【eDreamwork Korea CEO CAN Yang氏独占インタビュー】プロゲーマーとして一番大切なものは“ゲームのうまさ”ではない。🇰🇷DRXが強豪チームであり続ける理由——

2023.5.30 スイニャン
VALORANT』のアジア地域大会「2023 VCT Pacific」を取材するため韓国を訪れていた筆者だが、韓国のプロゲーミングチーム🇰🇷DRXのご厚意により、🇰🇷DRXの子会社eDreamwork Korea のCEOであるCAN Yang氏へのインタビューの機会を設けてくださった。

▲名実ともに優れたチームである🇰🇷DRX。Pacificリーグでは惜しくも🇸🇬Paper Rexに敗れてしまったものの、準優勝という好成績でMasters TOKYOへの進出を確定させた

今回は、韓国国内でもほとんどインタビューに応じたことがないというCAN Yang氏の貴重な独占インタビューをお届けする。

eスポーツにおける韓国と日本の差はすぐに埋まるだろう


——本日はお時間をいただきありがとうございます。さっそくですが、チームを結成することになった経緯から教えていただけますか。

CAN Yang:私がeスポーツチームビジネスを本格的に始めたのは2016年ごろからで、当時MVPというチームで働いていました。のちに今の会社を共に設立することになったDopani氏も一緒に働いていましたが、最終的に事業がうまくいかなくなり、我々には「もっとうまくやれていれば……」といった心残りがあったんです。

それでも『Counter-Strike: Global Offensive』(以下、CS:GO)チームは維持しようと頑張っていたところで『VALORANT』のリリース日が近づいてきて、「これはいける」という信念のようなものが生まれました。

そこで資金集めをしていた時にコロナ禍になってしまったのですが、全体的に沈みゆく世の中の経済とは裏腹にゲーム市場は大きくなっていました。これは本当にチャンスだと思い、一念発起して会社を設立しました。

▲インタビューに応じるCAN Yang氏

——韓国でeスポーツといえば『リーグ・オブ・レジェンド』(以下、LoL)が人気で、当初の『VALORANT』はそこまででもなかったように思うのですが、そこでチャンスととらえたのは流石ですね。では、現在の韓国における『VALORANT』の人気はどんな感じなんでしょうか。

CAN Yang:『VALORANT』はリリース当初、アンチチートシステム「Vanguard」によってほかのゲームに問題が引き起こされるという理由で、韓国式ネットカフェ「PCバン」で取り扱ってもらえないケースが多々ありました。

しかし、リリースから3年が経った現在は「PCバン」で『VALORANT』がプレイできるようになり、そのおかげで小中高の生徒で『VALORANT』を知らない子はほとんどいません。また、『LoL』のIDと連動しているのもあって、『LoL』ユーザーが『VALORANT』を始めるケースも増えています。

現在PCバンにおける『VALORANT』の占有率は『LoL』、『FIFA』に続いて3位となっており、個人的には3年後ぐらいには逆転する可能性すらあると見ています。

—— すごいですね。そこまで『VALORANT』の認知が広がっていることを見ても、日本のeスポーツは韓国に比べて遅れをとっていると思いますが、Yangさんは日本のeスポーツシーンをどうご覧になっていますか。

CAN Yang:PCを基盤とするeスポーツだけを見れば、韓国が技術的な部分で先を行っているといえるでしょう。しかし、「ストリートファイター」シリーズや「鉄拳」シリーズといったコンソールのeスポーツ市場では、日本のほうがかなり進んでいると思います。

そんな中でPCゲームにも関心を寄せ始めた日本は爆発的な成長を遂げていると思いますし、そもそも人口が日本は韓国の3倍ですから、市場としてはすでに日本のほうが大きいと見ています。技術的な部分にしても今は韓国人選手のほうが高いですが、この差はすぐに埋まると思っています。

——なるほど。では、今回VCT Pacificに参加している日本のZETA DIVISION(以下、ZETA)とDetonatioN FocusMe(以下、DFM)の印象を聞かせていただけますか。

CAN Yang:どちらも非常に強いチームだと思います。ZETAについては開幕戦で当たって我々が勝ちましたが、韓国へ来たばかりで慣れておらず、実力を発揮しきれなかったのではないかと思いました。

