【eスポーツ×睡眠】 睡眠の専門家・株式会社ブレインスリープに聞く、eスポーツのパフォーマンスを上げるための睡眠改善法

2024.12.27 宮下英之
自宅からのオンライン対戦であれ、大きな会場でのオフライン対戦であれ、対人戦での勝負に常にさらされているeスポーツは、プレーヤーの想像以上に肉体的・精神的な負担が大きいと言われている。

その回復のために大切な体調管理の中でも、アマチュアからプロまで多くのゲーマーが軽視していると思われるのが「睡眠」だ。

睡眠の大切さは、おそらくほぼすべてのプレーヤーが理解してはいる。しかし、学校や仕事が終わった後の夜の時間しか練習できないという時間的な問題はもちろん、夜間や深夜でなければ対戦相手が集まらない、プロシーンでは海外チームとのスクリムなどで深夜帯のプレーが必須となる場合もある。

今回は、そんな過酷な環境に置かれているすべてのゲーマー・eスポーツプレーヤーへのアドバイスをうかがうべく、睡眠を科学的に分析し、改善するためのアドバイスや睡眠の質を上げる製品を手がける株式会社ブレインスリープ取締役の松井大樹氏にインタビュー。eスポーツ選手にとって睡眠がいかに大切かを、科学的根拠も含めてご紹介いただいた。

長時間プレーした分だけ上達すると信じている多くのプレーヤーにとって、積極的に睡眠をとる=体を休めた方がスキルアップできることを科学的に証明できれば、むしろ睡眠をうまく活用しようと考えるきっかけになる。

いずれも特別な器具などが必要なわけではなく、日常的に実践できることばかり。eスポーツのスキルやパフォーマンスを上げるためにも、結果的に自分自身の健康を維持するためにも、必読の内容だ。

株式会社ブレインスリープ 松井大樹氏プロフィール


1991年、広島県出身。2012年に米国Franklin&Marshall College卒業後、外資系投資銀行を経て、2021年より株式会社ブレインスリープに参画。法人向け事業(健康経営サポート・コンサルティング)および新規事業開発に従事する。


いい睡眠がeスポーツにもたらすメリット


──eスポーツ人気の高まりの中で、睡眠時間を削って深夜や早朝までゲームをプレーする人は増えていると考えられます。特にeスポーツは必ず相手が必要なゲームなので、プレーヤーが集まる深夜までついつい遊んでしまいがちです。今回は、eスポーツのために睡眠を犠牲にしている人たちが、積極的に睡眠を取りたくなるようなアドバイスを聞かせていただければと思います。

松井:よろしくお願いします。最初に私どものことを紹介すると、株式会社ブレインスリープは、「スタンフォード式 最高の睡眠」(2017年・サンマーク出版)という書籍を書かれた西野精治先生とともに、日本の睡眠課題を少しでも良くするために2019年に立ち上げた睡眠に特化したスタートアップ企業です。

睡眠の問題というと「寝られない状況を良くしたい」など、「睡眠不足」というマイナス状態の幅を小さくしたい、というイメージが強いと思います。ですが私たちは、睡眠によって人が本来持っているポテンシャルを最大限発揮するために人の可能性を目覚めさせるというブランドパーパスを掲げています。

仕事、家庭、育児、趣味などで忙しい中で、24時間の最後の調整として睡眠を使うのではなく、能動的に睡眠をとらえていただけると、結果として翌日の皆さんのeスポーツのパフォーマンスも絶対変わると言えます。

──たしかに、ゲームをやる時間がもったいない、眠らないといけないから仕方なく、という考え方になっていますね。

松井:その前提として、睡眠障害の方とそうではない方を分けて考える必要があります。

例えば、代表的な睡眠障害である睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome。SAS)は、寝ている間に呼吸が止まる明確な「病気」です。なので、睡眠の質が悪いとか寝具を買い替えた方がいいといったものではなく、病院での適切な治療が必要です。

一方、病気ではなく睡眠に関する悩みとしては、量(時間)や質(環境や内容)などがあります。ただ、「明日から1時間半、睡眠時間を増やそう」とできるものでもないでしょう。

なので、どうしても時間が取れない方に対して、睡眠医学の先行研究に基づいて、今取っている睡眠の質を上げていく方法をご提案しています。

──具体的にはどんな方法があるんでしょうか?

