる方法を構築することですね。

自分たちが何をやりたいかを明確にして、このイベントを1年後にも続けられるようにするにはどうしたらいいのかというのを考えてほしい。

――資金に関してはどのように考えればいいと思いますか?

がまの油:ここは慎重に答えざるを得ないところでして……(笑)。

まず、資金を得ることについてちゃんと考えないといけません。イベントを開けば会場費だってかかるし、運搬費ももちろん、スタッフだってお腹が空きます。名札を作れば印刷代だってかかります。コストは絶対にかかるものなんです。

そのために資金は必要ですが、まだまだメーカーも急なeスポーツの成長に社内ルールの整備がついていないのが実情です。かつて、YouTubeやニコニコ動画が生まれたときも同じように、そこに価値があることはわかっていつつも、整備が追いついていけない時代がありました。現在のeスポーツにもその時と似た流れを感じています。

その上で、事実お金儲けだけを目的にしてeスポーツを始める方もいます。そういう方は大抵質の悪いイベントになってしまい、参加者も、メーカーも、運営も、みんなが損するイベントになりがちです。一部のプレイヤーからのeスポーツアレルギーみたいなものも感じますが、根底はそこにあると思います。

ゲームは当然メーカーの著作物ですし、他社の人気キャラクターを使ったゲームもあります。イベント運営者は資金だけでなく、質も含めて、権利者に責任をもった対応を示さないと、メーカーが許可を出せないのは当たり前だと思います。

今年3月に開催された古い『ストリートファイター』シリーズによる大会「ストフェス」もボタンマッシャーズが運営(レポート記事はこちら

コストはかかる、だから資金を得る必要がある。でもそれは儲けるのとは違って、そこには質も伴う、という前提の上で回答しますね。

まずは、自分たちがやりたいことに対していくらかかるのかを考えて、コストを減らす方法を考える必要があります。

例えば準備時間を1時間減らせるだけでも、参加者は1時間多く遊べる、つまりイベントの価値が上がっているじゃないですか?

そういう考えでは、準備時間だって立派なコストなんです。質を上げていかないと、資金を得ることはできませんし、長続きもしないと思います。

その上で各地でイベントを開きたいと思っていて、わからないことがあればボタンマッシャーズ宛に連絡してもらえれば、この辺のアドバイスはしますので。

――いやぁ、それは心強いですね!

いろんなイベントを見てきて、小さなコミュニティの運営の方にアドバイスしてきて、ここ最近ようやく自分のやっていることに自信が持てるようになりました。

細かい例えになってしまいますが、アケコンの搬入にも気を配っています。アケコンを箱から取り出したり、片付けの時に箱に詰める作業がそれぞれ1台1分かかるとします。これを30台ひとりでやることを考えると、設営と撤収での作業だけで1時間もかかる大作業になってしまいます。こういった必ずやることになる作業をいかに効率的に動かせるかを考えることも、運営を円滑に行うためのポイントです。

▲アケコンは積み重ねができるケースに収納して、箱から出す手間を省き、省スペース化を実現。これにより倉庫内により多くのアケコンが保管可能になった

▲あちこちの雑貨屋を探し、アケコンがジャストフィットするケースを見つけることができたとのこと。搬入/撤収の作業時間が大幅に削減できるこの発想は、経験から生まれた秘策とも言える


――ほかにはどのようなことがありますか?

がまの油:仲間を増やすことですね。「大会を開催するから来てね」という参加者を「お客さん」という感覚で集めるのはあまり得策ではないと思っています。

あくまで参加者もコミュニティメンバーの一員として「面白いことやるから一緒にやろうよ」というスタンスの方が長続きしますし、大会自体もどんどん盛り上がっていくと思います。自分たちがやっていることが面白いと感じ始めると、不思議と新しいアイデアが生まれてきたり、技術が身についたりしますしね。

また、イベントの際に起きるトラブルを想定しておくことも大事ですね。

――どんなに準備をしていても突発的に起こってしまうのがトラブルだと思います。がまの油さんは、そういったトラブルに対してどうやって向き合っていけばいいと思いますか?

がまの油:例えば工事現場なんかで「積み荷の下に入るな」って看板あるじゃないですか?

実際は大抵の場合はその看板の下を歩いたって何も支障もないんですけど、「落ちてきたら大トラブルだよね?」と気が付かせることが大切だと思っています。

イベントの時も同じで、たとえばジュースをこぼした場合、たまたま拭いて終わるところにこぼれたからよかっただけで、そこに機材があったら事故になっていたんだと理解すれば、ゴミ拾いだって大切なトラブル回避になっていることに気が付くはずです。

――つまり、トラブルになりそうな根は早めに絶っておくということですね。

がまの油:そうですね。

――最後に、eスポーツやコミュニティに対しての展望をお聞かせください。

がまの油:今は「eスポーツ」はバブルで、話題先行で盛り上がっているという面もあると思います。eスポーツに生きる人たちは今の環境に甘えるのではなく、今やっている環境を生かして10年後、20年後にも経験として生かせるように立ち回ってほしいです。

自分も好きで覚えた運営や配信などの技術で今も仕事をしていますし、好きでやっていることであればスキルも身に付きやすいはずですから。

個人的には、自分の経験を生かして、若手にもっとチャンスを与える立場になりたいと思っています。自分が格闘ゲームに限らず、FPSや他のeスポーツイベントをお手伝いしているのもそういう理由からです。

今は形のないeスポーツだからこそ、ちゃんとしたものを作れるチャンスでもあるので、そこに貢献できる楽しみはありますね。




――ありがとうございました!

―――――

華やかなイベントや大会の裏には、進行やプレイヤーに常に気を配り、視聴者を楽しませようと心がける裏方が必ず存在する。決して主役ではない立場でありながらも、みんなが楽しめるような環境づくりに一切の妥協を許さない彼らの頑張りには本当に頭の下がる思いだ。

これからもボタンマッシャーズ/がまの油さんの活躍に期待するとともに、裏方で支えてくれる方々に感謝の気持ちを忘れずに、イベントを楽しんでいきたい。


【関連リンク】
■がまの油さんTwitter:
https://twitter.com/gamanoabura_nsb

■eスポーツイベント機材保管および輸送について:
https://twitter.com/i/moments/1115865167944921088

■ボタンマッシャーズ公式:
http://buttonmashers-game.com/
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