DFMは選手ひとりひとりを見ると決して勝てないチームではないと思うのですが、初めてのシーズンということでいろいろと試行錯誤していたせいもあるのかもしれません。

特にtakej選手やReita選手は『CS:GO』の選手でしたから、彼らがどれほどうまい選手かというのを私はよく知っているんです。本人たちももっとうまくやれるはずだと考えていると思いますよ。

——今後に期待したいですね。

強さの秘訣は経験にあり
韓国において選手の共同生活は一般的ではなく必須


——ところで韓国チームは全体的にフィジカルや連携など完成度が非常に高いと感じているのですが、あのような練度の高さはどのような練習からくるものなのでしょうか。


CAN Yang:この答えは非常にシンプルです。ズバリ、コーチ陣の経験です。彼らのノウハウがきちんと選手たちに伝わり、高い完成度に仕上がっていると考えています。🇰🇷DRXのコーチ陣は全員選手出身です。彼らが現役だったころの経験とコーチになってからの経験の両方を生かしているためクオリティが非常に高く、指導力はワールドクラスだと思っています。

▲事務局に置かれていた世界のチームのユニフォーム。世界大会のたびに交換してきたもので、選手個人が所有しているケースもあるため、ここにあるのはほんの一部とのこと

——そもそも韓国のプロチームは、ゲーミングハウスでの共同生活が一般的なのでしょうか。

CAN Yang:いろいろなゲームタイトルがありますが、いわゆるティア1タイトルとされているゲームにおいては共同生活をしなければ競争に勝てません。ですから「一般的」と言うより「必須」だと考えています。

プロゲーミングチームでは、同じ目標を持つ人々が集まってそれを達成しようと努力しています。ですが、人というのは思いのほか「同床異夢(どうしょういむ:同じ床に寝ながら異なる夢を見ること。転じて、同じ立場、同じ仕事でありながら、考え方や目的などが異なっていること)」になりがちです。

オンラインで仕事をすると「同床異夢」が起こる可能性はぐんと高くなるので、せめてオフラインで仕事をしてそれを最低限にとどめようということなんです。「同床異夢」を起こさぬよう、絶え間なくコミュニケーションをとり続けるために共同生活をしています。

▲🇰🇷DRXの選手たち。「ユニフォームに着替えてもらったほうがいいのでは?」と思ったが、チーム側から「せっかく訪ねてきてくださったので普段の姿をお見せしたい」とのお話があり、普段着のまま撮らせていただいた。共同生活感あふれる貴重な写真だ

——コミュニケーションが大事なのですね。では、私生活においてもプロとして何か指導していることはありますか。

CAN Yang:私は経営者の立場ですから、彼らがプロゲーマーとしてのキャリアを積むにあたって信用を失うような致命的な事態にだけはならないよう気をつけるようにと言っているぐらいですね。それ以上のことは私の仕事ではないと思っていますし、細かいことはコーチ陣が指導しています。

——それでは、世界一になるチームをつくる上で最も大切なことはズバリ何でしょうか。

CAN Yang:先ほどの答えと似通ってしまいますが、プロゲーミングチームには選手、コーチ陣、そして会社を運営する事務局の3つの異なるグループが存在しています。これらの3つのグループが、チームの目標とその目標を達成するために何をしなければならないかということを明確に把握し、正確なコミュニケーションをとることが重要だと考えています。そういったことができて初めて、世界一のチームになれる確率が上がると思います。

——現在🇰🇷DRXには鉄拳のKNEE選手やWarcraft 3のMoon選手など各部門の一流が集結していますが、🇰🇷DRXとして選手を選ぶ基準と選手個人に必要なことを教えていただけますか。

CAN Yang:基本的に、タイトルごとに選手を選ぶのはコーチ陣になります。その上で会社として望ましい選手像については、非常に簡単です。ゲームがうまいことは当然であり基本ですが、一番大切なのは人柄です。具体的にいうと、「プロゲーマーとして絶対に成功してみせる」という目標に向かってオールインできる人でなければ🇰🇷DRXに入ることはできません。

eスポーツの世界というのは徹底的な競争です。その競争に負ければ淘汰されてしまいます。そのプロセスは非常にストレスフルであり、多くの時間とエネルギーを消耗するため、普通のメンタルでは耐えられないんです。自分自身に対する信念や自分をコントロールする力を持ち、ひとつの分野にオールインできる人を我々は求めています。