松井:睡眠医学の観点で言うと、「深部体温」という体の奥の臓器や脳などの温度が重要です。

この深部体温と睡眠は密接に関係していて、寝る前、寝ている間に深部体温を下げることが睡眠にとって重要なことがわかっています。そこで、睡眠の質を決めると言われる最初の「黄金の90分」の眠りを深くするために通気性にとことんこだわったのが弊社の「ブレインスリープピロー」という枕です。90%以上が空気の層になっており、圧倒的な通気性を持っています。


ただ、こういった製品を使うことが助けにはなりますが、いろいろな睡眠環境がある中のきっかけのひとつでしかありません。

たとえば、夏なら冷房、冬なら暖房を、寝る前だけでなく夜間も適温でつけ続けて、適温を保つことがおすすめです。最終的に何度が快適かは個人の判断によります。また、深部体温を下げるためには体の末端にあたる手、足、頭から熱の放散を促すことが効果的なのですが、それを促すために効果的なのが「入浴」です。

体温をいったん上げると、その反動で熱の放散が促され、深部体温が下がりやすくなります。だいたい1.5時間〜2時間後くらいに体温がグッと下がりやすくなるので、このタイミングに合わせて自分の体をだます……というわけではありませんが、寝つきやすくはなります。いつも25時に寝ているのであれば23時くらいに入るのがベストです。

出典:「スタンフォード式最高の睡眠」(2017年・サンマーク出版)


──入浴するタイミングも重要ということですね。

松井:リフレッシュするという観点からも入浴は効果的です。eスポーツをプレーして熱くなった状態を一度リセットできます。逆に、集中してパフォーマンスを発揮したいのであれば、入浴せずに続けるのもいいでしょう。


「睡眠不足」によるeスポーツへの悪影響


──いい睡眠を取った方が翌日以降のパフォーマンスが上がるということは、感覚的にはわかります。たとえば、「睡眠不足」を解消することで「eスポーツ」のパフォーマンスアップなどに効果はありますか?

松井:睡眠は基本的には体のリカバリーにつながりますので、毎日きちんと良質な睡眠をとっていただくことで、「応答速度の向上」が見込めます。

eスポーツの操作は、基本的にはゲーム内でとある事象が起きて、それに対していかに瞬時に判断するかが求められると思いますが、この応答速度と睡眠の関係を検証する「PVT」という試験があります。画面を見て何かが表示されたらボタンを押して反応してください、という非常に簡単な試験ですが、睡眠時間が減ると明らかに応答速度が悪くなったり、ミスが増えたりします。他にも、バスケットボールのフリースローのスコアや短距離走のタイムなども明確に落ちるという実験結果もあります。

「PVT」とは

「PVT」は「Psychomotor Vigilance Task」の略で、被験者が画面に表示される光や数字などの刺激に対して、できるだけ速くボタンを押すよう求められる試験。 画面には数秒から数十秒ごとにランダムなタイミングで刺激が現れるため、被験者は一定の集中力を保ち続ける必要がある。睡眠研究で覚醒度を測るために一般的に使用される。

このPVTを使った実験で、慢性的な睡眠不足の恐ろしさを端的に示した先行研究があります。

こちらの研究では、3日間徹夜する条件と、1日4時間睡眠、1日6時間睡眠、1日8時間睡眠をそれぞれ2週間繰り返す条件の合計4条件でのデータを比較しています。以下のグラフは、PVTにおいて、反応遅延回数を示していますが、4時間睡眠を7日間、​6時間睡眠を12日間続けると一晩徹夜した状態まで反応遅延回数が増加することを表しています。


こんなシンプルな試験でも現れるとなると、高度な判断や操作が求められ、いろいろなことが同時に起きるeスポーツの世界においては、その差がより顕著に出やすいと推測できます。

──eスポーツをもう少し細分化すると、FPS・TPSなどの「シューティングゲーム」や「MOBA」などのゲームは、画面を見ながら瞬時にマウスとキーボードを操作するため、瞬発力、応答力、判断力などが必要ですし、「格闘ゲーム」はほぼ目から得られる情報でコントローラーを操作します。また、「デジタルカードゲーム」は将棋やチェスのように脳をフル回転させて最適な行動を選び出します。こうしたゲームごとに睡眠不足解消による効果に違いはあるでしょうか?

松井:大きく分けると2つに大別されると思います。ひとつは物事に対して視覚や聴覚によって反応する「応答速度」が必要なもの。シューティングゲームや格闘ゲームがこれに当たります。もうひとつは、時間をかけて熟考した上で最適解を導き出すというもの。デジタルカードゲームなどがこちらに当たります。

前者はすでに説明しましたが、後者は睡眠不足によって、いろいろな情報を考えた上で最適解を出す“思考の深さ”が偏ってしまうということは考えられます。


──「思考の深さ」というのは?

松井:例えば、私は企業の健康研修などで睡眠のセミナーなどをしていますが、役職者ほど睡眠を大事にされているんです。自分が決断を下さなければならない時に睡眠を取っていないと、瞬時にいい判断ができなかったり、頭に曇りがかかった状態のように適切な判断が下せない、と言われる方は結構いらっしゃいます。

──たしかに、判断力や決断力なども睡眠不足だと鈍りそうですよね。

松井:eスポーツの勝敗は対戦相手のレベルもありますし、時と場合によって条件も違いますから一概に比較はできませんが、睡眠不足の時と1週間しっかり睡眠を取ってみた時のプレー状況を比較して体感してみるといいですね。もしスコアが良くなれば、より健康的な状態でeスポーツに取り組もうと思えるでしょう。

もうひとつ、「記憶の定着」という意味でも睡眠は大切です。何度プレーしてもできなかったことが、寝て起きたらできた、というのは睡眠中に経験が定着するためです。

睡眠と「手続き記憶」

人は日々膨大な量の情報を認識するが、それらすべてを記憶しておくことはできない。そのため、睡眠中に、認識した情報で覚えておくべきことと、忘れてもいいことの判断が促進される。日中に学習した記憶が睡眠中に再活性化され、これが記憶の固定を促進すると考えられている。

記憶には、電話番号や漢字のように頭で覚える「陳述記憶」や、自転車の乗り方のように感覚として覚える「手続き記憶」、出来事を感情とともに覚える「情動記憶」など、定着の過程が違うものがいくつか存在する。これらはレム睡眠とノンレム睡眠で、定着させる記憶が分担されている。

eスポーツのプレーのように手先を動かすような感覚として覚えるものは「手続き記憶」に分類される。良質な睡眠を取ることで、日中に記憶した細かな筋肉の動きの記憶を定着させる効果が期待される。


メンタルの回復、ストレス解消のための睡眠活用


──睡眠不足が「応答速度」と「脳の判断力」に関係するとのことですが、eスポーツでもうひとつ求められるのがメンタル面の強さです。eスポーツプレーヤーは勝敗が常につきまとうため、いつも一喜一憂していますし、オンラインで暴言を吐かれるといった精神的な攻撃による「ストレス」もあります。

松井:メンタル面については、eスポーツも体を動かすスポーツと似ていて、プロスポーツの分野でもメンタルケアに関して睡眠は重視されています。

プロスポーツでは、プレーヤーのレベルが上がれば上がるほど、プレッシャーや勝敗へのストレスの度合いも高まっていきます。その状態で睡眠時間が短くなると、明確に自律神経が乱れたり、例えば不安につながる「コルチゾール」というホルモンの分泌量が増えて、メンタル面のバランスが崩れやすくなると言われています。

そうなると、感情が攻撃的に振れやすくなったり、どーんと沈むような気持ちになったりもします。メンタル面の安定に関しても、やはり睡眠不足のマイナスの影響は見られると思います。

──プレーがうまくいかずに不安で眠れないとか、勝負へのプレッシャーなどもありそうですね。

松井:スポーツアスリートにとっては、勝負のストレスにどう打ち勝つのか、どう平常心を保つのか、というところが大事になってきます。ストレスとうまく付き合うため、メンタルを保つために睡眠を重視することは、トッププレーヤーほど実践しているはずです。