——🇰🇷DRXのVALORANT部門もみんな真っ直ぐな性格で、いい選手たちばかりですよね。

CAN Yang:私もかつて『CS:GO』の選手でしたから、先輩の立場としていわせてもらうと、今のプロゲーマーという職業は経済的にも恵まれていてとてもいい時代になったと思うんです。私の時はそういう時代ではなかったので、経済的にはお話にならないといった感じしたから——。

今は心が揺さぶられやすくもなっていると思うのですが、うちの選手たちは本当にゲームのことだけを考えていて、ほかのことには一切興味を示さないんですよね。

——まさにオールインしているわけですね。そんな🇰🇷DRXですが、今回の「2023 VCT Pacific」を振り返ってみていかがですか。

CAN Yang:「2023 VCT Pacific」は、正直負けるはずの試合に勝ったことも何度かあって、運が良かったと思います。しかし私からすると成績も重要ではありますが、優勝できるほどの実力を持ち合わせているかということのほうがはるかに重要です。ここまでの試合内容や選手たちの準備過程を見るに、まだまだ足りない部分があると感じています。

——そうなんですね。では、Masters TOKYOに向けて、何か準備をしていたりしますか。

CAN Yang:Masters TOKYOまでの準備期間は1カ月もありませんが、我々が一度も掲げたことのない国際大会のトロフィーを手にするためにこれから準備していくことでしょう。我々は『VALORANT』の国際大会ではまだ優勝したことがないので、今回のMasters TOKYOでは優勝を目標としています。

▲こちらは事務所に飾られていたお酒の数々。真ん中にはVCTの記念で配られたという洋酒も見える。Masters TOKYOで優勝できたら、韓国の伝統酒を飲むと決めているのだとか

——最後に、日本には🇰🇷DRXを応援している方がたくさんいますので、ファンの皆さんに向けてメッセージをお願いします。

CAN Yang:私も「RAGE VALORANT」や「Riot Games ONE」で日本へ行って、ファンの方がとても多くて驚きました。日本と韓国は地理的にも近く文化的にもお互いに交流が多いですし、時差がないというのもファンになってくださる方が増えた理由かなと思います。

うちの選手たちもstax選手やBuZz選手、Rb選手などは特に日本にすごく行きたがるんですよね。さらに我々は、「Game Changers」(『VALORANT』の女性限定公式大会)のチームにおいて日本をベースとして運営していく準備をしています。

ですので、「Game Changers」の選手たちのことも是非応援していただけたらうれしいです。また、日本に🇰🇷DRXのファンが多いということで、Masters TOKYOでは日本のファンの皆さんの前でトロフィーを掲げるところをお見せできればと思います。

——期待しています!本日はありがとうございました。

———

今回のインタビューは🇰🇷DRX事務局で行われたが、そこから車で5分以内のところに練習室があり、そちらへも案内してくださった。写真も撮らせていただいたので、最後に練習室の写真も紹介してこの記事を締めくくりたい。

▲🇰🇷DRXの練習室。練習が始まる前なのでまだ着席していない選手も多いが左からRb選手、Mako選手、stax選手、BuZz選手、Zest選手の席である。写りきらなかったのだが、ここのすぐ左側にFoxy9選手の席とコーチ陣の方々の席がある

▲左側がtermiヘッドコーチの席。右側の大きなモニターでフィードバックを行っているそう。ちなみにその奥にちらっと見えるのはキッチン

© 2023 Riot Games, Inc. Used With Permission

■関連インタビュー:
【BuZz選手 単独インタビュー】🇯🇵DFMは戦略が結構練られているチームだったが……🇯🇵ZETAは警戒している——🇰🇷DRXから見た日本チームの感触とは

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【スイニャン プロフィール】


韓国在住時にeスポーツと出会い、StarCraft: Brood Warプロゲーマーの追っかけとなる。帰国後、2009年ごろからさまざまなWEBメディアで取材・執筆活動を開始。また、語学力を生かして韓国人選手のインタビュー通訳や翻訳などの活動も行っている。自らはゲームをほとんどプレイせず、おもにプロゲーマーの試合を楽しむ観戦勢。 Twitter:@shuiniao
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