大谷翔平選手などはまさにその好例だと思いますし、私の知り合いの睡眠専門医のところには「ワールドカップのメンバーに選ばれるために睡眠状態を良くしたい。どうすればいいのか教えてほしい」と睡眠の指導を求める選手もいたそうです。

負けて落ち込んで眠れない時などに、しっかり睡眠を取ることで「コルチゾール」というストレスホルモンの増幅が抑えられます。基本的にメンタルが落ち込んだ状態でプレーしてもいいことはないので、「今はうまくいかないから寝て切り替えよう」と考えた方がメンタルにはいいですね。

不安と睡眠の関係性

●睡眠不足で不安・抑うつが強まる

5日間の睡眠不足で、ネガティブな情動刺激(他人の恐怖表情)に対して脳の扁桃体の活動が過敏になり、不安と混乱の感情が強まって、気分がふさぎ込む憂うつな状態が強まる傾向がみられた。一方、ポジティブな情動刺激(幸せ表情)に対して扁桃体の活動に変化はなかった。
(出典:Motomura Y, et al. PLoS One, 2013)

●睡眠不足が不安障害を引き起こす(疫学研究)

全世界の人を対象に行われた研究によると、不眠症のある人はない人に比べて、その後うつ病を発症するリスクが約2倍になると報告されている。
(出典:Li L, et al. BMC Psychiatry, 2016)



──なるほど。eスポーツは若い選手も多いですが、運動部などの部活動の経験者の方が、睡眠の大切さは実感しているかもしれませんね。

松井:そうですね、部活動はどちらかというと夕方の時間帯に行うので、むしろ体が疲れて早めに寝られます。運動というのは基本的に睡眠にとってはプラスなんです。

一方で、eスポーツはプレーしている時間帯が平均21時〜24時あたりと夜間になりがちなので、eスポーツの方が睡眠へのマイナスの影響はより直接的で大きいでしょう。

なので、eスポーツプレーヤーも定期的に運動を取り入れることによって、深い睡眠が増えたり、寝付きの時間が短くなったりと、さまざまな睡眠指標のプラスの改善が期待できます。

──たしかに、世界トップのeスポーツチームなどでは、体力トレーニングや適度な運動などを取り入れているチームも多いですが、それも理にかなっているんですね。


昼夜逆転生活の改善方法


──「睡眠時間が短いのは悪影響がある」ということはわかりました。では、睡眠時間を守っていれば、単純に夜ゲームをプレーするだけであれば、それほど睡眠不足には影響はないのでしょうか?

松井:いえ、睡眠を阻害する大きな要因に挙げられるのは、実は強い光なんです。光というのは、皆さんが想像している以上に睡眠に与える影響が大きく、明確に悪影響があります。

例えば、朝起きたらカーテンを開けて太陽の光に当たろう、とよく言われますが、朝に光を浴びてから14〜16時間くらいすると、「メラトニン」というホルモンが生成されて眠気がやってきます。これにより自分の体内時計、生活リズムが整います。

しかし、夜間にゲームなどで強い光を浴びてしまうと、そのメラトニンの分泌のタイミングがどんどん後ろに倒れ、しかも分泌を抑制してしまいます。さらに、eスポーツをプレーする時は活動的になる「アドレナリン」というホルモンが出て基本的には「自律神経」が優位になります。

夜間は本来「副交感神経」が優位になり、眠りやすくなるんです。ただ、eスポーツなどの強い刺激は交感神経優位、つまりアクセルをいっぱい踏んだ状態に誘引してしまいます。そうすると寝付きが悪くなり、睡眠の質も落ちます。

──モニターなどの光でも、そんなに睡眠に悪影響があるんですね……。

松井:今回の取材にあたってeスポーツと睡眠に関する論文もいくつか見てみました。例えば、大学生を対象にした調査では、1日のゲームプレー時間が2時間半=150分以上の人は、平均睡眠時間が27分少なく、睡眠の質を示すスコアも7パーセント下がっていました(出典:Akçay D, et al. Perspect Psychiatr Care, 2020)。

面白かったのは、eスポーツアスリート、いわゆるプロプレーヤー17名に対する海外の調査で、平均入眠時間が深夜3時43分だったという話がありました。韓国、オーストラリア、アメリカを対象とした例でしたが、eスポーツアスリートはストレスの度合いも高く、特に韓国の選手はその傾向が強かったようです(出典:Lee S, et al. Int J Environ Res Public Health, 2021)。


また、一晩のうちに約48分も中途覚醒時間があると報告されています。eスポーツプレーヤーは若年層の方が多いと思いますが、中途覚醒時間が短いはずの年代なのに、中途覚醒時間が多いという結果です。

──ただ、夜間にeスポーツをプレーすることはどうしても避けられない部分もあります。その「光」による悪影響をなんとか軽減する方法はありますか?

松井:
eスポーツをプレーするためにモニターから光刺激を浴びるのは一定仕方ないのでしょうが、可能な限りその光の量を減らすことです。具体的には、少しでもモニターの光量を落としていただくといいですね。ゲーミングPCなどのRGBライティングもない方がいいです。

──部屋の照明環境はどうでしょうか?

松井:一般的な睡眠の考えで言えば、例えば23時に寝るとしたらそこから逆算して、夜19時くらいからはちょっと暗くした方がいいですね。


「睡眠時間=量」が無理なら「睡眠の質」の向上を


──睡眠時間に関しては、「何時間寝ればいいのか」ということも書籍や人によっていろいろな意見があります。「あなたにとって必要な睡眠時間はこれくらいです」ということは言えるのでしょうか?

松井:おっしゃるとおり、睡眠時間の適量には個人差がありますので一概には言えませんが、一般的な水準では6〜8時間、大規模なデータを分析すると7時間程度の睡眠を取っている人は、病気リスク、死亡リスクが低いとされています。

国が2023年末に10年ぶりにアップデートした「健康づくりのための睡眠ガイド」では、ベンチマークとして成人は6時間、小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間を挙げています(出典:厚生労働省,健康づくりのための睡眠ガイド2023)。

その上で、何時間が適量かを個々に見ると、「自分が翌日スッキリ目が覚めているか」「日中眠くないか」という2つの指標を大事にしていただくことが重要です。

実は睡眠不足というのは主観的な悩みで、その人自身に足りているかどうか、で判断されるんです。代表的な睡眠障害である「不眠症」の診断基準は、普通の睡眠環境で、日中に何らかの影響があって、睡眠のことで困っていることであり、睡眠時間が何時間以下という決まった明確な線引きがあるわけではありません。


とはいえ、人間はなかなか行動を変えられません。睡眠の改善には「やっぱり睡眠って大事なんだ」「ちょっと自分を変えてみようかな」という小さなきっかけを持ち、少しずつ状態をよくしていくことが重要だと思っています。

いま深夜まで起きてしまっていて、自分の睡眠状況が例えば100点満点中30点だとしても、いきなり100点を目指さず、まずは40点でいいんです。少しでも睡眠を意識するようになって、睡眠が良くなった結果eスポーツの成績がよくなった、という効果実感があれば、そこから少しずつ積み重ねていきやすいのではないでしょうか。


ケース別睡眠改善法


──ここからは、より具体的にeスポーツプレーヤーやゲーマーにありがちな睡眠の悩みを改善する方法を教えてください。まず「寝付けない」という状態を改善する方法はあるでしょうか?

松井:みなさん、寝る直前までeスポーツをプレーしていると思うのですが、プレーが終わって即ベッドに倒れ込むのではなく、とにかく寝る前は「電子機器から離れる」ことが大切です。 そして、好きな香りを焚いて本を10分読むとか、ストレッチするとか、寝る前にリラックスできる方法を1つ自分なりに見つけてみてください。

それが寝る前の自分なりのルーティーンとして確立されてくると、「これをしたら寝るんだ」という自分なりの流れができ、睡眠リズムの安定化につながります。

──眠りにつく時間帯についてはどうでしょうか? 0時を過ぎてしまう人や、中には3時〜4時まで寝られないという人もいますし、週のうちに何日かは夜中になってしまうという不規則な生活をしている人もいます。

松井:「ソーシャルジェットラグ」=「社会的時差ぼけ」という言葉があります。いわば、時差ぼけのように日中ずっと眠くなるような状態を指すのですが、これは入眠開始時刻と起床時刻の中央にある「睡眠中央時刻」がずれると起きやすくなると言われます。就寝時刻がずれてしまった時には、そこが大幅にずれないようにするのが理想です。

また、基本的にはまとまった睡眠を取ることを推奨しています。深夜まで起きていて起床時刻が遅れたとしても、細かく3時間、2時間、1時間と分割した6時間睡眠と、連続してまとまった6時間睡眠では、後者の方がいいです。なので、たとえば毎日3時に寝て10時に起きるという人も、生活が安定していればそれでいい。もちろん、もう少し早く寝られた方がいいですけどね。

──就寝時刻が不安定という意味では、交代制勤務の業務をされている方などもeスポーツプレーヤーと近いような気がします。そういった方々はどうするのがいいのでしょうか?

松井:
日中は普通のお仕事をしつつ、朝何時に起きなければいけない、日中も眠いという方であれば、睡眠の質をより上げていくという方向で調整するか、それが難しければ副次的な睡眠で仮眠を取る方法もあります。睡眠時間がそもそも足りていない分、日中に少し眠るというのもアリです。

また、習慣化できないのであれば、1日くらいはしかたないと割り切ってもいいです。いつものリズムが崩れるのがよくないので、そのぶん睡眠環境、光、まとまった睡眠時間を取るなどを改善してみてください。


eスポーツプレーヤーへのアドバイス


──最後に、eスポーツプレーヤーに対するアドバイスをお願いします。

松井:eスポーツについて実態を知った上で真面目なことを言うと、「eスポーツは適量にしてね」なのですが(笑)。

というのも、睡眠が重要だということをもっと理解してほしいからなんです。

睡眠は、短期的なeスポーツのパフォーマンスにも影響しますが、中長期的な健康リスクにもつながります。生活リズムが乱れて、睡眠だけでなくいろいろなところに弊害が出たり、それによって風邪をひきやすくなって、結果としてプレー時間が短くなったりもします。

ただ、この中長期の話をしすぎると、人間というのは短期的な行動は変わらないんです。これやったらダメ、あれやったらダメ、というものが多くなってしまうと面白くないですよね。

なので、短期的にも中長期的にも睡眠というものがeスポーツのパフォーマンスに影響を及ぼすということを理解した上で、少しでいいので自分の睡眠を見直して、eスポーツをプレーする上でパフォーマンスを上げられることを取り入れてみてください。

個人的には、eスポーツ自体の有用性もあると思っています。高齢者向けにeスポーツを活用することで認知機能が向上したりもしますし、適量であればストレス軽減にもつながるので、eスポーツも付き合い方次第だと思います。

※ ※ ※

睡眠は人生の4分の1を占めると言われるが、体力がある若いうちはどうしても無理をしがちだ。それは、いま目の前で行っている戦いが、自分の能力の問題なのか、睡眠不足などにより本来のパフォーマンスを発揮できていないからなのかは、自分では意外とわからないからかもしれない。

才能や努力には個人差があり、どうやっても乗り越えられない壁もある。しかし、自分が持っている能力を100%発揮することは、生活をコントロールすることで誰にでもできる。そのための大前提が心身の健康であり、適切な睡眠による健康維持は、どんな人でも同じように実現できるものであるはずだ。

今回のインタビューでアドバイスいただいた内容も、科学的データが添えられて説得力が増してはいるものの、実はほとんどの読者は「確かにそうだ」と納得がいくことばかりだろう。

過酷なeスポーツの世界で実力を最大限に発揮するために、睡眠を改善することほど、簡単で誰でもほぼ無料で実現できる方法は他にない。

もし少しでもeスポーツの成績を上げたい、パフォーマンスを高めたいと思ったら、そしてこのインタビューのアドバイスの中で取り入れられることがあったら、さっそく今晩から自分にできることを試してみてほしい。eスポーツプレーヤーが健全な心身を取り戻して、日本のeスポーツがさらにレベルアップできることを切に願いたい。


株式会社ブレインスリープ:https://brain-sleep.com/


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